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023 一ヶ月記念日
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昨日、俺は冒険者になって1ヶ月を迎えた。
もっと前のことかと思っていたが、昨日でちょうど1ヶ月だ。
気持ちは既に十年選手である。
で、今日はカスミと出会って1ヶ月になる。
だからどうしたと俺は思うのだが、カスミにとっては違うようだ。
「ユウト君、なにかしましょうよー!」
朝、起きるなりカスミが言ってきた。
ベタベタとまとわりつき、1ヶ月記念のイベントを要求してくる。
それは朝食のあとになっても続いた。
「デスニーランドに行きましょうよ! 1ヶ月記念デートです!」
「なんでだよ、付き合ってるわけでもあるまいし」
「えー、いいじゃないですか! 行きましょうよ! デスニー!」
「やだよ、面倒臭い。それに俺は並ぶのが嫌いなんだ。知ってるだろ? 俺の嫌いな言葉は『渋滞』『行列』『待ち時間10分以上』だ」
「違いますよ、ユウト君の嫌いな言葉は『努力』と『勉強』です」
「なんだっていい、とにかくパスだ」
「ぶー!」
カスミが頬を膨らませている。
今回はなかなかにご立腹の様子だ。
このまま機嫌を損ねさせるのはよろしくない。
やれやれ、仕方ないな。
俺は舌打ちしてから言った。
「なら何かするか」
「やったー! しましょう! しましょう!」
「で、何する?」
「それはユウト君が決めて下さい!」
「俺かよ」
「だってデスニーは却下されたもん!」
「そうか、そういうことなら……」
◇
俺たちはギルドにやってきた。
「休日返上で狩りでもするか」
「どうしてそうなるんですかーっ!」
「そりゃあ何も閃かなかったからだ」
「だからって狩りなんて嫌ですよー!」
「もう狩りの気分になったから狩りに決定だ」
なんだかんだで昼過ぎだ。
一丁前に昼メシを済ませた俺たちは、生成器にゲートワードを入力する。
今回のワードは『1ヶ月記念日(笑)~勝手に恋人面~』だ。
「なんですかこのワードは!」
むむっと頬を膨らませるカスミ。
「サブタイトルも入れてみました」
「入れてみましたじゃないですよ! 酷すぎですよ!」
「でも事実だしな」
「そういう問題じゃないです!」
話している間に分析が終わった。
そうして表示されたダンジョンの情報に愕然とする。
==================
【名 前】1ヶ月記念日(笑)~勝手に恋人面~
【ランク】S
【タイプ】不明
【ボ ス】不明
==================
まさかのS級ダンジョンを引き当てたのだ!
「よし、1000万獲得!」
握りこぶしを作って喜ぶ俺。
一方、カスミは首を傾げていた。
「ユウト君、Sランクってなんですか? ランクはA~Fまでしかないんじゃ?」
どうやらカスミはS級ダンジョンを知らないようだ。
オークションのことも知らなかったし、わりと無知が酷い。
仕方ないので教えてやることにした。
「ランク分けできないダンジョンがSになるんだ」
「ランク分けできない?」
「要するに複数のランクの魔物がいるってこと。F級の敵がいたかと思えば、その横にA級の敵がいることもある」
「なるほど、普通のダンジョンだと魔物のランクは統一されていますもんね」
「そういうことだ」
「じゃあ、Sランクのダンジョンは別にすごくないんですか?」
「その通り。ゲームだとS級は凄いものとして扱われていることが多いけど、現実は違う。敵の強さが不透明なので無駄にリスキーなダンジョンってだけだ」
「よく分かりました! タイプやボスが『不明』なのはS級だからですか?」
「そうそう。S級のダンジョンはそれらの項目が必ず不明になるんだ。生成器の分析システムが弾かれているらしい」
「ほへぇー」
S級ダンジョンは激レアだ。
