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009 大流行

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 マリアの閃いた数多の粉末調味料パウダーを売る方法、それは――。

「名付けて! 野菜たっぷりロールケーキ!」

「クリームの色が緑のロールケーキだと!?」

「キャベツ、小松菜、ピーマン……様々な緑色の野菜パウダーを生クリームに混ぜ込んでみたの!」

 ――調理工程で大量のパウダーを使うというものだった。味が殆どしないことを逆手に取った考え方である。ロールケーキはその実例だ。

「この緑のクリームには野菜パウダーが大量に含まれているわけか」

「そう! だから美味しく食べつつ、野菜の栄養もたっぷり摂れる! ライデンは何でも食べるけど、元冒険者の人は偏食家が多いでしょ? そういった人や野菜嫌いの子供でも食べられるのがポイントだよ!」

「おー、考えたな! 見た目も思ったより悪くないし、あとは味だけだ!」

 マリアとライデンが出来たてのロールケーキを食べる。

「野菜の味が全くしねぇな!」

「自分で言うのもなんだけど美味しくて食べやすいよこれ!」

 文句のない味だ。ライデンはペロリと平らげた。

「よし! 唐辛子やニンニクのような刺激が強いタイプは完成後の料理に掛けるもの、その他の味があまりしないタイプは調理時に掛けるものとして売りに出そう! 最近はアルバニア王国を中心に健康食ブームが起きているから、ヨーグルトともども流行りそうな予感がするぜ!」

「おお!」

「いやぁ助かったよマリア! 俺はさっそくテオに指示を出してくる! また困ったことがあったら助けてくれ!」

「分かった!」

 ライデンは「これはすごいことになるぞ!」とウキウキで飛び出して行った。

 ◇

 数日後、ヨーグルトや各種の粉末調味料が近隣の都市へ出荷されるようになった。

 最初にブームが起きたのはヨーグルトだ。エルディでは自家製ヨーグルトが主流だったが、都市部では市販品で済ませる者が大半だった。

 その理由は未曾有の好景気だからだ。
 魔物の消滅によって、世界各国の経済は加速度的に発展していた。仕事はそこら中に溢れており、人々は労働に精を出していた。そうした環境下において、数日を要するヨーグルト作りを楽しむ暇はなかったのだ。

 次に野菜パウダーが人気を博した。
 元から野菜の消費が多い田舎の農村部では大してウケなかったが、都市部では気軽に野菜の栄養を補給できるとして大流行。特に健康食ブームの真っ只中にあったアルバニア王国の都市部では、多くの家庭が食卓に複数の野菜パウダーを並べる状態となった。
 ライデンの読みが的中したわけだ。
 野菜パウダーの流行によって、一味唐辛子やガーリックパウダーも売れた。

 こうした数々の流行は、さながら感染症の如く拡散。複数の新聞・雑誌が取り上げたことで流行が爆発し、あっという間に料理の新定番となった。

 結果、エルディ発で世界初の商品は、ことごとく大ヒットするのだった。

 ◇

「ふぁあ! おふぁよう!」

 その日もマリアは、いつもと変わらぬ朝を迎えた。
 家には自分しかいないにもかかわらず、起きたらとりあえず挨拶する。王宮に住んでいた頃の癖だった。

「ふんふんふーん♪」

 一階に下りたマリアは、顔を洗って朝ご飯を作る。王宮で過ごしている頃に習っていたので、料理の腕はそれなりにあった。

「完成!」

 今日の朝ご飯は焼き魚の定食だ。豚汁に入っている豚肉と焼き魚以外は、全てエルディで収穫した作物である。もちろんお米もそうだ。

「いただきまーす!」

 お椀を左手で持ち、右手の箸で米を摘まんで口に運ぶ。土鍋で炊いたばかりの米は大粒で、白く輝いており、しっかりした甘さと旨さが感じられた。

「おいひぃ!」

 自分で炊いた米にうっとりするマリア。
 その後も上機嫌で朝食を食べ終えると、サッと皿洗いを済ませ、二階に戻って着替えた。いつものドレスはクリーニングに出しているため、代わりに半袖のブラウスとロングのアシンメトリースカートでカジュアルエレガントにまとめる。
 それが済むと家を出て、リズミカルな足取りで町役場に向かう。

(今日はいるかなぁ、みんな)

 マリアの思う「みんな」とは、ライデン、テオ、ロンのことだ。
 この数日、彼らとは会っていなかった。町を挙げての商売が上手くいっているせいで忙しいからだ。ライデンはテオと組んで方々を駆けずり回っており、ロンは魔法の専門家として多くの魔法使いから相談を受けていた。

「お、マリアちゃん! 今日はドレスじゃないんだね!」

 町を歩いていると中年の男が話しかけてきた。顔馴染みだが名前は知らない。

「ドレスはただいま洗濯中!」

「その服装も可愛らしいじゃん!」

「ありがとー! おじさんもツルピカッと輝く頭が素敵だよ!」

「んがが……!」

 楽しい会話を終え、マリアは役場に到着。

(誰かいますように!)

 そう祈って扉を開け、元気よく挨拶する。

「おっはよー!」

 するとそこには――。

「あら? ごきげんよう。あなた、どなた?」

 ――一人の女が立っていた。
 年齢はマリアより少し高く、とても整った顔立ちをしている。金色の長い髪と鋭い目つき、田舎町に似つかわしくないシンクのドレスが特徴的だ。

「え! あなたこそどなた!?」

 マリアは目をぎょっとさせて聞き返した。
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