隘路

重過失

文字の大きさ
上 下
25 / 25
鑑みる

心の枷

しおりを挟む
その日から、俺は人生に幸せを感じることが多くなった。
誰に対しても優しく接することが出来るようになった。
俺の事を障害者だと言って、煙たがってた長島を初めとしたやつらにもそうした。

そうして、俺は一人のクラスメイトとして日に日に認められていった。実玲や遊里と関わっていく中で新しい友達も出来て、俺の人脈は増えていった。

その増えていった友達の中で、気になる人がいた。

「悠斗くんって頭いいじゃん、なんでそんなに頭がいいの?」

そう問いかけてくる彼の名前は、二宮 陽希。
今は違うクラスで関わる機会も少ないけど、妙に俺と似た雰囲気を感じる。

悠斗「俺は頭がいいんじゃない、少し考えてるだけ」

陽希「でも、その考えるのが出来る時点でもう凄いよ」

悠斗「頭が良くなりたいなら本を読めばいいよ」

身長が低めで声も高い方。でも真面目で、色んな疑問を持てる程に考える能力がある。

陽希「どんな本が良いの?」

悠斗「別に…自分の興味のある本でいいと思う。大事なのは長文を読んで理解して、出来ればその内容を自分で考える事だから。」

陽希「おおー、やっぱり悠斗くん凄いね。ありがとう」

雑談を交わした後、別れた。
陽希は、実玲や遊里とは違うタイプの人間だな。
でも、頭が良くなる素質がある。
俺で力になれるなら、是非とも手伝ってあげたいな。

───

最初は漠然としていたのに、ひょんなきっかけで華やかになった1年生も終わり、あっという間に中学2年生になった。

クラスが変わったが、実玲と遊里は2年生でも同じクラスだった。陽希はまだ違うクラスだ。

そして、悩みが出来た。

実玲に相談しようと俺は考え、一緒に帰る時にその話を持ちかけた。

実玲は、帰り道に毎日通る神社にある階段の段差に座った。実玲が隣のスペースに手を叩き、俺にも座るように促した。それを見た俺は、その空きスペースに座り、一息ついた後に相談内容を話し始めた。

実玲「その悩みっていうのは?」

悠斗「俺は…実玲も知ってると思うけど、遊里と実玲と友達になるまで全く人と関わってこなかったんだ。」

悠斗「でも、2人と友達になってからは徐々に皆と関わっていく機会が出来た。それで、人の事をよく見る様になったんだ。」

実玲「うん」

悠斗「そして、心の中で皆の事を評価するようになってきたんだ。君達2人を含んで…」

実玲「そうか…」

悠斗「でも、評価って上から目線すぎると思ってさ…どうすればいいのか分かんなくなってきたんだ。」

実玲「なるほどね…」

俺は皆を観察するようになって、どういう人なのかを理解して、それを評価する様になっていた。
そして同時に、そうしている自分を憂いていた。
あまりに上から目線で、自己中心的すぎるから。

実玲「実は俺もそうだったんだ。でも、遊里や君と出会ったのがきっかけで変わった。」

実玲「君達を見て、自分より優れている人は沢山いるし、自分は世界の中心じゃないって事を強く感じた。」

実玲「自分が正しい保証も、間違っている証拠もない。だから評価をやめて、観察結果に留めるようにしたんだ。」

悠斗「確かに…言われてみれば当たり前にそうだな…」

実玲の言ってる事は、前々から俺の中にあった漠然とした考えの的を得ていた。
評価したとこでメリットは無い。それならしなければいい。

そんな簡単な事もすぐに出来なかった俺は、自分に対して失望した。

実玲「だろ。でも俺は君達に出会うまでそれに気づけなかったんだ…」

そう言葉を溢す実玲の顔には深い陰りが見えた。
日光が木の葉に遮られ、日陰となった段差に座る俺達の間には、何とも言えない重い空気と共感が漂っていた。

悠斗「…そして、そんな自分に失望した?」

実玲「…よく分かってるね。やっぱり君は…信頼出来る数少ない内の一人だよ」

悠斗「今の俺もそうだった。でも…」

「「そんな失望に意味はない。」」

その言葉がハモった俺達2人は、思わずお互いの顔を見合って、笑いあった。

悠斗「なんで急にハモらすんだよ~、ビックリしたわ」

実玲「やっぱり君とは気が合うと思ったんだ、そして今、それが確信に変わった」

「「君とは上手くやっていけそうだ。」」

今度は俺がハモらせる番だ。
俺はそう言って、また言葉をハモらせた。
神社の階段の下で、また笑い声が増えた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

リアル

ミステリー
俺たちが戦うものは何なのか

蠍の舌─アル・ギーラ─

希彗まゆ
ミステリー
……三十九。三十八、三十七 結珂の通う高校で、人が殺された。 もしかしたら、自分の大事な友だちが関わっているかもしれない。 調べていくうちに、やがて結珂は哀しい真実を知ることになる──。 双子の因縁の物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...