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008 パウダー
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マリアの指したページを見ながら、ライデンは言った。
「そう言われても俺には何が書いているか分からないぜ!」
「そうだった!」
マリアは吹き出し、それから「ごめんごめん」と謝った。
「唐辛子パウダーのことが書いてあるの」
「唐辛子パウダー? なんだそれは?」
「ペペロンチーノとかに使われるあの唐辛子を焙煎して、水分を飛ばしてからすり鉢で砕いて粉末にするの」
「唐辛子を粉末にして使う!?」
ライデンは驚いた。そんな使い方、この世界ではされていなかったのだ。
「賢者の書によると、お肉とかにかけるといいみたい! 粉末にすることで保存期間も延びて販売に向いているかも!」
「画期的なアイデアじゃないか! さっそく作ってみようぜ!」
「うん!」
二人は厨房に行き、唐辛子パウダーこと一味唐辛子の試作を始めた。
幸いにも材料や機材は揃っており、製法も単純なため、あっという間に完成した。
「試食用の肉がなかったから豚汁に掛けてみようぜ!」
ライデンは残り物で作っておいた豚汁をお椀によそう。それを食堂に運び、マリアとともにテーブルを囲んだ。
「それではこの豚汁に一味唐辛子を振りかけます!」
マリアはすり鉢の一味唐辛子を指で摘まみ、豚汁にパラパラとまぶした。
「色合いがグッと良くなったな!」
「だねー!」
漂う湯気から美味しそうな香りがする。
「「いただきます!」」
二人は箸を持ち、一味唐辛子のかかった豚汁を食べた。
「んふぅ!」
一口食べた瞬間、マリアの口から幸せの息が漏れる。
「うんめぇ! 味が引き締まっていい感じだ!」
ライデンも大絶賛。彼は興奮のあまり、すり鉢の一味唐辛子を丸ごと豚汁にぶち込んだ。
「かれぇぇぇぇぇ! ひぃぃぃぃ! 舌が焼けるぅ!」
「あはは、そりゃそうでしょ! バカだなぁ!」
と言いつつ、マリアはライデンのお椀を手に取り、汁をひと啜り。
「からぁぁぁぁぁぁい!」
彼女もまた愚か者であった。
◇
「一味唐辛子だっけか? これ、かなりいい感じじゃないか! 塩や砂糖に次ぐ新たな調味料として定番になってもおかしくないぞ!」
試食を終えるとライデンが言った。一味たっぷり豚汁を完食したせいか、顔面や首筋から汗が噴き出している。
「今回は唐辛子だったけど、他にも色々な食材が粉末に適しているみたいだよ!」
「そうなのか? 例えば?」
「賢者の書に載っているのだとニンニクとか! ガーリックパウダーといって、これもお肉にかけるといいみたい!」
「おー。じゃあ他の野菜はどうだ? ニンニクや唐辛子と同じく粉末にできるのか?」
「できると思うよ! 焙煎して砕くだけだし!」
「よし、とりあえず町で採れる全ての作物を粉末にしてみよう!」
「ええええ、全部!?」
「それで良さそうな物を商品にする!」
方針を決めると、ライデンは「後片付けは頼んだ!」と飛び出して行った。
「すごい行動力……! ああ見えて魔王を倒した人だもんなぁ」
ライデンの後ろ姿が見えなくなると、マリアは指示通り後片付けを始めた。二人分の食器を厨房に運び、綺麗に洗おうとする。
しかし、蛇口を捻っても水が出なかった。
「魔法石の効果が切れちゃったのかな?」
シンクの下にある引き出しを開け、専用の窪みに装着されている菱形の石を取った。魔法石と呼ばれる特殊な石で、この世界におけるインフラの要になっている。
「やっぱり効果が切れていた!」
いつもなら水色に輝く水の魔法石だが、今は効力を失って普通の石にしか見えない。再び使えるようにするには魔力を充填する必要があった。
ということで、マリアは魔法石に魔力を充填することにした。ちょうど先日、ロンに充填方法を教わっていたのだ。
「えい!」
魔法石を両手で包むように持ち、専用の魔法を発動。
すると、彼女の体内から必要量の魔力が石に移り、石の輝きが戻った。
「これでよし!」
再び石を装着して蛇口を捻る。今度はジャボジャボと水が出た。
「ふんふんふーん♪」
気分良く洗い物をするマリア。
