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013 連合

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「この調子ならボスも楽勝だろうな!」

「ボスはぜってぇ俺達のPTで倒すぞ!」

 5階の冒険者は一様に士気が高い。
 それぞれの得物を手に握り、次の戦いを待ちわびている。
 その中には、見知った顔もあった。

「なんでお前らがここにいるんだ!」

 喚きながら近づいてきたのはヨルサンだ。
 彼の後ろには仲間と思しき5人の男。
 マリナを追放して空いた枠も埋まっているようだ。

「それはこちらのセリフなんだが……まぁいい。それよりこの集まりはなんだ?」

「俺達は本気で塔の攻略を目論むガチなPTの集まり――連合だ!」

「連合……」

 ネトゲにはレイドというものが存在する。
 複数のPTで挑戦する特大規模のダンジョンのことだ。
 ヨルサンの言う連合もそれと同じようなものだろう。
 ただ、ここは普通のダンジョンであってレイドではない。
 群れるならせめてPT用ダンジョンに行くべきだと思った。

「ほう、二人でここまで来たのか」

 ボディビルダーのようなムキムキの眼鏡男が現れる。
 服を破りそうな筋肉のためか、眼鏡が伊達にしか見えない。

「そうだよ。あんたが連合とやらの主催者かい?」

 男は「いかにも」と笑みを浮かべる。

「連合は狩りを安全に行う為に結成した。大抵の傷はポーションで回復できるとはいえ、可能ならポーションを飲まずにいたいからな。それに、ダンジョンのボスは強敵だ。1PTで戦えるレベルではない」

「そうなのか」

 俺のマントはボスをソロで倒して得た物だが、そのことは黙っておこう。

「我が連合のルールは簡単だ。雑魚は各PTで対処する。そしてボスは全員で協力して戦う。ボスの討伐報酬の所有権は倒したPTにある」

「なるほど」

 男は「それで、だ」と眼鏡をクイッ。

「君も連合に参加しないか?」

「ちょっ! ここまで苦労せず来た奴に参加させるとかそりゃないですよクラークさん!」

 ヨルサンがいの一番に反対する。
 他にも反対している者がいた。
 反対者の言い分だと、俺達は「ずるい」らしい。

「ナンセンスな考え方だな」と鼻で笑うクラーク。

「どうしてですか?」

「ここから先の旨味と言えばボスの報酬くらいだ。この人数なら彼らが参加せずともボスは奪い合いになる。何人かは命を落とすだろう。彼らが未熟なら、その何人かの加わるだけのこと。逆に彼らが強ければ戦力になる。ボスの強さは未知数だから、戦力は多ければ多いほどいい」

 この発言に皆が納得した。
 ヨルサンも「ぐぬぬ」と唸る。

「それでどうかな? 連合に参加しないか? ここまで来たならボスと戦う気があるのだろ?」

 俺はマリナに「どうしたい?」と尋ねる。
 彼女の意思を尊重しようと思った。

「文人が決めてくださいデス」

 それがマリナの答えだった。

「なら参加しよう。この規模で戦う経験はそう得られるものじゃないし、ボスを見ておきたい気持ちもある」

「決まりだな。我が連合にようこそ。俺は連合の長を務めるクラークだ、よろしく」

「文人だ」

 クラークと握手を交わして連合に加入した。

「お前ら、レベルは?」

 ヨルサンが睨みながら尋ねてくる。
 答える為に俺とマリナはスマホを取り出した。
 で、レベルを言おうとしたところ、ヨルサンが話し始める。

「お前らなんてどうせ10レベとかだろ。二人PTだし。この連合の冒険者は低くても11レベル。俺達は13だし、クラークさんなんて16だぞ。修羅場をくぐってきた数が違うんだよ」

「俺は19だが」

「私は16デース」

「えっ」

 ヨルサンは固まった。

「本当かい?」

 クラークが驚いた様子で俺を見る。
 他の冒険者もざわついていた。

「こんな場面で嘘なんて言わないよ」

 俺はスマホにPT画面を表示して皆に見せる。
 PT画面を見れば、俺とマリナのレベルが一目瞭然だ。

「これは……驚いたな。頼もしい」

 苦笑いのクラーク。
 周囲から「すげぇ」という言葉が漏れた。

「どうせインチキしたんだろ! インチキ野郎!」

 ヨルサンだけは何やら吠えていた。

 ◇

 話が落ち着いたところで移動を再開する。
 俺達を含む総勢113人の冒険者が上層階を目指す。

「お前らの出番なんかねーんだよ!」

 ヨルサンが武器を振り回しながら言ってくる。

「たしかにそのようだな」

 道中の雑魚戦に関しては、ヨルサンの言うとおり出番がなかった。
 冒険者の数が多い上に、どのPTも我先にと突っ込んでいく。
 俺とマリナはただ後ろをついていくだけだ。

