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015 繁華街での戦闘

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 街に大量のゴブリンが出現した。
 それに対するこのビルの客の対応は大きく分けて三つ。

 一つ目は、一刻も早くこの場を去ろうとすること。
 ビルを出て、安全地帯を目指して死に物狂いで走るというもの。

 最も多いのがこのパターンだ。
 逃げる方向が決まっているなら悪くない選択である。
 ゴブリンのスピードは小学生レベルだから。

 しかし、大半は闇雲に走っているだけだ。
 それに外は混乱した人で溢れている。
 結果、逃げ切れずにやられている者がたくさんいた。

 二つ目は、ビルの上層階に避難しようというもの。
 そこまでゴブリンが来たら全滅だが、来なければ無事に済む。
 運否天賦に身を委ねる判断と言えよう。
 ただ、外の状況を考えると賢い選択と言えるかもしれない。

 三つ目は、ゴブリンとの戦闘である。
 武器を手に取り、ビルから打って出てゴブリンと戦う。

 そして、戦ったことで気づく。
 ゴブリンは決して強くない、と。
 恐れるに足りないザコである、と。

「戦えば勝てるぞ!」

「そうだ! こいつらは決して強くない!」

 阿鼻叫喚に混じって勇ましい声が聞こえてくる。

 だが、戦況は決して良くなかった。
 戦う道を選んだ者の数があまりにも少ないからだ。
 駆けつけた警察隊を加えても100人程度。
 敵はその10倍以上なので、たとえザコでも数で押し切られる。

「あのままじゃ全滅だ! こうしてはおれん!」

 俺も加勢することに決めた。
 幸いにも裕美から貰った日傘を持ってきている。
 これに魔力を纏わせれば、ゴブリン如き楽に倒せるだろう。

(問題は鈴木大輝の肉体が耐えられるかだが……なんとかなるだろう)

 パニックに陥った者たちを掻き分けて外に出る。

「ゴブゥ!」

「うわっ、やられる!」

 さっそくピンチの人間を発見。
 俺より少し年上――大学生かそこらの男だ。
 飛びかかってくる敵を前に、反射的に顔を伏せている。

「フンッ!」

 俺は戦いに割って入り、傘でゴブリンを斬った。
 胴体を横に真っ二つだ。
 鋭く研ぎ澄ませた魔力を纏わせたからこそできる芸当。

「ゴヴォ……」

 男が「えっ」と驚いた様子で顔を上げる。

「大丈夫か?」

 俺は男に手を差し伸べた。

「あ、ありがとう。でも何が……?」

「気にするな。いったん近くの建物に入って休め。元気になったらまた戦うんだ」

 男の返事を待たずに駆け出す。

「おらぁ! せいっ! どりゃあ!」

 そこからは無双というほかない活躍だった。
 畳んだ状態の日傘を振り回してゴブリンを切断していく。
 奴等の弱点は頭だが、魔力刀と化した傘なら他の部位でも問題ない。

「やはり武器があると魔力の消費量がグッと下がるな」

 とはいえ、攻撃のたびに魔力を消費しているのは事実だ。
 魔力量の少ないこの体だと、全ての敵を蹴散らすのは無理だろう。

「なんだアイツ! すごいぞ!」

「傘でゴブリンを皆殺しにしている!」

「やべぇ!」

「かっけー!」

 一緒に戦っている警官たちも「凄まじいな」と感心している。
 俺の無双ぶりを見て落ち着いたのか、皆のパニックが落ち着いていく。

「おい! 遠巻きに眺めるくらいなら戦闘に参加しろよ! こいつらザコだから顔面さえ攻撃すりゃあっさり死ぬぞ!」

 戦いながら言う。
 しかし、野次馬連中は戦おうとしない。
 なかには「それはちょっと違う」などというアホもいた。

(ここで俺や他の戦闘参加者が放棄したらどうなるか分かってるのか)

 そんな風に思って苛立ったが、すぐに考えを切り替えた。
 前世における冒険者と村人みたいなものだろう。
 戦闘に従事しているのは冒険者であり、野次馬どもは村人なのだ。
 そう考えればある程度の納得はできた。
 もっとも、この世界だと魔物を狩っても報酬は貰えないのだが。

「ふぅ、どうにか凌げたな」

 どうにか全てのゴブリンを駆逐することができた。
 おそらく1500体はいたであろう敵の内、俺が倒したのは約500体。
 厳密には450かそこらだ。
 魔力はすっからかんで、これ以上の戦闘は無理があった。

「「「すげぇえええええええええええええええええ!」」」

 周囲がドッと沸いた。
 数十、いや、100人以上の若い男女が駆け寄ってくる。

「お前すげーな!」

「バチクソ強いじゃん! 何なの!? やべぇ!」

「私、感動しちゃった! かっこよかった!」

「いやマジで熱かった! えぐすぎだって!」

 先ほどまで野次馬だった奴等が甲高い声で興奮している。
 俺は適当な愛想笑いを浮かべるだけで、特に何も答えなかった。
 疲れ果てていて答えるだけの元気がなかったのだ。

 ◇

 その後はお決まりの展開だ。
 魔物の現れた一帯は警察が封鎖。
 遅れてやってきた自衛隊が警察と共に現場検証などの作業を開始。
 封鎖区域の外では大量のマスコミが取材を行っている。

「君の活躍がなかったら被害は何倍にも膨らんでいたに違いない。助かったよ」

 俺は警察から直々に感謝されていた。
 といっても、口頭で軽く言われた程度に過ぎない。
 事情聴取などもなく、一言二言話しただけで解放された。

 当然だが、異世界ファンタジー展は中止になった。
 挙げ句に入場料の返金もない。
 踏んだり蹴ったりとはこのことだろう。
 だがまぁ、気分としては決して悪くない。

 俺の奮闘もあり、被害者の数が1000人程度で済んだからだ。
 その内、命を落とすレベルの重傷者は100人未満だった。
 大災害に違いないが、状況を考慮すると上出来という他ない。
 現場にいた警察たちも同様の意見だった。

「とりあえず疲れたから家に帰るか」

 何故だか嬉しそうに状況を伝えるアナウンサーの横を通り抜け、俺はその場を後にする。

 ――この時の俺には知る由もなかった。
 今回の活躍が、後に俺の運命を大きく変えることを。
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