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009 お風呂
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俺が見せたきりもみ式火起こしは、この世界に住む人の心を鷲掴みにした。
数時間前まではハズレ異世界人として扱われていた俺だが、今では謎のスキル〈サバイバル〉を駆使する凄い人扱いである。
「やった! ついた!」
「クソッ! 俺のはつかねぇ!」
「ヘタクソねぇ! もっと素早くシコシコするのよ!」
「シコり過ぎて腕がいてぇよ! もう!」
今、集落の皆は必死にきりもみ式の火起こしに挑戦している。
訓練場から道端まで、至るところでシコシコ合戦が繰り広げられていた。
「シュウヤ君、つきましたよ!」
アリシアもその一人だ。
彼女は中々に筋が良くて、すぐに着火を成功させていた。
しかし、俺としては、彼女に成功されると困る。
なぜなら……。
「アリシア」
「はい?」
必死につけた炎を水魔法であっさり消化するアリシア。
「もう一度、火を起こすんだ。何度も出来るようになって初めて意味がある」
「わかりました!」
たしかに俺の言葉は間違っていない。
本来、きりもみ式火起こしが必要になるのは、もっと過酷な環境だからだ。
今のように落ち着いてじっくりと取り組める環境ばかりとは限らない。
だからこそ、迅速且つ確実に成功させるようにならねば意味がない。
これはスポットの外で活動することを想定した技術なのだから。
しかし、アリシアに再挑戦させた理由は他にあった。
「んしょっと」
アリシアが火切り板をセットして、棒――火切り杵という――をセット。
棒の先端部――穴の付近に両手を添え、後端の方を豊満な胸で挟む。
もちろん服の上から挟んでいるのだが、実に見事なパイスラッシュだ。
「「ムホホーッ!」」
アリシアが棒をシコシコした瞬間、変態的な声が漏れた。
声の主は俺とチャボスだ。
齢80を超える超級の凄い爺さんも所詮は男。ドスケベだ。
「たまらんのう」
「全くだぜ」
俺達がぐへぐへ笑っていると、アリシアが顔を上げた。
「ふぇ? どうかしましたか?」
「な、なんでもない! 余所見せずに火を起こすんだ!」
「は、はひっ! すみません!」
ホッ。
どうにかバレずに済んだぜ。
「ところで」
チャボスが真顔になる。
「お主は本当にこの手の技術を豊富に知っているのだな?」
「おうよ」
周囲を見渡しながら答える。
筋の良い者が多く、ちらほらと着火が見られた。
……と思いきや、半分ぐらいはズルして魔法を使っていやがる。
あまりにも成功しなくて発狂した挙げ句のことだろう。
「ならばお主は階級に縛られない特別扱いとしよう。いずれは専用の階級を設けるが、今は名も無き特別枠ということで我慢してくれ。いかんせん、このようなことは前例がないのでな」
「扱いが見直されるならなんだってかまわんさ」
「それで、じゃ。今後はお主に皆の教育をお願いしたい。この火起こしを始め、魔法に頼らないで生活出来る術を教えてほしいのじゃ」
「それもかまわないよ。もっと踏み込んで、本物の料理も教えてやるよ。今までの料理とは次元の違う最高の料理をな」
「うんうん、ありがたいことじゃ」
気が緩みかけた所へ、「じゃが」とチャボスが待ったを掛ける。
「料理であったりその他のことであったり、そういった教育を始めてもらう前に、お主の実力をもっと明確にしておきたい。じゃから、実際にスポットの外で1週間ほど生活してもらえぬか?」
「それは追放ってことじゃないんだよな?」
「もちろんじゃ。嫌なら断ってくれてもかまわない。じゃが、今の状態では皆も納得せんだろう。たしかに魔法を使わぬ火起こしは驚嘆に値するが、それだけで魔法に頼らず生活出来るとは言い切れない」
「たしかにそうだな」
「危なくなればワシが魔法で援護する。多少の距離ならスポットの外でも届くから安心するといい。お主の真価がいかほどであれ、その才が人類の未来に役立つことは間違いないからの。死なせることは絶対にない」
悪くない条件だ、と思った。
チャボスの言い分はごもっともだし、俺も外で生活してみたかった。
家の中は安全で安心だが、やはり俺はサバイバル生活をしたいものだ。