 そして、最上階の7階に到着。
 障害物がない広大なワンフロアで、畳の床が和風でいい感じ。
 そこにボスが単機で待っていた。

「SiriN、あのボスの名は?」

『ヒデヨシです』

「ふっ、ダンジョン名の通りってか」

 ヒデヨシは全長2メートル級の大きな猿だ。
 もしかしたら猿ではなくゴリラなのかもしれない。そんな風貌だ。
 金色の甲冑をまとっていて、兜の背面からは無数のブレードが生えている。
 装備はどう見ても豊臣秀吉をモチーフにしていた。

「お前達は今まで通り後ろで見ていろ。ボスだけ漁夫ろうものなら殺す」

 ヨルサンが強気な口調で言ってくる。

「おいおい、ヨルサン」

 クラークが何か言おうとするけれど、俺が「かまわないさ」と遮った。

「ヨルサンの言い分にも一理あるし、素直に見学させてもらうよ」

「文人は器が大きいな」とクラーク。

 俺は「それほどでも」と笑う。

 実際、器の問題ではなかった。
 最初からボスと戦うつもりなどなかったのだ。
 ヨルサンが言わなかったらこちらから申し出ていただろう。

 今日は見学に徹する。
 連携の欠片もない奴らと一緒に突っ込むなんてごめんだ。
 敵よりも仲間の攻撃に巻き込まれて負傷しかねない。
 だから、日を改めて報酬を頂戴しに来る。

「皆、武器を取れ! アイツを倒すぞ!」

 クラークの指示で皆が「おー!」と武器を掲げる。
 俺とマリナは少し離れた。
 俺は剣を鞘に戻し、マリナは棒を縮ませてバックパックのサイドポケットへ。

「その棒、伸縮させることができたんだな」

「便利デスヨー!」

 俺達が見守る中、戦いが始まった。

「うおおおおおおお!」

 クラークを筆頭に突っ込んでいく冒険者達。
 対するヒデヨシはスッと右手の手のひらを向けてきた。

「フンヌゥ!」

 ヒデヨシが謎の声を発した次の瞬間、異変が起きた。

 冒険者達の武器がヒデヨシに吸い寄せられたのだ。
 まるで強烈な磁石に引っ張られるかのように。
 それらの武器はヒデヨシの数メートル後ろにある壁に刺さった。

「なっ……武器が……!?」

「なんだよ今のォ!」

 動揺する冒険者連合。

「文人、今のって何!?」

「分からないが、ゲームで言うところのスキルだろう」

「必殺技ってこと?」

「たぶん。武器を取り上げる……まるで〈刀狩り〉だな」

 今度はヒデヨシが攻撃に打って出る。
 兜から生えるブレードを引っこ抜き、それを冒険者に投げつけた。
 ブレードは矢のように飛び、対象に突き刺さる。

「「「ぎゃああああああああああ!」」」

 冒険者の悲鳴が響き渡る。
 わずか数秒で30人近い冒険者が地に伏した。
 その内の一部は当たり所が悪くて即死だ。

「遠距離型か、面倒くさい」

 俺は戦い方を考えていた。
 最初は弾切れを狙うつもりだった。
 兜から生えているブレードは全部で20本程度。
 投げきったら終わりだ。

 と思ったが、それは無理だと分かった。
 ブレードはすぐに生えてくるのだ。
 ヒデヨシが全てを投げきる前に新たなブレードが補充される。
 つまり弾は無限だ。

「文人ならどうやって戦う?」

「ブレードの軌道が直線的で読みやすいから、俺なら……」

「何をしてるんだよお前ら! 戦え! 戦えよ!」

 足をガクガク震えさせながら吠えるヨルサン。

「戦うなと言ってたのに今度は戦えってか」

 俺は鼻で笑う。

「文人、時間を稼げないか。アイツには勝てない。撤退の為に立て直したい」

 クラークが腕に刺さったブレードを抜く。
 血がブシューっと出たが問題ない。
 ポーションをグビッとキメればすぐに治る。

 案の定、彼は即座にポーションを飲んで傷を回復した。
 戦い慣れた動きだ。

「悪いがそれは無理だな」

「無理だと……どういうことだ」

 クラークの表情が険しくなる。

「俺は逃げるつもりなどない」

「まさか、お前……!」

「やるからには勝つ。倒させてもらうぜ、アイツ」

 俺は前に踏み出した。

「行くぞ、マリナ。やれるな?」

「もちろんデース!」

 マリナが俺の後ろに続く。
 ――戦闘開始だ。
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