「マリアー! いるかー! 助けてくれー!」
洗い物が終わったのを見計らったかのようにライデンが戻ってきた。
「どうしたの?」
と、食堂に向かったマリアだが――。
「野菜や果物の粉末を作ったはいいが売り方がわかんねぇ!」
そこには、大量のすり鉢が並んでいた。ご丁寧にもラベルが貼ってある。
「売り方?」
「ああ! 粉末を作ったはいいが、それを見た住民どもに言われたんだ。『そんなもの何に使うんだよ』って。一味唐辛子やガーリックパウダーは肉に使えるからウケたんだけどさ、他の粉末は何に使えるかさっぱり分かんなくてよぉ」
「たしかに何に使えるか分からないんじゃ使わないよね」
ライデンの言う「住民どもの反応」は何らおかしくなかった。
「だからマリア、何か考えてくれ!」
「そうは言われても、それは賢者の書でどうにかなることじゃないしなぁ……」
ひとまずすり鉢に貼られたラベルを眺めるマリア。小松菜にブロッコリー、果てにはゆずやレモンの粉末まであった。
「この短時間にどうやってこれだけのパウダーを作ったの?」
「そこは困った時のラッセルさんに頼った」
「ラッセルさん……?」
「今度紹介しよう。すごい人だ」
本当にすごい人なんだろうな、とマリアは思った。彼女が知る限り、ラッセルはライデンが敬称を付けて呼ぶ唯一の相手だ。
「で、どうだマリア、何か閃いたか?」
「いやいや、そうすぐには閃かないよー!」
そう言って、彼女はピーマンパウダーを摘まんだ。
(粉にすると小松菜と同じような見た目だけど、きっと不味いんだろうなぁ)
マリアはピーマンが大嫌いだ。食べると吐き気を催す。
しかし――。
「あれ? 不味くない……?」
ピーマンパウダーをペロリと舐めたところ、不思議と食べることができた。もちろん無味無臭ではなく、いくらかピーマンの風味はする。しかし、眉間に皺が寄るほどの酷さは感じられなかった。
「不味くないが美味くもないだろ?」とライデン。
「だね。なんか粉っぽいだけで――あああああああああッ!」
それは話している最中のことだった。
「どうしたマリア!?」
ライデンは驚き、マリアの両肩を掴む。
「閃いた!」
「え?」
「閃いたよライデン! 作物パウダーを売る方法!」
「そう言われても俺には何が書いているか分からないぜ!」
「そうだった!」
マリアは吹き出し、それから「ごめんごめん」と謝った。
「唐辛子パウダーのことが書いてあるの」
「唐辛子パウダー? なんだそれは?」
「ペペロンチーノとかに使われるあの唐辛子を焙煎して、水分を飛ばしてからすり鉢で砕いて粉末にするの」
「唐辛子を粉末にして使う!?」
ライデンは驚いた。そんな使い方、この世界ではされていなかったのだ。
「賢者の書によると、お肉とかにかけるといいみたい! 粉末にすることで保存期間も延びて販売に向いているかも!」
「画期的なアイデアじゃないか! さっそく作ってみようぜ!」
「うん!」
二人は厨房に行き、唐辛子パウダーこと一味唐辛子の試作を始めた。
幸いにも材料や機材は揃っており、製法も単純なため、あっという間に完成した。
「試食用の肉がなかったから豚汁に掛けてみようぜ!」
ライデンは残り物で作っておいた豚汁をお椀によそう。それを食堂に運び、マリアとともにテーブルを囲んだ。
「それではこの豚汁に一味唐辛子を振りかけます!」
マリアはすり鉢の一味唐辛子を指で摘まみ、豚汁にパラパラとまぶした。
「色合いがグッと良くなったな!」
「だねー!」
漂う湯気から美味しそうな香りがする。
「「いただきます!」」
二人は箸を持ち、一味唐辛子のかかった豚汁を食べた。
「んふぅ!」
一口食べた瞬間、マリアの口から幸せの息が漏れる。
「うんめぇ! 味が引き締まっていい感じだ!」
ライデンも大絶賛。彼は興奮のあまり、すり鉢の一味唐辛子を丸ごと豚汁にぶち込んだ。
「かれぇぇぇぇぇ! ひぃぃぃぃ! 舌が焼けるぅ!」
「あはは、そりゃそうでしょ! バカだなぁ!」
と言いつつ、マリアはライデンのお椀を手に取り、汁をひと啜り。
「からぁぁぁぁぁぁい!」
彼女もまた愚か者であった。
◇
「一味唐辛子だっけか? これ、かなりいい感じじゃないか! 塩や砂糖に次ぐ新たな調味料として定番になってもおかしくないぞ!」
