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011 猪肉の燻製

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 川での食事を終えると洞窟に戻った。
 夕食用の串焼き分を除いた残りの猪肉を燻製にする。
 まずは洞窟の前で簡単な説明をした。

「肉を燻製する際のポイントは脂身を極限まで削ぎ落とすことだ」

「それはどうしてでありますか隊長!」

 妙な口調で反応するミズキ。

「脂身が残っていると保存期間が短くなる……つまり腐りやすくなるからだ。とはいえ、今回は何ヶ月も保存するわけじゃないし、ある程度は残しておいていいだろう。猪肉は脂身が美味いわけだしな」

「了解であります!」

「それじゃ始めるとしよう。ドライフルーツ用の吊るし台じゃ追いつかないから燻製器を増産するか」

「それならこのミズキさんにお任せあれ! ボックス型の燻製器を作ってしんぜよう!」

「ほう、ボックス型か」

 ミズキは「いやぁ」と頭をポリポリ掻きながら話し始めた。

「ドライフルーツを作る時に思ったのよね。これって祖父がよく一斗缶で作ってたやつじゃないかって!」

「そうだな、一斗缶燻製器はお手軽で便利な燻製器スモーカーとして定番だ」

「でしょ! 要するにアレと同じものをここの材料で作りゃいいわけだから、まぁ余裕のよっちゃんちょちょいのちょいの助ですよ!」

「余裕のよっちゃんて……死語だろ」

「フハハハ! 細かいことは気にするな! まぁ任せなさいな!」

 とにかく燻製器を作ってくれるようだ。

「サナエの武術と違って頼りになるな」

「こらー! ちゃっかり私を巻き込むなー!」

 喚くサナエを無視して、ミズキに「任せた!」と頭をペコリ。

「じゃ、材料調達の冒険に出るからサナエとコトハを借りるねー!」

「はいよ。俺はアキノと肉の準備をしておくよ」

 役割分担が決まったので作業開始だ。
 ミズキたち三人を見送ると、俺はアキノと肉のスライスを始めた。
 バナナの葉をまな板の代わりにして、綺麗な石包丁で薄く切っていく。

「切りやすいね、表面だけ事前に焼いておいたのはこれが狙い?」

 アキノが尋ねてくる。

「どちらかというと腐敗防止のためだ。肉をゲットしてから燻製までの時間が結構あって、そのうえ気温が30度はありそうだからな。そのままだと腐る気がしたんだ」

「だから表面だけ火を入れておいた、と」

「そういうこった。これで多少はマシになるんじゃないか」

 どのくらい効果があるかは分からないけど、と笑いながら付け加える。

「ユウマって色々と考えているんだね、参考になるよ」

「全然さ」

 そこで会話が止まり、俺たちは静かに作業を続けた。
 しばらくして、今度は俺が尋ねた。

「アキノたちのことを教えてくれよ」

「というと?」

「学校のこととか、他に友達がいないのかとか、夢とか……とにかく何でもいいから色々とさ」

 思えば俺は、彼女たちのことを何も知らなかった。
 とんでもなく可愛いくて、決して弱音を吐かず、軒並み胸が大きい。
 それだけしか知らないのだ。

「うーん、何を話せばいいかなぁ……」

 アキノは考え込み、それから答えた。

「とりあえず私たちは四人とも帰宅部だね」

「部活はしていない、と」

「帰宅部でいることの事情は異なるんだけどね。サナエはバイトが忙しくて入れない感じ。それに部活動って少なからずお金がかかるし。だからいつも『お金と時間さえあれば運動部に入るのに!』て言ってるよ」

「なるほど。他の三人はどうなんだ?」

「私やコトハはただ興味がなくて入っていない。根っからの帰宅部だね。ミズキは入るんだけど続かなくてすぐに辞めるの」

「ほう。ミズキは飽き性なのか」

 アキノは「まぁね」と頷いた。

「あの子は早熟……というか天才肌なんだよね。どんなことでも最初から器用にこなせるの。それでどんな部に入ってもすぐ部内でトップになっちゃう」

「で、飽きて辞めるわけか」

「だね。傍から見ると羨ましい限りだけど、本人は辛いみたい。熱中できること……言い換えると、追い続けられる相手がいる分野を探しているよ」

「なるほどなぁ。じゃあアキノは?」

「私?」

「そうだ。サナエやミズキのことは分かったけど、アキノについては帰宅部ってことしか教わってないからさ」

 アキノは小さく笑った。

「自分のことを話すのは苦手なんだけどなぁ」

「俺も同じだから気持ちは分かる」

「じゃあ互いに質問し合うのはどう?」

「よし、そうするか」

「じゃあまずは私からね」

「えー」

「いいじゃん、いくよ」

 アキノが質問しようとする。
 だがその時、ミズキたちが戻ってきた。

「さーて燻製器を作るぞー! 世紀の発明家ミズキさんの実力をとくと見よ!」

「よっ! 天才! 持ってるね!」

「頑張ってミズキ! あなたしかいないわ!」

「ウハハハハー! そうだろそうだろー!」

 三人は謎のハイテンションで盛り上がっている。

「質問をし合うのはまた今度にしよっか」

 アキノが言う。
 俺も「そうだな」と笑った。

 ◇

 ミズキの燻製器は完璧だった。
 木材と竹材、それに植物を使って一斗缶に似た物を作ったのだ。
 アキノが「天才肌」と評するだけのことはある。

「ヒャッハー! 煙だらけで呼吸をするのも一苦労だぜぃ!」

「ヒャッハーじゃねぇ! 作りすぎだ!」

 洞窟前の開けた場所は煙で満ちていた。
 洞窟内もモクモクとしていて視界が優れない。

 ミズキが燻製器を量産したからだ。
 それらをフル稼働させるのに焚き火も大量にこしらえた。

「狼煙の代わりになっていいじゃん!」

 ポジティブに捉えるサナエ。
 ミズキが「そうそう!」と賛同する。

「狼煙の効果が期待できないからなぁ」

 島に転移して数日が経つ。
 昨日まで、俺たちはずっと狼煙を上げていた。
 広々とした草原の上で、今よりも大量の煙を焚いていたのだ。

 それでも救助は来なかった。
 他力本願の姿勢では元の生活を取り戻せないだろう。

「そういや、これからどうするの?」とサナエ。

「数日分の食糧が手に入ったし、矢を量産したら丘の頂上に行くか」

 俺たちが拠点であるこの洞窟は丘のふもとに位置している。
 ここから崖に沿って迂回し、勾配の緩い場所から丘の頂上を目指す。
 高所に行けば今よりも状況を把握できるはずだ。

「私らがいるのって、たぶん日本の本土よりも東だよね?」とアキノ。

「船の航路を考えるとそうなる。仮にここが無人島だったとしても、船を造って西に進めば本土のどこかに着くはず」

 口で言うのは容易いが、実際には至難の業だ。
 実行すれば十中八九どころか1000回中999回は死ぬだろう。
 できれば別の手段が望ましい。

「細かいことはなんだっていいじゃん! とりあえず矢を量産しよう!」

 サナエが手を叩いて話を進める。
 俺たちは「おー!」と拳を突き上げた。
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