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003 異世界の言語
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俺は拠点の中央付近にあるひときわ大きな家に連行された。
この家も木造の平屋で、外観は他の家々とそれほど大差ない。
玄関で靴を脱いでから奥へ進まされる。
靴を脱ぐ文化は日本と同じみたいだ。
「※♪□×△!」
俺の靴を見て、俺を連行してきた2人が驚く。
どうやらスニーカーというものを知らないようだ。
異世界人が履いている靴は、俺の物より遙かに簡素な作りだ。
日本でいうところのスポーツサンダルに区分される代物である。
材料は背負っている籠と同じで竹ひごを主体としているようだ。
道中で物珍しそうに俺を見てきた他の異世界人達も同様の物を履いていた。
老若男女問わず、この竹製スポーツサンダルが基本装備なのだろう。
(間取りは日本と違うな)
家の中にはリビングとキッチンしかない。
大半をリビングが占めている為、かなりだだっ広く感じる。
「※♪×□△△○!」
俺はリビングの中央付近に座らされた。
目の前には囲炉裏がある。
囲炉裏を見るのは久しぶりのことだ。
日本の都会ではそうそうお目にかかれるものではない。
なんだか懐かしい気分になると同時に、新たな疑問が浮かんだ。
(文明レベルが未知数だな)
スパッと切られた木の断面を見た時はハイテクな世界かと思った。
しかし、その他に関しては、全体的に日本よりも遅れているようだ。
建造物は木造オンリーであり、コンクリートの気配が見られない。
それどころか鉄器や漆器といったものすら存在していなかった。
鉄はともかく、漆器がないのは不思議でならない。
此処へ来る道中の森には、良い感じに育った漆の木を見つけた。
エゴマの存在も確認できたし、漆器を作る環境自体は整っている。
もしかすると、漆器の存在を知らないのかもしれない。
(それよりも今は……)
最優先で考えるべきことは文明レベルではない。
囲炉裏の向こうに座っている老人が何者かということだ。
その老人は見るからに仙人である。
ツルピカ頭に太くて白い眉。極めつけは長すぎる白髭。
還暦は随分と昔に終わったよ、と言いたげな面構えだ。
この老人は偉い人に違いない。
俺を連行してきた2人組を見てそう思った。
彼らは明らかにこの老人のことを敬っている。
言語が不明でも、仕草を見れば一目瞭然だった。
(あいつらのお仕事はこれで終了か)
2人組が俺を残してその場から去っていく。
こうして無駄に広いリビングには、俺と老人だけが残った。
「あんたは俺の言葉が分かるか?」
尋ねてみる。
もしかしたら日本語が分かるかもしれない。
そんな思いはあっさりと打ち砕かれた。
「※△、○×□」
老人は立ち上がると、謎の言語を口にしたのだ。
何やら魔法を発動したようで、老人の右手が青く光っている。
「なんだ、なにをするんだ!?」
老人がこちらへ近づいてくる。
そして、青く光った手を俺の頭にポンッとのせた。
「――!」
俺の脳に得も言えぬ衝撃が走った。
脳内がモヤモヤしたと思いきや、次の瞬間にはスッキリ。
まるで1週間越しのオナ禁を解き放ったかのような爽快感に包まれた。
「これで言葉が分かるじゃろ?」
老人が俺を見て微笑む。
優しさに溢れる皺だらけの顔をしている。
いや、そんなことはどうでもいい。
「日本語を喋っているだと!?」
俺はそのことに驚いた。
老人が俺と同じ言語で話しているのだ。
「お主の言葉は日本語というのか」
「な、何を言っている……?」
意味が分からずに首を傾げる。
老人は「そうじゃのう」と白髭を触りながら考え込む。
少ししてから説明してくれた。
「お主には超級魔法〈インストール〉を使った。これによって、この世界の言語を、異世界人であるお主の言語――つまり日本語に上書きしたのだ」
