35 / 47
035 不気味な40階
しおりを挟む
ルシアスたちはあっさり対岸の館に到着した。
そこでテレシアから増幅器を受け取る。
「本当にお休みにならなくて大丈夫なのですか?」
館のすぐ外でテレシアが尋ねる。
彼女の目は真っ直ぐミオを捉えていた。
蛇のようなねっとりした視線だ。
「け、結構ですーっ!」
ミオは全力でお断りし、テレシアに背を向けた。
目の前には黒いゲートが佇んでいる。
「すまんな。俺としてはゆっくりしていきたいが、相方がこのように言っている以上はお別れだ」
「それは残念ですわね……」
テレシアは気配を殺して近づくと、背後からミオに抱きつく。
そして、ミオの体をいやらしい手つきで撫で回しながら言った。
「旅の疲労、ここでなら癒やしていけるというのに」
「ミオー! 直ちに泊まろう! 直ちにだ! 俺は続きが観たい!」
「やだー! 私はルシアス君が――」
そこでミオの言葉が消える。
彼女は喚きながらゲートの中に突っ込んだのだ。
テレシアだけ転移することなくゲートをすり抜けた。
「おいおい、ミオ、待てよ!」
ルシアスは急いでゲートに向かう。
「ルシアス様、ありがとうございました」
「こちらこそサンキューな! じゃ!」
慌ただしい別れとなった。
◇
はちゃめちゃな展開に見舞われたものの、どうにか40階に到着。
いよいよ最終局面が近づいてきていた。
「30階もそうだったが、この階は特に人が少ないな」
「この調子だと50階は誰もいなくなるんじゃ?」
「ありえる」
40階には、ルシアスたちを含めても31人しかいなかった。
14人PTと15人PT、そしてルシアスたちだ。
「チィッ、ここらが潮時か」
「さすがに31階からはきつかったぜ」
片方のPTが撤退する方向で話をまとめている。
それを聞いたもう一方のPTが話しかけた。
「戻るなら余った物資を譲ってくれないか? 金なら払う」
「それはありがたい。俺たちにはもう不要な物だからな」
「では商談といこうか」
両PTの代表が話を詰めていく。
その間、ルシアスたちは角のスペースにテントを張っていた。
今日の狩りは終了だ。
「これだけ広い空間にこの人数だと寂しくなりますねー」
「だなぁ」
そんな話をしている間にも、他のPTには動きがあった。
「じゃ、頑張ってくれ」
「ありがとう、お疲れさん」
片方のPTが白いゲートを通ってリタイアした。
そして、もう片方のPTは黒いゲートへ進む。
「いよいよ俺たちだけになったな」
「なんだか寂しいですね……」
「ま、人が少ないなら少ないでいいさ。存分に活用しよう」
「と言いますと?」
「こういうことさ!」
ルシアスはテントの横に縦長の長方形の箱を召喚した。
四方に黒いフィルムが張られていて、中が見えない。
フィルムの張られた面の一つには扉が付いている。
「なんですかこれ?」
「シャワーさ」
ルシアスが「ほら!」と扉を開けた。
彼の言う通り、中にはシャワーが備わっていた。
「見たまんま〈シャワーボックス〉って名前だ」
「わー! 最高じゃないですか! 私、ずっと体を洗いたかったんですよ!」
「だろー? 俺もさ。着替えも買ってやるからさっぱりしようぜ」
「はい!」
周囲に人がいないのをいいことに、ルシアスたちは色々と設置する。
シャワーボックスは同時に使えるよう二つ並べ、その前は脱衣所にした。
さらに脱いだ服が洗えるよう洗濯乾燥機まで設置する。
それだけに留まらない。
別のスペースにはソファやベッドを設置する。
ついでに絨毯を敷いて、それなりに立派な部屋にした。
最後にそれらを扉のない壁で囲む。
セーフエリアの壁と似た材質で、天井までそびえ立つ高い壁だ。
一見すると壁の向こうにルシアスたちがいるとは分からない。
これで完成だ。
セーフエリアの一角がルシアスたちだけの住み処になった。
「さ、流石にこれはやり過ぎでは?」
「大丈夫大丈夫! どうせ大して人がいないんだし!」
「それもそうですね! ではシャワーターイム!」
「おうよ!」
二人は上機嫌でシャワーボックスに入る。
気持ちよくてつい鼻歌を口ずさんでしまう。
そんな時、40階に新たなPTが現れた。
