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034 レベル50ダンジョン
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ヤスヒコとイオリは堺第七ギルドに到着した。
「すごいな、ここ」
ギルドを見上げながら呟くヤスヒコ。
「大きいよね。ヤスヒコ君がいつも使っている泉州第一の3倍くらいあるんじゃない?」
「いや、俺が驚いたのは、あまりにも泉州第一ギルドと似ているからだ。というか瓜二つなんだな」
堺第七ギルドは泉州第一と酷似していた。
それは外観だけでなく、中の構造にしても同じだ。
「ヤスヒコ君って泉州第一ギルドしか行ったことないんだ?」
「分かるのか」
「だって、どこのギルドも見た目は同じだからね。知らないってことはそうなのかなって」
イオリの推察通り、ヤスヒコは泉州第一ギルドしか行ったことがない。
彼が冒険者デビューしたのは大阪に越してきてからなのだ。
中学まで住んでいた北海道の東部にもギルドはある。
……が、自転車でホイホイと通える距離にはなかった。
「頑張ろうね、ヤスヒコ君!」
イオリは何食わぬ顔でヤスヒコの左腕に抱きつく。
彼女は人見知りだが、好きになるとグイグイ攻めるタイプだ。
そういった点においてはサナと似ている。
「おうよ」
ヤスヒコは頷いた。
イオリを振り払うことなく、一緒にギルドへ入っていく。
周囲の冒険者は「ギルドでイチャつくなよ」と嫉妬していた。
◇
堺第七ギルドのレベル50ダンジョン――。
そこは、どこまでも続く広大な草原だった。
木は一本もなく、短めの雑草が生い茂っている。
最高の見渡しだ。
だからこそ分かった。
ザコモンスターの数が異常に多いと。
「どこもかしこも魔物でいっぱいだよ」
イオリはハンマーをギュッと握って周囲を見る。
大小様々な魔物が自由に過ごしていた。
「泉州第一のレベル10に似ているな」
ヤスヒコは手前ではなく遠くのほうを見ていた。
ボスがどこにいるかを確認する。
(どいつがボスか分からねぇ)
ボスの特徴は大きく分けて二つある。
一つはザコとは全く違う見た目をしていること。
もう一つは往々にしてザコよりも大きいことだ。
だが、このダンジョンには大きなザコもたくさんいた。
種類も豊富で、さながら魔物の動物園だ。
「とりあえず戦おうよ! 他の人たちみたいに!」
レベル50のダンジョンにも冒険者はいる。
特に草原フィールドは人気が高いため、基本的に誰かしらがいるものだ。
このエリアでも、複数のPTが方々で戦闘を繰り広げていた。
「どういう敵を狙う? 小さい集団か、大きい奴か」
「大きいのがいい! 私、小さい敵は苦手なんだよね。あそこにいるゴブリンとかはもう最悪」
イオリがゴブリンの群れを指す。
人間には目もくれず、仲良くじゃれあっていた。
「ならゴブリンにしよう」
「えぇぇぇ」
「苦手な敵と戦ったほうが、イオリの欠点を掴みやすい」
「うぅぅぅ、分かった」
「でもその前に、まずは俺に戦わせてくれ」
「え?」
「念のためにレベル50の敵がどれほど強いか把握しておきたい」
「了解! 私は邪魔にならないよう待機していればいいのね」
「そういうことだ」
ヤスヒコは指輪に念じた。
すると、マントとレガースが召喚された。
「やっぱり便利だな、こいつ」
大鎌を持ってどの敵を倒そうか考える。
――が、面倒くさいので一通り戦っておくことにした。
「防具があるとスピードの乗り方が違うな! おりゃ!」
派手な大鎌を軽快に振り回すヤスヒコ。
横に薙ぎ払うだけで数体の魔物がまとめて死亡した。
武器が風属性で、攻撃に合わせて風の刃が飛ぶのも効果的だ。
それによって少し離れた敵まで巻き込んでいた。
「ウォオオオオオオオオオオオオ!」
「ずいぶんと大きいな。目が一つだからサイクロプスか?」
「ウォウ……」バタッ。
大きな個体には縦に振り下ろす一撃をお見舞いする。
「すご!」
イオリはヤスヒコのお手並みに感動していた。
「レベル50といってもザコはザコ――って、ん?」
ヤスヒコは地面に転がっている魔石を見て気づいた。
一つだけ違う物が混ざっていたのだ。
