上 下
34 / 35

034 レベル50ダンジョン

しおりを挟む
 ヤスヒコとイオリは堺第七ギルドに到着した。

「すごいな、ここ」

 ギルドを見上げながら呟くヤスヒコ。

「大きいよね。ヤスヒコ君がいつも使っている泉州第一の3倍くらいあるんじゃない?」

「いや、俺が驚いたのは、あまりにも泉州第一ギルドと似ているからだ。というか瓜二つなんだな」

 堺第七ギルドは泉州第一と酷似していた。
 それは外観だけでなく、中の構造にしても同じだ。

「ヤスヒコ君って泉州第一ギルドしか行ったことないんだ?」

「分かるのか」

「だって、どこのギルドも見た目は同じだからね。知らないってことはそうなのかなって」

 イオリの推察通り、ヤスヒコは泉州第一ギルドしか行ったことがない。
 彼が冒険者デビューしたのは大阪に越してきてからなのだ。

 中学まで住んでいた北海道の東部にもギルドはある。
 ……が、自転車でホイホイと通える距離にはなかった。

「頑張ろうね、ヤスヒコ君!」

 イオリは何食わぬ顔でヤスヒコの左腕に抱きつく。
 彼女は人見知りだが、好きになるとグイグイ攻めるタイプだ。
 そういった点においてはサナと似ている。

「おうよ」

 ヤスヒコは頷いた。
 イオリを振り払うことなく、一緒にギルドへ入っていく。
 周囲の冒険者は「ギルドでイチャつくなよ」と嫉妬していた。

 ◇

 堺第七ギルドのレベル50ダンジョン――。
 そこは、どこまでも続く広大な草原だった。
 木は一本もなく、短めの雑草が生い茂っている。
 最高の見渡しだ。

 だからこそ分かった。
 ザコモンスターの数が異常に多いと。

「どこもかしこも魔物でいっぱいだよ」

 イオリはハンマーをギュッと握って周囲を見る。
 大小様々な魔物が自由に過ごしていた。

「泉州第一のレベル10に似ているな」

 ヤスヒコは手前ではなく遠くのほうを見ていた。
 ボスがどこにいるかを確認する。

(どいつがボスか分からねぇ)

 ボスの特徴は大きく分けて二つある。
 一つはザコとは全く違う見た目をしていること。
 もう一つは往々にしてザコよりも大きいことだ。

 だが、このダンジョンには大きなザコもたくさんいた。
 種類も豊富で、さながら魔物の動物園だ。

「とりあえず戦おうよ! 他の人たちみたいに!」

 レベル50のダンジョンにも冒険者はいる。
 特に草原フィールドは人気が高いため、基本的に誰かしらがいるものだ。
 このエリアでも、複数のPTが方々で戦闘を繰り広げていた。

「どういう敵を狙う? 小さい集団か、大きい奴か」

「大きいのがいい! 私、小さい敵は苦手なんだよね。あそこにいるゴブリンとかはもう最悪」

 イオリがゴブリンの群れを指す。
 人間には目もくれず、仲良くじゃれあっていた。

「ならゴブリンにしよう」

「えぇぇぇ」

「苦手な敵と戦ったほうが、イオリの欠点を掴みやすい」

「うぅぅぅ、分かった」

「でもその前に、まずは俺に戦わせてくれ」

「え?」

「念のためにレベル50の敵がどれほど強いか把握しておきたい」

「了解! 私は邪魔にならないよう待機していればいいのね」

「そういうことだ」

 ヤスヒコは指輪に念じた。
 すると、マントとレガースが召喚された。

「やっぱり便利だな、こいつ」

 大鎌を持ってどの敵を倒そうか考える。
 ――が、面倒くさいので一通り戦っておくことにした。

「防具があるとスピードの乗り方が違うな! おりゃ!」

 派手な大鎌を軽快に振り回すヤスヒコ。
 横に薙ぎ払うだけで数体の魔物がまとめて死亡した。
 武器が風属性で、攻撃に合わせて風の刃が飛ぶのも効果的だ。
 それによって少し離れた敵まで巻き込んでいた。

「ウォオオオオオオオオオオオオ!」

「ずいぶんと大きいな。目が一つだからサイクロプスか?」

「ウォウ……」バタッ。

 大きな個体には縦に振り下ろす一撃をお見舞いする。

「すご!」

 イオリはヤスヒコのお手並みに感動していた。

「レベル50といってもザコはザコ――って、ん?」

 ヤスヒコは地面に転がっている魔石を見て気づいた。
 一つだけ違う物が混ざっていたのだ。

「上級魔石じゃん。さっきの奴がボスだったのか」

 ここのボスは頭が5つのライオンだった。
 通常であれば、それぞれの頭から属性の異なる攻撃を繰り出す。
 火や毒などを吐き、弱ったところを噛みついて仕留めるスタイルだ。
 動きが速くて危険な敵だが、それは戦闘を展開できたらの話。
 今回はヤスヒコの攻撃によって動き始める前に死んだ。

