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027 シルバーフォックス

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 2階、3階、4階と、ルシアスたちは順調に塔を進んだ。
 階層によってフィールドは大きく異なるが、特に問題はなかった。
 しかし、この快進撃は5階で止まることになる。

「なんだよこれは!」

「ルシアス君、大変ですよここは!」

「分かってる。まともに前が見えないぞ」

 フィールドは雪原。
 靴がすっぽり埋まるくらいに雪が積もっている。
 さらに天候は猛吹雪で、とてもではないが遠くを見渡せない。
 これまでと違って瞬殺コースとはいかないようだ。

「ミオ、カバーしろ」

「分かりました! ルシアス君はなにを?」

「対策を講じる!」

 ルシアスは慌ててスマホを開く。
 その間にも吹雪の向こうから動物の鳴き声が響く。
 巨大な白銀のキツネ型モンスター〈シルバーフォックス〉だ。

 この敵、普段はE級のボスとして扱われている。
 森に棲息しており、素早く立体的に動いて攪乱するタイプだ。
 攻撃が単調なので倒しやすく、あまり恐れられてはいない。

 だが、それは通常時の話だ。
 フィールドが森でなく雪原で、しかも猛吹雪の中だと違う。
 脅威度はグッと増していた。

「コォーン! コォーン!」

 周囲をくるくる走り回って吠える巨大狐。
 ルシアスたちはその姿を捉えられない。
 1体しかいないのに、鳴き声が四方から聞こえる。
 走り回っている上に、吹雪によって音が拡散していた。

「準備できたぜ」

 とある物を装備したルシアス。
 〈ショッピング〉で購入した戦闘の切り札だ。

「ルシアス君、それは!?」

「敵の居場所を特定するためのアイテムだ! ミオ、しゃがんでいろ」

「はい!」

 ミオが雪の上に伏せる。
 しゃがむのではなく、何故か伏せた。
 そのことに苦笑いしつつ、ルシアスは戦闘を始める。

「さぁいつでもかかってこい」

 走り回る巨大狐を的確に捉えるルシアス。
 彼の視界には敵だけが別の色で映っていた。

「コォーーン!」

 そして勝負の時。
 シルバーフォックスが跳躍した。
 一直線にルシアスへ突っ込む。
 これまでの狡猾さに反する愚直な攻撃。

「見え見えなんだよ!」

 ルシアスは真正面に体を向けて銃をぶっ放す。
 彼の切り札――熱感知ゴーグルの前では吹雪など相手にならなかった。

「鳴き声が止んだ?」

 ミオは立ち上がり、顔をきょろきょろする。

「ついでに言うと吹雪も止んだな」

 シルバーフォックスの死によってフィールドが沈静化する。
 吹雪が収まり、ポカポカ陽気が場を包み込んだ。
 冷え込んでいた二人の体が急速に温まっていく。

「寒くて死ぬかと思いましたよー!」

 思い出したかのようにヘブシッとクシャミをするミオ。

「戦闘中は軽い興奮状態にあるから気づかなかったが……体が冷えまくりだ」

 ルシアスも鼻水をジュルジュルさせた。

「寒さはすっかり消えましたが……」

 ミオは足下に視線を向ける。
 もふもふの雪が積もったままだった。

「足下のだけは冷たいままですね」

「だな。さっさとこの場を離れたいところだ」

 ルシアスは宝箱に向けて〈ピッキング〉を発動した。
 箱が自動で開くと、ミオが中の増幅器を回収する。

「ささっ、早く次へ行きましょう!」

 ミオが黒いゲートを指しながら声を弾ませる。

「ちょっと待ってくれ」

 ルシアスはミオに背を向け、小走りで距離を取る。

「ルシアス君、どうしたんですか?」

「激しい寒暖差に尿意を催した」

「ええええ! じゃ、じゃあ、そこでオシッコをするのですか!?」

「セーフエリアじゃないし俺たち以外には誰も来ないから平気さ」

「たしかにそうですが……」

 むむっとした様子のミオをよそに、ルシアスは立ち小便を始める。
 小便のかかった雪が解けて、雑草や土が垣間見えた。
 雪を過ごした経験が殆どないルシアスは、これに歓喜する。

「これはこれは……」

 彼は独りでにニヤけ、体内に蓄えられた尿を全力で排泄する。
 小刻みに体を揺らし、真っ白な雪のキャンバスに尿で絵を描いた。
 小さな子が描きそうなニッコリ笑った人の顔だ。

「ふふふ、我ながら名作だな」

 そして満足すると、ミオのもとへ戻る。

「なんだかプルプルしていたけど大丈夫ですか?」

「ああ、十分に楽しめたぜ」

「楽しめた!? オシッコを楽しんだんですか!?」

「いや、今のは言葉のあやだ」

 慌てて首を振るルシアス。

「えーっ、怪しい!」

 ミオが目を細めてジーッと見つめる。

「な、なんだっていいだろ、ほら、行くぞ!」

「わかりましたよぉ! でも、あとで何を楽しんだのか教えてくださいね?」

「いやだよ」

「ぶーっ!」

 会話を楽しみながら、二人は次の階層へ進んだ。
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