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012 罰ゲーム
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「ナイス刹那! やるじゃん!」
「なんか刹那がそれを持ってるのって意外」
「刹那君は誰よりも『興味ねぇ』とか言いそうなのにね」
ラフトに戻ってきた3人が驚く。
俺のバックパックにあった予想外の物を見て。
それは――トランプだった。
大富豪やババ抜きなど、複数人で楽しむための玩具だ。
「トランプがあればみんなで遊べるかと思ってな」
「いやいや」
苦笑いを浮かべて音速で反応したのは凛。
「刹那ってラフトに放り込まれるまで声を出さないで過ごしていたでしょ。そもそもどうやってトランプに誘うのよ」
「トランプを持って何か言いたげに突っ立ってる刹那とか笑える」
「ちょっと沙耶やめてよー」
沙耶の発言がツボに入ったらしく、陽葵が腹を抱えて笑った。
凛も口元を手で隠し、顔を逸らして笑っている。
「孤独に対する耐性が低いんだよ、これでも」
俺は顔を赤くしながらトランプを床に広げる。
新品未使用品なので、カードには傷が1つとしてなかった。
「せっかくだしこのトランプで遊ぼうよ!」
沙耶が提案する。
凛と陽葵は二つ返事で承諾し、俺も「いいだろう」と快諾。
トランプを見つけた時、みんなで遊べたら……と思っていた。
好都合だ。
「ババ抜きでいいよねー?」
沙耶がカードのシャッフルを始める。
「サクッと遊べてルールも簡単だしいいんじゃない?」と凛。
俺と陽葵はその言葉に賛成票を投じた。
「罰ゲームはどするー?」
沙耶が慣れた手つきでカードを配る。
さながらカジノのディーラーのようだ。
「えっ? 罰ゲーム?」と俺は首を傾げる。
「だって罰ゲームがないと盛り上がらないっしょ?」
どうやらそういうものらしい。
陽葵と凛が「だね」と同意している。
「あんまり体力を使わないものがいいな、明日も忙しいし」
負けた時の恐怖から楽な罰ゲームを求める俺。
「じゃ、負けた人は答えにくい質問に答えるってのはどう? 質問内容は勝った3人が検討するってことで。もちろんセキュリティ関連のことを尋ねるのはNGだからね。例えばスマホの暗証番号とか」
ホッと安堵する。
大人の嗜みと言えそうな可愛い罰ゲームだ。
てっきりもっと残酷な内容になるのかと思っていた。
例えば陰毛を燃やしてみるとか。
「つまり質問に1つ答えるのが罰ゲームか」
「そういうこと! 嘘はダメ! 答えないのもダメ!」
「いいんじゃないか」
俺が賛同すると、凜と陽葵も続いた。
「なら決まりだね!」
カードが配り終わり、ババ抜きが始まった。
◇
実は今回が人生初のババ抜きだった。
小中学校では普通に口を開いていたが、友達はいなかったのだ。
だから、俺は誰よりもババ抜きを楽しんでいた。
「はい、刹那の負けー!」
とはいえ、楽しむことが勝率に繋がるわけではない。
俺は3連敗を喫した。
「次の質問は何にしよっかー?」
沙耶がニヤニヤしながら他の2人と相談している。
これまでは血液型と出身中学を訊かれた。
「そろそろアレじゃない?」
と言ったのは陽葵だ。
「えっ、もうお開きな感じ? 負けっぱなしなんだけど」
俺の言葉に、女性陣は首を傾げた。
顔には「なに意味不明なこと言ってんだ」と書いてある。
陽葵の言う「アレ」は「お開き」を指していないようだ。
「夜も遅いから終わろうって言いたかったのかと……」
「そんなわけないじゃん! まだまだこれからだぞー!」
沙耶は俺を見てニヤニヤした。
それから「アレいくかぁ」とこちらを見る。
「刹那って好きな人いる? もちろん恋愛対象としてってことだよ。推してるアイドルのことを訊いているんじゃないからね」