「上級魔石じゃん。さっきの奴がボスだったのか」
ここのボスは頭が5つのライオンだった。
通常であれば、それぞれの頭から属性の異なる攻撃を繰り出す。
火や毒などを吐き、弱ったところを噛みついて仕留めるスタイルだ。
動きが速くて危険な敵だが、それは戦闘を展開できたらの話。
今回はヤスヒコの攻撃によって動き始める前に死んだ。
「ヤスヒコ君、すごすぎだよ。なんでそんなにすごいの!?」
イオリは魔石を集めながら尋ねる。
「俺の何がすごいんだ? 普通に武器を振るって敵を倒しただけだ。防具は魔力10のマントとレガースだけなんだから、特筆するほどのスピードはなかったと思うけど」
「ヤスヒコ君がすごいのはスピードじゃないよ」
「というと?」
「敵を全く怖がらないところ! 懐深くまで平然と潜り込むし、それなのにちゃんと敵の攻撃を避けられるし、なんていうかゲームのキャラみたい!」
「もっとレベルが上がったらどうか分からないけど、このレベルの敵はザコだからな。別に恐れることはない」
ヤスヒコにとって、レベル50の魔物は可愛いものだった。
北海道の山で戦ったイノシシのほうがよほど恐ろしい。
ダンジョン武器がないため、今よりも苦戦を強いられていた。
「それがすごいんだって! 私には無理だよー」
「イオリの強さならこのレベルはまだ余裕のはずなんだがな」
ヤスヒコは戦わずに残しておいたゴブリンの群れを指す。
「とりあえず奴等を倒してきてくれ」
「が、頑張る!」
イオリはウォーハンマーを両手で持つ。
先端を地面に擦らせながら走り出した。
「うりゃあああああああああ!」
「「「ゴブ!?」」」
突っ込んでくるイオリにゴブリンの群れが反応する。
慌てて左右に展開して臨戦態勢に入った。
「えいやー!」
イオリのハンマーが一体のゴブリンを潰した。
強烈な縦の一撃で跡形もなく消し去る。
「いい動きだ」
頷くヤスヒコ。
問題はここからだった。
「「ゴブー!」」
ゴブリンが反撃に出る。
左右から阿吽の呼吸でイオリに飛びかかったのだ。
「ヤスヒコ君を落胆させないために!」
イオリは自分から見て右のゴブリンを狙う。
三体が横並びに突っ込んできているので――。
「うりゃああああああああ!」
――今度はハンマーを水平にして回転。
ぐるぐると回りながらゴブリンの群れに突っ込む。
「「ゴブ!?」」
狙われたゴブリンはさらに三回。
結果、イオリが捉えたのは一体だけだった。
「まだまだ……うわっ」
回転を止めて振り返ろうとするイオリ。
だが、その頃には背後からゴブリンが迫っていた。
数体が彼女に飛びかかろうとする。
「助けて、ヤスヒ――」
「「「ゴヴォォ……」」」
イオリが言い終える前に敵が全滅した。
ヤスヒコが風の刃で切り刻んだのだ。
「あ、ありがとう、ヤスヒコ君」
「無事か?」
「うん、どうにか」
イオリはホッと安堵した。
死ぬかと思った。
「……とまぁ、いつもあんな感じなの」
「。単体にはめっぽう強いが群れが相手になると機能しなくなるわけか」
「あと、今は私だけが戦っていたから分からなかったけど、普段は他の人にも迷惑をかけるの」
「迷惑とは?」
「周りに目が行かなくて一人で突っ込みすぎたりさっきの回転攻撃で近接アタッカーの人を吹き飛ばしたり色々だよ」
「なるほどなぁ」
その後も、ヤスヒコは何度かイオリに戦わせた。
彼女は小柄ながらにハンマーを振り回して敵を蹴散らしていく。
――が、常にピンチがやってくるため、最後はヤスヒコが守っていた。
数を経るごとに、イオリはヤスヒコを頼るようになっていた。
自分は好き放題に暴れて、倒し損ねた敵はヤスヒコに任せる。
いざとなればヤスヒコが守ってくれるという考えが、ただでさえ猪突猛進と呼ばれる彼女をますます勇猛果敢にさせていた。
「ヤスヒコ君が一緒だと安心して前に集中できる!」
戦闘を終えて声を弾ませるイオリ。
その顔は、今まで見た中で最も嬉しそうにしていた。
当然である。
危なくなればヤスヒコが助けてくれるし、文句だって言われない。
中学生の時に感じていたPTの楽しさを思い出していた。
「たぶんそれだな」
一方、ヤスヒコは真顔だ。
「それって?」
「イオリの改善点」