しかし、レアだから優れている、というわけではない。
ゲーム脳の人間からすると受け入れにくい話だ。
「それで、1000万というのは?」
「S級ダンジョンのワードを受付嬢に報告すると、政府から謝礼金として1000万円が支払われるんだよ」
「なんと!? 凄いじゃないですか! 大当たりじゃないですか!」
「まぁな」
「ではさっそく報告に行きましょう!」
カスミがくるりと身を翻す。
体をインフォメーションに向けた。
俺は「いいや」と彼女の肩を掴んだ。
「報告はもう少しあとだ」
「えーなんでですか!?」
「報告する前に楽しませてもらうとしよう」
「も、もしかして、S級ダンジョンに入るんですか!? 何があるか分からないのに!?」
「そういうことだ」
「ユウト君、そういうのはまともな冒険者がすることですよ!」
思わず笑ってしまう。
「たしかに俺たちは金にがめつい不真面目な冒険者だし、普段なら俺もS級ダンジョンに行こうなどとは思わないのだがな」
「じゃあ、どうして?」
「今日は1ヶ月記念だし、ワードがワードだからな。これはもう、勝手に恋人面をしているどこかの誰かさんに1ヶ月記念を楽しんでもらえっていう神のメッセージに思えてならないんだよ」
「たしかにそうですが……」
カスミは煮え切らない様子だ。
無理もないだろう。
俺とカスミはどちらもF級なのだ。
S級のダンジョンなんて恐怖でしかない。
D級以上の敵が出てきたら万事休すだ。
「ま、いざとなれば切り札を使えばいいさ」
「切り札?」
「ついてきな」
俺たちはインフォメーションにやってきた。
受付嬢に冒険者カードを渡して注文する。
「PEGを1つ売ってほしい」
「お売りできるのは使い捨ての物のみとなりますがよろしいでしょうか?」
「1つあれば二人とも入れるよな?」
「はい」
「なら使い捨てを1つで問題ない」
「1000万円になります」
「そのカードで支払う」
「かしこまりました」
サクサクと手続きを進める。
「あのー、ペグってなんですかぁ?」
カスミが横から俺の服を引っ張ってきた。
「ポータブルエスケープジェネレータの略称さ」
「えーっと、それは……なんですか?」
「使うとその場に帰還用のゲートを召喚するアイテムだ。こいつがあれば、わざわざゲートまで逃げ帰る必要はない。やばくなったらその場にゲートを作っておしまいだ」
「そ、そんな便利なものが!?」
「まだ研究段階の代物で、1回ぽっきりの使い捨てですら1000万もするけどな。ま、ここで1000万を使っても、あとで政府から1000万もらえるから問題ない」
「凄いですねー! PEGがあれば安心して挑めます!」
「そういうことだ」
話していると、受付嬢が「お待たせしました」と割り込んできた。
そして、俺にPEGを渡す。
「これがPEGかぁ」「これがペグですかぁ」
俺たちの声がかぶる。
実物を見るのは俺も初めてだった。
PEGの見た目は、プッシュ式のミルを彷彿させる銀のスティックだ。
後端のスイッチをカチッと押せば、緊急脱出用のゲートが生成される。
「なんだか太いボールペンって感じですね! 後ろにポッチリが付いているし!」
「俺はプッシュ式のミルに見えたけどな」
「ミルにプッシュ式とかあるんですか!?」
ここで話に乗っかると脱線して長引くやつだ。
だから俺は「まぁな」と流した。
「じゃ、がっつり用意したらS級に挑戦だ!」
「おー!」
俺たちは特区内の店を回ってアイテムを揃えた。
傷薬は当然として、持久戦を想定したテントや携帯食も。
バックパックをそれなりに膨らませたら準備万端だ。
再びギルドに戻ってきて、S級ダンジョンのゲートを生成した。
「1ヶ月記念がダンジョンとか、案外、俺たちは真面目な冒険者かもな」
「あはは、本当ですねー!」
カスミがゲートを指す。
「行きましょう! ユウト君!」
「おう!」
俺たちはS級ダンジョンに足を踏み入れた。
