劣等冒険者の成り上がり無双~現代アイテムで世界を極める~

絢乃

文字の大きさ
上 下
24 / 47

024 自動車事故

しおりを挟む
 その日、ルシアスとミオはアポロタウンの近くにある草原を爆走していた。
 ――オフロードに対応した四輪駆動車で。

「すごいスピードですよルシアス君! わー! ひゃあー!」

「うはははは! これが異世界のマッスィーン! 自動車だぜ!」

 ルシアスは車の窓を全開にしてかっ飛ばす。
 ハンドルを左右に回転させて、ジグザグ走行で走り回る。
 いつ転倒してもおかしくない危険な運転だ。
 転倒の恐怖を知らない二人は心から楽しんでいた。

 この自動車は、当然ながら〈ショッピング〉で買った。
 アクション映画に決まって登場することから欲しくなったのだ。

「次! 次は私に操縦させてくださいよ! 潜水艦だってルシアス君しか操縦しないままだったんですから!」

「おう、いいぜ」

 車を停めて運転手の交代だ。
 ミオが運転席に着く。
 ルシアスは助手席から操縦方法を教えた。

「この長いペダルを踏めばいいんですね!」

「そうだ」

「えいっ」

 ブオオオオ!
 エンジンが唸りを上げ、車が走り出す。
 あっという間に時速80キロへ到達した。

「わー! 面白い! 風が気持ちいいですよー!」

「車ってすげー! たっまんねー!」

 二人の歓喜の声が草原に響く。
 草原にはスライムや動物が棲息しているが、二人の付近にはいない。
 縦横無尽に暴れ狂う車に恐怖を覚えて逃げ出したのだ。

「なんだあの鉄の塊」

「さぁ? どうせどこかの発明家が作ったおもちゃだろ」

「にしてもあの速度で動く鉄の塊は恐ろしいな」

「どういう原理で動いているのだろうな? 増幅器かな」

「さぁな」

 城壁の上で見張りの衛兵たちが眺めている。
 代わり映えしない草原を眺め続けるよりは退屈しのぎになった。

「よし、ミオ、あっちに行こう。ゴブリンをペシャンコにするんだ!」

「わっかりましたー!」

 車がルシアスの指示した方向へ進む。
 草原を出て雑木林にやってきた。
 そこには多くのゴブリンがたむろしていた。

「ゴブ?」

「ゴブブ?」

 突如として現れる車に気づくゴブリン。
 なんだあれはと首を傾げた後――。

「ゴブゥウウウウウ!」

 ――慌てて逃げようとする。
 よく分からないがとにかくまずいと思った。
 大きな鉄の塊が猛スピードで突っ込んでくるのだから当然だ。

「踏み潰せ、ミオ!」

「あいあいあさー!」

 ゴブリンの身体能力は決して高くない。
 それに知能も低いため、馬鹿正直に真っ直ぐ逃げる。
 あっと言う間に大半が轢殺された。

「おー、車で轢き殺してもポイントがチャージされるようだ」

 スマホを眺めながらルシアスが言う。

「最高じゃないですか! 銃で撃つより楽しいですし!」

「とりあえず手当たり次第に轢きまくっていくか」

「わっかりました! でも、魔石の回収はどうしますか?」

「あとで拾えばいいだろ」

「了解です!」

 その後もミオは一方的にゴブリンを踏み潰していく。
 ――と、思いきや。

「ゴブゥ!」

 ゴブリンも馬鹿なりに反撃を仕掛ける。
 木の上からダイブしてきた。
 もう少し頭がよければ、ダイブではなく石を投げただろう。

 とはいえ、この攻撃は思わぬ形でルシアスたちに恐怖を与える。
 ダイブしたゴブリンがフロントガラスに当たったからだ。

 バリッ! バリバリッ!

 綺麗なガラスがヒビだらけになってしまった。
 しかもダイブしたゴブリンがきわきわで生き残っている。
 そのため魔石にはならず、フロントガラスにへばりついていた。
 大量の血を流し、意識を失いながら。

「ひぃいいいいいいい! 前が見えなぁい!」

 悲鳴を上げるミオ。

「落ち着け、ハンドルの横のレバーを動かせ!」

「これですか?」

「そうだ!」

 ミオが指示に従ってレバーを操作する。
 するとワイパーがおもむろに動き始めた。
 フロントガラスにへばりつくゴブリンが払い落とされる。

「これでよし」

 安心したのも束の間のこと。
 今度はパリィンとフロントガラスが割れた。
 ガラスの破片が二人に降りかかる。

「うぎゃー、ルシアス君! ガラスが割れちゃいましたよ!」

「こりゃまずい、帰るぞ! 魔石は諦めろ!」

「はいぃぃ!」

 ミオは車をUターンさせ、大慌てで来た道を引き返す。
 どうにか雑木林から脱出したところで、二人は安堵の息を吐いた。

「一時は死ぬかと思ったな」

「本当ですよー! 車のガラスって脆いんですね」

「覚えておかないとな」

 気を抜く二人。
 だが、予期せぬイベントがまだ残っていた。

 ゴゴゴォ!

 地面が大きく揺れ始めたのだ。
 それと同時に車が動かなくなる。

「ルシアス君、なんだかこの車……」

「浮いているぞ! ミオ、飛び降りろ!」

「は、はい!」

 二人は車から飛び降りる。
 そして、外から車を見て驚いた。
 地面から生えた謎の角が車に刺さっているのだ。

「なんだなんだ」

 と驚いている間にも地響きは続く。
 そして、角より下の部分が地面からニョキニョキ生えてくる。

 それは、巨大な塔だった。

「なんじゃこれー!?」

 絶叫するミオ。
 彼女の声に呼応するかのように、塔の頂点に貫かれた車が爆発する。
 ガソリンが引火したのだ。

「ミオ、こんな時はどうするか分かっているな?」

「は、はい!」

 二人は目を見合わせ、力強く頷いた。
 そして――。

「逃げろぉおおおおおおおお!」

 ――全力でアポロタウンに逃げ込んだ。

 なんだかやばい気がする。
 そんな時は知らぬ顔、逃げるのが一番だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...