「よし、今日はここまでにするか」
「そうだな、もうヘトヘトだぜ」
そのPTはルシアスたちに気づかず、テントを設営し始める。
だが、ほどなくして異変に気づいた。
「あそこの壁からなんか聞こえてこないか?」
メンバーの一人が言う。
「たしかに……。水の流れる音も聞こえるな」
全員で壁に近づく。
壁の向こうからはルシアスたちの生活音が漏れていた。
「やっぱりそうだ、壁の向こうになにかいるぜ」
「ここの壁だけなんだか出っ張ってるし不気味だな」
「もしかしてセーフエリアにも魔物が出るようになったのか?」
「わからねぇ。わからねぇが、これじゃ安心して眠れないぞ」
「だな……」
こうして連中は荷物をまとめて41階へ向かう。
その後もいくつかのPTが40階に着いたが、誰もが同じように去っていった。
この階まで来られるベテランだからこそ、不透明なリスクはしっかり避ける。
「シャワーにDVD、いやー、極楽だなー」
「これで明日もシャキッと元気に戦えますね!」
他者の動向を知る由もないルシアスたちは、楽しく夜を過ごすのだった。
そこでテレシアから増幅器を受け取る。
「本当にお休みにならなくて大丈夫なのですか?」
館のすぐ外でテレシアが尋ねる。
彼女の目は真っ直ぐミオを捉えていた。
蛇のようなねっとりした視線だ。
「け、結構ですーっ!」
ミオは全力でお断りし、テレシアに背を向けた。
目の前には黒いゲートが佇んでいる。
「すまんな。俺としてはゆっくりしていきたいが、相方がこのように言っている以上はお別れだ」
「それは残念ですわね……」
テレシアは気配を殺して近づくと、背後からミオに抱きつく。
そして、ミオの体をいやらしい手つきで撫で回しながら言った。
「旅の疲労、ここでなら癒やしていけるというのに」
「ミオー! 直ちに泊まろう! 直ちにだ! 俺は続きが観たい!」
「やだー! 私はルシアス君が――」
そこでミオの言葉が消える。
彼女は喚きながらゲートの中に突っ込んだのだ。
テレシアだけ転移することなくゲートをすり抜けた。
「おいおい、ミオ、待てよ!」
ルシアスは急いでゲートに向かう。
「ルシアス様、ありがとうございました」
「こちらこそサンキューな! じゃ!」
慌ただしい別れとなった。
◇
はちゃめちゃな展開に見舞われたものの、どうにか40階に到着。
いよいよ最終局面が近づいてきていた。
「30階もそうだったが、この階は特に人が少ないな」
「この調子だと50階は誰もいなくなるんじゃ?」
「ありえる」
40階には、ルシアスたちを含めても31人しかいなかった。
14人PTと15人PT、そしてルシアスたちだ。
「チィッ、ここらが潮時か」
「さすがに31階からはきつかったぜ」
片方のPTが撤退する方向で話をまとめている。
それを聞いたもう一方のPTが話しかけた。
「戻るなら余った物資を譲ってくれないか? 金なら払う」
「それはありがたい。俺たちにはもう不要な物だからな」
「では商談といこうか」
両PTの代表が話を詰めていく。
その間、ルシアスたちは角のスペースにテントを張っていた。
今日の狩りは終了だ。
「これだけ広い空間にこの人数だと寂しくなりますねー」
「だなぁ」
そんな話をしている間にも、他のPTには動きがあった。
「じゃ、頑張ってくれ」
「ありがとう、お疲れさん」
片方のPTが白いゲートを通ってリタイアした。
そして、もう片方のPTは黒いゲートへ進む。
「いよいよ俺たちだけになったな」
「なんだか寂しいですね……」
「ま、人が少ないなら少ないでいいさ。存分に活用しよう」
「と言いますと?」
「こういうことさ!」
ルシアスはテントの横に縦長の長方形の箱を召喚した。
四方に黒いフィルムが張られていて、中が見えない。
フィルムの張られた面の一つには扉が付いている。
「なんですかこれ?」
「シャワーさ」
ルシアスが「ほら!」と扉を開けた。
彼の言う通り、中にはシャワーが備わっていた。
「見たまんま〈シャワーボックス〉って名前だ」
「わー! 最高じゃないですか! 私、ずっと体を洗いたかったんですよ!」