「ヤスヒコ君、すごすぎだよ。なんでそんなにすごいの!?」

 イオリは魔石を集めながら尋ねる。

「俺の何がすごいんだ? 普通に武器を振るって敵を倒しただけだ。防具は魔力10のマントとレガースだけなんだから、特筆するほどのスピードはなかったと思うけど」

「ヤスヒコ君がすごいのはスピードじゃないよ」

「というと?」

「敵を全く怖がらないところ! 懐深くまで平然と潜り込むし、それなのにちゃんと敵の攻撃を避けられるし、なんていうかゲームのキャラみたい!」

「もっとレベルが上がったらどうか分からないけど、このレベルの敵はザコだからな。別に恐れることはない」

 ヤスヒコにとって、レベル50の魔物は可愛いものだった。
 北海道の山で戦ったイノシシのほうがよほど恐ろしい。
 ダンジョン武器がないため、今よりも苦戦を強いられていた。

「それがすごいんだって! 私には無理だよー」

「イオリの強さならこのレベルはまだ余裕のはずなんだがな」

 ヤスヒコは戦わずに残しておいたゴブリンの群れを指す。

「とりあえず奴等を倒してきてくれ」

「が、頑張る!」

 イオリはウォーハンマーを両手で持つ。
 先端を地面に擦らせながら走り出した。

「うりゃあああああああああ!」

「「「ゴブ!?」」」

 突っ込んでくるイオリにゴブリンの群れが反応する。
 慌てて左右に展開して臨戦態勢に入った。

「えいやー!」

 イオリのハンマーが一体のゴブリンを潰した。
 強烈な縦の一撃で跡形もなく消し去る。

「いい動きだ」

 頷くヤスヒコ。
 問題はここからだった。

「「ゴブー!」」

 ゴブリンが反撃に出る。
 左右から阿吽の呼吸でイオリに飛びかかったのだ。

「ヤスヒコ君を落胆させないために!」

 イオリは自分から見て右のゴブリンを狙う。
 三体が横並びに突っ込んできているので――。

「うりゃああああああああ!」

 ――今度はハンマーを水平にして回転。
 ぐるぐると回りながらゴブリンの群れに突っ込む。

「「ゴブ!?」」

 狙われたゴブリンはさらに三回。
 結果、イオリが捉えたのは一体だけだった。

「まだまだ……うわっ」

 回転を止めて振り返ろうとするイオリ。
 だが、その頃には背後からゴブリンが迫っていた。
 数体が彼女に飛びかかろうとする。

「助けて、ヤスヒ――」

「「「ゴヴォォ……」」」

 イオリが言い終える前に敵が全滅した。
 ヤスヒコが風の刃で切り刻んだのだ。

「あ、ありがとう、ヤスヒコ君」

「無事か?」

「うん、どうにか」

 イオリはホッと安堵した。
 死ぬかと思った。

「……とまぁ、いつもあんな感じなの」

「。単体にはめっぽう強いが群れが相手になると機能しなくなるわけか」

「あと、今は私だけが戦っていたから分からなかったけど、普段は他の人にも迷惑をかけるの」

「迷惑とは?」

「周りに目が行かなくて一人で突っ込みすぎたりさっきの回転攻撃で近接アタッカーの人を吹き飛ばしたり色々だよ」

「なるほどなぁ」

 その後も、ヤスヒコは何度かイオリに戦わせた。
 彼女は小柄ながらにハンマーを振り回して敵を蹴散らしていく。
 ――が、常にピンチがやってくるため、最後はヤスヒコが守っていた。

 数を経るごとに、イオリはヤスヒコを頼るようになっていた。
 自分は好き放題に暴れて、倒し損ねた敵はヤスヒコに任せる。
 いざとなればヤスヒコが守ってくれるという考えが、ただでさえ猪突猛進と呼ばれる彼女をますます勇猛果敢にさせていた。

「ヤスヒコ君が一緒だと安心して前に集中できる!」

 戦闘を終えて声を弾ませるイオリ。
 その顔は、今まで見た中で最も嬉しそうにしていた。

 当然である。
 危なくなればヤスヒコが助けてくれるし、文句だって言われない。
 中学生の時に感じていたPTの楽しさを思い出していた。

「たぶんそれだな」

 一方、ヤスヒコは真顔だ。

「それって?」

「イオリの改善点」

「安心して前に集中するのがダメってこと?」

「そうじゃない」

「なら、どういうこと?」

 イオリは首を傾げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世で裏切られ死んだ俺が7年前に戻って最強になった件 ~裏切り者に復讐して、美少女たちと交わりながら自由気ままな冒険者ライフを満喫します~

絢乃
ファンタジー
【裏切りを乗り越えた俺、二度目の人生は楽しく無双する】 S級冒険者のディウスは、相棒のジークとともに世界最強のコンビとして名を馳せていた。 しかしある日、ディウスはジークの裏切りによって命を落としてしまう。 何の奇跡か冒険者になる前にタイムリープしたディウスは、ジークへの復讐を果たす。 そして前世では救えなかった故郷の村を救い、一般的な冒険者としての人生を歩み出す。 だが、前世の記憶故に規格外の強さを誇るディウスは、瞬く間に皆から注目されることになる。 多くの冒険者と出会い、圧倒的な強さで女をメロメロにする冒険譚。 ノクターンノベルズ、カクヨム、アルファポリスで連載しています。 なお、性描写はカクヨムを基準にしているため物足りないかもしれません。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。 友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。 しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。 「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」 これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。 週一、不定期投稿していきます。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。

処理中です...