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017 ネタの選定

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「ミオ、家に戻るぞ」

 ルシアスはスマホを取り出し、〈吸収〉を起動する。
 そして、屋台にセットした諸々の道具にカメラのレンズを向けた。
 クレープを作るために買った物だ。
 彼がボタンを押すと、それらの道具は光となってスマホに取り込まれた。

 〈吸収〉アプリは魔石以外もポイントにチャージできるのだ。
 そのことにルシアスが気づいたのはつい先日のことだった。

「そろそろ閃いた秘策について教えてくださいよー」

 家に着くとミオが言った。

「まぁそう慌てるなって」

 ルシアスはリビングのソファに座り、テレビをつける。
 DVDプレーヤーを起動して、〈関西のお祭り大特集〉を再生した。

「答えはこのクソつまんねぇDVDの中にある」

「なんですとー!?」

 ミオはルシアスの隣に腰を下ろし、目を輝かせる。
 先の展開が読めないから楽しみで仕方なかった。

 再生が始まると直ちに屋台が映った。
 場所は寺院で、本堂へ続くまでの道に屋台が並んでいる。

「ミオ、テレビに映っている屋台を観てどう思う?」

「活気がありますよねー! それに作業がものすごく速いです!」

「そこだよそこ。こいつらの作業スピードは尋常じゃなく速い。複数の客が群がっても問題なく捌いている。それに加えて、売っている料理は知らないものが多い。お好み焼きだのリンゴ飴だの。連中の屋台を参考にすれば、適切な商品が見つかるはずだ」

「なるほど! その手がありましたか!」

 ルシアスの名案、それはDVDを参考にすること。
 DVDに映っている店の中から以下の条件に当てはまる料理を選ぶ。

 1.素早く量産できる
 2.素材の大量調達が可能
 3.この世界には存在していない

 1と3は大体の店で当てはまる。
 なにせDVDの屋台で売られている物の大半が該当するからだ。

 だが、1と3に加えて2にも該当する店は少ない。
 大体の食材は他の屋台で使われているからだ。
 他所と被った場合、数を揃えるのが難しくなる。

 ルシアスは〈ショッピング〉を使う気がなかった。
 在庫の量が不明な上に、所持金ポイントが底を突く恐れもある。
 現金であれば、黒字な限り素材の追加購入が可能だ。

「これなんかどうですか? 全ての条件に当てはまりますよ」

 ミオがとある料理に目をつける。
 それにはルシアスも同感だった。

「やはりコレしかないだろうな。この世界の屋台にあの食材を活かす食べ物は存在しない。それに量産と調整もしやすそうだ。見た感じ大した技術がなくともそれなりの代物が作れそうだし」

「決まりですね!」

 こうしてルシアスたちの勝負ネタが決まった。

 ◇

 ネタが決まったら試作だ。
 必要な道具を用意したら、〈クックバッド〉を参考に作ってみる。
 もちろん作るのはミオだ。


「あとはこれを……えいっ! できましたぁ!」

「いいじゃないか」

 ミオは初っ端から及第点のクオリティで完成させた。

「これ面白いですねー!」

「そうなんだよ。観ていて楽しい。その点も魅力になるだろう。普通の屋台なら作っている風景は退屈でしかないが、これはそうならない。クレープと同じだ」

「あとは味ですね!」

 二人は試作品を食べてみた。

「美味しくないですか!? めちゃくちゃ美味しいですよ!」

「ああ、完璧な味だ! 食べやすくて美味い。やはりコレで決まりだ!」

「あとは私が作る腕を磨くだけですね!」

 ミオが改めて試作に取りかかった。
 今度は〈クックバッド〉を参考にしつつアレンジを加える。

「思ったんだが、腕を磨く必要はないかもしれないな」

 ルシアスがボソッと呟く。

「どういうことですか? これ、思ったより技術がいりますよ」

「そうなんだけど、自動で調理する機械があるようだ」

「えっ?」

「ほら、見てみろ」

 ルシアスがリビングのテレビを指す。
 そこでは、ある屋台が取り上げられていた。

「あ、本当だ! 勝手に完成していってる!」

「だろ? 具材を放り込んだら、あとはスイッチ一つで完成だ」

 すかさずスマホで調べるルシアス。
 幸いにも自動調理システムを備えた機械が売っていた。
 アサルトライフルと同じ価格だが問題ない。

「私は自分の手で作りたいですけどねー、くるりんってするの面白いし」

「家庭用の道具を買ってやるから、それで好きなだけ作ればいいよ。祭りでは効率重視だから機械に頼る。さっそく試してみるぞ」

 ルシアスは自動調理の機械を購入した。
 それの用意が完了すると、説明書を参考に試作を始める。
 生地を流し込み、具材を入れて、スイッチを押す。

「おお! 動いているぞ!」

「見てください! 勝手にくるりんしましたよ!」

「まるで手品だな。人が作るより遥かに面白いぞ」

「ですね! これは大ウケ間違いなしですよ!」

 二人が興奮している間に調理を終える機械。
 ルシアスたちは機械が作った物を試食してみた。

「ミオの作ったのと同じ味だ!」

「たしかに違いが全く分かりません!」

「味も問題ないし、これなら作業効率も上がる。決定だな」

「これ、絶対にお祭りでみんなに注目されますよ!」

「違いねぇ! この勝負、普通に勝てるぞ!」

 ルシアスとミオは鼻息を荒くする。
 もはや成功する未来しか見えなかった。
 それほどまでに強烈な手応えがあったのだ。
 未知の料理――たこ焼きには。
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