上 下
11 / 25

011 梨花のお誘い

しおりを挟む
「うわぁああああああああああ!」

 梨花の放った銃弾が俺を蜂の巣に――。

「あれ? 痛くない?」

 ――しなかった。

「やっぱり!」

 梨花は満足気な笑みを浮かべている。

『アホみたいに驚いてて草ァ!』
『うわぁああああってw』
『定番ネタだけど何度見ても笑える』

 コメント欄は俺の反応にウケている。

「えっと……どういうことだ?」

 これは梨花とリスナーの両方に対する質問だ。

「実は戦闘中、誤って涼真君を撃ってしまったの。でも無傷だったから、もしかしてこの銃は人間に当てても問題ないのかなと思って!」

『正確には魔物にしか効かないよ。だから人間はおろか建物にもダメージを与えることはない』

 ルーベンスが補足してくれた。

「そういうことだったのか……って、だからといって俺に向かって撃つかよ普通!」

「あはは、ごめんごめん! でも試したかったんだもん! 無事だったから許して!」

 梨花が顔の前で手を合わせて「お願い!」とペコペコ。

『あー! 可愛すぎるぅううううう!』
『かわE!』
『何だって許しちゃうよ梨花たん! ハァハァ』

 たしかに可愛い。
 可愛いは正義なので、俺は「仕方ないなぁ」と許した。

『ちなみにOPも銃弾と同様で魔物にしか通用しないよ』

 とのことなので試してみた。
 ゲートのあるガソスタに【火の鳥】をぶち込む。
 ガソスタは爆発はおろか燃えることすらなかった。

「これなら心置きなく戦えるな」

「ガンガン涼真君を撃てちゃうね!」

「いや撃つなよ?」

「それはどうでしょー?」

「おい」

 梨花が腹を抱えて笑う。
 そんな彼女を眺めながら、俺は異世界の技術に感心した。

 ◇

「ていうかさ! 私たちすごくない? たった二人で数百の魔物を倒しちゃったよ!」

「それってすごいのか?」

「すごいよー! だって普通、相手が数百体ならこっちも数百人で挑むものだもん!」

『梨花ちゃんは大袈裟だなぁ!』
『緑ゴブリンはザコだし何体いようが一人で楽勝っしょ』
『いや、地球は装備が貧弱みたいだから仕方ないんじゃないか』
『あーね』

 ボス戦の後は、自転車で八木沢の町を探索した。
 あちらこちらにいる敵を見つけては漏らさず狩っていく。

 これは戦闘というより作業だった。
 数百体でも余裕だった魔物を5~20体の規模で狩っていくのだから。
 雑談しながらでも余裕で、戦闘中にあくびが出るほどだった。

 当然、そんな状況だとスパチャも降ってこない。
 梨花にメロメロのリスナーがしばしば投げてくれる程度だった。

「ねね、涼真君」

「ん?」

 梨花が自転車を止めた。
 大事な話でもあるのだろうか。
 俺もすぐ隣でストップする。

「そろそろ日が暮れるから戻ったほうがいいんじゃない? 暗くなったら車が走るから危険だよ」

 魔物よりも交通事故を警戒している梨花。

「じゃあこの辺りで解散にするか」

「え? 解散?」

「だって俺は戻る気ないし」

「そうなの!?」

 梨花は目を剥いて驚いた。

「俺の最終目標はブラックドラゴンの討伐だ。奴を倒すまで戻るつもりはない。だから今日は適当な場所で過ごすよ」

 梨花曰くドラゴンは大阪周辺にいる。
 なので俺の目的地も故郷・松崎町ではなく大阪だ。
 ポイントを貯めながらじっくり近づいていく考えである。

「そういうことなら私も一緒に行く!」

 俺は反射的に「危ないからよせ」と言いかけた。
 しかし、言ったところで意味がないと判断。
 開きかけた口をつぐんだ。

「好きにしたらいいさ」

 それが俺の返事だった。
 梨花は嬉しそうな顔で「うん!」と頷く。

「それで涼真君、どこで寝泊まりするの? まさか野宿?」

 俺は「いやいや」と笑った。

「八木沢と言ったらあそこしかないだろー」

 俺は最高の場所に心当たりがあった。

 ◇

 自転車を漕ぐこと約10分――。

「ついたぜ」

 俺たちは目的地に到着した。
 そこは八木沢が誇る五つ星の温泉宿〈月下〉だ。
 広大な敷地面積を誇る四階建ての老舗である。

「おー! ここかー!」

「戦闘の疲れは温泉で癒やさないとな!」

 伊豆半島は日本でも指折りの温泉地だ。
 天下の熱海温泉を筆頭に、土肥とい温泉など様々な温泉がある。

「普段は高くて利用できないが、今なら魔物のおかげで無料だろう」

 開きっぱなしの扉を抜けて中に入る。
