上 下
23 / 47

023 第二章エピローグ:特別な日

しおりを挟む
「な、なんなんだよ、アイツ!」

「やべぇよ、アイツやべぇよ!」

 野蛮な村人たちは血相を変えて逃げていく。
 ポタポタと血を垂らしながら。

「すまん、ギルドの床を汚してしまった」

「い、いえ……」

 冒険者カードを返すヒルダ。
 その表情は明るくなかった。

「これでアイツらも懲りて手出ししないだろう」

「いえ、ダメなんです。これじゃあ」

「どうしてだ?」

「あの人たち――シャックとスバロウは盗賊の一味なんです」

「なんですとー!?」とミオが叫ぶ。

「きっと仲間を連れて戻ってきますよ」

「それは困るな。ところで、あんたは逃げないのか?」

「逃げたいのですが……この村には足の不自由な両親がいますので……」

「なるほど、逃げたら親がどんな目に遭うか分からないってことか」

「はい……」

 ヒルダは目に涙を浮かべる。
 盗賊たちに対する恐怖は薄れるどころか強まっていた。
 先ほどの仕返しになにをされるか想像もつかない。

「だったら仕方ないな」

「「えっ」」

 ミオとヒルダがルシアスを見る。

「せっかくだから盗賊を根絶やしにしてから帰ろう」

「そ、そんなことが可能なんですか?」

「ルシアス君が善意で戦うんですか!?」

 ヒルダとミオが同時に言う。
 ルシアスはミオの発言に対して苦笑いを浮かべた。

「俺だってそういう気分になることもある」

「本当によろしいのですか? とても危険な連中ですよ」

「かまわないさ。今日は特別な日だから上機嫌だしな」

「大魔王イカとキングオクトパスをやっつけましたもんねー!」

 ルシアスはハンドガンを懐にしまった。
 次からはアサルトライフルで戦うつもりだ。

「それで盗賊のアジトはどこか分かるか?」

「分かります。地図に書きましょうか?」

「いや、おおよその位置を教えてくれればそれでいい」

「かしこまりました」

 ヒルダからアジトの場所を教わり、ルシアスたちは村を発つ。
 小さな村に蔓延はびこる悪を掃除する時間だ。

 ◇

 盗賊のアジトは村からそう遠くないところにあった。

 アジトは洞窟で、その前には盗賊が数十人。
 連中は全裸の若い女を大量に侍らせて盛り上がっていた。

「大変だ! 村にやべぇのが現れやがった!」

「カシラ、助けてください! 村に冒険者が!」

 先ほどルシアスに肩を撃たれた二人組だ。
 彼らはリーダーの大男にルシアスのことを報告していた。

「それは美味くねぇ話だなぁ。俺の縄張りが荒らされるなんてよォ!」

 大男は部下たちに命じ、嫌がる女との遊びをやめさせる。

「村に現れたという冒険者が通報したら面倒なことになる。サクッと殺しに行くぞ!」

「「「おおー!」」」

 盗賊共は直ちに準備を始めた。

「いいや、わざわざ村に来る必要はない」

 そこにルシアスとミオが登場する。
 二人は既にアサルトライフルを構えていた。

「お前たちか、冒険者ってのは」

「そうだ」

「忠告します! あの村には二度と――」

 ズドドドドドドドド!

