劣等冒険者の成り上がり無双~現代アイテムで世界を極める~

絢乃

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029 幻惑の濃霧エリア

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 塔の難易度はセーフエリアごとに上がる。
 1~9階、11~19階……41~49階となり、最後に51階。

 ルシアスたちは現在11階。
 ついに難易度が第二段階に上がったわけだが――。

「さっきまでと変わらなくないか?」

「違いがさっぱり分かりません……」

 二人は何の苦労もしていなかった。

 たしかに魔物は強くなっている。
 例えば乱獲の場合、これまではG級がメインで、稀にF級が混じっていた。
 相手が単体の場合はE級だ。

 ところが今の乱獲はF級がメインになっている。
 E級のザコはちらほらいるが、G級は含まれていない。

 だが、そんなものは二人にとって関係なかった。
 銃の前では等しく無力なのだ。
 G級もF級もE級も、銃弾が命中すればケロッと死ぬ。

「やっぱり俺たちは物量系のステージに強いな」

「アサルトライフルがあればサクサク倒せますね!」

 二人は魔石を1箇所に集める。
 そして、〈吸収〉でその全てをポイントに変換した。

 バックパックに詰め込んでいたのは最初だけだ。
 今では身軽でいるために全て〈吸収〉している。
 無論、バックパックの中に魔石は残っていない。

「これでよし、さぁ次に行こう」

「レッツゴー!」

 ルシアスたちは迷うことなく先へ進んだ。

 ◇

 その後も危なげなく突破していく。
 フィールドは数あれど、敵は雑魚の群ればかりだ。
 特に苦労しなかった。

 しかし、18階で引いてしまう。
 塔の中でも屈指の難易度を誇ると名高い危険なエリアを。
 前知識があればボーナスステージだが、なければ困難を極める。
 そして、二人には前知識がなかった――。

「ここは……」

 ルシアスが周囲を見渡すが何も見えない。
 18階は一寸先すら見えない程の濃霧に包まれていた。

「ミオ、近くにいるか!?」

 …………。

 反応がない。
 ルシアスは塔に入って初めての焦燥感に駆られた。

「ミオ、近くにいないのか!?」

 バックパックから熱感知ゴーグルを取り出して装着する。
 霧が透過されて、視界が幾分かクリアになった。
 そして、遠くから近づいてくる人型の何かに気づく。

「ミオなのか?」

 アサルトライフルを構える。
 相手がミオではない場合、直ちに撃たなければならない。

 しかし、この判断がこの上なく難しかった。
 熱感知ゴーグルだと相手の顔までは分からないからだ。

 前方の何かが次第に近づいてくる。
 シルエットはミオに見えて仕方ない。

(この状況では撃てない……!)

 ここでの誤射は致命的だ。
 ミオの命を刈り取ることになってしまう。
 確実に敵だと分かるまでは撃てなかった。

「それ以上こちらに近づくな! ミオなら返事をしろ! さもなくば撃つ!」

 両者の距離が10メートルをきったところでルシアスが言った。
 彼は上に向かってライフルを撃ち、自分が本気であることを示す。

「…………」

 前方のシルエットからは応答がない。
 しかし、動きは止まった。

(どっちなんだよ……)

 判断の付かないルシアス。
 もしかしたら声が聞こえていないのだろうか、とも思った。
 だが、その時――。

「ルシアス君、私ですよー! じゃじゃーん♪」

 返事があった。
 ミオの声だ。

「ミオなのか?」

「そうですよー♪」

 シルエットが再び動き出す。
 両者の距離が目と鼻の先まで近づいた。
 ルシアスがゴーグルを外すと、そこにはミオの姿。

「よかった。敵だったらどうしようかと思ったぜ」

「あはは、私もですよー♪」

 ミオは陽気な声で笑うと、両腕をルシアスの左腕に絡める。
 彼女の豊満な胸が腕に押し付けられ、ルシアスは小さくニヤけた。

「ルシアス君、あっちにゲートと宝箱がありましたよ♪」

 ミオが前方を指す。

「宝箱? ミオ、お前が魔物を倒したのか?」

「はい! 大きなワンワンでした! サクッと倒してやりましたよ♪」

「流石だ、やるじゃないか」

「私もたまには頑張るのですよー♪」

 ミオがルシアスを引っ張るようにして先へ進む。

「なんだかえらくグイグイしてるな」

「だって一人で寂しかったんですもの♪」

「気持ちは分かる」

 と言った瞬間、ルシアスは「ん?」と立ち止まった。

「どうしたのですかぁ? ルシアス君」

「ミオ、お前、大きな犬を倒したんだよな?」

 ルシアスはミオの腕を解き、後ずさりして距離を保つ。
 霧が邪魔をして彼女の姿がシルエットしか見えなくなる。

「そうですよー! 私がえいっ、えいっって倒しました♪」

「なにで?」

「えっ」

「お前、どうやって敵を倒したんだよ」

 ルシアスは気づいた。
 目の前にいるミオがアサルトライフルを持っていないことに。
 そして、ミオの次のセリフで確信した。

「なにって、武器やスキルで倒したんですよ! 冒険者ですから♪」

「お前、偽者だな」

「えっ」

「本物のミオは銃で倒す。武器やスキルなんて言い方はしない。なぜなら俺やミオは落ちこぼれだからだ。――なるほど、お前がここの敵か」

 銃を構えるルシアス。
 それに対して、偽のミオは「チッ」と舌打ちした。

「あと少しで奈落の底に落とせたというのに」

 次の瞬間、偽のミオが姿を変えようとする。
 だが、変えることはなかった。

 ズドドドドドドッ!

 真の姿を現す前にルシアスが銃殺したのだ。
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