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015 出店場所
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皿洗いを終えたルシアスは、アポロタウンを散策していた。
「どこもかしこも人で溢れているな……」
アポロタウンは普段とは比較にならない賑わいを見せていた。
殆どの通りで露店の準備が行われているのだ。
他所の街から出店するためだけに来ている者も多い。
「この様子だとミオの出店場所はクソクソのクソになりそうだな」
出店場所は過去の実績や申し込みの早さで決定する。
ミオはそのどちらも論外なので、まともな場所はもらえない。
「落ちこぼれのルシアスじゃねぇか」
大通りを歩いていると声を掛けられた。
ルシアスが振り向くと、そこにいたのはフリッツだ。
それに彼のPTメンバーも一緒である。
「フリッツ、お前も出店するんだな」
フリッツたちは祭りの準備をしていた。
文句なしの一等地に屋台を設営しようとしている。
どうやらイカの串焼きを販売するつもりのようだ。
「当たり前だろ。一流の冒険者は戦い以外にも能があるんだよ」
「まるで自分が一流の冒険者だとでも言いたげな口調だな」
「なんだと!?」
フリッツはルシアスに詰め寄ろうとする。
だが、寸前のところで思いとどまり、大きく息を吐いた。
「どうせお前は出店しないのだろ? 学生時代からそうだった。面倒だのなんだのといって逃げてばかりだ。そう、戦いだけでなく祭りからもな」
ルシアスはカチンときた。
彼は「逃げる」と言われるのが大嫌いなのだ。
(才能のある奴は才能のない人間の苦労など知りもしないで……!)
そう思いつつ、ルシアスは無表情で返す。
「俺も出店するぜ。お前と同じで食べ物でも売ろうかと思ってな」
完全なアドリブだ。
ただ、フリッツに負けたくないと思った。
ミオの店で食べ物を売るならそれでよし、違うなら自分でも店を開く。
どうにでも対応できる。
「俺に対抗するつもりかよ」
フリッツはケラケラと笑う。
「まぁいい。なら俺たちの店とお前の店、どちらが売り上げランキングで上にくるか勝負といこうじゃねぇか。落ちこぼれは何をやっても落ちこぼれなんだと教えてやるよ」
「いいぜ。そのセリフ、後悔させてやるよ」
ルシアスは反射的に受けてしまう。
売り言葉に買い言葉だった。
「フリッツ、そんなカスと話してないで手伝えよ」
フリッツのPTメンバーが苛立ちの声を上げる。
カスとはルシアスのことだ。
彼は他のメンバーからも嫌われていた。
「ああ、わりぃわりぃ」
フリッツは地面に唾を吐き、ルシアスに背を向ける。
「あとで吠え面をかくなよ」
ルシアスの返事を待たず、フリッツは作業に戻った。
(やっちまった……)
ルシアスは後悔しながら歩きだす。
(勝てるわけねぇ)
売り上げ勝負を受けたのは間違いだと思った。
祭りにおいて最も大事なのは質よりも場所だからだ。
出店場所でおおよその売り上げが決まると言っても過言ではない。
そして、フリッツの出店場所は一等地だ。
一方、ルシアスの出店場所は恵まれない可能性が高い。
質の良し悪しの前に、この時点で大きな差をつけられていた。
それでもまだ、彼が経験豊富であればやりようがあっただろう。
しかし、ルシアスには出店した経験がなかった。
もっと言えば祭りに参加すること自体、8年ぶりくらいのこと。
(かくなる上はミオ頼みだ!)
