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010 環境の改善

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 収穫までの間、私の作業は水やりと肥料撒きしかない。
 ここで言う肥料とは、魔法肥料ではなく一般的なものだ。
 作物の成長を促進するためのものである。

 魔法肥料の入っている土壌の場合、肥料撒きの間隔が普通とは異なる。
 生育中は毎日行うことが望ましいとされていた。
 なので、水やりと同時に粒状の肥料もぶわーっと撒いていく。

「ちょろっと働いたらぐーたらしようと思っていたけど、今でも十分過ぎるほど暇だー」

 私の作業を眺めているボルビーが「モー」と同意する。

「よし! 待っている間に農園の環境を整えよう!」

 私はお店に行って大工道具と木材を買った。
 それを使って畑の周囲を木の柵で囲む。
 業者に依頼すると高い工賃を取られるが、自分でやればタダだ。

「作物を害獣に奪われるわけにはいかないからねー、ふふふーん!」

「モモモー♪」

 ハンマーをガンガン振るって木の杭を刺していく。
 杭と杭の間に板を打ち付けて、お手製の簡単な柵が完成。

「他所の畑にはカカシが立っていたし、ウチも導入するかー!」

「モー!」

 ということでカカシも作ることにした。
 畑の適当な隙間に十字の木を立たせ、それに藁を結びつける。
 カカシの作り方など知らないけれど、勘に任せてもどうにかなった。

「これでよし!」

 一日かけて柵とカカシが完成。

「もしかして私って働き者かな!?」

「モー」

 ボルビーが「かもなぁ」と言いたげに鳴いた。

 ◇

 一週間が経った。
 その間の生活は、驚くほど変化がなかった。

 私は朝になると朝食を作って農作業をする。
 フリックスは優雅にコーヒーを飲んだら株式投資。

 11時30分までに私は昼ご飯の準備を済ませる。
 11時30分から12時30分までは株式市場が閉まっているからだ。
 フレックスはその間に昼食を済ませるので、私もそこで昼休憩。

 食事が終わったらフレックスは株式投資を再開。
 私は家の掃除などをして、終わったら夕食の買い出しへ。

 その後は夕飯を一緒に食べて……と続く。
 ライルの館に住んでいた時と殆ど大差のない暮らしだった。
 違いと言えば農作業をしていることくらいだ。

「小説とかだとイベントが盛りだくさんなのに、現実ってこんなものよねー」

 朝、収穫を済ませた私は、ペッパーマンを待っていた。
 横になっているボルビーのお腹に頭を乗せて、ぐでーんと脚を伸ばす。
 近くには高価な野菜でいっぱいの木箱が山積みになっている。
 思っていた以上の収穫量だった。

「ボルビーはどう思う? フレックスさんのこと」

「モー?」

「町の人はからかってくるじゃん?」

「モー」

「でも実際は一週間前から何も変わっていないじゃん?」

「モー」

「どうなんでしょうねぇ!」

「モー!」

 ガーラクランは小さな町だ。
 1週間も活動していれば、町の人に顔を覚えられる。
 そうなると自然と会話も生まれた。

 私がフレックスの家に住んでいることは大勢が知っている。
 年寄りが多い町なので、「お熱いねぇ」などとよく言われた。
 皆は私とフレックスが相思相愛で同棲していると思っているのだ。
 そういう関係ではないと否定しても信じてもらえなかった。

(私とフレックスさんの関係って、どう表現するのが適切なのかな)

 改めて考えてみると分からなかった。
 友達と呼べるほどの仲ではなく、当然ながら恋愛とは程遠い。

 しかし、一緒に過ごしていて嫌になることは一度もなかった。
 話していて楽しいのも事実だ。
 そういう意味においては、パートナーという言葉がしっくりくる。

 ただ、お互いに距離を置いている感じがあった。
 例えば、私は未だにフレックスの素顔を見たことがない。
 もはや黄金のマスクが本体なのではないかと思うほどだ。

 フレックスも私に同じような感覚を抱いているだろう。
 私は自分をさらけだすのが得意なほうではないらしいから。
 自覚はないけれど、ライルによくそう指摘されたものだ。

「へい! アイリスちゃん!」

 そんなことを考えているとペッパーマンが現れた。
 今回も二頭立ての立派な馬車に乗っている。

「今日はガッツリ稼がせてもらいますよー!」

 ニィと笑う私。

「おー! それは楽しみだ!」

「ふっふっふ! それではご覧あれ! これが今回の収穫物!」

 私は「どーん!」と言いながら木箱を開けた。
 アスパラガス、サフラン、アンティチョークが姿を現す。
 見た目の良さを意識して赤玉ねぎも入れておいた。

「こ、これは……!」

 箱の中を見るなり、ペッパーマンの目の色が変わった。
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