「分かった。外で1週間を過ごそう。スポット内の道具は持ち出してもいいのか? 問題なければ竹の背負い籠やきりもみ式の火起こし道具を持って行きたいんだ。無理なら自分で作るからかまわないが」
「無論、持ち出してくれてかまわない」
「了解。出発は明日でいいか? 今日は魔法の訓練で疲れたから休みたいんだ」
魔法を使うのは簡単だが、慣れていないから使用後の疲労が半端ない。
睡眠不足の状態でプールを泳いだ後のような気怠さがのしかかている。
正直、今すぐにでも布団にダイブしてぐっすり眠りたかった。
「明日からということで承知した。それでは、ワシはこれで失礼する。今後もよろしくな、シュウヤ」
「おうよ」
チャボスは皆に向かって「作業を忘れないように」と釘を刺してから家に戻っていった。
「アリシア」
「つきました!」
俺が名前を呼んだ瞬間、アリシアが火起こしに成功した。
ウキウキの素晴らしい笑顔でこちらを見てくる。
「疲れたから帰るぞ」
「はい!」
俺達は火起こしに夢中の人々を横切りながら家に向かった。
◇
この家には風呂がない。
そもそも風呂という概念がないので、当然ながら浴室も存在しない。
だから、浴室を作ることにした。魔法で。
「こちらでよろしいのでしょうか?」
「おうよ」
魔法を使えばリフォームなど楽ちんだ。
風魔法で新しくしたい部分だけを切り取り、再構築する。
その作業をアリシアが行い、俺は土魔法でデザインを決めた。
土魔法では、土を自由自在に操れる。
土で何かしらの造形をしたり、土の質を変化させたり。
良質な粘土が求められる場面では、土魔法が活躍しそうだ。
「この何もない空間を浴室と言うのですか?」
「何もないことないだろう。浴槽があるじゃないか」
「この蓋のない木箱が浴槽ですか?」
「そうだ」
俺達は出来たての浴室で話をしている。
アリシアは浴槽も浴室も知らないから興味津々だ。
浴槽はかなり大きくデザインした。
脚を伸ばせるのは当然として、数人が並んで座れる幅がある。
俺はサバイバル好きだが、同じくらいに風呂が好きなのだ。
シャワーで済ませる、なんて考えは理解できない。
「風呂ってのは、この浴槽にお湯を張り、そこに入る行為だ」
火と水の混合魔法で浴槽に湯を張る。
温度は体感で約40度といったところ。それほど熱くない。
「それじゃ、俺は入浴を楽しむから居間で過ごしていてくれ」
アリシアと共に脱衣所に向かう。
浴室の広さとは対照的に、脱衣所は狭い。
「むっ?」
首を傾げる俺。
アリシアが脱衣所から出ようとしないのだ。
脱衣所と居間を繋ぐ扉の開閉部に立っている。
「あの、シュウヤ君、私もお風呂に入ってみたいのですが」
「だったら俺の後で入ればいいよ」
「でも、一人だと、お風呂の作法が分かりません」
「入る前にお湯を身体に掛けて綺麗にして入るだけだ。満足したら上がればいい」
「ですが、初めてのお風呂を一人でというのは不安で……」
「そうは言っても、一緒に入るのは難しいだろ」
「どうしてですか?」
「どうしてって、お前は女で俺は男だぞ。一緒に入るということは、俺に裸を見せるってことだぞ。恥ずかしいだろ?」
「それは……」
ようやく気がついたようだ。
アリシアの顔がポッと赤くなっていく。
その状態でしばらく固まった後、アリシアは言った。
「かまいません!」
「へっ?」
「裸、見られてもかまいません!」
「ちょ、マジ?」
「だって、仕方ないじゃないですか!」
「仕方ないって……」
「恥ずかしいですが、お風呂にも興味あるんです。ちゃんとした作法で、お風呂を楽しみたいんです。だから、恥ずかしいのは我慢します!」
「おいおいおい」
「もう決めましたから!」
アリシアが服を脱ぎ始める。
傷のない美しい肌があらわになっていく。
当然ながらおっぱいも……。
「さ、入りましょう! シュウヤ君!」
「シュウヤ君も早く脱いでください!」
アリシアが強引に服を脱がせてくる。
上から順に脱がしていき、上半身が裸になると下へ。
ズボンを脱がし、そして、パンツに手を掛ける。
「あれ、なんだか引っかかって――」
パンツを脱がすのだけは手こずっていた。
どうやらナニかが引っかかってしまったようだ。
致し方ない。男だもの。
「いざお風呂へ! です!」