「安心して前に集中するのがダメってこと?」
「そうじゃない」
「なら、どういうこと?」
イオリは首を傾げた。
「すごいな、ここ」
ギルドを見上げながら呟くヤスヒコ。
「大きいよね。ヤスヒコ君がいつも使っている泉州第一の3倍くらいあるんじゃない?」
「いや、俺が驚いたのは、あまりにも泉州第一ギルドと似ているからだ。というか瓜二つなんだな」
堺第七ギルドは泉州第一と酷似していた。
それは外観だけでなく、中の構造にしても同じだ。
「ヤスヒコ君って泉州第一ギルドしか行ったことないんだ?」
「分かるのか」
「だって、どこのギルドも見た目は同じだからね。知らないってことはそうなのかなって」
イオリの推察通り、ヤスヒコは泉州第一ギルドしか行ったことがない。
彼が冒険者デビューしたのは大阪に越してきてからなのだ。
中学まで住んでいた北海道の東部にもギルドはある。
……が、自転車でホイホイと通える距離にはなかった。
「頑張ろうね、ヤスヒコ君!」
イオリは何食わぬ顔でヤスヒコの左腕に抱きつく。
彼女は人見知りだが、好きになるとグイグイ攻めるタイプだ。
そういった点においてはサナと似ている。
「おうよ」
ヤスヒコは頷いた。
イオリを振り払うことなく、一緒にギルドへ入っていく。
周囲の冒険者は「ギルドでイチャつくなよ」と嫉妬していた。
◇
堺第七ギルドのレベル50ダンジョン――。
そこは、どこまでも続く広大な草原だった。
木は一本もなく、短めの雑草が生い茂っている。
最高の見渡しだ。
だからこそ分かった。
ザコモンスターの数が異常に多いと。
「どこもかしこも魔物でいっぱいだよ」
イオリはハンマーをギュッと握って周囲を見る。
大小様々な魔物が自由に過ごしていた。
「泉州第一のレベル10に似ているな」
ヤスヒコは手前ではなく遠くのほうを見ていた。
ボスがどこにいるかを確認する。
(どいつがボスか分からねぇ)
ボスの特徴は大きく分けて二つある。
一つはザコとは全く違う見た目をしていること。
もう一つは往々にしてザコよりも大きいことだ。
だが、このダンジョンには大きなザコもたくさんいた。
種類も豊富で、さながら魔物の動物園だ。
「とりあえず戦おうよ! 他の人たちみたいに!」
レベル50のダンジョンにも冒険者はいる。
特に草原フィールドは人気が高いため、基本的に誰かしらがいるものだ。
このエリアでも、複数のPTが方々で戦闘を繰り広げていた。
「どういう敵を狙う? 小さい集団か、大きい奴か」
「大きいのがいい! 私、小さい敵は苦手なんだよね。あそこにいるゴブリンとかはもう最悪」
イオリがゴブリンの群れを指す。
人間には目もくれず、仲良くじゃれあっていた。
「ならゴブリンにしよう」
「えぇぇぇ」
「苦手な敵と戦ったほうが、イオリの欠点を掴みやすい」
「うぅぅぅ、分かった」
「でもその前に、まずは俺に戦わせてくれ」
「え?」
「念のためにレベル50の敵がどれほど強いか把握しておきたい」
「了解! 私は邪魔にならないよう待機していればいいのね」
「そういうことだ」
ヤスヒコは指輪に念じた。
すると、マントとレガースが召喚された。
「やっぱり便利だな、こいつ」
大鎌を持ってどの敵を倒そうか考える。
――が、面倒くさいので一通り戦っておくことにした。
「防具があるとスピードの乗り方が違うな! おりゃ!」
派手な大鎌を軽快に振り回すヤスヒコ。
横に薙ぎ払うだけで数体の魔物がまとめて死亡した。
武器が風属性で、攻撃に合わせて風の刃が飛ぶのも効果的だ。
それによって少し離れた敵まで巻き込んでいた。
「ウォオオオオオオオオオオオオ!」
「ずいぶんと大きいな。目が一つだからサイクロプスか?」
「ウォウ……」バタッ。
大きな個体には縦に振り下ろす一撃をお見舞いする。
「すご!」
イオリはヤスヒコのお手並みに感動していた。
「レベル50といってもザコはザコ――って、ん?」
ヤスヒコは地面に転がっている魔石を見て気づいた。
一つだけ違う物が混ざっていたのだ。
「上級魔石じゃん。さっきの奴がボスだったのか」
ここのボスは頭が5つのライオンだった。
通常であれば、それぞれの頭から属性の異なる攻撃を繰り出す。
火や毒などを吐き、弱ったところを噛みついて仕留めるスタイルだ。
