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思い出す
彼女の思惑
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香音「そーいや、宏樹君は何で小説書こうと思ったの?」
宏樹「いや、特に深い意味は無いかな。なんか、ただ書いてるだけって感じ」
香音「私と同じだ、それでいつの間にか義務感が生まれちゃって、やる気無くなってくんでしょ?」
宏樹「そう。」
香音「やっぱり~私もそうなんだよね、私は小説じゃなくて絵を書いてるんだけど、やらなきゃって思うと…」
宏樹「…嫌だな、好きだった事が嫌になってく感覚ってのは」
香音「まー、結局やるんだけどね」
会話してみて何となくだが、この人とは気が合いそうだと思った。
性格は正反対に近いが、それでいいのかもしれない。
相性において重要なのは、性格より価値観や思考だ。
その点において、双方とも創作者であるという部分で相性が保証されているのかもしれない。
香音「急に頼んだのに送ってくれてありがと!じゃあ、またね!」
宏樹「あぁ、気をつけてな」
駅に着き、俺が乗る電車とは違う電車で香音さんは帰っていった。俺は自分の乗る電車に乗り、座席でボーッとしていた。
香音さんは俺のファンだと。
わざわざ俺に声をかけて、大切なノートを返してもらい、俺のファンだと言ってくれた。
それなのに、俺は香音さんの事を知ってすらなかった。
はぁ、これも俺の人間関係が希薄な原因の一つだろうな。
───
香音「待ってたよー、こんな時間まで何してたの?」
宏樹「…昨日会ったばかりだろう?何でわざわざ俺を待ってたんだ?」
香音「そりゃ、また話したいからに決まってるでしょ」
俺はいつものように、人だかりを避ける為に人が少なくなる時間に大学を出た。
いつも通りに人が少なく、いつも通りに空も暗く、いつも通りに帰れると思った。
それで、少し歩いたらこの様だ。
昨日も思ったが、やはり距離感がおかしい。
誰しもパーソナルスペースというものがあり、個人の基準に則って親睦を深めるのが、対人関係における暗黙のルールなのだが…
どうやら香音さんのパーソナルスペースは、昨日会った男の隣、それも少しよろけたらぶつかりそうなくらいの距離にいてもへっちゃらなものらしい。
香音さんが近付いてくる度にほのかに香る甘い香水の匂い、それに学内…俺が学内で顔を見たことがある女子の中でも一番整っている。
そんな人が、この距離感で話してきたら、俺じゃなければ理性崩壊だろ。別に自分は理性があるとか、そういうわけではない。ただ…
どうせ疎遠になっていくだけだろ。
───
まさか、ここまでとは。
香音さんが俺の家に行きたがってどうもしようがないので、渋々家に入れた。
香音「これが一流小説家の住むとこ…!」
宏樹「不必要な単語があるぞ」
香音「これが一流の住むとこ…!」
宏樹「はぁ…」
別に、誰の家もこんなじゃないか?
それに俺はアパートだぞ。実家からは一人立ちしたんだ。お世辞にも綺麗とは…
香音「ちゃんと隅まで掃除が行き届いてる…!私の部屋よりずっと綺麗だよ!」
…こんな調子で大丈夫だろうか。
一緒にいると、なんだ、褒められすぎて疲れるというか…
香音「えーいいなー私、ここに住む!」
宏樹「ダメ」
香音「じゃあ、たまに来るのは?」
宏樹「それは…はぁ、まあいいだろう」
香音「やったー!」
宏樹「ただし、来るならちゃんと俺に言ってから来て」
香音「はーい」
こんなにも俺の事を認めてくれる人は今までいなかった。
俺の親もこんなにべた褒めじゃなかったぞ。
全く…これから俺はどうなるんだ?