とんでもないことになると知らずに。
もっと前のことかと思っていたが、昨日でちょうど1ヶ月だ。
気持ちは既に十年選手である。
で、今日はカスミと出会って1ヶ月になる。
だからどうしたと俺は思うのだが、カスミにとっては違うようだ。
「ユウト君、なにかしましょうよー!」
朝、起きるなりカスミが言ってきた。
ベタベタとまとわりつき、1ヶ月記念のイベントを要求してくる。
それは朝食のあとになっても続いた。
「デスニーランドに行きましょうよ! 1ヶ月記念デートです!」
「なんでだよ、付き合ってるわけでもあるまいし」
「えー、いいじゃないですか! 行きましょうよ! デスニー!」
「やだよ、面倒臭い。それに俺は並ぶのが嫌いなんだ。知ってるだろ? 俺の嫌いな言葉は『渋滞』『行列』『待ち時間10分以上』だ」
「違いますよ、ユウト君の嫌いな言葉は『努力』と『勉強』です」
「なんだっていい、とにかくパスだ」
「ぶー!」
カスミが頬を膨らませている。
今回はなかなかにご立腹の様子だ。
このまま機嫌を損ねさせるのはよろしくない。
やれやれ、仕方ないな。
俺は舌打ちしてから言った。
「なら何かするか」
「やったー! しましょう! しましょう!」
「で、何する?」
「それはユウト君が決めて下さい!」
「俺かよ」
「だってデスニーは却下されたもん!」
「そうか、そういうことなら……」
◇
俺たちはギルドにやってきた。
「休日返上で狩りでもするか」
「どうしてそうなるんですかーっ!」
「そりゃあ何も閃かなかったからだ」
「だからって狩りなんて嫌ですよー!」
「もう狩りの気分になったから狩りに決定だ」
なんだかんだで昼過ぎだ。
一丁前に昼メシを済ませた俺たちは、生成器にゲートワードを入力する。
今回のワードは『1ヶ月記念日(笑)~勝手に恋人面~』だ。
「なんですかこのワードは!」
むむっと頬を膨らませるカスミ。
「サブタイトルも入れてみました」
「入れてみましたじゃないですよ! 酷すぎですよ!」
「でも事実だしな」
「そういう問題じゃないです!」
話している間に分析が終わった。
そうして表示されたダンジョンの情報に愕然とする。
==================
【名 前】1ヶ月記念日(笑)~勝手に恋人面~
【ランク】S
【タイプ】不明
【ボ ス】不明
==================
まさかのS級ダンジョンを引き当てたのだ!
「よし、1000万獲得!」
握りこぶしを作って喜ぶ俺。
一方、カスミは首を傾げていた。
「ユウト君、Sランクってなんですか? ランクはA~Fまでしかないんじゃ?」
どうやらカスミはS級ダンジョンを知らないようだ。
オークションのことも知らなかったし、わりと無知が酷い。
仕方ないので教えてやることにした。
「ランク分けできないダンジョンがSになるんだ」
「ランク分けできない?」
「要するに複数のランクの魔物がいるってこと。F級の敵がいたかと思えば、その横にA級の敵がいることもある」
「なるほど、普通のダンジョンだと魔物のランクは統一されていますもんね」
「そういうことだ」
「じゃあ、Sランクのダンジョンは別にすごくないんですか?」
「その通り。ゲームだとS級は凄いものとして扱われていることが多いけど、現実は違う。敵の強さが不透明なので無駄にリスキーなダンジョンってだけだ」
「よく分かりました! タイプやボスが『不明』なのはS級だからですか?」
「そうそう。S級のダンジョンはそれらの項目が必ず不明になるんだ。生成器の分析システムが弾かれているらしい」
「ほへぇー」
S級ダンジョンは激レアだ。
しかし、レアだから優れている、というわけではない。
ゲーム脳の人間からすると受け入れにくい話だ。
「それで、1000万というのは?」
「S級ダンジョンのワードを受付嬢に報告すると、政府から謝礼金として1000万円が支払われるんだよ」
