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032 同級生PT

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 それは先日、龍斗が「家を買ったので今度からそっちで過ごす」と両親に報告した時だった。

「後藤君のこと覚えてるよね?」

 母親が龍斗に尋ねた。

「もちろん覚えているよ」

 後藤君とは、龍斗の同級生兼ご近所さんの後藤友介ゆうすけのことだ。茶髪のチャラ男で、中学時代は女垂らしとして有名だった。

 龍斗の母親と後藤の母親はママ友だが、その関係は「友」と呼べるほどのものではない。笑顔の裏で、息子や旦那のステータスでマウントを取り合っていたのだ。口を開けば自虐風自慢のカードが飛び交っていた。

「後藤君、可哀想なことに高校の授業についていけていないらしくてね」

 母親は嬉々とした様子で話す。とても「可哀想なこと」には見えない。龍斗は後藤のことを話す時の母親が嫌いだった。汚い部分が垣間見えるからだ。

「で、俺は何をしたらいいの? 前置きとか細かい説明とかは端折ってくれていいから用件だけを教えてくれ。都合がつくなら引き受ける」

「後藤君やそのお友達と一緒に魔物を狩ってもらいたいのよ。龍斗、凄い冒険者でしょ? だから後藤君たちが無事にいられるよう守ってあげて」

 ――ということで、龍斗は同級生たちと組むこととなり、その日がやってきた。

「来たな龍斗、おひさじゃん!」

 あきる野市にある小峰こみね公園の傍で、龍斗たちは合流した。

 龍斗と後藤の他に、二人の女子もその場にいた。

「陣川、私のこと覚えてるー?」

 ピンクブラウンのミディアムが特徴的な女子が言う。

「覚えてるよ。杉浦麻衣すぎうらまいでしょ」

「そうだけど、なんでフルネーム!?」

 麻衣は龍斗と同じ中学校に通っていた。後藤の恋人であり、三日付き合っては別の女に乗り換えていた後藤が心から惚れた唯一の女だ。それだけに容姿はトップクラスで、中学時代は不動の一番人気だった。武器は背中に装備している細身の槍だ。槍投げで使われていそうな代物である。

「そっちの人は知らないな」

 龍斗の目がもう一人の女に向く。黒髪ロングの大人しそうな女子だ。後藤や麻衣とは醸し出す雰囲気が違っていた。腰に装備している短剣は新品未使用といった綺麗さで、戦闘経験の乏しさを物語っている。

「南條愛果あいか、麻衣の友達さ」

「よろしくね、龍斗君」

 愛果がペコリと頭を下げる。他に比べて小さめの声だ。

「愛果、すごい可愛いでしょ! 高校ではモテモテだよ! 陣川、いいとこ見せて愛果をモノにしちゃえ!」

 麻衣が茶化すように言う。

「へぇ、麻衣のその言い方から察するに、愛果には彼氏がいないのか」

「そだよー」と軽い調子で答える麻衣。

「つか、相変わらずナチュラルに女を下の名で呼ぶのな」

 後藤は冗談ぽく言いつつ、実際は恋人が下の名で呼ばれたことに嫌悪感を抱いていた。

「で、俺は何をすればいいの? 母さんからは三人とPTを組むようにとしか言われてないけど」

 自己紹介が済んだので本題に入る。

「龍斗、お前、今は冒険者なんだよな?」

「そうだよ」

「レベルは30以上か?」

「そうだけど」

「なら問題ない!」

「意味が分からない。俺は何をすればいいんだ?」

 話の要点が見えてこないことに苛立つ龍斗。

「俺たちと一緒に狩場に行ってくれるだけでいい」

「行くだけ? 戦わなくていいのか?」

「ああ、そうだ。お前は中卒だから知らないと思うが、高校生が冒険者として活動するには、レベル30以上の冒険者にPTを組んでもらう必要があるんだよ。それで母さんに頼んでお前を呼んだってわけだ」

「なるほど。で、どこへ狩りにいくんだ? スライムか?」

「そんなザコは論外だ」

「ならどこがいいんだ?」

「レッドゴブリンの巣を襲撃しようと思っている」

 龍斗の顔が青くなる。思ったよりも厄介な敵を選んだからだ。

「正気か? レッドゴブリンはそこそこ強いぞ」

「やっぱり危険だよね」と麻衣。

「龍斗君、レッドゴブリンに挑んでも本当に大丈夫?」

 愛果も不安そうだ。

「いやぁ」

 龍斗がそう言った時だった。

「大丈夫だって!」

 後藤が強い口調で断言する。

「自信があるのか?」

「もちろんだ」

 後藤は大きく頷き、左右の脇に差している剣を手で叩いた。それから龍斗に耳打ちする。

「最近、学校で麻衣のことを狙ってる男がいんだよ。そいつに奪われない為にも、ここでちょっとかっこつけてーんだ。だからあんまり不安を煽らないでくれ」

 龍斗は「自信があるならいいけど」とだけ返す。

「ありがとう。上手いこといったら愛果をあてがってやるから。お前のタイプだろ、ああいう静かそうな女。だから頼むぜ」

 後藤は耳打ちを終えると、「さぁ行こうぜ!」と話を切り上げる。

「よろしくね、龍斗君」

 愛果がニコッと微笑む。

 それを見た龍斗は思った。たしかに俺のタイプだな、と。
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