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008 ドライフルーツ
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水浴びが済んで最低限の綺麗さを取り戻した。
さて探険に備えて地盤を固めていこう。
洞窟を出てすぐの開けた場所で女性陣と話した。
「まずは保存食の準備からだ」
「保存食といえば……冷凍食品だ!」
サナエがどや顔で言い放つ。
「んなわけないでしょー! バカだなぁ!」
ミズキが笑いながらツッコミを入れた。
「冷凍も一種の保存方法だが、今の環境じゃ難しいだろう。ということで、今回はドライフルーツを作っていこうと思う」
「えー、そんなのいる? ドライフルーツってめっちゃ喉が渇くじゃん! 果物ならすぐ外にいくらでもあるんだしいらなくない?」
サナエは言い終えると「今度はバカじゃないでしょ!」とミズキを見た。
「仰る通り普段は外で果物を採ればいい。保存食はあくまで緊急時の備え――非常食というものだ」
「非常食?」
「例えばこの島が大雨に見舞われたとしよう。土砂降りの雨に打たれながら外で果物を収穫するなんて嫌だろ」
「うん! それに危険!」
「だから、そんな時は保存食で耐えるわけだ。現代なら冷凍食品なんかでいいかもしれないが、ここには冷凍食品や電子レンジはないからな」
「それでドライフルーツかぁ! なるほど! 賢いなぁユウマは!」
「そんなわけで、手分けして材料を調達しよう。俺と誰か一人が果物の調達、残り三人は火熾しや薪の調達を頼む。保存食同様、薪も十分な備蓄が必要だからな」
「私は果物調達がいいかも」
真っ先に立候補したのは意外にもアキノだった。
四人の中だと最も控え目なタイプである。
「私も果物が良かったけど……火熾しでもOK!」
ミズキが言う。
サナエとコトハが「私も」と続いた。
「焚き火は二つ作ってほしい」
「二つともここで火を熾せばいいの?」とコトハ。
「そうだな。二つともここで頼む」
「了解!」
「では作業開始!」
俺はアキノとともに果物の調達に出かけた。
◇
「お、アンズ発見!」
「これで10種類目だね」
「ほんとそこら中に様々な果物が生ってやがるな」
果物の調達は順調に進んでいた。
種類が豊富なので、ビタミンCから鉄分まで偏りなく摂取できそうだ。
「ひとまず戻るか。これ以上は持てない」
「そうだね」
アキノに目を向ける。
彼女は膨大な量の果物を抱えていた。
素手では持ちきれないため、俺のジャケットを風呂敷として使っている。
「わるいな、荷物持ちをさせてしまって」
「ううん、大丈夫。その代わり危険な時は守ってね」
「任せろ」
アキノに荷物持ちを任せる代わりに、俺は収穫と戦闘を担当する。
装備は右手に持っている石斧とケツポケットに忍ばせている石包丁だ。
「といっても、戦闘は起きなさそうだな」
周囲には危険な獣がたくさん。
見える範囲にイノシシ、大蛇、ピューマ、オオカミ、サイがいる。
そのわりには平穏だ。
「これだけ動物がいて縄張り争いをしないのは不思議だよね」
「とはいえ、完全に平和かと言えばそれも違うけどな」
例えばイノシシとサイ、ピューマとオオカミは威嚇し合っている。
そこら中で一触即発の様相を呈していた。
「それはさておき、たしかこの辺にあったはずなんだが……」
歩くペースを落として周囲をキョロキョロする俺。
「何を探しているの?」
「リンゴだよ」
「それなら最初に採ったじゃん」
アキノが「あそこだよ」と顎で方角を指示する。
その方向に目を向けると、一本のリンゴの木があった。
「あったあった」
リンゴの木に近づき、探していた理由を説明する。
「ほしいのは果実じゃなくて枝葉のほうなんだ」
「え、なんで?」
驚くアキノ。
「燻煙剤として利用しようかと思ってな。ドライフルーツを作るのにそのまま天日干しにするのもいいんだけど、燻製にしたほうが保存期間が延びるからな」