動きが速くて危険な敵だが、それは戦闘を展開できたらの話。
今回はヤスヒコの攻撃によって動き始める前に死んだ。
「ヤスヒコ君、すごすぎだよ。なんでそんなにすごいの!?」
イオリは魔石を集めながら尋ねる。
「俺の何がすごいんだ? 普通に武器を振るって敵を倒しただけだ。防具は魔力10のマントとレガースだけなんだから、特筆するほどのスピードはなかったと思うけど」
「ヤスヒコ君がすごいのはスピードじゃないよ」
「というと?」
「敵を全く怖がらないところ! 懐深くまで平然と潜り込むし、それなのにちゃんと敵の攻撃を避けられるし、なんていうかゲームのキャラみたい!」
「もっとレベルが上がったらどうか分からないけど、このレベルの敵はザコだからな。別に恐れることはない」
ヤスヒコにとって、レベル50の魔物は可愛いものだった。
北海道の山で戦ったイノシシのほうがよほど恐ろしい。
ダンジョン武器がないため、今よりも苦戦を強いられていた。
「それがすごいんだって! 私には無理だよー」
「イオリの強さならこのレベルはまだ余裕のはずなんだがな」
ヤスヒコは戦わずに残しておいたゴブリンの群れを指す。
「とりあえず奴等を倒してきてくれ」
「が、頑張る!」
イオリはウォーハンマーを両手で持つ。
先端を地面に擦らせながら走り出した。
「うりゃあああああああああ!」
「「「ゴブ!?」」」
突っ込んでくるイオリにゴブリンの群れが反応する。
慌てて左右に展開して臨戦態勢に入った。
「えいやー!」
イオリのハンマーが一体のゴブリンを潰した。
強烈な縦の一撃で跡形もなく消し去る。
「いい動きだ」
頷くヤスヒコ。
問題はここからだった。
「「ゴブー!」」
ゴブリンが反撃に出る。
左右から阿吽の呼吸でイオリに飛びかかったのだ。
「ヤスヒコ君を落胆させないために!」
イオリは自分から見て右のゴブリンを狙う。
三体が横並びに突っ込んできているので――。
「うりゃああああああああ!」
――今度はハンマーを水平にして回転。
ぐるぐると回りながらゴブリンの群れに突っ込む。
「「ゴブ!?」」
狙われたゴブリンはさらに三回。
結果、イオリが捉えたのは一体だけだった。
「まだまだ……うわっ」
回転を止めて振り返ろうとするイオリ。
だが、その頃には背後からゴブリンが迫っていた。
数体が彼女に飛びかかろうとする。
「助けて、ヤスヒ――」
「「「ゴヴォォ……」」」
イオリが言い終える前に敵が全滅した。
ヤスヒコが風の刃で切り刻んだのだ。
「あ、ありがとう、ヤスヒコ君」
「無事か?」
「うん、どうにか」
イオリはホッと安堵した。
死ぬかと思った。
「……とまぁ、いつもあんな感じなの」
「。単体にはめっぽう強いが群れが相手になると機能しなくなるわけか」
「あと、今は私だけが戦っていたから分からなかったけど、普段は他の人にも迷惑をかけるの」
「迷惑とは?」
「周りに目が行かなくて一人で突っ込みすぎたりさっきの回転攻撃で近接アタッカーの人を吹き飛ばしたり色々だよ」
「なるほどなぁ」
その後も、ヤスヒコは何度かイオリに戦わせた。
彼女は小柄ながらにハンマーを振り回して敵を蹴散らしていく。
――が、常にピンチがやってくるため、最後はヤスヒコが守っていた。
数を経るごとに、イオリはヤスヒコを頼るようになっていた。
自分は好き放題に暴れて、倒し損ねた敵はヤスヒコに任せる。
いざとなればヤスヒコが守ってくれるという考えが、ただでさえ猪突猛進と呼ばれる彼女をますます勇猛果敢にさせていた。
「ヤスヒコ君が一緒だと安心して前に集中できる!」
戦闘を終えて声を弾ませるイオリ。
その顔は、今まで見た中で最も嬉しそうにしていた。
当然である。
危なくなればヤスヒコが助けてくれるし、文句だって言われない。
中学生の時に感じていたPTの楽しさを思い出していた。
「たぶんそれだな」
一方、ヤスヒコは真顔だ。
「それって?」
「イオリの改善点」
「安心して前に集中するのがダメってこと?」
「そうじゃない」
「なら、どういうこと?」
イオリは首を傾げた。
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