隘路

重過失

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思い出す

思惑の行方

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 香音「ねぇ…」

 宏樹「うん?」

 香音「あんまりこういう事は言いたくないんだけどさ…」

 香音「もし…もし、私が植物状態、みたいな感じになったら、延命しないで」

 宏樹「…はぁ、それには何か理由が?」

 香音「あの子達は私が苦しんでるのを見るのが楽しいんだと思う。だから、万が一そうなったときに私が死にたいと思っても、あの子達は逆の事をする」

 宏樹「そもそも、植物状態になる事なんて稀なケースだろ。そんな事まで気にしなくたって…」

 香音「…いや、その油断がいけない。何をしてくるかさっぱりだもん。私達の想像を越えてくるかも。」

 宏樹「…そうだな。分かった。」

 まだ日も昇っていない、窓から瑠璃紺の空が見える様な夜と朝の隙間に、俺と香音は座って話していた。

 香音は俺の家に泊まり、眠れたのかも分からない。
 俺はずっと起きてた。香音が心配だったからだ。
 いや…何も起こらないと思いたいが、女性関係とは縁が無いと思っていたこの俺の家に、かわいい異性が泊まるくらいの事が起こるのだから、やはり何が起こるか分からない。

 それに、早く聞いておきたい事がある。

 宏樹「香音さ…」

 香音「…」

 宏樹「…香音」

 香音「ん?」

 宏樹「…俺以外に友達はいるのか?」

 香音「いや?あんな事してきた以上、あの子達と私はもう友達じゃなくなっちゃったんだろうし、大学の男達はみんな私の身体目当てでしょ」

 香音「だから、友達と言えるのは宏樹君だけ。私の事を"女"としてじゃなく"一人の人間"として見てくれる人だしね。」

 宏樹「そうか…変な事聞いて悪かった」

 香音「いいよ、ほんとの事だし。それに、知りたいんでしょ?」

 宏樹「…まあな。全く無かった女性関係だし、好奇心は少しある」

 香音「じゃあ…私が宏樹君の事をどう思ってるのかも、もちろん知りたい?」

 その一言で、俺はドキッとした。
 心を読まれたというか、今までもやっとしてた事がハッキリしたというか。

 今の香音の目は、いつもよりも綺麗で、奥底に深い意味を含んでいる様に見えた。

 宏樹「…」

 香音「…知りたいんだね。じゃあ、明後日の午後8時に、私達が最初に会ったところに集合。もし私が8時半までに来なかったら帰っていいよ。」

 香音「来てくれれば…全部教えてあげるよ」

 そして香音は優しく笑った。
 まるで俺を誘っているかの様な目付きに変わり、いつもの元気な調子に加え…どこか妖艶な雰囲気が混ざり始めた様に感じた。

 この先、俺の人生は一体…

 ───

 2日後。

 俺は香音の言葉を信じ、あの公園のベンチに座って待っていた。

 時刻は19:55。
 後5分だというのはとっくに知っているのに、しきりに時計を見てしまう。
 どんなに焦っても時間の流れは一切変わらない。
 冷静に…落ち着いて待っていよう…

 ─遠くで鳴り響く急ブレーキ音が聞こえた。
 そして、何かがぶつかった音、それと同時に人の悲鳴。

 時刻は20:00。
 ここに居なければ、香音の言葉を聞くことが出来なくなる。
 しかし、向こうの様子も気になる。
 俺はどうすればいい?
 まずい、冷静さを失ってきたのが分かる。

 いや、香音は約束を破らない。
 きっとこの近くにいて、今の音を聞いてるはず。
 暇潰しに持ってきたノートに書き置きを残して、向こうの様子を見に行こう。

 よし…これで香音がここに来た時にこれを読んで、俺がどこに行ったのかを把握することが出来るはずだ。

 そうと決まれば早く行こう。
 この時間は人が少ない。俺がいて損はないだろう。
 早歩きで音のした方向へ行く。
 きっと事故だ。運転手の安否や巻き込まれた可能性のある人はいるだろうか?

 現場に近付いてきて、次第に音がより鮮明に聞こえてきた。
 誰かが「大丈夫ですか?」と語りかけているのが聞こえてきた。これは人身事故だ。轢き逃げか?
 遠くから救急車の音も聞こえてきて、現場の混乱具合が増しているのが伝わってくる。

 現場が見えてきた。
 車がおらず、一人が倒れていて、一人の女性が語りかけている。
 歩道に行くと、倒れているのは女性なのが分かった。

 いや…待て。あの女性、頭辺りから血を流している。
 俺は道路を強引に横断して、倒れてる女性の元へ駆け寄った。

 宏樹「大丈夫ですか?」

「すみません!こんな事初めてで…」

 宏樹「車は?」

「轢き逃げです、すぐ走っていっちゃいました」

 宏樹「その女性は大丈…」

「…どうかしましたか?」

 話していると救急車が到着していた。

 救急隊員「救護人は何人ですか?」

 宏樹「一人です、あの方のところ」

 救急隊員が「出血が酷いな」とか「早く運ぶぞ」やら言っている。
 そんな中、俺は救急隊員に声をかける。

 宏樹「俺も同乗していいですか?」

 救急隊員「あなたは救護人の親族ですか?」

 宏樹「知り合いです」

 救急隊員「救護人の家族と連絡はとれますか?」

 宏樹「いえ、でも住所は分かります」

 救急隊員「じゃあ、乗ってください」

 そうか。
 人は本当の窮地に立たされると逆に冷静になるんだな。

 …なぁ、なんでこんな形で会うことになったんだ?
 …香音

 ………

 "香音へ

 今、事故現場に居るので、これを読んでいるなら来てください。

 宏樹より"
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