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037 シロちゃん
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6日目の夜も無事に終わり、7日目が始まった。
美少女たちとの共同生活が当たり前のものに感じつつある。
「むっ?」
朝、目を覚ました俺は、起き上がるなり異変に気づいた。
ラフトのドアが開きっぱなしであることに――ではない。
凛とブタ君が既に活動を始めているので、その点は気にならなかった。
気になったのはハクトウワシがいないことだ。
昨日の夕方、波打ち際に打ち上げられているのを拾った。
怪我をしていたので治療して、それから夜を共に過ごした。
ワシは陽葵のことを気に入っていて、彼女と一緒に寝ていたはず。
「あ、刹那、おはよ」
ラフトから出ると凛が話しかけてきた。
彼女はブタ君と共に朝食のネタを採取していたようだ。
背負っている竹の籠にはキノコを中心に様々な食材が入っている。
「凛、陽葵のワシがいなくなってるんだが何か知らないか?」
凛は「えっ」と驚く。
「私が起きた時は陽葵の腕の中で寝ていたよ。もしかして、ラフトを開けたままにしておいたのがまずかったのかな?」
「分からん。だが、この展開はよろしくないな」
「そうね。陽葵が起きたらきっと悲しむと思う」
陽葵はワシのことをペットのように可愛がっていた。
別れるにしても「さよなら」は言いたいに違いない。
「ま、どうすることもできないから成り行き任せでいくしかないな。別のハクトウワシを捕獲すりゃ済むって話でもないし」
「そうだね――あれ?」
凛の視点はラフトの傍にある焚き火に向かう。
「刹那、朝から釣りにいったの?」
「行くわけないだろ」
何を言っているのかと思った。
だが、凜と同じ場所を見て分かった。
「なんで魚があるんだ?」
川魚のイワナがあったのだ。
焚き火の近くに敷いたバナナの葉の上に。
イワナはピクリとも動かない。
酸欠かなにかで死んだようだ。
陸に揚げられて少し経つのだろう。
「私じゃないよ? ね、ブタ君」
「ブヒッ!」
凛とブタ君が手に入れた魚ではないらしい。
「かといって俺でもないぞ。どういうことだ?」
この問いに対する答えは、言葉ではなく形として俺たちに伝えられた。
「キュイイイイイン!」
ハクトウワシだ。
翼に微かな傷痕が見える。
陽葵に抱かれてぐっすり眠っていた個体に違いない。
そのワシが、イワナを持ってやってきた。
イワナはワシの鉤爪に掴まれて身動きが取れない様子。
「キュイ!」
ワシは慣れた様子でバナナの葉にイワナを置く。
「コイツの獲物らしい」
「すごい……陽葵が躾けたのかな?」
「いや、違うだろうな。ワシの調教は一朝一夕でできるものではない」
「じゃあ、どういうこと?」
「このワシは自発的に獲物を運んでいる――つまり、恩返しだ」
そう考えるのが合理的だ。
「とりあえず陽葵を起こして相手をさせよう。このワシは陽葵に懐いている。俺たちがイワナに手を出すと怒るかもしれない」
「そうだね」
凛は焚き火の傍に腰を下ろして籠の中の物を取り出す。
その間に、俺は陽葵を叩き起こした。
「わー! すごい!」
陽葵はワシの運んできた魚を見て声を弾ませる。
ワシは嬉しそうに「キュイッ!」と鳴き、陽葵の肩に乗った。
鉤爪が刺さらないよう意識しているのが見て取れる。
「今日は朝からお魚が食べられるよ、ありがとぉ」
「キュイイイン!」
陽葵はワシと共に海のほうへ歩いていく。
なにやら愉快げに会話している。
その頃、俺は海水から塩を抽出していた。
独自の〈刹那式遠心力塩分離法〉でサクッと塩を増やす。
「これだけあれば塩焼きには十分かな?」
イワナはきっと塩焼きコースだ。
そうでなかったとしても、調理に塩を使うだろう。
塩はどれだけあっても困らないので遠慮せずに量産する。
「あー、よく寝た!」
沙耶が起きてきた。
「ウハッ! 魚じゃん! 塩焼きにしようよ!」
案の定、彼女は塩焼きを提案した。
「2匹しかいないけど問題ないか?」
「うーん……」
問題あるようだ。
「必要なら俺が獲ってくるけど」
「ううん、その必要はないよ!」
「というと?」
「塩焼きはやめて、かっぽキノコに魚を混ぜよう!」
「オーケー。ならレモンを」
「レモンならあるよ」と凛。
「俺は諸々の確認でもしておくか」
まずは水分を調べる。
ペットボトルと竹の水筒はどちらも満タンだ。
さらに1リットル以上の容量を誇る長い竹筒にも煮沸済みの水が入っている。
「水分よーし」
電車の車掌みたいに指さし確認。
「次は食料だ」
保管庫に行って肉が余っているかを調べる。
燻製にしたワニ肉が大量に吊されていた。