「お、おう」
異世界で最初の風呂は、可愛くて巨乳な美女との混浴になった。
数時間前まではハズレ異世界人として扱われていた俺だが、今では謎のスキル〈サバイバル〉を駆使する凄い人扱いである。
「やった! ついた!」
「クソッ! 俺のはつかねぇ!」
「ヘタクソねぇ! もっと素早くシコシコするのよ!」
「シコり過ぎて腕がいてぇよ! もう!」
今、集落の皆は必死にきりもみ式の火起こしに挑戦している。
訓練場から道端まで、至るところでシコシコ合戦が繰り広げられていた。
「シュウヤ君、つきましたよ!」
アリシアもその一人だ。
彼女は中々に筋が良くて、すぐに着火を成功させていた。
しかし、俺としては、彼女に成功されると困る。
なぜなら……。
「アリシア」
「はい?」
必死につけた炎を水魔法であっさり消化するアリシア。
「もう一度、火を起こすんだ。何度も出来るようになって初めて意味がある」
「わかりました!」
たしかに俺の言葉は間違っていない。
本来、きりもみ式火起こしが必要になるのは、もっと過酷な環境だからだ。
今のように落ち着いてじっくりと取り組める環境ばかりとは限らない。
だからこそ、迅速且つ確実に成功させるようにならねば意味がない。
これはスポットの外で活動することを想定した技術なのだから。
しかし、アリシアに再挑戦させた理由は他にあった。
「んしょっと」
アリシアが火切り板をセットして、棒――火切り杵という――をセット。
棒の先端部――穴の付近に両手を添え、後端の方を豊満な胸で挟む。
もちろん服の上から挟んでいるのだが、実に見事なパイスラッシュだ。
「「ムホホーッ!」」
アリシアが棒をシコシコした瞬間、変態的な声が漏れた。
声の主は俺とチャボスだ。
齢80を超える超級の凄い爺さんも所詮は男。ドスケベだ。
「たまらんのう」
「全くだぜ」
俺達がぐへぐへ笑っていると、アリシアが顔を上げた。
「ふぇ? どうかしましたか?」
「な、なんでもない! 余所見せずに火を起こすんだ!」
「は、はひっ! すみません!」
ホッ。
どうにかバレずに済んだぜ。
「ところで」
チャボスが真顔になる。
「お主は本当にこの手の技術を豊富に知っているのだな?」
「おうよ」
周囲を見渡しながら答える。
筋の良い者が多く、ちらほらと着火が見られた。
……と思いきや、半分ぐらいはズルして魔法を使っていやがる。
あまりにも成功しなくて発狂した挙げ句のことだろう。
「ならばお主は階級に縛られない特別扱いとしよう。いずれは専用の階級を設けるが、今は名も無き特別枠ということで我慢してくれ。いかんせん、このようなことは前例がないのでな」
「扱いが見直されるならなんだってかまわんさ」
「それで、じゃ。今後はお主に皆の教育をお願いしたい。この火起こしを始め、魔法に頼らないで生活出来る術を教えてほしいのじゃ」
「それもかまわないよ。もっと踏み込んで、本物の料理も教えてやるよ。今までの料理とは次元の違う最高の料理をな」
「うんうん、ありがたいことじゃ」
気が緩みかけた所へ、「じゃが」とチャボスが待ったを掛ける。
「料理であったりその他のことであったり、そういった教育を始めてもらう前に、お主の実力をもっと明確にしておきたい。じゃから、実際にスポットの外で1週間ほど生活してもらえぬか?」
「それは追放ってことじゃないんだよな?」
「もちろんじゃ。嫌なら断ってくれてもかまわない。じゃが、今の状態では皆も納得せんだろう。たしかに魔法を使わぬ火起こしは驚嘆に値するが、それだけで魔法に頼らず生活出来るとは言い切れない」
「たしかにそうだな」
「危なくなればワシが魔法で援護する。多少の距離ならスポットの外でも届くから安心するといい。お主の真価がいかほどであれ、その才が人類の未来に役立つことは間違いないからの。死なせることは絶対にない」
悪くない条件だ、と思った。
チャボスの言い分はごもっともだし、俺も外で生活してみたかった。
家の中は安全で安心だが、やはり俺はサバイバル生活をしたいものだ。
「分かった。外で1週間を過ごそう。スポット内の道具は持ち出してもいいのか? 問題なければ竹の背負い籠やきりもみ式の火起こし道具を持って行きたいんだ。無理なら自分で作るからかまわないが」
