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思い出す
壁を超える追随
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大学1年生の秋、俺は始めて知り合いの遺影を見た。
瀬菜「これで良かった…んだよね」
宏樹「…」
瀬菜「出来る事なら生きていてほしかった、けどそれは香音にとっては迷惑だったんだよね」
宏樹「本人が望んだ事とはいえ、こんな…」
瀬菜「あんたは悪くないよ。あれはただの事故だった。」
宏樹「でも俺が迂闊な事を言ったから…」
瀬菜「もう起きた事は変えられない。いくら悔やんだって、もう遅いの。」
瀬菜「あんたが悔やむ必要はないわ。改めて、香音と一緒に遊んでくれてありがとうね。」
宏樹「その…遺物整理くらい俺にも手伝わせてください。それくらいしないと気が済まない。」
瀬菜「あんたがやりたいならいいわよ。」
2階の奥。
そこに香音の部屋はあった。
重くのしかかる罪悪感に戸惑わされながらも、俺は香音の部屋へ入るドアを開けた。
…この香り、やっぱり香音の部屋だ。
前に俺の家に来た時に「自分の家より片付いてる」なんて言っていたが、断然こっちの方が綺麗じゃないか。
まるでさっきまでこの部屋に人がいたかのような生活感が漂う部屋で、時計も、ペンケースも、ライトも、どれもが綺麗で、触りたくないような丁寧さで整頓されている。
しかし、ベッドの上は違った。
荒々しく脱ぎ捨てられたかのような部屋着がある。
これはきっと、香音が俺に会いに行く時に着替えた時の痕跡だろう。
この部屋にある、大切に扱われてきたのであろう置いてある物達は、もう二度と帰ることの無い部屋の主を待ち続けている様に見えた。
───
海は好きじゃない。
人が多くて、命がすぐに失われる。
砂浜は足裏の感覚が無くなる程に熱くて、波が来る時に足に当たる石が痛い。
ただ、それは昼間の海に限った話だ。
この目の前に広がる夜の海は、昼と違って砂浜は熱くなく、人はいない。
つまり、人目に付かない。
一歩進む。
波の音と共に、懐かしい風景が頭を過ぎる。
勿論、香音との記憶も。
また一歩。
今頃、瀬菜さんは何をしているのだろう?
俺のせいで娘を失って、今にも俺を殺したいと願っているのか?
一歩。
目を閉じて、靴に入っている砂の感覚が分かりやすくなった。
誰かがの息切れが聞こえる。
これも気のせいか。
疲れからくる幻聴だろう。
まあいい。
もう知る事はないんだ。
香音が俺に何を話したかったのか、
なんで本当に植物状態になる事を知っていたのか、
俺はなんで生きていたのか、
二度と帰ることもない。
この世界に残る疑問は、これで消える。
うん。やっと…
「待って!!」
足音が水音に変わり、いよいよ海に入ろうとした時。
俺は誰かに襟を掴まれて強く後ろに引かれ、倒れた。
衝撃で口に砂が入って気持ち悪い。
何なのか分からず、目を開けると誰かの顔がうっすら見える。
暗すぎて誰なのか全く分からない。
声的に女性か。
「大丈夫?」
口に入った砂を吐き出した後、その問いかけに答える。
宏樹「大丈夫だ。」
「良かった…つい必死になって強く引っ張っちゃって…」
宏樹「何故ここに?」
「あ…」
名も知らない女性は少し言葉に詰まった後、話すと決めたのか口を開けた。
「様子が変だったから…?」
宏樹「本当は?」
「えっと…」
嘘はついてない。
ただ、隠している事がある。
それを聞きたい。
「私…宏樹君に聞きたい事があって、それで探してた。
そしたら、歩いてる宏樹君を見つけたから追って話しかけようとしたの。
なのに、一人でこんな暗い海の方に行くから怖くて…」
宏樹「…聞きたい事って?」
「…香音の事」
"香音"
その名前が出てきた瞬間、俺は辺りの空気が深刻に変わったのを感じた。
俺がここにいる理由は、まさに香音の事が理由だからだ。
周りが何を言おうとこれは変わらない。
結局、香音を殺したのは俺だ。
だから俺も死ぬ。
そう考えて海に来たんだ。