「へぇ、そうなんだ。そういえば燻煙剤にリンゴチップってあった気がする。あれってリンゴの枝葉だったんだ」
「厳密には枝葉ではなく木質部だと思う」
「木質部……」
どこか分からないようだ。
「要するに幹の内側だ。幹を輪切りにすれば分かるが、樹木ってのはいくつかの層になっている。木質部は樹皮や形成層の次にくる層だ」
「なるほど。木質部が理想だけど、難しいから枝葉で妥協するってことね」
「そういうことだ。枝葉でも燻煙が出りゃ問題ないしな」
適当な枝を石斧で叩き折っていく。
そんな俺の姿を見て、付近の小動物たちが逃げていった。
怖がらせてしまったようだ。
「これで必要な物は揃った。洞窟に戻ろう」
「了解」
◇
洞窟の前では既に火熾しが始まっていた。
適度な間隔を開けて二つの焚き火がこしえられている。
火力を競うようにメラメラと炎を上げていた。
「俺は燻製用の吊るし台を作るから――」
「私らは果物を薄くスライスすればいいのね」とアキノ。
「その通り。理解力が高くて助かるよ」
アキノは嬉しそうに「ふふ」と笑った。
「よっしゃー! 果物を切って切って切りまくるぞー!」
「サナエはバカだから自分の指まで切っちまいそー!」
ミズキがからかう。
サナエは「うるせー!」と言って作業を開始。
明らかに手つきが怪しくて、本当に指まで切ってしまいそうだ。
「俺たちの石包丁は黒曜石でできている。そのため切れ味が市販の包丁に匹敵するレベルだ。慎重に頼むぞ」
念のために言っておく。
それから吊るし台の製作に取りかかった。
まずは台の脚から。
二本の枝を交差させて、交差点を紐で縛る。
紐は適当な蔓で代用した。
これで片足の完成。
同じ要領でもう一つ作った。
作った脚を焚き火の両サイドに設置する。
脚の上に一本の枝を這わせ、その枝にスライスした果物を吊す。
「吊すには糸が必要だな」
ということで、糸を作ろう。
材料になるのは近くに生えていた植物の茎だ。
洞窟の床に敷き、石包丁の背中で皮を削ぐ。
表皮を取り除いたら、指でほぐして繊維状にする。
最後にそれを撚り合わせたら完成だ。
「わお! マジで糸を作ったよ!」
「ユウマ君すごい!」
知らぬ間に俺の作業を女性陣が覗いていた。
サナエやコトハが感動の声を上げている。
「この糸はそのまま使うが、織ることで布にもなる」
「布ができるってことは服も作れるわけだ!」とミズキ。
「正解!」
「「「おおー!」」」
揃って驚く女性陣。
「制服はともかく下着がずっと一緒で嫌だったんだよねー」
サナエが言うと、他の三人が「分かるぅ」と同意する。
俺も同感だった。
「ま、衣類の製作は別の機会ということで」
今回は燻製だ。
手持ち無沙汰の四人と協力して果物を吊す。
「吊し終わったらいよいよ燻製だ」
持ち帰ったリンゴの枝葉を焚き火に投入する。
ほどなくして煙が上がった。
「炎から適度に離れているし問題なさそうだな」
俺は残っている材料を確認。
細身の竹筒が大量にあったので使うことにした。
「せっかくだし煙が逃げないようにしておくか」
果物を吊している枝に竹筒をかけていく。
おの竹筒にバナナの葉を括り付ける。
「これでよし。バナナの葉が屋根となって煙をその場に留めてくれるぞ」
「ちょっとした材料で立派な燻製器ができたね」とアキノ。
「ユウマ君ってすごすぎて魔法使いみたい!」
「なんだそら」
と俺は笑った。
「ふと思ったんだけど、何でただの天日干しより燻製にしたほうが保存期間が延びるの?」
アキノが尋ねてきた。
「煙に含まれているホルムアルデヒドやフェノールって成分に殺菌や防腐作用があるんだよ。肉の場合は風味付けにもなるしな」
「「「へぇ」」」
アキノだけでなく他の三人も感心する。
「ということで、次は肉の調達に行こう」
「「「肉!?」」」
「初日に食ったヘビを除くと果物しか食っていないからな。そろそろまともな肉がほしい。幸いにもそこらに美味そうな動物が生息しているし、ちょっとばかしいただくとしよう」