ミオは可愛くて胸が大きく、人当たりがいい。
とくにおっさんからのウケが抜群だ。
だから奇跡的にも良い出店場所をゲットできる可能性がある。
――というのは気のせいだった。
「じゃじゃーん! ここに私たちのお店ができまーす!」
ミオの出店場所はハズレもハズレ、大ハズレだった。
大通りからほど遠く、かといって通りの端でもない。
出店場所で強いのは大通りや通りの端なのだ。
「終わったな」
ミオの店の前で呟くルシアス。
彼は早くも諦めムードに入っていた。
「何が終わったんですか?」
ミオがきょとんとした様子で訊く。
「実はフリッツと会ってさぁ」
そう言ってルシアスは詳細を説明した。
それを聞いたミオの反応は「そんなの問題ないですよ! 実力でカバーしましょうよ! 冒険者としてのセンスはなくとも、お店なら負けませんよ! 実は私、こう見えて屋台に強いんです!」という実に頼もしいもの。
――ではなかった。
「あちゃー……それは終わりましたね」
「だろー」
ルシアスはガックシと項垂れた。
「どこもかしこも人で溢れているな……」
アポロタウンは普段とは比較にならない賑わいを見せていた。
殆どの通りで露店の準備が行われているのだ。
他所の街から出店するためだけに来ている者も多い。
「この様子だとミオの出店場所はクソクソのクソになりそうだな」
出店場所は過去の実績や申し込みの早さで決定する。
ミオはそのどちらも論外なので、まともな場所はもらえない。
「落ちこぼれのルシアスじゃねぇか」
大通りを歩いていると声を掛けられた。
ルシアスが振り向くと、そこにいたのはフリッツだ。
それに彼のPTメンバーも一緒である。
「フリッツ、お前も出店するんだな」
フリッツたちは祭りの準備をしていた。
文句なしの一等地に屋台を設営しようとしている。
どうやらイカの串焼きを販売するつもりのようだ。
「当たり前だろ。一流の冒険者は戦い以外にも能があるんだよ」
「まるで自分が一流の冒険者だとでも言いたげな口調だな」
「なんだと!?」
フリッツはルシアスに詰め寄ろうとする。
だが、寸前のところで思いとどまり、大きく息を吐いた。
「どうせお前は出店しないのだろ? 学生時代からそうだった。面倒だのなんだのといって逃げてばかりだ。そう、戦いだけでなく祭りからもな」
ルシアスはカチンときた。
彼は「逃げる」と言われるのが大嫌いなのだ。
(才能のある奴は才能のない人間の苦労など知りもしないで……!)
そう思いつつ、ルシアスは無表情で返す。
「俺も出店するぜ。お前と同じで食べ物でも売ろうかと思ってな」
完全なアドリブだ。
ただ、フリッツに負けたくないと思った。
ミオの店で食べ物を売るならそれでよし、違うなら自分でも店を開く。
どうにでも対応できる。
「俺に対抗するつもりかよ」
フリッツはケラケラと笑う。
「まぁいい。なら俺たちの店とお前の店、どちらが売り上げランキングで上にくるか勝負といこうじゃねぇか。落ちこぼれは何をやっても落ちこぼれなんだと教えてやるよ」
「いいぜ。そのセリフ、後悔させてやるよ」
ルシアスは反射的に受けてしまう。
売り言葉に買い言葉だった。
「フリッツ、そんなカスと話してないで手伝えよ」
フリッツのPTメンバーが苛立ちの声を上げる。
カスとはルシアスのことだ。
彼は他のメンバーからも嫌われていた。
「ああ、わりぃわりぃ」
フリッツは地面に唾を吐き、ルシアスに背を向ける。
「あとで吠え面をかくなよ」
ルシアスの返事を待たず、フリッツは作業に戻った。
(やっちまった……)
ルシアスは後悔しながら歩きだす。
(勝てるわけねぇ)
売り上げ勝負を受けたのは間違いだと思った。
祭りにおいて最も大事なのは質よりも場所だからだ。
出店場所でおおよその売り上げが決まると言っても過言ではない。
そして、フリッツの出店場所は一等地だ。
一方、ルシアスの出店場所は恵まれない可能性が高い。
質の良し悪しの前に、この時点で大きな差をつけられていた。
それでもまだ、彼が経験豊富であればやりようがあっただろう。
しかし、ルシアスには出店した経験がなかった。
もっと言えば祭りに参加すること自体、8年ぶりくらいのこと。
(かくなる上はミオ頼みだ!)
ミオは可愛くて胸が大きく、人当たりがいい。
とくにおっさんからのウケが抜群だ。
だから奇跡的にも良い出店場所をゲットできる可能性がある。
――というのは気のせいだった。
「じゃじゃーん! ここに私たちのお店ができまーす!」
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「終わったな」
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