 ミオが話している最中に銃声が響いた。
 ルシアスが問答無用で発砲を始めたのだ。

 一瞬で盗賊の大半が死ぬ。
 生き残った盗賊も被弾して大量の血を流していた。

「ルシアス君! なんてことをするんですか!?」

「悪党の掃除だが?」

「まだ忠告して更正を促していませんよ!」

「馬鹿かお前は」

「えっ」

 ルシアスは呆れ顔で言い放つ。

「こいつらはギルドの受付嬢をはじめとする若い女たちの人生を滅茶苦茶に踏みにじったんだ。そんなやつに更正の余地なんてねぇよ」

「でも、まずは忠告して平和的な解決をですね……」

「なら百歩譲って奴等が『反省しています、二度としません』と言ったとするぞ。お前はそれを信じるのか? 賊の言葉だぞ」

「それは……」

「だろー? だったらそんな面倒なプロセスは必要ねぇ。第一、ミオだって最終的にはあいつらに銃弾をぶち込む気でいただろ?」

「……はい」

「ま、そういうことだ」

「でもでも、私は忠告したかったんですよ! やっぱり、そういうのはきっちりしておくほうがいいと思うんです!」

「好きにしたらいいさ、アイツはまだ生きているからな」

 ルシアスが盗賊のリーダーである大男を指す。

「あ、本当だー!」

 ミオは表情をパッとさせて駆け寄った。

「分かりましたか!? もう二度と悪さをしてはいけませんよ!?」

「うぐぐっ……」

 男は痛みでそれどころではなかった。
 真っ青の顔面からは脂汗が流れている。

「分かりましたか!?」

 ミオが再度の確認を行う。
 男は「ぐぐぅ……」と唸りながらも頷いた。

「満足したか?」

 ルシアスが苦笑いで声を掛ける。

「はい! 大満足です!」

「俺もどうかと思うが、ミオもぶっとんでるな」

「えー、そんなことないですよー!」

「自覚していない分、俺よりタチが悪いぜ」

「私は普通ですってばー!」

 盗賊の問題は一瞬で解決した。

 ◇

「村を救っていただきありがとうございます、ルシアス様、ミオ様」

「大したことじゃないさ。じゃあな」

「はい! お気を付けてお帰りくださいませ!」

 最高の笑みを浮かべるヒルダに別れを告げ、二人はアポロタウンに帰還した。

「いやー、今日は疲れましたねー!」

「派手に暴れたからな」

 街に戻った二人はその足で家に向かう。
 外食をするだけの元気すら残っていなかった。
 早く帰って家のソファに腰を下ろしたい。

「さーて、今日は何を作ろうかなー!」

 ミオがウキウキで家の扉を開ける。
 そして、彼女は目を見開いた。

「なんですかこれはー!?」

 真正面の壁に横断幕がかかっていたのだ。
 そこには『祝・1ヶ月記念! これからもよろしくな!』の文字。
 また、いたるところに可愛らしい飾り付けが施されていた。

「だって今日は俺たちが出会ってから1ヶ月だろ?」

「えっ? えっ? えええええ!?」

 ルシアスはニィと笑った。

「ミオならきっと1ヶ月記念とやらにこだわると思ってな、事前に用意しておいたんだよ。俺、村でも受付嬢に言っていただろ、『今日は特別な日』ってな」

「で、でもでも、それって、大ボスをやっつけたって意味じゃ……」

「それはミオの勘違いに過ぎないさ。俺はこのことを言っていたんだよ」

「ルシアス君……!」

 ミオの目に涙が浮かぶ。
 嬉し泣きだ。

「ルシアス君の実は優しいところ、私、大好きですよ!」

 ミオはルシアスに抱きついた。
 さらに勢い余って唇を重ねてしまう。
 それが二人の初キスとなった。

「あっ、その、これは、えっと、ごめんなさい!」

「いや、べ、別にかまわないさ」

 二人して顔が真っ赤になる。

「とに、とにかく、お祝いしましょう! 一ヶ月記念! 大ボス討伐! 村を救った! ということで!」

「お、おう! そそ、そうだな!」

「わた、私、料理を作ってきますー!」

 逃げるようにキッチンへ向かうミオ。
 そんな彼女の背中を眺めながら、ルシアスは指で唇を触る。

(これがキスかぁ……)

 しばらくの間、彼は恍惚とした表情で余韻に浸っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-

星井柚乃(旧名:星里有乃)
ファンタジー
 旧タイトル『美少女ハーレムRPGの勇者に異世界転生したけど俺、女アレルギーなんだよね。』『アースプラネットクロニクル』  高校生の結崎イクトは、人気スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』のハーレム勇者として異世界転生してしまう。だが、イクトは女アレルギーという呪われし体質だ。しかも、与えられたチートスキルは女にモテまくる『モテチート』だった。 * 挿絵も作者本人が描いております。 * 2019年12月15日、作品完結しました。ありがとうございました。2019年12月22日時点で完結後のシークレットストーリーも更新済みです。 * 2019年12月22日投稿の同シリーズ後日談短編『元ハーレム勇者のおっさんですがSSランクなのにギルドから追放されました〜運命はオレを美少女ハーレムから解放してくれないようです〜』が最終話後の話とも取れますが、双方独立作品になるようにしたいと思っています。興味のある方は、投稿済みのそちらの作品もご覧になってください。最終話の展開でこのシリーズはラストと捉えていただいてもいいですし、読者様の好みで判断していただだけるようにする予定です。  この作品は小説家になろうにも投稿しております。カクヨムには第一部のみ投稿済みです。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

誰もシナリオを知らない、乙女ゲームの世界

Greis
ファンタジー
【注意!!】 途中からがっつりファンタジーバトルだらけ、主人公最強描写がとても多くなります。 内容が肌に合わない方、面白くないなと思い始めた方はブラウザバック推奨です。 ※主人公の転生先は、元はシナリオ外の存在、いわゆるモブと分類される人物です。 ベイルトン辺境伯家の三男坊として生まれたのが、ウォルター・ベイルトン。つまりは、転生した俺だ。 生まれ変わった先の世界は、オタクであった俺には大興奮の剣と魔法のファンタジー。 色々とハンデを背負いつつも、早々に二度目の死を迎えないために必死に強くなって、何とか生きてこられた。 そして、十五歳になった時に騎士学院に入学し、二度目の灰色の青春を謳歌していた。 騎士学院に馴染み、十七歳を迎えた二年目の春。 魔法学院との合同訓練の場で二人の転生者の少女と出会った事で、この世界がただの剣と魔法のファンタジーではない事を、徐々に理解していくのだった。 ※小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。 小説家になろうに投稿しているものに関しては、改稿されたものになりますので、予めご了承ください。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...