「なんと!? 凄いじゃないですか! 大当たりじゃないですか!」
「まぁな」
「ではさっそく報告に行きましょう!」
カスミがくるりと身を翻す。
体をインフォメーションに向けた。
俺は「いいや」と彼女の肩を掴んだ。
「報告はもう少しあとだ」
「えーなんでですか!?」
「報告する前に楽しませてもらうとしよう」
「も、もしかして、S級ダンジョンに入るんですか!? 何があるか分からないのに!?」
「そういうことだ」
「ユウト君、そういうのはまともな冒険者がすることですよ!」
思わず笑ってしまう。
「たしかに俺たちは金にがめつい不真面目な冒険者だし、普段なら俺もS級ダンジョンに行こうなどとは思わないのだがな」
「じゃあ、どうして?」
「今日は1ヶ月記念だし、ワードがワードだからな。これはもう、勝手に恋人面をしているどこかの誰かさんに1ヶ月記念を楽しんでもらえっていう神のメッセージに思えてならないんだよ」
「たしかにそうですが……」
カスミは煮え切らない様子だ。
無理もないだろう。
俺とカスミはどちらもF級なのだ。
S級のダンジョンなんて恐怖でしかない。
D級以上の敵が出てきたら万事休すだ。
「ま、いざとなれば切り札を使えばいいさ」
「切り札?」
「ついてきな」
俺たちはインフォメーションにやってきた。
受付嬢に冒険者カードを渡して注文する。
「PEGを1つ売ってほしい」
「お売りできるのは使い捨ての物のみとなりますがよろしいでしょうか?」
「1つあれば二人とも入れるよな?」
「はい」
「なら使い捨てを1つで問題ない」
「1000万円になります」
「そのカードで支払う」
「かしこまりました」
サクサクと手続きを進める。
「あのー、ペグってなんですかぁ?」
カスミが横から俺の服を引っ張ってきた。
「ポータブルエスケープジェネレータの略称さ」
「えーっと、それは……なんですか?」
「使うとその場に帰還用のゲートを召喚するアイテムだ。こいつがあれば、わざわざゲートまで逃げ帰る必要はない。やばくなったらその場にゲートを作っておしまいだ」
「そ、そんな便利なものが!?」
「まだ研究段階の代物で、1回ぽっきりの使い捨てですら1000万もするけどな。ま、ここで1000万を使っても、あとで政府から1000万もらえるから問題ない」
「凄いですねー! PEGがあれば安心して挑めます!」
「そういうことだ」
話していると、受付嬢が「お待たせしました」と割り込んできた。
そして、俺にPEGを渡す。
「これがPEGかぁ」「これがペグですかぁ」
俺たちの声がかぶる。
実物を見るのは俺も初めてだった。
PEGの見た目は、プッシュ式のミルを彷彿させる銀のスティックだ。
後端のスイッチをカチッと押せば、緊急脱出用のゲートが生成される。
「なんだか太いボールペンって感じですね! 後ろにポッチリが付いているし!」
「俺はプッシュ式のミルに見えたけどな」
「ミルにプッシュ式とかあるんですか!?」
ここで話に乗っかると脱線して長引くやつだ。
だから俺は「まぁな」と流した。
「じゃ、がっつり用意したらS級に挑戦だ!」
「おー!」
俺たちは特区内の店を回ってアイテムを揃えた。
傷薬は当然として、持久戦を想定したテントや携帯食も。
バックパックをそれなりに膨らませたら準備万端だ。
再びギルドに戻ってきて、S級ダンジョンのゲートを生成した。
「1ヶ月記念がダンジョンとか、案外、俺たちは真面目な冒険者かもな」
「あはは、本当ですねー!」
カスミがゲートを指す。
「行きましょう! ユウト君!」
「おう!」
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とんでもないことになると知らずに。
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