8 / 46
008 田辺マサユキ
しおりを挟む
「松陰リヒトって誰かと思ったけどお前かー、いたなぁ、こんな奴!」
それが田辺マサユキの俺に対する発言だ。
俺たちはマクトナルドの外で合流した。
茶髪のイケメン野郎――田辺マサユキ。
こいつは俺やノエルの同級生で、モテモテのクソったれだ。
顔のよさを鼻にかけて、俺みたいなタイプには偉そうにしている。
だから俺はコイツが嫌いだった。
それにしても、まさかチュートリアルで嫌いな奴が登場するとはな。
こんな奴に負けないよう頑張れとでも言いたいのだろうか。
リアル感を追求するのはいいが、これはマイナスポイントだ。
ゲームの中では嫌いな奴の顔など見たくない。
「こうしてPTを組んだことだしリヒト君って呼ぶね。私やルナのことも下の名前で呼んでくれていいから」
「オーケー」
「おいおい、俺のノエルに気安く話しかけるなよ」
田辺が突っかかってくる。
どうやら俺とPTを組むのが嫌みたいだ。
この点は気が合う。俺もコイツとは組みたくない。
「俺のノエルってなによ。私たち別に付き合ってるわけじゃないよ?」
「はは、わりぃわりぃ、つい調子に乗っちゃった」
田辺はノエルに気がある。
実際にそうなのかは知らないが、俺にはそう見えた。
そのことがゲームにも反映されているようだ。
このリアル感はプラスポイントである。
奪ってやりたいぜ。
「そんじゃ、狩りに行こうぜー!」
田辺は腰の鞘に収めている長剣を抜いた。
まともな武器を持っているのは彼だけだ。
ノエルとルナの武器は護身用と思しき短剣のみ。
そして俺は――。
「おいリヒト、それなんだよ。そんなんで魔物と戦うつもりか?」
「実際、俺はコイツで魔物を倒してきたぜ」
「バールでかよ!? ま、どうせスライムとかのザコだろ」
「まぁな」
「あんなの魔物とはいわねー」
俺の武器であるバールを馬鹿にする田辺。
人を馬鹿にする口調はまさにリアルの田辺そっくりだ。
「それにレベルも低すぎだしよ、死ぬんじゃねー?」
「戦ってみれば分かるよ。無駄話はやめて早く狩場に行こうぜ」
「はぁ? 今なんつった? 無駄話だと?」
「ちゃんと聞こえているじゃないか。このやり取りがまさしく無駄だ」
「てめぇ!」
詰め寄ってくる田辺。
「私もリヒト君に賛成だよ! 早く狩りにいこうよ! 日が暮れちゃう!」
ノエルが割って入る。
「チッ、分かったよ。リヒト、せいぜい足を引っ張るなよ」
田辺が先頭を歩く。
それについていく形で、俺たちは駅に向かった。
◇
電車に乗って大田区の大鳥居駅にやってきた。
ここは〈聖域〉の中でもわりと端の方に位置する。
羽田空港の近くだ。
(やはり電車は便利だな)
〈聖域〉の中を移動するなら電車は必須だ。
なにせマップの広さがリアルの地球と完全に同じだから。
他のゲームみたいに端から端まで数分で移動することなどできない。
特に俺のいる東京の〈聖域〉なら尚更だ。
23区がほぼほぼ〈聖域〉で覆われている。
この広さを徒歩で移動するなどとんでもない。
「こっちだ」
駅から出ると、田辺は多摩川方面に歩き始めた。
車が一台も走っていない車道のど真ん中をずかずか進む。
「〈聖域〉の中はわりと普通に機能しているんだなぁ」
周囲を見渡しながら感想をこぼす。
道の左右にはコンビニやら飲食店やらが並んでいた。
「これでも随分と減ったほうだよ。大手企業のチェーン店以外は実質的にお店を出すことができないし」
俺の独り言にノエルが答えてくれる。
「材料や商品の運搬をする都合上の問題か」
「うん」
〈リアル・アース〉でもそういう設定があった。
現実世界に比べて物流が死んでいるやら何やらと。
そのわりにチーズバーガーの値段は大差なかったが……。
ま、細かいことはどうでもいいか。
「着いたぞ」
〈聖域〉のギリギリ内側で田辺が足を止めた。
目の前には大師橋という大きな橋が架かっている。
橋から先は〈聖域〉の外――魔物のテリトリーだ。
「ステータスの確認はいいな?」
俺たちに尋ねる田辺。
〈聖域〉を出る前は準備確認――基本だ。
なかなかよくできたチュートリアルである。
===================================
【名 前】松陰リヒト
【レベル】7
【物理攻撃力】7
【物理防御力】1
【魔法攻撃力】1
【魔法防御力】1
【武器】
[F]コナン製バール
[C]ドヨダ製セダン
【防具】
[G]ユニグロ製布の服
[G]ユニグロ製デニムズボン
[G]ナイキィ製スニーカー
[G]ウーパーイーツ製バックパック
[C]ドヨダ製セダン
【スキル】
[P][7]総合能力強化
===================================
「問題ないぜ」
「レベル7なら確認するまでもないだろ」
「いちいちうるさいやつだな、お前」
「なんだと!?」
「もー、喧嘩しないでよ。ほら、行こ!」
「チッ」
田辺は舌打ちすると〈聖域〉の外に踏み出した。
その後ろ姿を見て、俺は疑問を抱く。
田辺の奴、どうして抜刀しないのだ?
