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028 綿実油を作ろう

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 戻ったらコットンを凛に渡す。

 ワタの種子は保管庫へ。
 保管庫には土器で作ったバケツがいくつもあるので、その一つに移した。

「だいぶ進んでいるな」

「ここからが大変だけどね。縫い針がないから縫うのに一苦労だよ」

 凛の進捗率は40%といったところ。
 2枚の大きな布でコットンを覆って縫い合わせるつもりのようだ。

「布団を作ってるの?」

 陽葵が尋ねる。

 凛は「そうだよ」と即答。
 隠すつもりはないようだ。

「すごい! フカフカになりそう!」

「そうなる予定だけど、なかなか大変だよ」

「凛ならできるよ! 私も頑張ってコットン集めしてくる!」

「ありがと」

 俺と陽葵は引き続きコットンと種子の収穫だ。
 適度に休憩を挟みながら、ワタ畑とラフトを往来する。

「もうダメー! 私、今日はここでリタイア!」

 何度目かの往来で陽葵がギブアップ。

「既に十分な量を集めたし、時間的にもちょうどいい。終わろう」

 時刻は17時45分。
 ウカウカしていると夜になってしまう。

「沙耶、今日の晩ご飯は私が作ろうか?」

 凛は作業を中断し、沙耶に尋ねる。

 沙耶は少し前から何やら作業をしていた。
 ラフトから数メートル離れたところで竹筒を火炙りにしている。
 それをするためだけに新たな焚き火をこしらえたようだ。

「いーや、あたしが作る! もうじき終わるから! もし暇だったらレモンの調達を頼んでいい? 今日も一品は〈かっぽキノコ〉にする予定だから!」

「分かった」

 凛はブタ君を連れて森に向かう。

「俺は綿実油を作るために種子の圧搾をするけど、見学していくか?」

 と陽葵に尋ねる。

「うん! ずっと楽しみにしていたから!」

 陽葵は目をキラキラさせながら頷いた。

「綿実油!? いいなー! あたしも見たい! でも、今はダメだー!」

 沙耶はこまめに筒の中を確認している。

「竹筒の中に何が入っているんだ?」

「ふっふっふ、それはお楽しみさぁ!」

「驚かせてくれるわけか、いいだろう」

 俺は陽葵を連れて海に向かった。
 砂辺で立ち止まり、周辺を見渡す。

「あったあった!」

 大きめの岩を発見。
 実に重そうだ。
 迷うことなくその岩に駆け寄る。

「この岩をどうするの?」

 首を傾げる陽葵。
 その表情は少し苦しそうだ。
 背負っている竹の籠が重いのだろう。
 籠の中には、ワタの種子が溢れそうなほど詰まっていた。

 俺も同様の籠を背負っている。

「圧搾用に加工するのさ」

 まずは適当な石を拾い、それで岩を小突く。
 その時の音で岩の硬さを判断する。

 軽い音がした。
 大きくて硬度は低め……まさに理想的。

「これなら問題なさそうだな」

 手刀を岩にぶちかます。
 手が痛くなることもなくカットできた。
 岩の頂点付近に位置するデコボコ部分が平らになった。

「岩まで切れちゃうの!?」

「硬いものは厳しいけどな」

「それでもすごいよ!」

 続けざまに手刀を連発していく。
 凹凸のあった岩が綺麗な正方形になった。
 さながら巨大なサイコロである。

「いよいよ圧搾だぁー!」

「いや、もう少しだけ岩の加工をさせてくれ」

 岩の真ん中へ手刀による縦切りを放つ。
 巨大サイコロは真っ二つになり、左右に倒れる。

 さらに、向かって左側の岩に小さな溝を無数に作った。
 それらの溝は最終的に1箇所へ繋がるよう設計されている。
 この溝が油の流れる道となる予定だ。

「準備が整ったぞ。いよいよ圧搾の時間だ」

 溝をこしらえた岩の中央に種子を置く。

「あとはこれに圧を掛けるだけだ」

「どうやるの?」

「もう一方の岩を使う」

 向かって右側の岩を持ち上げる。
 それを左側の岩に載せた。