「果物も問題ないな」
燻製肉だけだと飽きる。
そこで、密かにドライフルーツを用意していた。
作り方は簡単で、果物をカットして天日干しにするだけだ。
俺はただ干すだけでなく、燻煙をかけて菌を殺しておいた。
ドライフルーツは色々な種類がある。
名称不明の謎フルーツからレモンまで。
試しに乾燥させた輪切りのレモンを食べてみよう。
「うん、いい感じだ」
肉と同じで、果物も乾燥させることで長持ちする。
ワニ肉にドライフルーツも加わり、食料方面は十分だ。
「メシはいいとして、あとは何を……」
「決めた!」
外から陽葵の声が聞こえた。
何かを決めたようだが、何を決めたのだろうか。
保管庫から出て確かめてみた。
「この子の名前、『シロちゃん』に決定!」
陽葵が嬉しそうな顔で報告する。
ハクトウワシに「シロちゃん」と命名したようだ。
「シロちゃんかー! 可愛いじゃん!」
「陽葵らしいネーミングだね」
沙耶と凛は優しい笑みを浮かべる。
シロちゃんと名付けられたワシも嬉しそうだ。
ただ一人、俺だけは眉間に皺を寄せた。
「シロちゃんって言うけど……そのワシはオスだぞ」
そう、シロちゃんの性別はオスである。
メスならまだしも、オスでシロちゃんはいかがなものか。
「分かってるよー! でもシロちゃんに決めた!」
知っていてなおシロちゃんにするらしい。
「キュイー!」
シロちゃんも上機嫌だし、ならばシロちゃんでよしとしよう。
「メスなのにブタ君だったり、オスなのにシロちゃんだったり、我々のネーミングセンスは壊滅的だな」
女性陣が声を上げて笑う。
「それじゃ、朝ご飯にしよっかー!」
沙耶が手を叩いて話を切り上げる。
俺たちはベンチに座った。
今日は沙耶が俺の隣だ。
「「「「いただきまーす!」」」」
「ブヒッ!」
「キューン!」
賑やかな朝食が始まった。
シロちゃんを含む全員がキノコを食べている。
ブタ君は生のままで、シロちゃんは焼きキノコだ。
「美味しい? シロちゃん」
陽葵が尋ねると、シロちゃんは「キュイッ!」と嬉しそうに鳴いた。
「刹那、7日目だけど例の件、どうするのー?」
沙耶が話を振ってきた。
「例の件って?」
おおよそ当たりが付いている中、何食わぬ顔で聞き返す。
それに対して、沙耶は珍しく真面目な表情で言った。
「今日、救助が来なかったらどうするかだよ」
案の定の話だった。
「この島で生活を続けるの? それともイカダを作って帰還する?」
この問いで、俺たちの表情がいつになく引き締まった。
美少女たちとの共同生活が当たり前のものに感じつつある。
「むっ?」
朝、目を覚ました俺は、起き上がるなり異変に気づいた。
ラフトのドアが開きっぱなしであることに――ではない。
凛とブタ君が既に活動を始めているので、その点は気にならなかった。
気になったのはハクトウワシがいないことだ。
昨日の夕方、波打ち際に打ち上げられているのを拾った。
怪我をしていたので治療して、それから夜を共に過ごした。
ワシは陽葵のことを気に入っていて、彼女と一緒に寝ていたはず。
「あ、刹那、おはよ」
ラフトから出ると凛が話しかけてきた。
彼女はブタ君と共に朝食のネタを採取していたようだ。
背負っている竹の籠にはキノコを中心に様々な食材が入っている。
「凛、陽葵のワシがいなくなってるんだが何か知らないか?」
凛は「えっ」と驚く。
「私が起きた時は陽葵の腕の中で寝ていたよ。もしかして、ラフトを開けたままにしておいたのがまずかったのかな?」
「分からん。だが、この展開はよろしくないな」
「そうね。陽葵が起きたらきっと悲しむと思う」
陽葵はワシのことをペットのように可愛がっていた。
別れるにしても「さよなら」は言いたいに違いない。
「ま、どうすることもできないから成り行き任せでいくしかないな。別のハクトウワシを捕獲すりゃ済むって話でもないし」
「そうだね――あれ?」
凛の視点はラフトの傍にある焚き火に向かう。
「刹那、朝から釣りにいったの?」
「行くわけないだろ」
何を言っているのかと思った。
だが、凜と同じ場所を見て分かった。
「なんで魚があるんだ?」
川魚のイワナがあったのだ。
焚き火の近くに敷いたバナナの葉の上に。
イワナはピクリとも動かない。
酸欠かなにかで死んだようだ。
陸に揚げられて少し経つのだろう。
「私じゃないよ? ね、ブタ君」
「ブヒッ!」
凛とブタ君が手に入れた魚ではないらしい。
「かといって俺でもないぞ。どういうことだ?」
この問いに対する答えは、言葉ではなく形として俺たちに伝えられた。
「キュイイイイイン!」
ハクトウワシだ。
翼に微かな傷痕が見える。
陽葵に抱かれてぐっすり眠っていた個体に違いない。
そのワシが、イワナを持ってやってきた。
