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015 謎の集落

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 ダチョウを走らせること約数分。
 遠目に見えていた集落と思しき場所に到着した。

「村だー!」

 サナエが声を弾ませる。

 そこは立派な集落だった。
 木の柵で囲っていて、中には藁の家が並んでいる。
 屋根から壁まで藁がふんだんに使われた平地式の建物だ。

「誰かいますかー!」

 サナエが声を上げる。

「おい、存在をアピールしてどうする」

「あ、まずかった?」

「相手が攻撃的だったら危険だぞ」

「でもここでボケッとしていても意味なくない?」

「まぁたしかに……」

 しばらく待機するが、村から人が出てくる気配はない。
 誰もいないようだ。

「中に入ってみようよ」とミズキ。

「それはさすがにヤバくない?」

 サナエですら及び腰になっていた。

「いいじゃん! 私ら可愛いしいざとなれば見逃してもらえるよ!」

「それもそっか!」

「あのー、その場合、俺はどうなるのかな?」

「……なるようになるっしょ!」

 ミズキはダチョウに命じて村に入った。
 門は低くて通れないため、柵を跳び越えさせる。
 巨大ダチョウの脚力なら数メートルの柵もなんのそのだった。

「どうなってもしらねぇぞ」

 ということで俺も後に続く。

「それにしても大きな村ね。数百人は住んでいたんじゃない?」

「だよねー! 家の数だけで100軒はあるし!」

 アキノとコトハの声が聞こえる。

(たしかに家の数は多いが、そのわりには……)

 俺はダチョウから下りて地面を調べる。
 どこにも足跡が見られなかった。

「たぶんこの村は長らく使われていないな」

「そうなの?」とアキノ。

「足跡が全くない。意図的に消したような痕跡もな」

 地面の痕跡から情報を得る技術は探検家にとって何よりも大事だ。
 その能力次第で生存率が変わってくる。
 だから俺も足跡や糞尿に関する知識は辞書レベルであるのだが……。

「痕跡が何もないんじゃ無人ってことしか分からないな」

「なら家の中も漁ろー!」

 ミズキは適当な民家に入った。

「なんもなーい!」

 家の中からミズキの声がする。
 俺も別の家に入ってみた。

「たしかに何もないな」

 家の中は江戸時代の民家といった感じだ。
 土間や居間と思しき部屋が用意されている。
 だが、家具などは何も残っていない。
 なんだこれは……と、思いきや。

「こっちには鍋があったぜぃ!」

 サナエがフライパンとヤカンを持ってきた。
 どちらも使用感のない綺麗な物だ。

「おお、いいのを見つけたな」

「他にも何かあるかも!?」

「探してみるか」

 俺たちは手分けして家の中を探した。
 その作業中、俺はふと我に返って笑った。

(数分で大きく変わったものだ)

 先ほどまで俺は村に入るのも躊躇っていた。
 それが今では家の中に押し入って何か無いか物色している。
 慣れとは怖いものだと思った。

「またフライパンあった!」

「ミズキさんはヤカンを手に入れた!」

「フライパンとヤカンばっかりでてくるなおい」

「小鍋と手桶があったよユウマ君! 水泳ゴーグルもたくさん発見!」

「急に色々と出てきたがゴーグル以外は似た系統だな……!」

 フライパン、大小様々な鍋や桶、ヤカン……。
 家から出てくるのはそんな物ばかりだ。
 不思議なことにそれらは新品同然の綺麗さだった。
 埃まみれではあるのだが、使用感は全くない。

 よく見ると家も同様だった。
 外からだと分かりにくいが内から見ればよく分かる。
 おそらく建てるだけ建てて全く使っていない。

「不気味な場所だな……」

 残す家の数は数軒。
 この様子だと何の手がかりも見つからないだろう。
 そんな風に思ったところで、予想だにしない手がかりが見つかった。

「お?」

 他と変わらぬ間取りの家の居間にあった。
 スケッチブックが。

 中のページには草原や森で過ごす動物の絵が描いている。
 使用した画材は色鉛筆だろう。
 芸術的とは言いがたいが、心がほっこりするような画風だ。
 絵心のある可愛らしい子供が描いたのかな。

「これは……!」

 ページをめくる手が止まる。
 そこには信じられない絵が描いてあった。

「みんな! こっちに来てくれ!」

 女性陣を呼ぶ。

「これを見てくれ!」

 俺はスケッチブックを閉じた状態で渡した。

「なにこれスケッチブック?」とアキノ。

「可愛らしい絵ー!」

 コトハがページをゆっくりめくっていく。
 他の三人も絵を見てニコニコしている。
 だが、俺と同じページで指が止まった。

「え、これって……」

 皆が俺を見る。
 俺も神妙な顔で頷いた。

「明らかに俺たちだろ、この絵」

 それはこの村と同じような家の前で立つ五人の姿だ。
 男一人に女四人。
 男は緑のジャケットを羽織っている。
 女はワインレッドのジャケットが二人と夏服スタイルが二人。
 どう見ても俺たちだった。

「なんで私らが絵になってるの……?」

 顔を青くするサナエ。

「そんなビビらなくても大丈夫っしょ! 絵の中の私ら楽しそうじゃん!」

 ミズキが「ほら」と絵を指す。
 たしかに五人とも楽しそうな笑みを浮かべている。
 不穏な気配は全く感じられない。

「次のページはどうなってるの?」

 アキノが促す。
 コトハは震える指でページをめくった。

「ほらやっぱり楽しそうじゃん!」とミズキ。

 絵の中の俺たちは家の中で食事を楽しんでいる。
 左手にお茶碗を、右手にお箸を持って笑顔を浮かべていた。
 食べているのはお米だろう。

「次は……何もないね」

 食事の絵が最後だった。
 その後の数ページは空白が続くだけだ。

「さてさてリーダー、妙な雰囲気になったけどどうします?」

 ミズキが尋ねてくる。
 女性陣の視線が俺に集まった。

「そうだな……」

 右手で顎を摘まんで考える。

「絵の五人組が俺たちかどうかは別として、おそらく絵はこの村で楽しく過ごす様を描いていたものだろう」

 女性陣は静かに耳を傾けている。

「そのわりには家に使用感がなく、置いてあったフライパンなども綺麗なままだ」

 状況を口にしながら考えをまとめていく。

「これが何を符合するかといえば――」

 ゴクリッ。
 女性陣が唾を飲み込む。

「――俺にはさっぱりわからん!」

 ズコーッ!
 四人が盛大にこけた。

「溜めに溜めて分からないのかい!」とサナエ。

「そりゃな。だが、なんだか気味が悪いと感じている。それは皆も同じだろ?」

 全員が頷く。

「ということで、フライパンやら何やらを持ってトンズラしよう! 三十六計逃げるに如かず! 孫子も言っているぜ『いざとなったら逃げるが勝ち』ってな!」

 そんなわけで俺たちは大慌てで村を飛び出る。
 戦利品各種を抱え、ダチョウに跨がり、洞窟に向かった。
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