二人きりの漂流記 ~学校一の美少女と無人島に漂着したので頑張ってみる~

絢乃

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005 穴掘り

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 小屋の道具箱にはシャベルがあった。
 使い古されている挙げ句に経年劣化も相まってボロボロだ。
 それでも問題なく使えるため、それで小屋を出てすぐの土を掘る。

「私もやってみたい!」

「別にいいけど……ただの穴掘りだぞ? 面白くもなんともない」

「眺めているだけなのは申し訳ないし!」

「じゃあお願いしようかな」

「任せて!」

 伊織にシャベルを渡す。

「実は私、シャベルを使うのもたぶん初めてなんだよね」

「マジで? 小中学校で使わなかったの? 園芸か何かで」

「女子だからねー」

 話しながらのも伊織の作業は進む。
 首筋に汗を流しながら、えっせほいせと穴を掘る。

「「お?」」

 しばらく掘ったところで土の色が変わった。

「ついに出たな!」

「粘土層だー!」

 俺たちが穴を掘っていた理由がこれだ。
 粘土を調達するため。

「よいしょっと」

 伊織はシャベルで粘土をすくった。

「どうかな?」と、俺を見る。

 俺は「どれどれ」と粘土を触ってみた。

「うーん、さっぱり分からん!」

 当然だ。
 俺はただの高校生である。
 地質学者ではない。

「あははは! 物は試しで進めようよ!」

「そうだな。俺が粘土を掘るから伊織は成形を頼む」

「いいの? 楽な仕事を貰っちゃって」

「かまわないさ。それに俺は不器用だからその手の作業は苦手だし」

「じゃあお言葉に甘えて!」

 役割分担を交代する。
 伊織は俺の掘った粘土を練り始めた。

「ちゃんと下にバナナの葉は敷いているな?」

「もちろん!」

 バナナの葉は南の森で調達した。
 南というのは小動物の多い平和な森だ。
 反対側――北の森がライオンと遭遇した森である。

「雅人君、粘土のおかわり!」

「はいよ!」

 要望に応じて粘土を追加する。
 結構な量を使って伊織が作っているのは逆円錐台の容器だ。

「できた!」

「お見事! あとは焼くだけでいいはず!」

 性質上、粘土は焼くと固まる。
 こうして作った容器が「土器」と呼ばれるもの。

 俺は狼煙の隣に新たな焚き火をこしらえた。
 それを使って伊織の作った粘土の容器を焼いていく。

「あとは放置すりゃ完成のはずだ」

 伊織は「おー」と拍手する。
 土器製作の過程で手が粘土にまみれていた。

「雅人君、土器の作り方なんてよく知っていたね!」

「粘土をこねて焼くだけだしな。もっともそれが正解かは知らないが」

「穴を掘って粘土を調達するのも賢い!」

「そっちは賭けだったけどね」

「賭け?」

「簡単に粘土層まで辿り着くとは限らないからね。ただ自信はあったよ。台本に土器のことが書いてあったし、シャベルも置いてあったから」

 伊織は「わお」と驚いていた。

「それより手を洗ったらどうだ? 汚れているだろ?」

 俺は井戸の手押しポンプに手を掛けた。
 ハンドルを上下に動かして水を出す。

「ありがとー!」

 伊織は井戸水で手を洗い、ついでに水分補給も行う。

「ぷはー! 生き返るぅ! 次は雅人君の番ね!」

「サンキュー」

 俺も手を綺麗にして水分補給を済ませた。

「土器が出来上がるまで時間が掛かるし、その間に食料を集めておくか。たぶん1時間ちょっとで日が暮れるし」

 夏のしぶとい太陽が徐々に去ろうとしていた。
 七月であることを考慮すると、今の時間は18時半ぐらいだろう。

「できたら作った土器に果物を入れたかったけど……」

「明日以降に持ち越しだな。時間的に今日の救助は望めないし、明日もまた食料集めをする可能性が高い」

 ということで、俺たちは南の森に向かった。
 ライオンの一件で学習しているため武器も携帯している。
 俺の腰には鉈が差してあった。

「雅人君ってさ、友達はいるの?」