イワナはワシの鉤爪に掴まれて身動きが取れない様子。
「キュイ!」
ワシは慣れた様子でバナナの葉にイワナを置く。
「コイツの獲物らしい」
「すごい……陽葵が躾けたのかな?」
「いや、違うだろうな。ワシの調教は一朝一夕でできるものではない」
「じゃあ、どういうこと?」
「このワシは自発的に獲物を運んでいる――つまり、恩返しだ」
そう考えるのが合理的だ。
「とりあえず陽葵を起こして相手をさせよう。このワシは陽葵に懐いている。俺たちがイワナに手を出すと怒るかもしれない」
「そうだね」
凛は焚き火の傍に腰を下ろして籠の中の物を取り出す。
その間に、俺は陽葵を叩き起こした。
「わー! すごい!」
陽葵はワシの運んできた魚を見て声を弾ませる。
ワシは嬉しそうに「キュイッ!」と鳴き、陽葵の肩に乗った。
鉤爪が刺さらないよう意識しているのが見て取れる。
「今日は朝からお魚が食べられるよ、ありがとぉ」
「キュイイイン!」
陽葵はワシと共に海のほうへ歩いていく。
なにやら愉快げに会話している。
その頃、俺は海水から塩を抽出していた。
独自の〈刹那式遠心力塩分離法〉でサクッと塩を増やす。
「これだけあれば塩焼きには十分かな?」
イワナはきっと塩焼きコースだ。
そうでなかったとしても、調理に塩を使うだろう。
塩はどれだけあっても困らないので遠慮せずに量産する。
「あー、よく寝た!」
沙耶が起きてきた。
「ウハッ! 魚じゃん! 塩焼きにしようよ!」
案の定、彼女は塩焼きを提案した。
「2匹しかいないけど問題ないか?」
「うーん……」
問題あるようだ。
「必要なら俺が獲ってくるけど」
「ううん、その必要はないよ!」
「というと?」
「塩焼きはやめて、かっぽキノコに魚を混ぜよう!」
「オーケー。ならレモンを」
「レモンならあるよ」と凛。
「俺は諸々の確認でもしておくか」
まずは水分を調べる。
ペットボトルと竹の水筒はどちらも満タンだ。
さらに1リットル以上の容量を誇る長い竹筒にも煮沸済みの水が入っている。
「水分よーし」
電車の車掌みたいに指さし確認。
「次は食料だ」
保管庫に行って肉が余っているかを調べる。
燻製にしたワニ肉が大量に吊されていた。
「果物も問題ないな」
燻製肉だけだと飽きる。
そこで、密かにドライフルーツを用意していた。
作り方は簡単で、果物をカットして天日干しにするだけだ。
俺はただ干すだけでなく、燻煙をかけて菌を殺しておいた。
ドライフルーツは色々な種類がある。
名称不明の謎フルーツからレモンまで。
試しに乾燥させた輪切りのレモンを食べてみよう。
「うん、いい感じだ」
肉と同じで、果物も乾燥させることで長持ちする。
ワニ肉にドライフルーツも加わり、食料方面は十分だ。
「メシはいいとして、あとは何を……」
「決めた!」
外から陽葵の声が聞こえた。
何かを決めたようだが、何を決めたのだろうか。
保管庫から出て確かめてみた。
「この子の名前、『シロちゃん』に決定!」
陽葵が嬉しそうな顔で報告する。
ハクトウワシに「シロちゃん」と命名したようだ。
「シロちゃんかー! 可愛いじゃん!」
「陽葵らしいネーミングだね」
沙耶と凛は優しい笑みを浮かべる。
シロちゃんと名付けられたワシも嬉しそうだ。
ただ一人、俺だけは眉間に皺を寄せた。
「シロちゃんって言うけど……そのワシはオスだぞ」
そう、シロちゃんの性別はオスである。
メスならまだしも、オスでシロちゃんはいかがなものか。
「分かってるよー! でもシロちゃんに決めた!」
知っていてなおシロちゃんにするらしい。
「キュイー!」
シロちゃんも上機嫌だし、ならばシロちゃんでよしとしよう。
「メスなのにブタ君だったり、オスなのにシロちゃんだったり、我々のネーミングセンスは壊滅的だな」
女性陣が声を上げて笑う。
「それじゃ、朝ご飯にしよっかー!」
沙耶が手を叩いて話を切り上げる。
俺たちはベンチに座った。
今日は沙耶が俺の隣だ。
「「「「いただきまーす!」」」」
「ブヒッ!」
「キューン!」
賑やかな朝食が始まった。
シロちゃんを含む全員がキノコを食べている。
ブタ君は生のままで、シロちゃんは焼きキノコだ。
「美味しい? シロちゃん」
陽葵が尋ねると、シロちゃんは「キュイッ!」と嬉しそうに鳴いた。
「刹那、7日目だけど例の件、どうするのー?」
沙耶が話を振ってきた。
「例の件って?」
おおよそ当たりが付いている中、何食わぬ顔で聞き返す。
それに対して、沙耶は珍しく真面目な表情で言った。
「今日、救助が来なかったらどうするかだよ」
案の定の話だった。
「この島で生活を続けるの? それともイカダを作って帰還する?」
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