「無論、持ち出してくれてかまわない」
「了解。出発は明日でいいか? 今日は魔法の訓練で疲れたから休みたいんだ」
魔法を使うのは簡単だが、慣れていないから使用後の疲労が半端ない。
睡眠不足の状態でプールを泳いだ後のような気怠さがのしかかている。
正直、今すぐにでも布団にダイブしてぐっすり眠りたかった。
「明日からということで承知した。それでは、ワシはこれで失礼する。今後もよろしくな、シュウヤ」
「おうよ」
チャボスは皆に向かって「作業を忘れないように」と釘を刺してから家に戻っていった。
「アリシア」
「つきました!」
俺が名前を呼んだ瞬間、アリシアが火起こしに成功した。
ウキウキの素晴らしい笑顔でこちらを見てくる。
「疲れたから帰るぞ」
「はい!」
俺達は火起こしに夢中の人々を横切りながら家に向かった。
◇
この家には風呂がない。
そもそも風呂という概念がないので、当然ながら浴室も存在しない。
だから、浴室を作ることにした。魔法で。
「こちらでよろしいのでしょうか?」
「おうよ」
魔法を使えばリフォームなど楽ちんだ。
風魔法で新しくしたい部分だけを切り取り、再構築する。
その作業をアリシアが行い、俺は土魔法でデザインを決めた。
土魔法では、土を自由自在に操れる。
土で何かしらの造形をしたり、土の質を変化させたり。
良質な粘土が求められる場面では、土魔法が活躍しそうだ。
「この何もない空間を浴室と言うのですか?」
「何もないことないだろう。浴槽があるじゃないか」
「この蓋のない木箱が浴槽ですか?」
「そうだ」
俺達は出来たての浴室で話をしている。
アリシアは浴槽も浴室も知らないから興味津々だ。
浴槽はかなり大きくデザインした。
脚を伸ばせるのは当然として、数人が並んで座れる幅がある。
俺はサバイバル好きだが、同じくらいに風呂が好きなのだ。
シャワーで済ませる、なんて考えは理解できない。
「風呂ってのは、この浴槽にお湯を張り、そこに入る行為だ」
火と水の混合魔法で浴槽に湯を張る。
温度は体感で約40度といったところ。それほど熱くない。
「それじゃ、俺は入浴を楽しむから居間で過ごしていてくれ」
アリシアと共に脱衣所に向かう。
浴室の広さとは対照的に、脱衣所は狭い。
「むっ?」
首を傾げる俺。
アリシアが脱衣所から出ようとしないのだ。
脱衣所と居間を繋ぐ扉の開閉部に立っている。
「あの、シュウヤ君、私もお風呂に入ってみたいのですが」
「だったら俺の後で入ればいいよ」
「でも、一人だと、お風呂の作法が分かりません」
「入る前にお湯を身体に掛けて綺麗にして入るだけだ。満足したら上がればいい」
「ですが、初めてのお風呂を一人でというのは不安で……」
「そうは言っても、一緒に入るのは難しいだろ」
「どうしてですか?」
「どうしてって、お前は女で俺は男だぞ。一緒に入るということは、俺に裸を見せるってことだぞ。恥ずかしいだろ?」
「それは……」
ようやく気がついたようだ。
アリシアの顔がポッと赤くなっていく。
その状態でしばらく固まった後、アリシアは言った。
「かまいません!」
「へっ?」
「裸、見られてもかまいません!」
「ちょ、マジ?」
「だって、仕方ないじゃないですか!」
「仕方ないって……」
「恥ずかしいですが、お風呂にも興味あるんです。ちゃんとした作法で、お風呂を楽しみたいんです。だから、恥ずかしいのは我慢します!」
「おいおいおい」
「もう決めましたから!」
アリシアが服を脱ぎ始める。
傷のない美しい肌があらわになっていく。
当然ながらおっぱいも……。
「さ、入りましょう! シュウヤ君!」
「シュウヤ君も早く脱いでください!」
アリシアが強引に服を脱がせてくる。
上から順に脱がしていき、上半身が裸になると下へ。
ズボンを脱がし、そして、パンツに手を掛ける。
「あれ、なんだか引っかかって――」
パンツを脱がすのだけは手こずっていた。
どうやらナニかが引っかかってしまったようだ。
致し方ない。男だもの。
「いざお風呂へ! です!」
「お、おう」
異世界で最初の風呂は、可愛くて巨乳な美女との混浴になった。
応援ありがとうございます!
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