「それって、つまり……!」
ウキウキ顔のサナエに対し、俺は笑顔で頷いて言った。
「狩猟の時間だ!」
さて探険に備えて地盤を固めていこう。
洞窟を出てすぐの開けた場所で女性陣と話した。
「まずは保存食の準備からだ」
「保存食といえば……冷凍食品だ!」
サナエがどや顔で言い放つ。
「んなわけないでしょー! バカだなぁ!」
ミズキが笑いながらツッコミを入れた。
「冷凍も一種の保存方法だが、今の環境じゃ難しいだろう。ということで、今回はドライフルーツを作っていこうと思う」
「えー、そんなのいる? ドライフルーツってめっちゃ喉が渇くじゃん! 果物ならすぐ外にいくらでもあるんだしいらなくない?」
サナエは言い終えると「今度はバカじゃないでしょ!」とミズキを見た。
「仰る通り普段は外で果物を採ればいい。保存食はあくまで緊急時の備え――非常食というものだ」
「非常食?」
「例えばこの島が大雨に見舞われたとしよう。土砂降りの雨に打たれながら外で果物を収穫するなんて嫌だろ」
「うん! それに危険!」
「だから、そんな時は保存食で耐えるわけだ。現代なら冷凍食品なんかでいいかもしれないが、ここには冷凍食品や電子レンジはないからな」
「それでドライフルーツかぁ! なるほど! 賢いなぁユウマは!」
「そんなわけで、手分けして材料を調達しよう。俺と誰か一人が果物の調達、残り三人は火熾しや薪の調達を頼む。保存食同様、薪も十分な備蓄が必要だからな」
「私は果物調達がいいかも」
真っ先に立候補したのは意外にもアキノだった。
四人の中だと最も控え目なタイプである。
「私も果物が良かったけど……火熾しでもOK!」
ミズキが言う。
サナエとコトハが「私も」と続いた。
「焚き火は二つ作ってほしい」
「二つともここで火を熾せばいいの?」とコトハ。
「そうだな。二つともここで頼む」
「了解!」
「では作業開始!」
俺はアキノとともに果物の調達に出かけた。
◇
「お、アンズ発見!」
「これで10種類目だね」
「ほんとそこら中に様々な果物が生ってやがるな」
果物の調達は順調に進んでいた。
種類が豊富なので、ビタミンCから鉄分まで偏りなく摂取できそうだ。
「ひとまず戻るか。これ以上は持てない」
「そうだね」
アキノに目を向ける。
彼女は膨大な量の果物を抱えていた。
素手では持ちきれないため、俺のジャケットを風呂敷として使っている。
「わるいな、荷物持ちをさせてしまって」
「ううん、大丈夫。その代わり危険な時は守ってね」
「任せろ」
アキノに荷物持ちを任せる代わりに、俺は収穫と戦闘を担当する。
装備は右手に持っている石斧とケツポケットに忍ばせている石包丁だ。
「といっても、戦闘は起きなさそうだな」
周囲には危険な獣がたくさん。
見える範囲にイノシシ、大蛇、ピューマ、オオカミ、サイがいる。
そのわりには平穏だ。
「これだけ動物がいて縄張り争いをしないのは不思議だよね」
「とはいえ、完全に平和かと言えばそれも違うけどな」
例えばイノシシとサイ、ピューマとオオカミは威嚇し合っている。
そこら中で一触即発の様相を呈していた。
「それはさておき、たしかこの辺にあったはずなんだが……」
歩くペースを落として周囲をキョロキョロする俺。
「何を探しているの?」
「リンゴだよ」
「それなら最初に採ったじゃん」
アキノが「あそこだよ」と顎で方角を指示する。
その方向に目を向けると、一本のリンゴの木があった。
「あったあった」
リンゴの木に近づき、探していた理由を説明する。
「ほしいのは果実じゃなくて枝葉のほうなんだ」
「え、なんで?」
驚くアキノ。
「燻煙剤として利用しようかと思ってな。ドライフルーツを作るのにそのまま天日干しにするのもいいんだけど、燻製にしたほうが保存期間が延びるからな」
「へぇ、そうなんだ。そういえば燻煙剤にリンゴチップってあった気がする。あれってリンゴの枝葉だったんだ」
「厳密には枝葉ではなく木質部だと思う」
「木質部……」
どこか分からないようだ。