田辺は鞘に剣を収めたまま歩いている。
敵が現れてから抜くつもりなのだろうか。
この時はそんなことを思っていた。
それが田辺マサユキの俺に対する発言だ。
俺たちはマクトナルドの外で合流した。
茶髪のイケメン野郎――田辺マサユキ。
こいつは俺やノエルの同級生で、モテモテのクソったれだ。
顔のよさを鼻にかけて、俺みたいなタイプには偉そうにしている。
だから俺はコイツが嫌いだった。
それにしても、まさかチュートリアルで嫌いな奴が登場するとはな。
こんな奴に負けないよう頑張れとでも言いたいのだろうか。
リアル感を追求するのはいいが、これはマイナスポイントだ。
ゲームの中では嫌いな奴の顔など見たくない。
「こうしてPTを組んだことだしリヒト君って呼ぶね。私やルナのことも下の名前で呼んでくれていいから」
「オーケー」
「おいおい、俺のノエルに気安く話しかけるなよ」
田辺が突っかかってくる。
どうやら俺とPTを組むのが嫌みたいだ。
この点は気が合う。俺もコイツとは組みたくない。
「俺のノエルってなによ。私たち別に付き合ってるわけじゃないよ?」
「はは、わりぃわりぃ、つい調子に乗っちゃった」
田辺はノエルに気がある。
実際にそうなのかは知らないが、俺にはそう見えた。
そのことがゲームにも反映されているようだ。
このリアル感はプラスポイントである。
奪ってやりたいぜ。
「そんじゃ、狩りに行こうぜー!」
田辺は腰の鞘に収めている長剣を抜いた。
まともな武器を持っているのは彼だけだ。
ノエルとルナの武器は護身用と思しき短剣のみ。
そして俺は――。
「おいリヒト、それなんだよ。そんなんで魔物と戦うつもりか?」
「実際、俺はコイツで魔物を倒してきたぜ」
「バールでかよ!? ま、どうせスライムとかのザコだろ」
「まぁな」
「あんなの魔物とはいわねー」
俺の武器であるバールを馬鹿にする田辺。
人を馬鹿にする口調はまさにリアルの田辺そっくりだ。
「それにレベルも低すぎだしよ、死ぬんじゃねー?」
「戦ってみれば分かるよ。無駄話はやめて早く狩場に行こうぜ」
「はぁ? 今なんつった? 無駄話だと?」
「ちゃんと聞こえているじゃないか。このやり取りがまさしく無駄だ」
「てめぇ!」
詰め寄ってくる田辺。
「私もリヒト君に賛成だよ! 早く狩りにいこうよ! 日が暮れちゃう!」
ノエルが割って入る。
「チッ、分かったよ。リヒト、せいぜい足を引っ張るなよ」
田辺が先頭を歩く。
それについていく形で、俺たちは駅に向かった。
◇
電車に乗って大田区の大鳥居駅にやってきた。
ここは〈聖域〉の中でもわりと端の方に位置する。
羽田空港の近くだ。
(やはり電車は便利だな)
〈聖域〉の中を移動するなら電車は必須だ。
なにせマップの広さがリアルの地球と完全に同じだから。
他のゲームみたいに端から端まで数分で移動することなどできない。
特に俺のいる東京の〈聖域〉なら尚更だ。
23区がほぼほぼ〈聖域〉で覆われている。
この広さを徒歩で移動するなどとんでもない。
「こっちだ」
駅から出ると、田辺は多摩川方面に歩き始めた。
車が一台も走っていない車道のど真ん中をずかずか進む。
「〈聖域〉の中はわりと普通に機能しているんだなぁ」
周囲を見渡しながら感想をこぼす。
道の左右にはコンビニやら飲食店やらが並んでいた。
「これでも随分と減ったほうだよ。大手企業のチェーン店以外は実質的にお店を出すことができないし」
俺の独り言にノエルが答えてくれる。
「材料や商品の運搬をする都合上の問題か」
「うん」
〈リアル・アース〉でもそういう設定があった。
現実世界に比べて物流が死んでいるやら何やらと。
そのわりにチーズバーガーの値段は大差なかったが……。
ま、細かいことはどうでもいいか。
「着いたぞ」
〈聖域〉のギリギリ内側で田辺が足を止めた。
目の前には大師橋という大きな橋が架かっている。
橋から先は〈聖域〉の外――魔物のテリトリーだ。
「ステータスの確認はいいな?」
俺たちに尋ねる田辺。
〈聖域〉を出る前は準備確認――基本だ。
なかなかよくできたチュートリアルである。
===================================
【名 前】松陰リヒト
【レベル】7
【物理攻撃力】7
【物理防御力】1
【魔法攻撃力】1
【魔法防御力】1
【武器】
[F]コナン製バール
[C]ドヨダ製セダン
【防具】
[G]ユニグロ製布の服
[G]ユニグロ製デニムズボン
[G]ナイキィ製スニーカー
[G]ウーパーイーツ製バックパック
[C]ドヨダ製セダン
【スキル】
[P][7]総合能力強化
===================================
「問題ないぜ」
「レベル7なら確認するまでもないだろ」
「いちいちうるさいやつだな、お前」
「なんだと!?」
「もー、喧嘩しないでよ。ほら、行こ!」
「チッ」
田辺は舌打ちすると〈聖域〉の外に踏み出した。
その後ろ姿を見て、俺は疑問を抱く。
田辺の奴、どうして抜刀しないのだ?
田辺は鞘に剣を収めたまま歩いている。
敵が現れてから抜くつもりなのだろうか。
この時はそんなことを思っていた。
0
お気に入りに追加
203
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~
椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。
しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。
タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。
数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。
すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう!
手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。
そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。
無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。
和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる