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003 ご立派なキノコ

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「大きなイノシシが出ちまったものだぜ」

「出ちまったものだぜ、じゃないよ! やばいって! どうにかしてよ刹那! 死んじゃうよあたしら! 死んじゃう! 無理!」

 取り乱す沙耶。
 その声に刺激されたのか、巨大イノシシが突っ込んできた。

「グォオオオオオオオ!」

 どう見積もっても500キロは超える巨体が迫ってくる。
 しかも人間より遥かに速いスピードで。
 もはや生きるトラックと言えるだろう。

「ひぃいいいいいいいい!」

 顔を青くする沙耶。

「大丈夫! 木の上をぴょんぴょんできる刹那君なら!」

 意味不明なことを言い出す陽葵。

「そうよ、刹那ならきっとアイツをやっつけてくれるはず」

 なぜか便乗する凛。

「そんなことを言われても無理なものは無理だぞ」

 とはいえ、逃げられないしやるだけやってみよう。

「せいっ!」

 とりあえず正拳突きを繰り出してみた。
 空手の経験はないが、YoTubeを参考にたんまり鍛えている。
 それなりの威力はあるはずだ。

「グォォオ……!」

 俺の拳が巨大イノシシの額に当たった。
 これが効果あったようでイノシシは怯んだ。足が止まっている。
 イノシシとの戦闘は初めてだが、思ったよりいい感じだ。

「刹那君がイノシシをパンチで止めた!」

「流石は刹那」

「すげぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 背後から歓声が聞こえる。

(これはカッコイイところを見せるチャンスだ!)

 美少女たちの声が俺を奮い立たせた。

「貴様のような荒くれ者はこの島から出て行くがいい!」

 俺はイノシシの背後に体を滑らせ、後ろ回し蹴りでケツを蹴飛ばす。

「ブォオオオオオオーン」

 イノシシは盛大に吹き飛び、海の向こうに消えた。

「思ったより大したことなかったぜ」

 あっさり勝利してしまった。
 手首の骨が軽く軋んだ程度で怪我もない。

「すごい! すごいよ刹那君!」

 陽葵が抱きついてくる。
 ボインボインのおっぱいが押し当てられた。

「あんな巨大イノシシを蹴飛ばすとかヤバすぎっしょ!」

 陽葵の横から沙耶も抱きついてきた。
 陽葵には劣るがそこそこ大きな胸をしている。
 むにむにした胸の感触は、俺を十分に興奮させてくれた。

「本当にやっつけるとは思わなかった。感動した」

 凛は両腕を広げ、恐る恐る抱きついてくる。
 他の2人と違って冷静だからか恥ずかしそうだ。

(これが勝利の味ってやつか)

 こんな展開は何度も妄想したことがあった。
 だが、実際に体験するのは初めてのことだ。
 想像の100倍くらい嬉しかった。

「危機は去った――」

 俺は美少女たちの背中に腕を回して微笑む。

「――さぁ、サバイバル生活を始めるとしようか」

 ◇

 生きていく上で必要なのが衣食住である。
 その内、速やかに調達する必要があるのは『食』だ。
 衣服は制服があるし、住居はライフラフトがある。

「非常食は文字通り非常時に食べるので残しておこう」

 俺たちは森の中を歩いている。
 といっても、海やライフラフトが見える位置だ。
 今はまだ深いところまで進む気はない。

「状況を考えると主食はキノコになるだろうな」

 地面に生えているキノコに目を付ける俺。

「シイタケだ!」

 大きな声で言う沙耶。
 俺は「いかにも」と頷いた。

「海水に浸してから焼けば、多少の塩味がついて美味いだろう」

「シイタケって美味しいよねー、私も大好き!」と陽葵。

 女子たちは手分けして周辺のシイタケを採取し始めた。
 ブチッブチッっと力任せに引っこ抜かれていくキノコたち。
 美少女の手に触れられるキノコを見ていると妙な興奮を覚えた。

「うは! コレ、美味そー!」

 ひときわ大きなキノコを抜いてご満悦の沙耶。
 そして彼女は、あろうことかそれを舐めようとし始めた。

「待て、沙耶」

 俺は慌てて止めた。
 沙耶は「分かってるって!」と笑う。

「舐めないよ! 土がついたままだとばっちいもんね!」

「それもあるけど、そうじゃない」

「どういうこと?」

「そのキノコ、シイタケじゃなくて毒キノコだぞ」

「ええええええええええ!? マジ!?」

 驚愕する沙耶。
 陽葵と凛が驚いた様子で沙耶を見る。

「そいつはツキヨタケと言って、偽のシイタケ――れっきとした毒キノコだ。食べると下痢や嘔吐、腹痛に見舞われるぞ。で、酷い場合は死ぬ」

「またまたぁ。嘘だー! だってどう見てもシイタケじゃん!」

「そこまで言うなら確かめてみよう」

 俺は沙耶の手からツキヨタケを奪った。

「確かめるってどうするのさ?」

「こうするのさ」

 迷うことなくツキヨタケを囓る俺。

「ちょ!?」

「刹那君!?」

「毒キノコじゃないの!?」

 驚愕する3人を無視して、口の中のツキヨタケを咀嚼する。
 念入りに味わってからペッと吐き捨てた。

「うん、やはりコレはツキヨタケ――毒キノコだ」

「いやいやいやいや! まずいっしょ! 毒キノコ食べたら!」

「言っていなかったが、俺はあらゆる毒に耐性があるから平気だぞ」

 そう、俺は特異体質でどんな毒でもノーダメで中和できるのだ。
 ツキヨタケだけでなく、賞味期限が5年前の生卵や牛乳も問題ない。
 無論、そんなものは不味いので捨てるが。

「意味わかんないし! 絶対に嘘じゃん!」

「流石の刹那君でもそれは嘘でしょ」

「超人的な身体能力は認めるけど、それは流石にねぇ……」

 本当のことを言っているのに信じてくれない。

「ふむ」

 このままだと沙耶がツキヨタケを食いかねない。
 毒にやられてから後悔しても遅いし、別の手で説得しよう。

「なら証明してやろう」

 俺は沙耶の手から別のキノコを奪う。
 今度は本物のシイタケだ。

「よく見てな」

 俺は近くに生えていた白くてご立派なキノコを引っこ抜く。
 ナガエノスギタケというキノコで、ある動物のトイレに生えている。

「おっ、出てきたな」

 トイレの主――モグラが姿を現した。
 俺様のトイレに日の光が入ってきたぞ、とでも言いたげだ。

「ほれ」

 俺はシイタケとツキヨタケをモグラの前に投げ捨てた。

 クンクン、クンクン。
 モグラは二つのキノコを嗅ぎ始める。
 そして、ツキヨタケを手で飛ばしてから巣に帰った。

「虫の死骸ですら食うモグラが避けるほどだ、これでよく分かっただろ?」

 3人はコクコクと頷いた。
 どうやら信じてくれたようだ。

 ちなみに、モグラがツキヨタケを弾いたのは毒だからではない。
 俺が囓ったあと――つまり他の生物の唾液を嗅ぎ取って警戒したからだ。

 モグラは食虫生物なので、そもそもキノコを食わない。
 嘘も方便だ。このことは黙っておこう。
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