 小動物に睨まれながら果物を集めていると伊織が尋ねてきた。

「なかなか酷い質問だな」

 ごめんごめん、と笑う伊織。

「いつも一人だから気になったの。ほら私たち、同じクラスじゃん!」

「まぁな」

 俺と伊織はどちらも二年二組。
 一年の頃は別クラスだったが、二年のクラス替えで一緒になった。

「友達はいるけど……高校にはいないな。小中学校の頃は少しだけいたけどね」

「そうなんだ。高校では友達を作らないの?」

「自分から率先して作ろうとは思わないな。とはいえ意図的に避けているわけではないから何かのきっかけで仲良くなるかもしれないが」

 俺は一人で過ごすことが苦ではないタイプだ。
 友達がいないことに寂しさを感じたことは一度もない。

「じゃあ恋人は? 彼女はいないの?」

 伊織はすぐ傍のバナナを房ごともぎ取ろうとした。
 しかし、付近の猿が威嚇してきたので数本に留めておく。

「恋人なんて生まれてから一度もいたことないよ」

「えー」

「その『えー』はどういう『えー』なんだよ」

 と、俺は笑った。

「そんな風に見えないなぁって意味の『えー』だよ!」

「ふっ。そういう伊織はどうなんだ? 恋人はいないのか?」

 俺が聞き返すと、伊織は「ふふん」とニヤけた。
 手を後ろで組み、前屈みになって俺の顔を覗き込んでくる。

「どっちだと思う?」

「えー」

「その『えー』はどういう『えー』なの!?」

 今度は伊織が言った。

「自分は質問しておきながら俺の問いにははぐらかしたことに対する『えー』だよ」

「あはは。そう言われると卑怯な女だね、私」

「そこまでは言っていないが」

「ちなみに恋人はいないよ。今までにいたこともない!」

「え、マジで?」

 反射的に声が出ていた。

「そんなに驚くこと? 私って尻軽に見える?」

 ぷぅと頬を膨らませる伊織。
 可愛いので眺めていたいが、俺は慌てて首を振った。

「そういう意味じゃなくて、伊織ってめっちゃモテるじゃん。バスケ部のすげーカッコイイって有名な三年生からも告白されたんだろ?」

「たしかに告白はされたよ、断ったけど」

「だからさ、尻軽とかそんなんじゃなくて、モテるのに恋愛経験がないのは意外だと思ったんだ」

「なるほどね」

 伊織は表情を和らげた。
 日が沈みつつある空を眺めながら続けて話す。

「高校生と言えば青春! ……みたいなとこあるじゃん?」

 俺自身にはないが、「ある」と同意しておく。
 クラスの皆を見る限り、男女問わず恋に恋しているから理解はできた。

「だから周りから『とりあえず付き合ってみたら』ってよく言われるの。付き合えば相手の良い部分と悪い部分が見えるから、それで恋愛相手に相応しいかどうか判断できるよって」

「一理あると思う」

 伊織は「私も」と頷いた。

「でも、私は嫌なんだよね。それって相手に失礼な気がするの。私は付き合ってから相手を知るんじゃなくて、相手のことをよく知って、『この人!』と思えた人と付き合いたい」

 伊織の顔は真剣だった。
 考え方がとても大人ぽくて、俺は思わず息を呑む。
 同時に、自分が未熟なガキだと痛感した。

「ま、そんな重い女なわけですよ! 二階堂伊織って女は!」

 笑って誤魔化す伊織。

「重いとは思わないよ。むしろ立派だと思う」

「そうかな? そう言ってもらえると嬉しいな」

 伊織は「えへへ」と笑った。
 その姿がこれまた可愛くて抱きしめたくなる。
 ――が、今は大量の果物を抱えているので無理だ。

「伊織って、どういう男がタイプなの?」

「男らしい人!」

 伊織は即答だった。

「私、容姿は全く気にしないの。でも男らしい人がいい!」

「男らしい人かぁ……」

 すると俺みたいなザコは論外だ。

「逆に雅人君は? どんな子がタイプ?」

「俺は――」

 答えようとした時だ。

 ブォォォォォ!

 上空に音が響く。
 俺たちは揃って見上げた。
 そして気づく。

「雅人君! あれ!」

 俺は「ああ」と頷いた。

「飛行機だ!」
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