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002 無人島らしい

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 ライフラフトが島に漂着した。
 海辺の向こうには木々が広がっている。
 島の発見時と違い、あまりいい予感がしなかった。

「砂辺でコレを使ったらミッションコンプリートだよね!?」

 発煙筒を片手に目を輝かせる沙耶。
 凛と陽葵は「どうなんだ?」と言いたげな顔で俺を見る。

「そうだけど、その前にライフラフトを陸に引き揚げよう。クルーズ船の乗客はたくさんいるわけだから、救助には時間が掛かるはずだ。もしも長引いた場合、ライフラフトが俺たちの生命線――ライフラインとなる」

「ラジャ!」

 沙耶は発煙筒をラフトに置いた状態で外に出た。

「刹那君ってなんだか面白いなぁ。あっ、刹那君って呼んでもいい?」

「心の赴くままに呼ぶがいい、陽葵」

「うん!」

 陽葵も沙耶に続く。

「なんでわざわざ生命線をライフラインって言い直したの?」と凛。

「風がそう告げたからさ。ライフラインの方がカッコイイだろ?」

「いや、別に」

 凛はクールにラフトから降りる。

「男の美学が分からないとは……可哀想に」

 最後に俺もラフトを出た。

「傷付けないように持ち上げて運ぶぞ、いいか?」

 3人が頷く。

「せーのっ」

 俺の合図でラフトを持ち上げ、森の手前まで運んだ。
 雨が降ってもコイツさえあれば安全に過ごせる。

「救助要請の時間だー!」

 沙耶はラフトから発煙筒を取り出した。
 英語で書かれた説明を読みながらサクッと発煙筒を焚く。
 筒が強烈な煙を吐き出すと、持つのを止めて砂辺に置いた。

「あとは待っていれば島の人が気づいて助けてくれる!」

 沙耶は上機嫌でこちらに戻ってくると、陽葵とハイタッチ。

「もしもこれが神の試練だとしたら……そう容易くは終わらない」

 思いっきり水を差す俺。

「いや、神の試練じゃないし!」

「私もただの遭難だとは思うけど、救助がすぐに来るかは分からないね」

 凛は中立のような立場だ。

「もし救助が来るとしても、それは島の人間じゃないだろうな」

 これが俺の意見だ。

「どういうこと?」と沙耶。

「おそらくこの島は無人島だ」

「はい!? 無人島!?」

「流石にそれはないでしょ」と凛。

「この辺の島はどこも有人だもんね」

 陽葵は凛に同意した。

「たしかに俺たちの船が航行していた場所――リーワード諸島には有人の島がたくさんある。よって有人の島に漂着する可能性が高いと考えるのはごく自然のことだ。しかし、だとすれば妙な話だ」

「妙って?」

 凛が鋭い目つきで俺を見る。

「人の気配がなさ過ぎる。近くに船は見当たらず、水着姿で走り回っている連中もいない」

「まだ朝の5時過ぎだからでしょ」

「そうとも言えるが、違うとも言える。だから確かめてみよう」

 俺はすぐ近くの木に近づいた。

「確かめるってどうするのさ?」

 沙耶が尋ねてくる。

「もしも有人の島なら、近くに人の気配があるはずだ。集落や港などがな」

 俺はその場で跳躍し、木の枝に跳び乗る。
 同じ要領で何度か跳んで木の頂点に到着。
 そこから更にジャンプして、素早く周辺の様子を確認する。
 その結果、集落や港らしきものは見当たらなかった。

「思った通りこの島には人の気配がない。無人島と考えてまず間違いないだろう。仮に人がいるとしても文明の発達していない部族に違いないから、むしろ無人島ならラッキーとすら言える」

 木から飛び降りて報告する。
 3人の美少女は口をポカンとしていた。

「どうした?」

 この問いかけによって、彼女らの硬直がとける。

「いやいや、『どうした?』じゃないでしょ! なにさっきの動き!」

「まるでお猿さんみたいにぴょんぴょん跳んでいたよ!?」

「中二病を拗らせた言動に常軌を逸した身体能力……刹那って本当に人間?」

 どうやら俺の動きに驚いていたようだ。

「そう驚くことはないだろう。この程度は誰でもできる」

「「「できないから!」」」

「なんにしろ、ここは無人島だ。救助はしばらく来ないぞ」

「普通に話を進めるのかよ!」と沙耶。

「しばらくってどのくらい?」

 凛が訊いてくる。

「なんとも言えないな。ただ、今日中に来る可能性は限りなく低いだろう。そんなわけだから、俺たちはここでサバイバル生活をしなくてはならない」

「そっか、それは困ったね」

 困った様子の感じられない口調だ。

「サバイバル生活の経験とかないし! ヤバイじゃん!」

「私もだよ……。どうしよう……。死んじゃうのかな……」

 沙耶と陽葵は不安そうだ。

「大丈夫だ」

 俺は力強い口調で言う。

「朧月刹那は神をも凌駕する男だ。この程度の試練は試練ですらない」

「痛いけど頼もしいのがむかつく……!」と沙耶。

「刹那君と一緒なら大丈夫な気がしてきた!」

「ぶっちゃけ大丈夫なの? 私もサバイバル生活の経験とかないよ」

「島の環境次第かな。幸いにもこの付近には蚊がいないから、多少は快適に過ごせるはずだ。ただ、武器が何もないわけだから、獰猛な獣に襲われたらひとたまりもない」

「獰猛な獣って……例えば?」

「ドラゴン、かな」

 沙耶が「アホか」と呆れる。

「今のは流石に冗談だ。真面目に言うとイノシシとかクマだな」

 などと言ったその時だ。

「せ、刹那君、アレ……」

 陽葵が青ざめた顔で森を指す。

 1頭のイノシシがこちらに近づいてきているのだ。
 それも沖縄でイキっているような小柄の雑魚とは違う。
 ロシアでも驚かれるであろう巨大イノシシだ。

「あんなの無理じゃん! あたしらおしまいだよ!」

 悲鳴にも似た沙耶の声が森に響いた。
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