試食を終えるとライデンが言った。一味たっぷり豚汁を完食したせいか、顔面や首筋から汗が噴き出している。
「今回は唐辛子だったけど、他にも色々な食材が粉末に適しているみたいだよ!」
「そうなのか? 例えば?」
「賢者の書に載っているのだとニンニクとか! ガーリックパウダーといって、これもお肉にかけるといいみたい!」
「おー。じゃあ他の野菜はどうだ? ニンニクや唐辛子と同じく粉末にできるのか?」
「できると思うよ! 焙煎して砕くだけだし!」
「よし、とりあえず町で採れる全ての作物を粉末にしてみよう!」
「ええええ、全部!?」
「それで良さそうな物を商品にする!」
方針を決めると、ライデンは「後片付けは頼んだ!」と飛び出して行った。
「すごい行動力……! ああ見えて魔王を倒した人だもんなぁ」
ライデンの後ろ姿が見えなくなると、マリアは指示通り後片付けを始めた。二人分の食器を厨房に運び、綺麗に洗おうとする。
しかし、蛇口を捻っても水が出なかった。
「魔法石の効果が切れちゃったのかな?」
シンクの下にある引き出しを開け、専用の窪みに装着されている菱形の石を取った。魔法石と呼ばれる特殊な石で、この世界におけるインフラの要になっている。
「やっぱり効果が切れていた!」
いつもなら水色に輝く水の魔法石だが、今は効力を失って普通の石にしか見えない。再び使えるようにするには魔力を充填する必要があった。
ということで、マリアは魔法石に魔力を充填することにした。ちょうど先日、ロンに充填方法を教わっていたのだ。
「えい!」
魔法石を両手で包むように持ち、専用の魔法を発動。
すると、彼女の体内から必要量の魔力が石に移り、石の輝きが戻った。
「これでよし!」
再び石を装着して蛇口を捻る。今度はジャボジャボと水が出た。
「ふんふんふーん♪」
気分良く洗い物をするマリア。
「マリアー! いるかー! 助けてくれー!」
洗い物が終わったのを見計らったかのようにライデンが戻ってきた。
「どうしたの?」
と、食堂に向かったマリアだが――。
「野菜や果物の粉末を作ったはいいが売り方がわかんねぇ!」
そこには、大量のすり鉢が並んでいた。ご丁寧にもラベルが貼ってある。
「売り方?」
「ああ! 粉末を作ったはいいが、それを見た住民どもに言われたんだ。『そんなもの何に使うんだよ』って。一味唐辛子やガーリックパウダーは肉に使えるからウケたんだけどさ、他の粉末は何に使えるかさっぱり分かんなくてよぉ」
「たしかに何に使えるか分からないんじゃ使わないよね」
ライデンの言う「住民どもの反応」は何らおかしくなかった。
「だからマリア、何か考えてくれ!」
「そうは言われても、それは賢者の書でどうにかなることじゃないしなぁ……」
ひとまずすり鉢に貼られたラベルを眺めるマリア。小松菜にブロッコリー、果てにはゆずやレモンの粉末まであった。
「この短時間にどうやってこれだけのパウダーを作ったの?」
「そこは困った時のラッセルさんに頼った」
「ラッセルさん……?」
「今度紹介しよう。すごい人だ」
本当にすごい人なんだろうな、とマリアは思った。彼女が知る限り、ラッセルはライデンが敬称を付けて呼ぶ唯一の相手だ。
「で、どうだマリア、何か閃いたか?」
「いやいや、そうすぐには閃かないよー!」
そう言って、彼女はピーマンパウダーを摘まんだ。
(粉にすると小松菜と同じような見た目だけど、きっと不味いんだろうなぁ)
マリアはピーマンが大嫌いだ。食べると吐き気を催す。
しかし――。
「あれ? 不味くない……?」
ピーマンパウダーをペロリと舐めたところ、不思議と食べることができた。もちろん無味無臭ではなく、いくらかピーマンの風味はする。しかし、眉間に皺が寄るほどの酷さは感じられなかった。
「不味くないが美味くもないだろ?」とライデン。
「だね。なんか粉っぽいだけで――あああああああああッ!」
それは話している最中のことだった。
「どうしたマリア!?」
ライデンは驚き、マリアの両肩を掴む。
「閃いた!」
「え?」
「閃いたよライデン! 作物パウダーを売る方法!」
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