アレとはこの質問のことみたいだ。
「いや、いないよ」
「本当に? 実は密かに狙ってる子とかいたんじゃないの?」
「いや、いないな」
「ちぇ、つまんねー! 誰かいろよ!」
沙耶が無茶苦茶なことを言う。
「本当にいないっぽいから次だね」と凛。
「よーし、次は何を訊こうかなぁ」
沙耶はカードをシャッフルして次のラウンドを始めた。
◇
「じゃあさ、あたしらの中で誰か1人を恋人にするなら誰を選ぶ?」
「誰かな? 誰かな?」とニコニコする陽葵。
「興味あるね」
凛も楽しそうな目で俺を見ている。
「………………」
俺は沈黙の末に答えた。
「21だぞ」
「「「へっ?」」」
「21連敗だ! ババ抜きでそんなことあるかよ!」
そう、俺は21戦全敗だった。
「流石の俺でも分かる。イカサマをしているのは明らかだ!」
3人のイカサマは間違いなく〈通し〉だ。
目配せや言動によって互いの手札を教え合っている。
21連敗以外にもそう思える要因があった。
俺に質問する内容をゲーム中に決めていることだ。
つまり、勝敗が決する前から俺が負ける前提で進行している。
「ダメだよ、せっちゃん」
沙耶がニヤりと笑う。
せっちゃんとは俺のことだ。
「イカサマってのは現行犯で取り押さえないと」
「負けてから喚くのはマナー違反だね」と凛。
「どんまい! 刹那君!」
ここでも女性陣の連携プレーが爆発する。
「ぐぬぬぬ……なんという卑怯な奴等だ……! これが現代社会の生み出したモンスター共……!」
「で、質問の答えはー? 誰を選ぶ? あたし? 陽葵? それともまさかまさかの凛!?」
「なんで私だけ『まさかまさか』が付くのよ」
凛がムッとした様子で沙耶を睨む。
(質問に答えないって選択は無さそうだな)
せっかくの温まった場を白けさせるわけにはいかない。
適当な理由をつけて誰か1人を選ぶ必要がある。
(仕方ないな……)
俺は質問に答えるべく、おもむろに口を開いた。
「なんか刹那がそれを持ってるのって意外」
「刹那君は誰よりも『興味ねぇ』とか言いそうなのにね」
ラフトに戻ってきた3人が驚く。
俺のバックパックにあった予想外の物を見て。
それは――トランプだった。
大富豪やババ抜きなど、複数人で楽しむための玩具だ。
「トランプがあればみんなで遊べるかと思ってな」
「いやいや」
苦笑いを浮かべて音速で反応したのは凛。
「刹那ってラフトに放り込まれるまで声を出さないで過ごしていたでしょ。そもそもどうやってトランプに誘うのよ」
「トランプを持って何か言いたげに突っ立ってる刹那とか笑える」
「ちょっと沙耶やめてよー」
沙耶の発言がツボに入ったらしく、陽葵が腹を抱えて笑った。
凛も口元を手で隠し、顔を逸らして笑っている。
「孤独に対する耐性が低いんだよ、これでも」
俺は顔を赤くしながらトランプを床に広げる。
新品未使用品なので、カードには傷が1つとしてなかった。
「せっかくだしこのトランプで遊ぼうよ!」
沙耶が提案する。
凛と陽葵は二つ返事で承諾し、俺も「いいだろう」と快諾。
トランプを見つけた時、みんなで遊べたら……と思っていた。
好都合だ。
「ババ抜きでいいよねー?」
沙耶がカードのシャッフルを始める。
「サクッと遊べてルールも簡単だしいいんじゃない?」と凛。
俺と陽葵はその言葉に賛成票を投じた。
「罰ゲームはどするー?」
沙耶が慣れた手つきでカードを配る。
さながらカジノのディーラーのようだ。
「えっ? 罰ゲーム?」と俺は首を傾げる。
「だって罰ゲームがないと盛り上がらないっしょ?」
どうやらそういうものらしい。
陽葵と凛が「だね」と同意している。
「あんまり体力を使わないものがいいな、明日も忙しいし」
負けた時の恐怖から楽な罰ゲームを求める俺。