「つまり、俺は今、日本語を話していると思い込んでいるけど、実際にはこの世界の言葉を話しているということか?」
「そういうことじゃ、話が早くて助かるのう」
驚くほどあっさりと理解出来た。
此処へ来る前に魔法を見ていたのが大きい。
そうでなければパニックに陥っていたはずだ。
「じゃあさ、今の俺が日本語を聞いたらどう感じるんだ?」
「お主が先ほどまで耳にしていたこの世界の言葉のように感じる。申し訳ないが、お主は元いた世界の言葉を忘れてしまったのじゃよ」
「そうなんだ」
「反応、薄ッ! 悲しんだりしないのか!?」
驚愕する老人。
俺は「いやぁ、あんまり」と笑った。
「日本に欠片ほどの未練がないっていうか、むしろこの世界の方が日本より面白そうだからな。知らない言語をチマチマ覚えなくて済んだのはありがたいよ」
俺の夢はガチなサバイバル生活を送ること。
日本で過ごしている限り、それを叶えるのは困難だった。
しかし、この世界であれば、わりと容易に夢を叶えられそう。
日本より遥かに危険そうな世界だが、こちらの方が魅力は上だ。
「既に分かっているようだが、俺は別の世界から此処へ来たんだ。だから此処のイロハがよく分からない。爺さん、教えてくれないか」
老人は「もちろんじゃ」と微笑む。
「その為にロイヤルクイーンスネークからお主を救ったのじゃ」
「あの巨大な蛇のことか。爺さんが倒したんだな」
「うむ。此処から上級の風魔法を使ってな。
その辺のことも、集落の案内をしながら順を追って話すとしよう」
老人はこちらに手を差し伸べ、立つように促してくる。
「まずは自己紹介じゃ。ワシの名はチャボス。此処〈オオサカ〉のリーダーを務めている。此処の者が『長老』と言えば、それはワシのことじゃ」
俺は立ち上がり、老人ことチャボス長老と握手を交わす。
「俺はシュウヤだ。18歳。一般的な高校3年生だ」
「高校……? なんぞや、それは」
俺は「落ち着いたら順を追って話すよ」と微笑む。
言葉が通じるようになったことで、不安は一気に和いでいた。
この家も木造の平屋で、外観は他の家々とそれほど大差ない。
玄関で靴を脱いでから奥へ進まされる。
靴を脱ぐ文化は日本と同じみたいだ。
「※♪□×△!」
俺の靴を見て、俺を連行してきた2人が驚く。
どうやらスニーカーというものを知らないようだ。
異世界人が履いている靴は、俺の物より遙かに簡素な作りだ。
日本でいうところのスポーツサンダルに区分される代物である。
材料は背負っている籠と同じで竹ひごを主体としているようだ。
道中で物珍しそうに俺を見てきた他の異世界人達も同様の物を履いていた。
老若男女問わず、この竹製スポーツサンダルが基本装備なのだろう。
(間取りは日本と違うな)
家の中にはリビングとキッチンしかない。
大半をリビングが占めている為、かなりだだっ広く感じる。
「※♪×□△△○!」
俺はリビングの中央付近に座らされた。
目の前には囲炉裏がある。
囲炉裏を見るのは久しぶりのことだ。
日本の都会ではそうそうお目にかかれるものではない。
なんだか懐かしい気分になると同時に、新たな疑問が浮かんだ。
(文明レベルが未知数だな)
スパッと切られた木の断面を見た時はハイテクな世界かと思った。
しかし、その他に関しては、全体的に日本よりも遅れているようだ。
建造物は木造オンリーであり、コンクリートの気配が見られない。
それどころか鉄器や漆器といったものすら存在していなかった。
鉄はともかく、漆器がないのは不思議でならない。
此処へ来る道中の森には、良い感じに育った漆の木を見つけた。
エゴマの存在も確認できたし、漆器を作る環境自体は整っている。
もしかすると、漆器の存在を知らないのかもしれない。
(それよりも今は……)
最優先で考えるべきことは文明レベルではない。
囲炉裏の向こうに座っている老人が何者かということだ。
その老人は見るからに仙人である。