「だろー? 俺もさ。着替えも買ってやるからさっぱりしようぜ」
「はい!」
周囲に人がいないのをいいことに、ルシアスたちは色々と設置する。
シャワーボックスは同時に使えるよう二つ並べ、その前は脱衣所にした。
さらに脱いだ服が洗えるよう洗濯乾燥機まで設置する。
それだけに留まらない。
別のスペースにはソファやベッドを設置する。
ついでに絨毯を敷いて、それなりに立派な部屋にした。
最後にそれらを扉のない壁で囲む。
セーフエリアの壁と似た材質で、天井までそびえ立つ高い壁だ。
一見すると壁の向こうにルシアスたちがいるとは分からない。
これで完成だ。
セーフエリアの一角がルシアスたちだけの住み処になった。
「さ、流石にこれはやり過ぎでは?」
「大丈夫大丈夫! どうせ大して人がいないんだし!」
「それもそうですね! ではシャワーターイム!」
「おうよ!」
二人は上機嫌でシャワーボックスに入る。
気持ちよくてつい鼻歌を口ずさんでしまう。
そんな時、40階に新たなPTが現れた。
「よし、今日はここまでにするか」
「そうだな、もうヘトヘトだぜ」
そのPTはルシアスたちに気づかず、テントを設営し始める。
だが、ほどなくして異変に気づいた。
「あそこの壁からなんか聞こえてこないか?」
メンバーの一人が言う。
「たしかに……。水の流れる音も聞こえるな」
全員で壁に近づく。
壁の向こうからはルシアスたちの生活音が漏れていた。
「やっぱりそうだ、壁の向こうになにかいるぜ」
「ここの壁だけなんだか出っ張ってるし不気味だな」
「もしかしてセーフエリアにも魔物が出るようになったのか?」
「わからねぇ。わからねぇが、これじゃ安心して眠れないぞ」
「だな……」
こうして連中は荷物をまとめて41階へ向かう。
その後もいくつかのPTが40階に着いたが、誰もが同じように去っていった。
この階まで来られるベテランだからこそ、不透明なリスクはしっかり避ける。
「シャワーにDVD、いやー、極楽だなー」
「これで明日もシャキッと元気に戦えますね!」
他者の動向を知る由もないルシアスたちは、楽しく夜を過ごすのだった。
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
成長チートと全能神
ハーフ
ファンタジー
居眠り運転の車から20人の命を救った主人公,神代弘樹は実は全能神と魂が一緒だった。人々の命を救った彼は全能神の弟の全智神に成長チートをもらって伯爵の3男として転生する。成長チートと努力と知識と加護で最速で進化し無双する。
戦い、商業、政治、全てで彼は無双する!!
____________________________
質問、誤字脱字など感想で教えてくださると嬉しいです。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
剣と魔法の世界で俺だけロボット
神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎町に住んでいたロボット好きの宮本荒人は、交通事故に巻き込まれたことにより異世界に転生する。
転生した先は、古代魔法文明の遺跡を探索する探索者の集団……クランに所属する夫婦の子供、アラン。
ただし、アランには武器や魔法の才能はほとんどなく、努力に努力を重ねてもどうにか平均に届くかどうかといった程度でしかなかった。
だがそんな中、古代魔法文明の遺跡に潜った時に強制的に転移させられた先にあったのは、心核。
使用者の根源とも言うべきものをその身に纏うマジックアイテム。
この世界においては稀少で、同時に極めて強力な武器の一つとして知られているそれを、アランは生き延びるために使う。……だが、何故か身に纏ったのはファンタジー世界なのにロボット!?
剣と魔法のファンタジー世界において、何故か全高十八メートルもある人型機動兵器を手に入れた主人公。
当然そのような特別な存在が放っておかれるはずもなく……?
小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる