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001 第二の人生は冒険者

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 スキルやレベルが存在し、魔物が跋扈する現代――。

 群馬県の山奥に住む一人の男が、短い生涯を終えようとしていた。

 男にとって、人生は実に残酷だった。

 最初に志したのは魔物退治を生業とする者――冒険者だ。しかし、先天的な虚弱体質によって早々にその夢を諦めることになった。

 冒険者になれないのであれば、と男は学者の道を歩んだ。冒険者に貢献するべく、効率的にレベルを上げる為の理論を考えた。数多の文献に目を通し、数百とある冒険者のスキルを知り尽くした。

 だが、そうして構築した男のレベリング理論が活かされることはなかった。

 実戦経験のない人間の考える理論は検証すらしてもらえない。机上の空論として扱われ、よくても酒の肴としてネタにされる程度だ。

「俺は強靱な肉体を求めたわけではない。ただ一般的な肉体がほしかっただけだ。それなのに、こんな……」

 男は失意の中で永遠の眠りに就いた。

 人知れず、ひっそりと。

 アラサーと呼ばれる年齢に入って間もなくのことだった。

 だが、男の人生はここで終わらなかった。

 ――――……。

「生まれたぞ!」

「男の子よ!」

「ご出産おめでとうございます!」

 男の耳に複数の声が届く。

 目を開けると、彼は助産師に抱えられていた。

(これは……もしかして……)

 男は瞬時に悟った。

 第二の人生が始まったのだ、と――。

 ◇

 男は東京のあきる野市にある〈陣川家〉の長男で、龍斗と名付けられた。

 陣川家は何の変哲もない平凡な家庭だ。もしもこの家庭について特筆すべき点があるとすれば、龍斗の両親が仲睦まじいことくらいである。

 だが、龍斗は平凡な子ではなかった。

「おいおい、また全教科100点か!」

「龍斗は天才よ! 母さんは誇らしいわ!」

「これだけ賢いなら女子にモテモテだな! がはは!」

「馬鹿ねあなた、小学校では脚の速い子がモテるのよ」

 前世の記憶を完全に引き継いでいる龍斗にとって、小中学校のテストなど鼻で笑えるほどに楽勝だった。三日間徹夜したあとに試験を受けたとしても満点を取れるだろう。

「龍斗、お前なら東大だって夢じゃないぞ!」

「本当よ!」

 ウキウキする両親を見る度、龍斗は申し訳なく思っていた。東大どころか高校に進学するつもりすらないからだ。

(俺の理論に狂いはねぇ、俺自身の力でそれを証明してやる)

 第二の人生が始まって8年目になるが、その間に龍斗の考えが揺らいだことはただの一度もない。

 前世で構築した超速レベリング理論を自らが実践し、いかに優れているかを証明する。そして、ゆくゆくは自分の理論が冒険者の基準になるよう普及させるのだ。

 鋼の如き龍斗の意志はその後もブレなかった。

 そして彼は中学校を卒業し、義務教育から解き放たれる。それと同時に、冒険者としての活動が可能になった。

 周りが当たり前のように高校へ進学する中、龍斗だけは冒険者の道を歩み始めた。
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