それから、しばしば俺の家には香音さんが来るようになった。
いや、しばしばというより、2日に一回。
そんなペースで来るので、部屋は香音さんの着ける香水の匂いがほのかにするようになってしまった。
この匂いを嗅いでいると香音さんの事を思い浮かべてしまう。
…あの距離感、態度、言動…
学校にいる時はあまり会わないが、いつも俺の事を待っていて、俺の家に来た時はまるで自分の家かのように振る舞う…
…何を考え、思っているのか知らないが、周りから勘違いされそうだ。
…もしかして、俺の事を…
いや、ないない。あり得ないな。
いくらなんでも、都合が良すぎないか?
ここは小説の世界じゃない。
ましてや主人公にもなれない俺が、ヒロインと結ばれるなんて展開は見たことも聞いたこともない。
きっと、何か裏がある。
まだ、警戒の姿勢は解かないでおこう。
───
「なぁー宏樹」
宏樹「はい」
「お前、付き合ってんの?」
宏樹「…それはどういう?」
「ああ、いや、ただお前が女子と一緒に帰ってるの見かけたって友達が言ってただけなんだけど…」
宏樹「はぁ…付き合ってないぞ」
「またまた~、…どう?かわいい?」
宏樹「それは自分で確認するのがいい」
「なんだよ~教えてくれたっていいのに」
「まあいいや、二人とも、ご幸せに」
…ほら、危惧した通り変な勘違いが生まれた。
いや、悪い噂ではない分まだいい。
が、厄介だ。からかわれるのは慣れたが、噂が拗れた時の事を考えると、少し嫌だ。
俺はいつも通り人が少なくなった時に大学を出た。
そして、いつも通り…
香音「あっ、宏樹君やっと来た!」
一目散にこっちへ走ってくると、俺の腕を掴んで勢いを弱める。
香音「もー今日は遅かった!後1分で帰ってたよ」
宏樹「そう言うけど、いつも帰らない」
香音「じゃーなんで待っているのでしょうか、クイズです」
宏樹「…さあ?」
香音「答えは、その方が楽しいから!さっ、今日は宏樹君の家に行く日だよ、早く行こっ」
宏樹「はいはい、分かったよ行くよ」
いつもこんな調子じゃ、あいつらに勘違いされても無理はない。
…さて、どう言おうか?
宏樹「いや、特に深い意味は無いかな。なんか、ただ書いてるだけって感じ」
香音「私と同じだ、それでいつの間にか義務感が生まれちゃって、やる気無くなってくんでしょ?」
宏樹「そう。」
香音「やっぱり~私もそうなんだよね、私は小説じゃなくて絵を書いてるんだけど、やらなきゃって思うと…」
宏樹「…嫌だな、好きだった事が嫌になってく感覚ってのは」
香音「まー、結局やるんだけどね」
会話してみて何となくだが、この人とは気が合いそうだと思った。
性格は正反対に近いが、それでいいのかもしれない。
相性において重要なのは、性格より価値観や思考だ。
その点において、双方とも創作者であるという部分で相性が保証されているのかもしれない。
香音「急に頼んだのに送ってくれてありがと!じゃあ、またね!」
宏樹「あぁ、気をつけてな」
駅に着き、俺が乗る電車とは違う電車で香音さんは帰っていった。俺は自分の乗る電車に乗り、座席でボーッとしていた。
香音さんは俺のファンだと。
わざわざ俺に声をかけて、大切なノートを返してもらい、俺のファンだと言ってくれた。
それなのに、俺は香音さんの事を知ってすらなかった。
はぁ、これも俺の人間関係が希薄な原因の一つだろうな。
───
香音「待ってたよー、こんな時間まで何してたの?」
宏樹「…昨日会ったばかりだろう?何でわざわざ俺を待ってたんだ?」
香音「そりゃ、また話したいからに決まってるでしょ」
俺はいつものように、人だかりを避ける為に人が少なくなる時間に大学を出た。
いつも通りに人が少なく、いつも通りに空も暗く、いつも通りに帰れると思った。
それで、少し歩いたらこの様だ。
昨日も思ったが、やはり距離感がおかしい。
誰しもパーソナルスペースというものがあり、個人の基準に則って親睦を深めるのが、対人関係における暗黙のルールなのだが…
どうやら香音さんのパーソナルスペースは、昨日会った男の隣、それも少しよろけたらぶつかりそうなくらいの距離にいてもへっちゃらなものらしい。
香音さんが近付いてくる度にほのかに香る甘い香水の匂い、それに学内…俺が学内で顔を見たことがある女子の中でも一番整っている。
そんな人が、この距離感で話してきたら、俺じゃなければ理性崩壊だろ。別に自分は理性があるとか、そういうわけではない。ただ…
どうせ疎遠になっていくだけだろ。
───
まさか、ここまでとは。
香音さんが俺の家に行きたがってどうもしようがないので、渋々家に入れた。
香音「これが一流小説家の住むとこ…!」
宏樹「不必要な単語があるぞ」
香音「これが一流の住むとこ…!」
宏樹「はぁ…」
別に、誰の家もこんなじゃないか?