「要するに幹の内側だ。幹を輪切りにすれば分かるが、樹木ってのはいくつかの層になっている。木質部は樹皮や形成層の次にくる層だ」
「なるほど。木質部が理想だけど、難しいから枝葉で妥協するってことね」
「そういうことだ。枝葉でも燻煙が出りゃ問題ないしな」
適当な枝を石斧で叩き折っていく。
そんな俺の姿を見て、付近の小動物たちが逃げていった。
怖がらせてしまったようだ。
「これで必要な物は揃った。洞窟に戻ろう」
「了解」
◇
洞窟の前では既に火熾しが始まっていた。
適度な間隔を開けて二つの焚き火がこしえられている。
火力を競うようにメラメラと炎を上げていた。
「俺は燻製用の吊るし台を作るから――」
「私らは果物を薄くスライスすればいいのね」とアキノ。
「その通り。理解力が高くて助かるよ」
アキノは嬉しそうに「ふふ」と笑った。
「よっしゃー! 果物を切って切って切りまくるぞー!」
「サナエはバカだから自分の指まで切っちまいそー!」
ミズキがからかう。
サナエは「うるせー!」と言って作業を開始。
明らかに手つきが怪しくて、本当に指まで切ってしまいそうだ。
「俺たちの石包丁は黒曜石でできている。そのため切れ味が市販の包丁に匹敵するレベルだ。慎重に頼むぞ」
念のために言っておく。
それから吊るし台の製作に取りかかった。
まずは台の脚から。
二本の枝を交差させて、交差点を紐で縛る。
紐は適当な蔓で代用した。
これで片足の完成。
同じ要領でもう一つ作った。
作った脚を焚き火の両サイドに設置する。
脚の上に一本の枝を這わせ、その枝にスライスした果物を吊す。
「吊すには糸が必要だな」
ということで、糸を作ろう。
材料になるのは近くに生えていた植物の茎だ。
洞窟の床に敷き、石包丁の背中で皮を削ぐ。
表皮を取り除いたら、指でほぐして繊維状にする。
最後にそれを撚り合わせたら完成だ。
「わお! マジで糸を作ったよ!」
「ユウマ君すごい!」
知らぬ間に俺の作業を女性陣が覗いていた。
サナエやコトハが感動の声を上げている。
「この糸はそのまま使うが、織ることで布にもなる」
「布ができるってことは服も作れるわけだ!」とミズキ。
「正解!」
「「「おおー!」」」
揃って驚く女性陣。
「制服はともかく下着がずっと一緒で嫌だったんだよねー」
サナエが言うと、他の三人が「分かるぅ」と同意する。
俺も同感だった。
「ま、衣類の製作は別の機会ということで」
今回は燻製だ。
手持ち無沙汰の四人と協力して果物を吊す。
「吊し終わったらいよいよ燻製だ」
持ち帰ったリンゴの枝葉を焚き火に投入する。
ほどなくして煙が上がった。
「炎から適度に離れているし問題なさそうだな」
俺は残っている材料を確認。
細身の竹筒が大量にあったので使うことにした。
「せっかくだし煙が逃げないようにしておくか」
果物を吊している枝に竹筒をかけていく。
おの竹筒にバナナの葉を括り付ける。
「これでよし。バナナの葉が屋根となって煙をその場に留めてくれるぞ」
「ちょっとした材料で立派な燻製器ができたね」とアキノ。
「ユウマ君ってすごすぎて魔法使いみたい!」
「なんだそら」
と俺は笑った。
「ふと思ったんだけど、何でただの天日干しより燻製にしたほうが保存期間が延びるの?」
アキノが尋ねてきた。
「煙に含まれているホルムアルデヒドやフェノールって成分に殺菌や防腐作用があるんだよ。肉の場合は風味付けにもなるしな」
「「「へぇ」」」
アキノだけでなく他の三人も感心する。
「ということで、次は肉の調達に行こう」
「「「肉!?」」」
「初日に食ったヘビを除くと果物しか食っていないからな。そろそろまともな肉がほしい。幸いにもそこらに美味そうな動物が生息しているし、ちょっとばかしいただくとしよう」
「それって、つまり……!」
ウキウキ顔のサナエに対し、俺は笑顔で頷いて言った。
「狩猟の時間だ!」
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