だから、香音の名前をここで聞くとは思わなかった。
宏樹「君の名前は?」
「…桜井 莉奈」
瀬菜「これで良かった…んだよね」
宏樹「…」
瀬菜「出来る事なら生きていてほしかった、けどそれは香音にとっては迷惑だったんだよね」
宏樹「本人が望んだ事とはいえ、こんな…」
瀬菜「あんたは悪くないよ。あれはただの事故だった。」
宏樹「でも俺が迂闊な事を言ったから…」
瀬菜「もう起きた事は変えられない。いくら悔やんだって、もう遅いの。」
瀬菜「あんたが悔やむ必要はないわ。改めて、香音と一緒に遊んでくれてありがとうね。」
宏樹「その…遺物整理くらい俺にも手伝わせてください。それくらいしないと気が済まない。」
瀬菜「あんたがやりたいならいいわよ。」
2階の奥。
そこに香音の部屋はあった。
重くのしかかる罪悪感に戸惑わされながらも、俺は香音の部屋へ入るドアを開けた。
…この香り、やっぱり香音の部屋だ。
前に俺の家に来た時に「自分の家より片付いてる」なんて言っていたが、断然こっちの方が綺麗じゃないか。
まるでさっきまでこの部屋に人がいたかのような生活感が漂う部屋で、時計も、ペンケースも、ライトも、どれもが綺麗で、触りたくないような丁寧さで整頓されている。
しかし、ベッドの上は違った。
荒々しく脱ぎ捨てられたかのような部屋着がある。
これはきっと、香音が俺に会いに行く時に着替えた時の痕跡だろう。
この部屋にある、大切に扱われてきたのであろう置いてある物達は、もう二度と帰ることの無い部屋の主を待ち続けている様に見えた。
───
海は好きじゃない。
人が多くて、命がすぐに失われる。
砂浜は足裏の感覚が無くなる程に熱くて、波が来る時に足に当たる石が痛い。
ただ、それは昼間の海に限った話だ。
この目の前に広がる夜の海は、昼と違って砂浜は熱くなく、人はいない。
つまり、人目に付かない。
一歩進む。
波の音と共に、懐かしい風景が頭を過ぎる。
勿論、香音との記憶も。
また一歩。
今頃、瀬菜さんは何をしているのだろう?
俺のせいで娘を失って、今にも俺を殺したいと願っているのか?
一歩。
目を閉じて、靴に入っている砂の感覚が分かりやすくなった。
誰かがの息切れが聞こえる。
これも気のせいか。
疲れからくる幻聴だろう。
まあいい。
もう知る事はないんだ。
香音が俺に何を話したかったのか、
なんで本当に植物状態になる事を知っていたのか、
俺はなんで生きていたのか、
二度と帰ることもない。
この世界に残る疑問は、これで消える。
うん。やっと…
「待って!!」
足音が水音に変わり、いよいよ海に入ろうとした時。
俺は誰かに襟を掴まれて強く後ろに引かれ、倒れた。
衝撃で口に砂が入って気持ち悪い。
何なのか分からず、目を開けると誰かの顔がうっすら見える。
暗すぎて誰なのか全く分からない。
声的に女性か。
「大丈夫?」
口に入った砂を吐き出した後、その問いかけに答える。
宏樹「大丈夫だ。」
「良かった…つい必死になって強く引っ張っちゃって…」
宏樹「何故ここに?」
「あ…」
名も知らない女性は少し言葉に詰まった後、話すと決めたのか口を開けた。
「様子が変だったから…?」
宏樹「本当は?」
「えっと…」
嘘はついてない。
ただ、隠している事がある。
それを聞きたい。
「私…宏樹君に聞きたい事があって、それで探してた。
そしたら、歩いてる宏樹君を見つけたから追って話しかけようとしたの。
なのに、一人でこんな暗い海の方に行くから怖くて…」
宏樹「…聞きたい事って?」
「…香音の事」
"香音"
その名前が出てきた瞬間、俺は辺りの空気が深刻に変わったのを感じた。
俺がここにいる理由は、まさに香音の事が理由だからだ。
周りが何を言おうとこれは変わらない。
結局、香音を殺したのは俺だ。
だから俺も死ぬ。
そう考えて海に来たんだ。
だから、香音の名前をここで聞くとは思わなかった。
宏樹「君の名前は?」
「…桜井 莉奈」
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