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022 ホタテの下処理

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 土器が完成するまでの間、俺は竹林とラフトを往復した。
 持てるだけの竹を集めては保管庫の横まで運ぶ。この繰り返しだ。

 竹は保管庫の中に収納しない。
 雨ざらしでも大して問題ないし、入れると庫内のゆとりがなくなるから。
 だから保管庫の横に積んでおく。

「そろそろだな」

 日が暮れた頃、土器が完成した。
 土をぶっかけて焚き火を消し、土器を取り出す。
 火傷しないように気をつけた。

 取り出した土器に対する評価は――。

「うむ、いい感じだ」

 我ながら満足のいく仕上がりだ。

「完璧じゃん!」

「すごいよ刹那君、まるで芸術品みたい!」

「刹那って器用なんだね」

 外見と内面の両方で完璧な美少女3人組が寄ってきた。
 彼女らは一足先に作業を終えていたようだ。

 ラフトの傍に見事な竹のテーブルとベンチがある。
 ベンチは2人掛けの物が2つ。テーブルを挟むように設置されていた。

「早くしてくれー、あたしゃお腹がペコペコだよ!」

 沙耶がお腹をさする。
 それに呼応して、彼女の腹は「ぐぅ」と鳴いた。

「ここからは短時間で済むから安心してくれ」

 土器に触って十分に熱が冷めていることを確かめる。
 ――問題ない、これなら作業を進められそうだ。

「魚とホタテの下処理を教えてやろう。暇つぶしに見ていくといい」

 土器で作ったバケツに海水を汲み、海に沈めていた竹の籠を回収する。
 籠の中には活きのいいスズキとカンパチ、それにホタテが入っていた。
 それらを生魚用のバケツに移す。

「どちらも食べる前に下処理が必要になるが……まずはホタテからいくか」

 バケツの底からホタテを1枚だけ取り出す。
 スズキやカンパチと同じく、ホタテも大きめだ。

「まずはホタテの向きを確認する」

「向きって?」と凛。

「貝殻の片方が平らで、もう一方は膨らんでいるんだ」

 俺は「ほら」と皆に見せる。

「本当だ! こっちは平らなのにこっちはまん丸!」と陽葵。

 沙耶と凛も「おー」と感心している。

「確認したら殻を開いて身を剥がす作業だ」

 事前に用意していた道具を懐から取り出す。
 それは極薄の板状に加工した竹だ。

「こんな感じの道具を使って、内側から殻に沿うようにガリガリするんだ」

 話しながら実演する。

「この時のポイントだが、平らな方の殻から身を剥がすといいぜ」

「どうして?」と凛。

「それが漁師の受け売りだからだ」

「大丈夫かよ!」

 沙耶が笑いながらツッコミをかます。

「漁師を信じろ」

 ということで、平らな貝殻から身を剥がした。

「次は部位ごとにバラす。俺は手で行うけど、皆がやるなら適当な道具を使ってもいいと思うよ」

 ホタテの部位は大きく分けて5つ。

「この見るからに毒々しい黒い塊があるだろ?」

「ある! 実は美味しいってオチでしょ!?」

 ドヤ顔で言い放つ沙耶。
 まさに理想とする反応だった。

 俺はニッコリと微笑む。

「この部位は中腸腺――通称“ウロ”と言って、見た目通り毒の塊みたいな物なので食えない」

「なんじゃそりゃあ!」

 そんなわけでウロは海に捨てる。

「次にこの大外のビラビラ」

「それは分かるよ! ヒモでしょ!」

 なんと沙耶は正解した。

「その通りだ。よく知っていたな」

「分かるよ! そのくらい!」

「ヒモは食べられるのでキープだ」

 そう言って、ヒモを生魚用のバケツに戻す。

「次は難易度が高いぜ。これは分かるか?」

 俺が見せたのはヒモの内側にあるビラビラ。
 色は淡いオレンジ。

「ヒモ! もしくはヒモ2号!」

「ヒモ2号ってなんだよ、ハズレだ」

「ヒモじゃないなら何なのさー?」

「エラだ。ウロほどではないが、食うのには適していない。よって捨てる」

 手首のスナップを利かせてポイッ。
 エラが海のほうへ飛んでいった。

「エラの下に何かあるけど、これは?」

 凛が指す。
 白いぷにぷにした塊のことだ。

「生殖巣だ。白色だから白子、つまりオスだな。メスの場合は同じ部分に卵があって、赤みがかった色をしている」

「そうなんだ。食べられるの?」

「加熱すれば大丈夫だけど、今回はブタ君にあげよう」

 こうして白子はバケツに戻される。

「そして残った最後の部位は……何か分かるよな?」

 沙耶が「当然っしょ!」と声を弾ませる。
 それから、女子たちは口を揃えて言った。

「「「貝柱ー!」」」

「正解だ」

 ホタテと言えば貝柱である。

「貝柱の食べ方は色々あるけど、今回は鮮度がいいから刺身だな」

 当然ながら貝柱もバケツへ。

「ホタテの刺身って美味いんだよなー!」

「だよね! 私、お寿司屋さんでよく食べるよ!」

 沙耶と陽葵はホタテの味を想像して涎を垂らしている。

「一応言っておくが、ホタテの下処理はまだ終わっていないぞ」

 俺は苦笑いを浮かべた。

「そうなの!? もうバラしたじゃん!」

「そうだけど、このまま食べると腹を下す可能性が高い」

「マジかー! じゃあ、お腹を守るにはどうすればいいの?」

「洗うんだ」

「洗う!?」

「そうだ」

 貝柱、ヒモ、生殖巣をバケツの中で優しく揉む。
 ここで大事なのは、バケツの水が海水ということ。

「本当は海水にしばらく浸すほうがいいけど、まぁこれで問題ないだろう」

 作業が終わったらバケツから取り出す。

「あとはこれらを川の水で同じように洗い、綺麗な水に通したら終了だ」

「海の水と川の水で2度も洗うんだ?」と凛。

 俺は頷き、その理由を説明した。

「ホタテに付着している菌には、塩を好むタイプと嫌うタイプがいるんだ。だから塩分濃度の高い海の水で洗ってから、塩分濃度の低い川の水で洗う。そうすることで両方の菌を倒せるわけだ」

「なるほどね」

「そんなわけだから、これらの部位は川の水に浸けておこう。ホタテは他にもあるから、どうせ洗うならまとめてやったほうが効率的だ」

 ラフトの傍に立てかけてある竹筒を手に取る。
 中には煮沸済みの水が入っていた。

「川の水が手元にないのでこれで代用しよう」

 竹筒の中にホタテの各部位を放り込む。

「それじゃ、手分けして残ったホタテの下処理を――」

 などと、わざわざ言う必要はなかった。
 女性陣は各自でホタテの下処理を始めていたのだ。

「あたしらにもできることだし、積極的にやっていかないとね!」

 沙耶が笑顔で言う。
 凛と陽葵が強く頷いた。

「実に優秀だな」

 ホタテの入った竹筒を持って、俺は皆のもとへ向かった。
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