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012 ブラックライオン

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 百獣の王ことライオンを模した魔物ブラックライオン。

 その習性は一般的なライオンと似ている。

 睡眠時間が異様に長いのだ。一日の半分以上を寝たまま過ごしている。

(本当に起きないだろうな……?)

 慎重にボスとの距離を詰める龍斗。目標は〈チャージキャノン〉を確実且つ十分な火力でぶち込める20メートル圏内。たった数十メートル先のその距離が、今は限り無く遠く感じられた。

「頑張れ、龍斗」

「ファイトなのです」

 仁美とポポロは両手を合わせて龍斗の成功を祈っている。

(もう少し、もう少しだ……)

 近づくにつれて視界に占めるブラックライオンの割合が増えていく。

(大丈夫だよな……? 本当に、大丈夫だよな……?)

 ブラックライオンが起きている時間は午前5時から9時までの4時間のみ。それ以外は常に寝ており、起きるのは触れられたり攻撃を受けたりした場合に限る。どれだけ悪臭を漂わせていたとしても、近づくだけでは決して起きない。

 それが龍斗の文献で得た知識であり、正しい情報でもある。しかし、実際に対峙してみると、正しい情報でも鵜呑みにすることはできなかった。こういう時に自信を与えてくれるのは経験則によるリアルなデータだけだ。

(よし、射程圏に入ったぞ!)

 恐怖のあまり大量の汗を流しながらも、龍斗は目標の場所に達した。

「理論を証明させてもらうぞ」

 深呼吸すると、龍斗は〈チャージキャノン〉を発動した。

 彼の目の前に巨大な大砲が現れる。

「なにあれ」と驚く仁美。

「〈チャージキャノン〉なのです。たくさん溜めてドッカンするのです」

「そんなスキルあるんだ? 初めて見た!」

「設置した場所から動かせない上にチャージ時間も必要ということで、好んで使う人はいないのです」

「龍斗のやつ、あれでボスをやるつもり!?」

 二人の会話が聞こえていたので、龍斗は振り返って答えた。

「そのつもりさ」

 キャノンの砲門をライオンの顔に向けてチャージを開始する。

(頼む、起きるな、起きるな!)

 今回の対ブラックライオンに関する理論で、龍斗が不安視していたのがチャージ時間だ。この時間をブラックライオンが攻撃として認識するかどうかは分からなかった。

 直接触れてはいないものの、スキル自体は既に発動している。だから、既に攻撃は始まっているものと認識されてもおかしくない。

 そして、もしもそう思われた場合、ライオンはチャージが完了する前に目を覚ます。つまり、龍斗たちの敗北が確定するのだ。

(早く終われよ、チャージ!)

 龍斗の掌が汗の洪水を起こす。

「終わった……!」

 悠久にも感じられたチャージ時間がどうにか終わる。ライオンはチャージを攻撃とは認識していなかったのだ。

「俺のレベルは50、ステータスは攻撃全振り、スキルもこのキャノンを特化している。理論上は間違いなく一撃で殺せるはずだ」

 自分にそう言い聞かせて、龍斗は溜めに溜めたキャノンに命令する。

「発射!」

 放たれる光の砲弾。

 砲撃による爆音が鳴り響く。

 そして、彼の視界を煙が遮った。
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