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025 異次元迷宮の塔

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 突如として草原に現れた謎の塔。
 その塔が〈異次元迷宮の塔〉であるとルシアスたちが知ったのは、街に戻ってからのことだ。

「今年はアポロの近くに現れたか」

「たしか前回は僻地に現れたんだっけ」

「そうそう。行くまでに苦労したぜ」

 ギルドは塔の話で持ちきりだった。

 異次元迷宮の塔は、5年に1度、世界のどこかに現れる。
 ひとたび出現すると1ヶ月ほど存在していて、その後、土に還っていく。
 特殊クエストの対象なので、冒険者は塔が現れると歓喜した。

「え!? 階層を1つクリアするごとにクエストを5回した扱いになるの!? 全部で51階まであるのに!?」

 受付嬢から塔の説明を受けたルシアスは驚愕する。

「厳密には各階層のクリア時に現れる宝箱の中身――〈増幅器〉と呼ばれる水晶玉を1つ納めるごとに5回分のクエストを攻略した扱いになります。また、10階、20階、30階、40階、50階はセーフエリアとなっており、そこには魔物は存在せず、当然ながら宝箱もありません。なので、増幅器は最大でも46個しか入手できません」

「それでも230回分じゃないか! 昇格まで一気に詰められるぞ!」

 声を弾ませるルシアス。
 その隣で「おー!」と喜ぶミオ。
 受付嬢の顔には「そんなに容易くないぞ」と書いていた。

「しかもこの塔って他のPTと競う必要がないんでしょ?」

「さようでございます。異次元迷宮の塔は特殊な構造となっており、セーフエリア以外はPTごとに違う空間を進むことになります」

「文字通り異次元ってことか」

 ルシアスは「いいじゃねぇか」とニヤリ。

「よし! 俺たちも塔に参加するよ! 手続きを頼む!」

「それはできません」

 受付嬢がきっぱり断る。
 ルシアスとミオは「えっ」と固まった。

「塔に挑戦できるのはC級からE級までの冒険者に限られています。したがって参加したい場合、E級以上C級以下の方をPTリーダーに迎える必要があります」

「なんですとー!?」

 ミオは「ガビーン」と項垂れた。
 ぐぬぬ、と唸るルシアス。

「おいおい、落ちこぼれのくせに塔に挑もうってのか? 笑わせるぜ」

 そこへ、フリッツたちがやってきた。
 今日はいつもより多い10人体制となっている。
 その全てがルシアスの同級生だった。

「フリッツ、お前、塔に挑戦するのか。F級だろ?」

「誰のせいでFに甘んじてると思ってるんだよ、カスが」

 フリッツはペッと床に唾を吐く。

「だがまぁ、俺たちにはお前と違ってコネがある。こうしてEに昇格したフレンドのPTに混ぜてもらうことで参加できるってわけだ」

「なるほど」

「塔の序盤は難易度が低い。にもかかわらず、増幅器を入手できる数少ないチャンスだから、増幅器1つにつきクエスト5回分に設定されている。これに参加する俺たちは一気にE級昇格へ近づき、参加できないお前はますます置いてけぼりを食らうわけだ」

 フリッツが言うと、彼の仲間たちが「ぎゃはははは」と笑った。

「じゃあな、才能もコネもない落ちこぼれ野郎」

 フリッツたちは早々にクエストの手続きを済ませ、ギルドをあとにした。

「あの野郎……!」

 悔しさから顔を歪ませるルシアス。
 しかし、フリッツの言い分に反論することはできない。
 なぜなら彼にはコネがないのだ。
 同級生に頼るのはまず不可能だし、先輩冒険者にツテなどない。

「ミオ、お前はどうだ? ツテとかないか?」

「ごめんなさい、私も……」

 ミオが首を振る。

「クソッ、これじゃ参加できないな」

 ルシアスが舌打ちする。
 その時だった。

「塔に参加したいの?」

 類い稀なる美貌の女剣士ハルカがやってきた。

「ハルカ! ちょうどいいところに!」

「ハルカさん!」

 ルシアスとミオは目を輝かせる。
 その様子を見て、ハルカは事態を把握した。

「名義だけでよかったら貸すけど」とハルカ。

「名義だけってどういうことだ?」

「PTは組むけど、塔の攻略は手伝えないよ」

「忙しいのか?」

「忙しくはないけど、塔って面倒だからね。一度しか入れない仕様なのよ。もしPTの誰かが外に出た場合、その時点で失格となっておしまい。私は飽き性だから、そんなにずっと中で過ごしたくないんだよね。お風呂にだって入りたいし」

「なるほど」

 ルシアスは「ふむ」と唸り、それから言った。

「それってギルドの規約的に問題ないのか?」

 彼の視線が受付嬢に向く。

「問題ございません」

 受付嬢が無表情で返す。
 その言葉を聞き、ルシアスは満面の笑みを浮かべた。

「だったら何の問題もない。元々は二人で挑戦するつもりだったんだ。ハルカ、俺たちに名義を貸してくれ」

「オーケー! 増幅器をたくさん回収して、国を豊かにしてね」

「任せろ」

 増幅器は魔法の力を高める効果がある。
 単体の効果は微々たるものだが、数万個と集めれば話は別だ。
 全てのインフラを魔法が司るこの世界において、増幅器は必須である。

「ついでに俺たちが51階まで制覇してやるぜ!」

「あはは、期待しているね」

 さすがにそれは無理だろうな、とハルカは思った。
 塔の敵はただ強いだけではない。中には曲者もいる。
 それでも――。

(謎に包まれた二人の秘めた資質を測るのにもってこいね、塔は)

 ――ルシアスたちがどれだけ通用するのか、ハルカは楽しみだった。
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