それに俺はアパートだぞ。実家からは一人立ちしたんだ。お世辞にも綺麗とは…
香音「ちゃんと隅まで掃除が行き届いてる…!私の部屋よりずっと綺麗だよ!」
…こんな調子で大丈夫だろうか。
一緒にいると、なんだ、褒められすぎて疲れるというか…
香音「えーいいなー私、ここに住む!」
宏樹「ダメ」
香音「じゃあ、たまに来るのは?」
宏樹「それは…はぁ、まあいいだろう」
香音「やったー!」
宏樹「ただし、来るならちゃんと俺に言ってから来て」
香音「はーい」
こんなにも俺の事を認めてくれる人は今までいなかった。
俺の親もこんなにべた褒めじゃなかったぞ。
全く…これから俺はどうなるんだ?
それから、しばしば俺の家には香音さんが来るようになった。
いや、しばしばというより、2日に一回。
そんなペースで来るので、部屋は香音さんの着ける香水の匂いがほのかにするようになってしまった。
この匂いを嗅いでいると香音さんの事を思い浮かべてしまう。
…あの距離感、態度、言動…
学校にいる時はあまり会わないが、いつも俺の事を待っていて、俺の家に来た時はまるで自分の家かのように振る舞う…
…何を考え、思っているのか知らないが、周りから勘違いされそうだ。
…もしかして、俺の事を…
いや、ないない。あり得ないな。
いくらなんでも、都合が良すぎないか?
ここは小説の世界じゃない。
ましてや主人公にもなれない俺が、ヒロインと結ばれるなんて展開は見たことも聞いたこともない。
きっと、何か裏がある。
まだ、警戒の姿勢は解かないでおこう。
───
「なぁー宏樹」
宏樹「はい」
「お前、付き合ってんの?」
宏樹「…それはどういう?」
「ああ、いや、ただお前が女子と一緒に帰ってるの見かけたって友達が言ってただけなんだけど…」
宏樹「はぁ…付き合ってないぞ」
「またまた~、…どう?かわいい?」
宏樹「それは自分で確認するのがいい」
「なんだよ~教えてくれたっていいのに」
「まあいいや、二人とも、ご幸せに」
…ほら、危惧した通り変な勘違いが生まれた。
いや、悪い噂ではない分まだいい。
が、厄介だ。からかわれるのは慣れたが、噂が拗れた時の事を考えると、少し嫌だ。
俺はいつも通り人が少なくなった時に大学を出た。
そして、いつも通り…
香音「あっ、宏樹君やっと来た!」
一目散にこっちへ走ってくると、俺の腕を掴んで勢いを弱める。
香音「もー今日は遅かった!後1分で帰ってたよ」
宏樹「そう言うけど、いつも帰らない」
香音「じゃーなんで待っているのでしょうか、クイズです」
宏樹「…さあ?」
香音「答えは、その方が楽しいから!さっ、今日は宏樹君の家に行く日だよ、早く行こっ」
宏樹「はいはい、分かったよ行くよ」
いつもこんな調子じゃ、あいつらに勘違いされても無理はない。
…さて、どう言おうか?
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