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035 魔法に頼らぬ野営で驚かせてみた

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 レイドダンジョンと言うからには、もっと多くの魔物が居ると思っていた。
 そこら中に蠢いている魔物と息つく暇もなく戦闘に次ぐ戦闘……みたいな。

 しかし、今回のダンジョン〈魔王の庭・リバーサイド〉は違っていた。
 戦闘は先ほどのオーガパーティーだけで、その後はひたすらに移動だ。

 イザベラによると、魔物が蠢いているのは左右にそびえる森とのこと。
 アフリカの密林みたいな森には、大量の魔物が棲息しているらしい。

 ところで……。

「まだ歩き続けるのか?」

 俺は尋ねた。

 既に日が暮れ始めている。
 1時間もしない内に夜が訪れるだろう。
 そろそろ、というか既に寝床の準備を終えているべきだ。

「もしかしてボスに強行するのか?」

 ボスまでまだまだ距離があることは知っている。
 このまま突っ込んだ場合、ボスの場所に着くのは真夜中だ。

「そんなわけねぇだろ! 夜は危険だろうが!」

 ザウスが馬鹿にしたように言う。

「もう少し歩いてからと考えていたが、そろそろ休もうか」

 自称「この場の大隊長」ことフリッツが決定する。
 大隊長というのは、彼のクランにおけるレイドPTのリーダーを指す。
 1軍1PT、2軍1PT、3軍2PTの計4PTを1大隊とし、それを統率するのが大隊長だ。
 今回のレイドイベントは、彼のクランにとって大隊長の練習の場とのこと。

「今から野営の準備とは、よほど手慣れているんだな」

 1時間足らずで寝床を作るのは大変だ。
 特に此処のような川辺になると尚更に難しい。
 まともな素材が大小様々な石しかないから。

「野営の準備なんざ数分で出来るだろ、何言ってるんだ?」

 ザウスが首を傾げる。
 フリッツやイザベラ、その他の連中も同じ反応だ。

「逆に魔法使いなしでどうやって野営するの?」

 イザベラが尋ねてきた。
 どうやらここでも魔法使いが活躍するようだ。

「寝床と焚き火を作るだけだが。むしろ魔法を使った野営方法を見せてくれ」

「いいわよ」

 イザベラが子分に命令する。
 命令された子分は恍惚とした表情で「はい、女王様!」と即答。
 それから直ちに魔法の詠唱を始めた。

「我等を守れ――〈絶対防壁サンクチュアリ〉」

 魔法の詠唱が終わると、イザベラのPTを半透明の青いドームが覆った。

「これで完了。〈絶対防壁〉には何人も手を出せないからね」

「ほう」

「試しに適当な石を投げつけてみなさい」

「分かった」

 言われたとおりに石を拾い、イザベラに向かって投げつける。
 石は一直線にイザベラを目指すも、半透明のドームに弾かれた。

「すげぇ」

「逆に〈絶対防壁〉の内から外への攻撃も出来ない。だから安心して過ごせるの。あとはこの中で寝袋に入って眠るだけよ」

「なるほど」

 一般的な冒険者はそうやって野営するのか。
 フリッツ達が時間いっぱいまで進もうとしたことに納得した。

「さて、貴方のPTだけは魔法使いがいないみたいだけど、どうするのかな?」

 俺以外の3PTは〈絶対防壁〉を展開してくつろいでいる。

「ノブナガ、必要ならウチのメンバーを一人寄越してやるぞ。〈絶対防壁〉は全員が使用可能だ。遠慮せずに甘えるといい」

 そう言ったのはフリッツだ。

「いいや、遠慮するよ」

「どうしてだ?」

「おそらくあんたは優しさのつもりで言っているのだと思うが、内心でこちらを見下しているのが透けて見えるぜ」

「グッ……」

 フリッツのことはどうも好かない。

「そらF級の世間知らずなんか見下すだろうよ!」

 ストレートに俺を見下しているザウスが口を挟む。

「なんにせよ俺は自分でどうにかするさ――ジャック」

「キュイイイイイイン!」

 ジャックに周辺を調べさせる。
 イーグルアイは暗闇を軽々と見通す。

「キュイッ!」

 しばらく上空を旋回した後、ジャックが戻ってきた。
 すぐ近くに魔物の影がないことを把握する。

「問題ないな。行くぞ、ゴブイチ」

「了解ゴブ!」

 ゴブイチと共に密林へ近づく。
 寝床を作るのに材料が必要だ。

「おい、待つんだ!」

 フリッツが叫ぶ。

「貴方達、森に入るの!?」

 驚くイザベラ。

「別に奥まで行くわけじゃないから大丈夫さ」

 俺達はそのまま森へ近づく。
 そして、川岸からでも見えていた植物に手を伸ばす。

 地面から放射線状に大量の長い茎を生やした植物だ。
 オコティーヨという砂漠の植物に酷似している。

「良いしなり具合だ」

 茎を激しく曲げても折れずにしなった。
 このしなり具合もオコティーヨと似ている。
 というか、この植物はオコティーヨに違いない。
 まさか砂漠以外でお目にかかれるとはな。

「〈絶対防壁〉に倣って、俺達もドーム型の寝床にしよう」

「ゴブはドーム型の寝床を教わっていないゴブ」

「簡単だからすぐに覚えられるさ」

 ゴブイチと共にオコティーヨの茎を回収していく。
 20本ほど手に入れたところで、フリッツ達の所へ戻った。

「その植物で寝床を作るの?」

 興味津々のイザベラ。

「そうだ」

 俺はそれだけ答えて作業を開始。

 ドーム型の寝床も、基本的な作り方は他の寝床と同じだ。
 骨格を作り、そこに草やら葉っぱやらを被せて屋根にする。

 オコティーヨの茎は寝床の骨格だ。
 グググッと真ん中を曲げて、両端を地面に突き刺す。
 強烈なしなりによって、一本のアーチが完成した。

「ゴブイチ、茎が戻らないように石を置くぞ」

「ゴブ!」

 曲がっているオコティーヨは、全力で真っ直ぐへ戻ろうとする。
 その力は強烈なので、突き刺した茎の外側に石を積んで防ぐ。
 幸いにも川岸には大量の石が転がっているから、石の調達は困らない。

「あとはこれを何度も繰り返して……」

 同じ要領で様々な方向からアーチを作り、重ねていく。
 一本だとアーチだが、様々な角度から束になればドームと化す。

「これで骨格の完成だ」

「おいおい、マジかよ」

 愕然とするザウス。

「こんな短時間で寝床の骨格を作り上げただと……」

 フリッツも同様の表情。
 何も言っていないが、イザベラも口をポカンとしている。

 これが魔法に頼らない野営さ、と言いたいが黙っておく。
 まだ作業が終わっていないからだ。

「屋根はいつも通りに葉を被せていけばいい」

「了解ゴブ!」

 茎の調達から寝床の骨格形成まで要した時間は20分。
 ここから屋根を作るのにおそらく20分弱を要する。
 焚き火は2分程度で済むから、夜にはギリギリ間に合いそうだ。

「急ぐぞ、ゴブイチ」

「ゴブ!」

 屋根の材料を調達する為、再び森へ向かおうとする。
 だが、その時――。

「待ちなさい」

 イザベラが待ったを掛けた。
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