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012 役人の用件

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 目をきゅっと閉じて宣告を待つ私たち。
 そんな世間知らずの三人に、役人は笑顔で言った。

「シャロン様の露店がご盛況であること、確認させていただきました。明日も同じ物を売られるおつもりであれば、追加の屋台を無料でお貸しいたしますよ」

「え……? 怒られるんじゃない……?」

「怒るだなんてとんでもございません。我がルーベンス王国は商人の方々を心から応援しています。勢いのあるお店は積極的に支援するというのが国の方針となっています」

 なんとポジティブな内容だった。

「売り場面積はどうなりますか? 屋台を借りても展開するスペースがなければ殆ど意味がないのですが……」

 露店の展開場所は役所から指定されている。
 指定の範囲は非常に狭く、二台の屋台を並べるスペースはない。

「ご安心ください。屋台の賃料には場所代も含まれています」

「二台を横並びで展開してもいいんですか!」

「さようでございます」

 私たちは「おー!」と歓声を上げた。

「すごいなシャロン、もう商人として認められているぞ!」

「兄者、やっぱり俺たちのボスは違うな!」

「そうだな弟よ! 仕える主を見る目があるな我々は!」

「「がはははははははは!」」

 なぜか彼らが私を選んだことになっている。
 私が彼らを選んであげたのだが、面倒なので黙っていよう。
 それよりも役人だ。

「屋台はいくつまで無料で借りられますか?」

「二台までとなります」

 合計で三台か。
 そのくらいならイアンだけで回せそうだ。

「もう一つお尋ねしたいのですが……」

「喜んでお答えいたします」

「私は今後もこの国で商売に励みたいので、スマホをお借りすることはできないでしょうか? 先日お役所で申請した際は、国外追放の身ということで却下されたのですが……」

「それは難しいですね、規則ですので」

「ですよねー」

 今なら大丈夫かも、と思ったが甘くなかった。
 どの国のお役人も規則にうるさいものだ。

「シャロン、スマホって何だ?」

 クリストが尋ねてきた。

「え、スマホをご存じない? 商売人の必須道具よ!」

 私はドヤ顔で解説してあげた。
 とても昨日まで知らなかった者とは思えない態度だ。
 クリストとイアンは目をキラキラさせながら拝聴していた。

「とまぁこんな感じよ!」

 ふふん、と胸を張った後で、「合ってますよね?」と役人に確認。
 間違っていたら赤っ恥もいいところだが、そうはならなかった。

「シャロン様の仰る通りです」

「すげーなスマホ! 兄者、すげーな! スマホって!」

「そうだなイアン! すげーよスマホ!」

「でもね、私は持てないわけよ、そのすげースマホを」

「だったら俺たちが持てばいいんじゃないか?」

 クリストがすまし顔で言い放つ。
 私は「ふぇ?」と固まった。

「俺とイアンは市民権を持っている。シャロンと一緒に商売をしているのだから、俺たちだって商人として扱われるだろう。スマホを借りる資格はあるんじゃないか?」

「はい、ございます」と役人。

「だよな! なら俺たちでスマホを借りて、その内の一つをシャロンにあげるよ。これでシャロンもスマホを持てるぞ」

「賢いな兄者!」

「これでも24歳なんでな、ふふ」

「そんなことしていいの?」

 この疑問には役人が答えた。

「褒められた行為ではございませんが、規則的には問題ございません」

「でも、スマホって他の人は操作できないんじゃ?」

「初期設定だとそうですが、利用者登録を行っていただければ、他の方もスマホを操作することが可能になります」

「わお! なら私もスマホを持てちゃう!」

 まさかの展開になった。

「スマホに関する申請は役所のほうで受け付けておりますので、必要であればいつでも」

 役人は「それではこれで」と去っていった。
 警護の衛兵二人もペコリと頭を下げてから離れていく。

「よーし、屋台を返却してスマホを作るわよ!」

「「おー!」」

 こうして、私たちはスマホを手に入れた。
 クリスト名義のスマホを私が持ち、イアン名義の物は二人が共有する。
 簡単な説明を受けたあと、私たちは役所をあとにした。

「晩ご飯の前にスマホを試してみましょ!」

 まずはメールからだ。
 二人から数メートル離れたところでメールアプリを開く。
 アプリとはソフトのことらしいが、ソフトが何かも分からなかった。
 私の知っているソフトは柔らかいを意味するソフトだけだ。

「シャロン、まだか!」

「待って! 文字を入力するのに手間取ってるのよ!」

 左手でスマホを持ち、右の人差し指でタッチしていく。
 平面のガラスに文字が浮かぶ様は見ていて不思議だった。
 恐ろしやルーベンス王国の技術。

「いくよー!」

 頑張って打ち込んだ「やっほー」の文字を送る。
 送信ボタンを押すと――。

「あれ? 何も起きない?」

 てっきり手紙が召喚されて飛んでいくのかと思った。
 賢者の国ハーメルンの魔法技術みたいに。

「届いているぞシャロン!」

「え?」

「メール! 届いているぞ!」

 クリストがスマホを振る。
 隣でイアンが「やっほー!」と叫んだ。

「わお!? 何も起きていないのに届いた!?」

「メールってすげーな!」

「次は電話を試してみましょ!」

「承知!」

 電話はメールよりも扱いやすかった。
 電話帳というアプリを開いて相手を指定するだけだ。
 そうすると――。

「シャロンの声がスマホから聞こえる!」

「クリスト、あんたの声もね!」

 電話とメールは、この国ならどこからでも使える。
 国土の端から端までを瞬時で繋いでくれるのだ。
 なんとも便利な代物である。

「電話とメールの使い方は分かったし、少し遅くなっちゃったけど、商売の大成功を祝ってご馳走を食べにいきましょ!」

「「おー!」」

 三人で肩を組みながら町を歩く。
 とても幸せな一日になった。
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