上 下
11 / 50

011 寝床作り

しおりを挟む
 サバイバルの基本は食事と住居の確保だ。
 どちらも最優先にしたいところだが、優先順位は決めないとな。

「此処が川です!」

 アリシアに近くの川へ案内してもらった。
 森の中にあり、目覚めた時に俺が居た海の方向へ伸びている。

 まずは食の要である水分の確保を確実にしておきたい。
 メシは2週間以上食べなくても生きられるが、水は3日断つと死ぬ。

「幅はそこそこ。深さは膝が入る程度か。流れが弱くて、水質は微妙だな。下流だしこんなものだろう。ま、問題はないか」

 川の状態を確認する俺。
 俺の独り言を耳にしたアリシアが「えっ!?」と驚く。

「この水を飲むのですか!?」

「いずれはな」

「そんなぁ……死んじゃいますよ!? 川の水は危険です! 飲み水は水魔法で用意するか、井戸の水じゃないと!」

「飲む時は煮沸するから問題ない」

「そういえばシュウヤ君、井戸の水を飲む時も煮沸って言っていましたよね」

「得体の知れない水を飲む時は煮沸するのが基本だからな」

「早く見たいです! 煮沸!」

「別に面白くないと思うけどな……」

 アリシアは煮沸に対してどんなイメージをしているのだろう。
 そのことが気になったが、今は先を急がねばならない。
 サバイバルはスピード勝負だ。

「川の近くに寝床を用意したいが……近すぎても良くない。もう少しだけ離れた場所に移動しようか」

 移動の際は注意を怠らない。
 特に見落としが厳禁なのは、動物の糞と蛇だ。

 動物の糞を見れば、付近にどういう動物が棲息しているか分かる。
 危険な肉食動物の気配を察知したら避けねばならない。

 蛇はうっかり踏むと襲われる。
 種類によっては猛毒を有しているから危険だ。

「この辺にするか」

 遠目に川の上流が見える地点を選んだ。
 洞窟があれば寝床を作る手間が省けたのだが、ないので妥協する。

「どうして此処を選んだのですか?」

「安全度が高そうで、何よりも資源が豊富だからさ」

 特にありがたいのは、何かと役立つ竹の存在だ。

「さて、まずは寝床を作るぞ」

 水分補給の目処がたっているので、衣食住の「住」に取りかかる。
 この世界の気温は20度半ばと快適だが、それでも住居は優先したい。
 雨でビショ濡れになると低体温症のリスクが跳ね上がるからな。

「早速、斧の出番だ」

 俺は竹の籠を地面に置き、中から斧を取りだした。
 それを見たアリシアは、俺の真似をして斧を手に持つ。

「アリシア、この木を叩くぞ」

 俺が目を付けたのは未成熟の細い木だ。
 軽くへし折れそうな幹が情けなく伸びている。

「俺が叩いた所を叩くんだ。いいな?」

「はい!」

 根っこの近くを斧で叩く。
 同じ場所を、今度はアリシアが攻める。
 そうやって交互に何度も斧を打ち付けた。

「こんなものだろう」

 幹が良い感じに削れた。
 軽く手で押すだけでもグラグラと揺れるくらいだ。

「あとは手を使って……」

 両手で幹を持ち、全力で引っ張る。

 バキッ!

 軟弱な木はあっさりと折れた。
 たった20分たらずの作業で立派な材料の獲得だ。

「まだどんな寝床が出来るか分からないだろ?」

「わかりません……!」

「ここから一気に形になっていくぜ」

 後の作業も簡単だ。
 まず、折った木を別の太い木にかける。
 次に、折った木に対し、左右から枝をかけていく。
 これで正面から見ると三角形の寝床が完成した。

 ただし、このままだと骨組みしかない。
 だから、葉っぱや保湿性の高いコケ等を屋根に被せる。
 こうすることによって雨風を凌げて、且つ、温度も保てるわけだ。

 今回は時間に余裕があるので床材も整えておくことにした。
 付近にあった竹を折り、パカッと縦に割って、寝床の床に並べていく。
 断面を下にして、丸みがある部分を上にした。

「よし、完成だ!」

 こうして立派な寝床が出来上がった。
 中は結構な広さをしている。
 大人2人と子供1人が並んで寝転べそうだ。

「わぁー、凄いです! シュウヤ君、中に入ってもいいですか?」

 アリシアの目がキラキラと輝いている。

「かまわないよ」

 俺が許可すると、彼女は大はしゃぎで寝床に入った。

「竹がひんやりしていて気持ちいいです!」

 敷き詰めた竹の上でゴロゴロするアリシア。

「あまり動き回るなよ。家が崩れかねないからな」

「わわっ! すみません!」

「かまわないさ――お邪魔するぜ」

 俺も寝床に入ってみた。
 広さも高さもそれなりで良い感じだ。
 足下が狭いけれど、構造上、これは仕方ない。

「上は広いが下は狭いな。寝る時に脚が当たるかも」

「かまいませんよ!」

 使い勝手を確かめると、俺達は寝床を出た。

「喉が渇いたし水分補給だな」

「煮沸の時間ですね!」

「そうだ」

 遠目に見える川は上流だ。
 勢いもそれなりにある為、水質は非常に良い。
 おそらくだが、そのまま飲んでも問題ないレベルだ。

 それでも煮沸はサボらない。
 サバイバルに油断は禁物だ。

「アリシア、選ばしてやる」

 右の人差し指を川に向ける。

「1つ目の作業は、そこの竹を伐採し、竹の中に川の水を汲むこと」

 今度は竹の籠を指して言う。

「2つ目の作業は、道具を出してこの場で火を起こすこと」

「好きな方を選べってことですか?」

「そうだ。もう一方の作業は俺が引き受ける。これらの作業は二人がかりでやることではないから、手分けして行うぞ」

「分かりました!」

 アリシアが顎に手を当てて考え込む。
 その間、俺は何食わぬ顔で彼女の胸を凝視していた。
 寝床作りの作業によって服が汗ばんでおり、薄手の服を透けて胸が見える。
 この世界にはブラジャーが存在しない為、乳首の輪郭までよく見えた。
 たまらんなぁ。

「決めました! 私、火を起こします!」

「難しい方を選んだか。では頼むぞ」

「はい!」

 寝床から数歩の距離で火を起こしてもらう。
 あまりにも寝床に近すぎると引火する恐れがある。

「シュウヤ君に幻滅されないよう、私、頑張ります!」

「幻滅なんかしないさ」

 現にアリシアはよく働いている。
 好奇心の強さが奏功しているようで、とても積極的だ。
 作業自体も丁寧だし、働きぶりに賞賛こそあれ幻滅はない。

「俺も頑張るか」

 竹の筒を持って川に向かう。
 勢いよく流れる川に筒を入れて水を汲んだ。
 透明の美味しそうな水が空洞だった竹の中を満たす。

「いずれは罠も作らないとなぁ」

 川にはたくさんの魚が棲息している。
 大体は小魚だが、中にはそれなりに大きな物も。

 川魚は最高の食材だ。
 余裕が出来たら罠を作って獲ってやろう、と心に誓った。
しおりを挟む

処理中です...