ツルピカ頭に太くて白い眉。極めつけは長すぎる白髭。
還暦は随分と昔に終わったよ、と言いたげな面構えだ。
この老人は偉い人に違いない。
俺を連行してきた2人組を見てそう思った。
彼らは明らかにこの老人のことを敬っている。
言語が不明でも、仕草を見れば一目瞭然だった。
(あいつらのお仕事はこれで終了か)
2人組が俺を残してその場から去っていく。
こうして無駄に広いリビングには、俺と老人だけが残った。
「あんたは俺の言葉が分かるか?」
尋ねてみる。
もしかしたら日本語が分かるかもしれない。
そんな思いはあっさりと打ち砕かれた。
「※△、○×□」
老人は立ち上がると、謎の言語を口にしたのだ。
何やら魔法を発動したようで、老人の右手が青く光っている。
「なんだ、なにをするんだ!?」
老人がこちらへ近づいてくる。
そして、青く光った手を俺の頭にポンッとのせた。
「――!」
俺の脳に得も言えぬ衝撃が走った。
脳内がモヤモヤしたと思いきや、次の瞬間にはスッキリ。
まるで1週間越しのオナ禁を解き放ったかのような爽快感に包まれた。
「これで言葉が分かるじゃろ?」
老人が俺を見て微笑む。
優しさに溢れる皺だらけの顔をしている。
いや、そんなことはどうでもいい。
「日本語を喋っているだと!?」
俺はそのことに驚いた。
老人が俺と同じ言語で話しているのだ。
「お主の言葉は日本語というのか」
「な、何を言っている……?」
意味が分からずに首を傾げる。
老人は「そうじゃのう」と白髭を触りながら考え込む。
少ししてから説明してくれた。
「お主には超級魔法〈インストール〉を使った。これによって、この世界の言語を、異世界人であるお主の言語――つまり日本語に上書きしたのだ」
「つまり、俺は今、日本語を話していると思い込んでいるけど、実際にはこの世界の言葉を話しているということか?」
「そういうことじゃ、話が早くて助かるのう」
驚くほどあっさりと理解出来た。
此処へ来る前に魔法を見ていたのが大きい。
そうでなければパニックに陥っていたはずだ。
「じゃあさ、今の俺が日本語を聞いたらどう感じるんだ?」
「お主が先ほどまで耳にしていたこの世界の言葉のように感じる。申し訳ないが、お主は元いた世界の言葉を忘れてしまったのじゃよ」
「そうなんだ」
「反応、薄ッ! 悲しんだりしないのか!?」
驚愕する老人。
俺は「いやぁ、あんまり」と笑った。
「日本に欠片ほどの未練がないっていうか、むしろこの世界の方が日本より面白そうだからな。知らない言語をチマチマ覚えなくて済んだのはありがたいよ」
俺の夢はガチなサバイバル生活を送ること。
日本で過ごしている限り、それを叶えるのは困難だった。
しかし、この世界であれば、わりと容易に夢を叶えられそう。
日本より遥かに危険そうな世界だが、こちらの方が魅力は上だ。
「既に分かっているようだが、俺は別の世界から此処へ来たんだ。だから此処のイロハがよく分からない。爺さん、教えてくれないか」
老人は「もちろんじゃ」と微笑む。
「その為にロイヤルクイーンスネークからお主を救ったのじゃ」
「あの巨大な蛇のことか。爺さんが倒したんだな」
「うむ。此処から上級の風魔法を使ってな。
その辺のことも、集落の案内をしながら順を追って話すとしよう」
老人はこちらに手を差し伸べ、立つように促してくる。
「まずは自己紹介じゃ。ワシの名はチャボス。此処〈オオサカ〉のリーダーを務めている。此処の者が『長老』と言えば、それはワシのことじゃ」
俺は立ち上がり、老人ことチャボス長老と握手を交わす。
「俺はシュウヤだ。18歳。一般的な高校3年生だ」
「高校……? なんぞや、それは」
俺は「落ち着いたら順を追って話すよ」と微笑む。
言葉が通じるようになったことで、不安は一気に和いでいた。
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