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024 石包丁と味変チート

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「包丁を作るってマジ!?」

「まさかの製鉄?」

 沙耶と凛が同時に言った。

「製鉄ではないよ」

 まずは凛の質問に答える。
 それから沙耶に言った。

「包丁といっても石包丁だけどな」

 石包丁は青銅器や鉄器が発達する前に使われていた包丁だ。

「俺にとっては不要だから説明していなかったが、魚を捌いたり竹を加工したりするなら使えるから教えておくよ」

 昔のツールなだけあって、石包丁の作り方は簡単だ。

「まずは適当な石を見繕って打製石器を作る。ポイントがあるとすれば、硬すぎる石は避けるってことくらいだな」

「硬すぎるとダメなの?」と凛。

「ダメというか、研磨する際に苦労する」

「そっか、包丁だから研ぐ必要があるんだ」

「そういうことだ」

 打製石器を用意したら、岩を使って加工する。

「加工に使う岩は、打製石器より硬い物がいい」

 加工方法は簡単だ。
 ただただ擦りまくればいい。
 そうすれば、柔らかい方が削れていく。
 つまり打製石器がツルツルになるわけだ。

「打製石器のデコボコがなくなったら、この工程は終了だ」

 手のひらサイズの小判みたいな石ができあがった。

「あとは仕上げだ。片面に刃を作って研いでいく」

 小判型の石器を平らな岩に置き、別の硬い石を打ち付ける。
 石器が割れないよう慎重にカチカチして、片面に刃を作った。

「これを研いでやれば完成だ」

 最初の加工と同じ要領で刃を尖らせていく。
 しばしば水を掛けつつ、何度も何度も擦りまくる。

「ふぅ、完成だ」

 3分ほどで完成した。
 本気の超高速加工を駆使したからこその作業時間だ。
 女性陣の場合は1時間以上かかることが想定される。

「ほら、この石包丁で捌くといい。切れ味は市販の包丁に劣らないぞ」

「本当!? 石なのに!?」

「本当だよ。人間の指なんざサクッと切れるから注意しろよ」

 沙耶は石包丁を何度か握りなおす。
 そうやって手に馴染ませているのだろう。

「まな板はあるか?」

 凛に尋ねる。
 俺はともかく、沙耶の場合はまな板が必要だ。

「ごめん、作ってない」

「問題ない。俺が作ろう」

 適当な木を伐採し、手刀で加工してまな板を作る。
 竹筒に入っている水で洗ってから、テーブルに置いた。

「沙耶、ここで捌くといい」

 まな板にカンパチを載せる。

「頑張る!」

「三枚下ろしの方法も説明しようか?」

「ううん、やったことあるから大丈夫!」

 この発言に凛と陽葵が驚く。

「カンパチを三枚下ろしにした経験があるの?」

「本当に!?」

「カンパチじゃないけど、このくらいの魚を捌いたことはある! 何度かね!」

 沙耶はカンパチを開き、ささらを使って中を綺麗に洗い始めた。
 ささらとは竹の串を束ねたタワシのようなものだ。
 その手つきを見るだけで、彼女が嘘を言っていないと分かった。
 俺には不要だが、普通の人間は下ろす前にこうした準備が必要なのだ。

「かなりの手際だな。何度かどころか数十回は捌いた経験があるだろ」

「そんなに!?」と驚く陽葵。

「バレたか!」

 沙耶はニヤリと笑った。

「この規模の魚を綺麗にするなら大量の水が必要だからな。だが、沙耶は竹筒1本分の水でサクッとやってのけた。大したものだよ」

 陽葵と凛が「おー」と拍手する。

「魚の質がすごくいいから作業しやすいんだよね」

「珍しく謙虚だな」

「珍しくは余計だし!」

 いよいよ三枚下ろしだ。
 ここでも沙耶の手つきには危なげが感じられなかった。
 滑らかだし、手順もはっきり覚えていて、動きに無駄がない。

「どうよ刹那! 恐れ入ったか!」

 沙耶が全ての作業を終える。
 トータルで10分程かかったが、環境を考慮すれば及第点だろう。

「実に素晴らしい腕前だった」

 心からの賞賛だ。

「はっはっは! なんだったらこの先もあたしがやろうか!?」

「せっかくだしお願いしよう」

「えっ、マジでいいの!?」

「先ほどの技量を見たあとだからな。安心して任せられる」

「刹那君にそこまで言わせるなんて! 沙耶、すごいじゃん!」

「やったー! で、何にする!? 刺身か!? 刺身なのか!?」

「そうだな、刺身にしよう。ホタテも含めて全て刺身だ。ただ、スズキとカンパチの一部は普通の刺身じゃなくて、皮を炙って食べよう。また違った食感と美味しさが楽しめるぞ」