 廃墟と化したフロントは、照明が消えていることもあって不気味だ。

「いらっしゃいませー! ご予約はされていますかー?」

 受付カウンターに立って店員のふりをする梨花。
 もちろん俺は無視して上層階に向かう。

「あ、酷! 相手してよー! もう!」

 梨花は慌てて追いかけてきた。

『梨花ちゃんの顔を見せろー!』
『相手しろボケナス!』
『それでも男かお前!』

 コメント欄が愛のある暴言で溢れている。

「ここだな、風呂場は」

 フロアマップを頼りに最上階の大浴場に到着。
 隣接されているスタッフルームに行って脱衣所の照明をつけた。

「温泉、湧いてるかな? かな!?」

 ウキウキした様子の梨花。

「音が聞こえるから湧いているんじゃないか」

 脱衣所の向こう――風呂場からお湯の音が聞こえる。
 確認しようと扉を開けた瞬間、大量の湯気が顔にかかった。

「見ろ! 源泉掛け流しの名湯だ!」

「わあー!」

 魔物の出現前と何ら変わらぬ景色がそこに広がっていた。

「男湯は問題ないし、女湯を確認したら風呂に入るとしよう」

 忘れる前に配信を終了しておく。
 それから脱衣所を出ようとしたのだが――。

「待って、涼真君」

 ――梨花が服の裾を掴んできた。

「どうかしたのか?」

 梨花は顔を真っ赤にして俯いている。

「熱か?」

 彼女の額に触れてみる。
 水をかけたら一瞬で蒸発しそうな熱さだ。

「おいおい、すごく熱いじゃないか。これは急いで――」

「違う! これは発熱症状なんかじゃないから!」

 梨花は顔をブンブン振って否定した。

「顔が熱いのは恥ずかしいからなの!」

「恥ずかしい?」

 コクリと頷く梨花。

「あのね、涼真君……」

 梨花は深呼吸した後、俯いたまま言った。

「涼真君さえ嫌じゃなければだけど、私と一緒に……お風呂に入らない?」

「一緒に? 男湯で混浴しようってことか?」

「う、うん……!」

「ほぉ?」

 余裕ぶった反応を示す俺。
 だが、内心ではこう思っていた。

(なんだってぇええええええええええ!!!!!!!)

 こここここ、混浴!?
 そうなると、当然、当然ながら、互いに服を脱ぐ。
 裸になる。隠しているものをさらけ出す。

 裸を見せ合う……?
 全身これ清楚系の塊みたいな学校一の美少女と……?

(そんなのヤバいってレベルじゃなーーーーーーい!!)

 クールぶっている俺の顔面は、梨花以上に熱くなっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

【完結】勇者パーティーの裏切り者

エース皇命
ファンタジー
「この勇者パーティーの中に裏切り者がいる」  Sランク勇者パーティーの新人オーウェン=ダルクは、この神託の予言が示す『裏切り者』が自分のことだと思っていた。    並々ならぬ目的を持ち、着実に実力をつけていくオーウェン。    しかし、勇者パーティーのリーダー、ウィル=ストライカーから裏切り者が別にいることを知らされる。  容疑者はオーウェンを除いて6人。  リーダーのウィルに、狼の獣人ロルフ、絶世の美女ヴィーナス、双子のアルとハル、そして犬の獣人クロエ。  一体誰が勇者パーティーの裏切り者なのか!?  そして、主人公オーウェンの抱える狂気に満ちた野望とは!?  エース皇命が贈る、異世界ファンタジーコメディー、開幕! ※小説家になろう、エブリスタでも投稿しています。 【勇者パーティーの裏切り者は、どうやら「俺」じゃないらしい】

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

寝て起きたら世界がおかしくなっていた

兎屋亀吉
ファンタジー
引きこもり気味で不健康な中年システムエンジニアの山田善次郎38歳独身はある日、寝て起きたら半年経っているという意味不明な状況に直面する。乙姫とヤった記憶も無ければ玉手箱も開けてもいないのに。すぐさまネットで情報収集を始める善次郎。するととんでもないことがわかった。なんと世界中にダンジョンが出現し、モンスターが溢れ出したというのだ。そして人類にはスキルという力が備わったと。変わってしまった世界で、強スキルを手に入れたおっさんが生きていく話。※この作品はカクヨムにも投稿しています。

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

処理中です...