 種子が押し潰され、再び巨大サイコロが誕生する。

「待っていると綿実油が流れてくるはずだ」

 保管庫から空のバケツを持ってくる。
 岩に作った溝の出口にセットして待つ。
 ほどなくして、チロチロと綿実油が流れてきた。

「わー! すごい、本当に油が出てきた!」

 綿実油を指ですくって感動する陽葵。
 一方、俺の表情は険しい。

「ダメだな」

「え? ダメ?」

「油の出が悪い」

「そうなの!?」

「もっとドバドバ出る予定だったんだ」

「そうなんだ? なんで出が悪いのかな?」

「圧搾の力が足りていないんだ」

「上の岩が軽すぎるってこと?」

「そうだ」

 これは予想外のトラブルだった。

「困ったなぁ」

 仮に想定通りだったとしても、油の量はそれほど多くない。
 にもかかわらず、実際は想定を下回っているときた。

「圧力を強めるとしよう」

「どうやるの?」

「重石を増やすだけさ。適当な岩を上に置いて――いや、待てよ」

 ニヤリと笑う俺。
 岩よりも最適なものを見つけたのだ。
 それは、推定体重500キロを超える巨大イノシシ。
 ブタ君だ。

「ブタ君、こっちにこい!」

 凛と共に戻ってきたばかりのブタ君を呼ぶ。

「ブヒィイイイイイイ!」

 ブタ君は大喜びで突っ込んできた。
 俺に呼ばれたことが嬉しくて仕方ないらしい。

「この岩の上にジャンプしろ!」

「ブヒッ!」

 四肢を伸ばして跳躍するブタ君。
 かつてないダイナミックさだ。

「ブヒヒーン!」

 ブタ君が岩の上に着地し、誇らしげに鳴く。
 次の瞬間、ドバドバと綿実油が溢れ出した。
 我慢しまくった直後の小便みたいな勢いだ。

「これだよこれ! 俺が待ち望んでいた勢いはこれだ!」

 思わず「うははははは」と高笑い。
 陽葵はしきりに「すごい」を連呼して跳びはねる。

 ――その数分後。

「そろそろ終了だな」

 油が出てこなくなったのでおしまいだ。
 ブタ君を上の岩から退避させて、その岩を持ち上げる。

 ぺたんこに押し潰された種子の残骸が大量に現れた。
 それらを岩から取り除いたら、再び上の岩をくっつける。
 この岩――天然の圧搾機は今後も使う予定だ。

「あとはこの油を沙耶に渡したら完成だね!」

 陽葵が土器バケツを抱える。
 中に入っている油を眺めてニッコリ。

「残念ながら作業はまだ残っているんだ」

「ええー! もう油が完成してるよ?」

 陽葵は驚いた様子でバケツを置く。

「そうだけど、この状態だと不純物が多いからな。フィルターに通して綺麗にしてやらなくてはならん」

「フィルターなんてここにはないよ!?」

「それがあるんだよ」

 俺はラフトから着ていないインナーシャツを持ってきた。
 それを真っ二つに裂き、「これがフィルターだ」と陽葵に見せる。

「服は貴重なのに裂いてよかったの!?」

「望ましい行為とは言えないが、フィルターとして使う方が役立つからな。それに、俺はインナーシャツを余分に持っているから、1着くらい問題ないさ」

 シャツで作った即席フィルターを、空のバケツの口に張る。
 このバケツは先ほどシャツと一緒に持ってきたものだ。

「陽葵、シャツの上に油を流し込め」

「了解!」

 陽葵は油の入ったバケツを持ち上げ、フィルターの上で傾ける。
 不純物――主に種子の残骸――を多分に含んだ油が流れ出した。
 それは俺の持ったフィルターを通り、空のバケツに滴っていく。
 こうして不純物は取り除かれ、透き通った綿実油が完成した。

「本当だー! フィルターにかけたら綺麗さが全然違う!」

 できあがった綿実油に興奮する陽葵。
 俺も満足げな笑みを浮かべた。

「あとはこれを沙耶に渡すだけだ。沙耶の奴、きっとぶっとぶぜ」

 と言ったその時だった。

「なんだこれ! おかしいじゃんか!」

 沙耶の喚き声が聞こえてきた。
 振り向くと、沙耶が不機嫌そうな顔をしていた。
 何か問題があったようだ。
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