「それ賛成! そうしよう! そうしよう!」

 沙耶は上機嫌でスズキを捌き始める。

「陽葵は食器の用意! 縦に割った竹に刺身を盛るよ! 凛は本ワサビを擦って! 刺身と言えばワサビだから! ブタ君はキノコの調達だ!」

 沙耶がテキパキと指示を出す。
 まるで大人気レストランの料理長だ。

「で、俺は?」

「刹那は石包丁を作って! もっと長い包丁がほしい! あと石を直に握っている状態だと作業しづらいからどうにかして!」

「はいよ」

 沙耶の要望にお応えする。
 石包丁に木で作った柄を装着し、接着剤で固定する。
 接着剤といっても市販の木工用ボンドではない。

 黒い土の塊だ。森の一部分にあった。
 この土は熱することで液状になり、冷ますと固まる。
 言うなれば天然のアスファルトだ。

「できたー!」

 調理を終えた沙耶が両手を挙げて叫ぶ。
 同じ頃、俺たちも作業を終えて戻ってきていた。

「今日の晩ご飯は沙耶様特製お刺身の盛り合わせとかっぽキノコだ!」

 かっぽキノコとは、かっぽ鶏のキノコ版である。
 数種類のキノコ、山菜、輪切りのレモンが詰まっている。

 俺たちはベンチに腰を下ろす。
 俺の隣は陽葵で、正面に沙耶。
 沙耶の隣には凛が座った。
 ブタ君は俺と沙耶の横で伏せている。

「「「「いただきまーす!」」」」

「ブヒィー!」

 こうして晩ご飯が始まった。

「まずはなんといっても刺身だよな」

 竹の器に盛られた刺身に箸を伸ばす。
 スズキのカンパチを摘まみ、ワサビを軽くつけて口に運ぶ。

「うめぇ!」

 醤油がなくても十分な美味しさだ。

「せめて塩があればなー!」

 沙耶が「塩を作ってくれ」と目で訴えてくる。
 作ってやろうかと思ったが、時間がかかるので無視した。
 塩を作るのはまたの機会だ。

「かっぽキノコも美味しいー!」

 陽葵が熱々のキノコを口の中ではふはふしている。
 どういうわけか、はふはふに合わせて胸が揺れていた。
 俺はさりげなくチラ見、ブタ君はガン見で食いつく。
 ブタ君が腰を浮かせると、沙耶が反応した。

「こらブタ君! お座りしなさい!」

「ブヒィ……」

 沙耶に叱られてしょんぼりのブタ君。

「ほれ、ブタ君のご飯だぞ」

 俺はホタテのヒモや生殖巣をブタ君にあげる。
 問題ないと思うが、念のためにどちらも火を通しておいた。

「ブヒッ! ブヒィィィ!」

 嬉しそうに頬張るブタ君。
 その姿を眺めているとこちらまで笑みがこぼれた。

「やっぱキノコはダメだなー」

 沙耶がかっぽキノコに向かって不満をこぼす。

「不味いか?」

「いや、美味しいんだけどさ、飽きてきたんだよね、この味」

「あー、それは分かるかも!」と陽葵。

「調味料が少ないからいつも同じ味だもんね」

 凛も同意する。

「塩があればなぁ!」

 再度の塩を用意してくれ光線だ。

「今日は面倒だからパスだ」

 沙耶は「ちぇ」と唇を尖らせる。

「だがまぁ、味を変えたいという気持ちは理解できる。だから今日限りの味変チートを使ってやろう」

「うおおおお! なになに!? なにするの!?」

 興奮する沙耶。
 俺は「待ってな」と言い残し、ラフトに入る。
 そして、バックパックからある物を持って戻った。

「コイツだ」

「すげぇぇぇぇ! って言いたいところだけど、それお菓子じゃん!」

 そう俺が持ってきたのはスナック菓子だ。

「コイツが革命のアイテムになる」

 中を粉々にしてから袋を開けた。

「これは魔法のふりかけだ。食べてみろ」

 沙耶のキノコにスナック菓子パウダーをふりかける。

「そんなに変わるわけ――変わったぁああああ! すご!」

 100点満点の反応をする沙耶。

「そんなに変わるの!?」

「私も食べてみたい」

 陽葵と凛が自分たちのかっぽキノコを向けてくる。
 俺は「いいだろう」と微笑み、スナック菓子パウダーをふりふり。

「ほんとだ! 全然違う味になった!」

「いつもと違う味で新鮮だからなのかな? すごく美味しく感じる」

「これがスナック菓子の正しい使い方さ」

 普通に食べても腹の足しにならないスナック菓子。
 しかし、この島では即席の味変道具として大活躍だった。

「ではでは、俺も味変してっと……」

 俺はドヤ顔で自分のかっぽキノコにパウダーをかけようとする。
 だが、配分を考えていなかったせいで、粉が残っていなかった。

 そんなこんなで、楽しいディナーと共に4日目が幕を閉じるのだった。
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