「じゃ、負けた人は答えにくい質問に答えるってのはどう? 質問内容は勝った3人が検討するってことで。もちろんセキュリティ関連のことを尋ねるのはNGだからね。例えばスマホの暗証番号とか」
ホッと安堵する。
大人の嗜みと言えそうな可愛い罰ゲームだ。
てっきりもっと残酷な内容になるのかと思っていた。
例えば陰毛を燃やしてみるとか。
「つまり質問に1つ答えるのが罰ゲームか」
「そういうこと! 嘘はダメ! 答えないのもダメ!」
「いいんじゃないか」
俺が賛同すると、凜と陽葵も続いた。
「なら決まりだね!」
カードが配り終わり、ババ抜きが始まった。
◇
実は今回が人生初のババ抜きだった。
小中学校では普通に口を開いていたが、友達はいなかったのだ。
だから、俺は誰よりもババ抜きを楽しんでいた。
「はい、刹那の負けー!」
とはいえ、楽しむことが勝率に繋がるわけではない。
俺は3連敗を喫した。
「次の質問は何にしよっかー?」
沙耶がニヤニヤしながら他の2人と相談している。
これまでは血液型と出身中学を訊かれた。
「そろそろアレじゃない?」
と言ったのは陽葵だ。
「えっ、もうお開きな感じ? 負けっぱなしなんだけど」
俺の言葉に、女性陣は首を傾げた。
顔には「なに意味不明なこと言ってんだ」と書いてある。
陽葵の言う「アレ」は「お開き」を指していないようだ。
「夜も遅いから終わろうって言いたかったのかと……」
「そんなわけないじゃん! まだまだこれからだぞー!」
沙耶は俺を見てニヤニヤした。
それから「アレいくかぁ」とこちらを見る。
「刹那って好きな人いる? もちろん恋愛対象としてってことだよ。推してるアイドルのことを訊いているんじゃないからね」
アレとはこの質問のことみたいだ。
「いや、いないよ」
「本当に? 実は密かに狙ってる子とかいたんじゃないの?」
「いや、いないな」
「ちぇ、つまんねー! 誰かいろよ!」
沙耶が無茶苦茶なことを言う。
「本当にいないっぽいから次だね」と凛。
「よーし、次は何を訊こうかなぁ」
沙耶はカードをシャッフルして次のラウンドを始めた。
◇
「じゃあさ、あたしらの中で誰か1人を恋人にするなら誰を選ぶ?」
「誰かな? 誰かな?」とニコニコする陽葵。
「興味あるね」
凛も楽しそうな目で俺を見ている。
「………………」
俺は沈黙の末に答えた。
「21だぞ」
「「「へっ?」」」
「21連敗だ! ババ抜きでそんなことあるかよ!」
そう、俺は21戦全敗だった。
「流石の俺でも分かる。イカサマをしているのは明らかだ!」
3人のイカサマは間違いなく〈通し〉だ。
目配せや言動によって互いの手札を教え合っている。
21連敗以外にもそう思える要因があった。
俺に質問する内容をゲーム中に決めていることだ。
つまり、勝敗が決する前から俺が負ける前提で進行している。
「ダメだよ、せっちゃん」
沙耶がニヤりと笑う。
せっちゃんとは俺のことだ。
「イカサマってのは現行犯で取り押さえないと」
「負けてから喚くのはマナー違反だね」と凛。
「どんまい! 刹那君!」
ここでも女性陣の連携プレーが爆発する。
「ぐぬぬぬ……なんという卑怯な奴等だ……! これが現代社会の生み出したモンスター共……!」
「で、質問の答えはー? 誰を選ぶ? あたし? 陽葵? それともまさかまさかの凛!?」
「なんで私だけ『まさかまさか』が付くのよ」
凛がムッとした様子で沙耶を睨む。
(質問に答えないって選択は無さそうだな)
せっかくの温まった場を白けさせるわけにはいかない。
適当な理由をつけて誰か1人を選ぶ必要がある。
(仕方ないな……)
俺は質問に答えるべく、おもむろに口を開いた。
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