隘路

重過失

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唯一の味方

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時間が長くて、この教室に自分は居るべきではない気がして、3時間目の授業はもう耐えきれずに保健室へ行った。

俺は体調も悪くないのに保健室へ行くということに、少し罪悪感を感じていた。
本当は具合が悪い人の為にある保健室を、健康な俺が使っていいのだろうか?

また誰かに迷惑をかけてしまうのではないか…?

先生は俺の様子に察したのか、特に注意をせずに保健室へ行かせてくれた。
それどころか先生は俺の為に気を効かせて、わざわざ付き添いとして保健係ではなくさとちゃんを指名した。
俺は先生に対する申し訳なさと感謝を、何とか目で伝えた。

保健室に着くまで俺とさとちゃんは無言だった。
いくら俺を庇ってくれたとはいえ、さとちゃんも俺のせいで危なかったんだから、俺に対して何か思っているのかもしれない。

保健室に着くと、保健室の先生が俺達の方を見た後、訊ねてきた。

「大丈夫?どこか悪いとこはある?」

幸次「あの…」
佐藤「こいつ、さっきから頭が痛いって言ってて、それで保健室に来ました」

「そう、じゃあ熱を測るね」

そう言って先生は体温計を取り出すと、俺に手渡した。
俺はそれを使って体温を測ったが、もちろん平熱だった。
そりゃそうだ。体調が悪いわけないんだから。
でも、これだとまたあの教室に戻される…
俺は悩んだが、結局先生に見せることにした。

「平熱だね、頭はどんな感じに痛いの?」

幸次「なんか、ズキズキする…」
佐藤「顔色も悪いし、ここでゆっくり休めよ」

「そうだね…確かに顔色が良くないから、あそこのベッド使っててもいいよ。でも、この授業時間が終わったら戻ってね。先生は職員室に行ってるから自分で起きて」

先生にそう言われた俺は、カーテンで周りから離されたベッドに横になった。
その後すぐに先生が保健室から出て職員室に向かう足音がした。

何の変わったとこもない、普通の天井を見ているだけなのに、頭の中でずっと朝の事が回ってる…

教室に入った瞬間に、周りから悪者扱いされ、居場所が無くなる。
もし早めにさとちゃんが来てくれなければ、俺はショックでそのまま帰っていたかもしれない。

ただでさえ、保健室にいるのも嘘をついてベッドを使っている訳だし、自分はやってはいけない事をやっているんだと、強く感じる。

俺の寝てるベッドにさとちゃんは座った。

幸次「なんでさとちゃんは嘘ついてまで俺を保健室に居れるようにしたの?」

佐藤「?いや、お前は気分良くないだろ?保健室にいるべきだ」

幸次「でも、俺は体調悪くない…」

佐藤「はぁ、お前、アホか。体調と気分は全然違うからな」

幸次「え?」

佐藤「お前は朝からあんな目にあって嫌な気分だろ?あんなクソ教室にも居づらい、だから保健室で休憩するんだろ

はー、大体、俺もあんなとこに長居したくなかったんだよ。あいつらは何も知らないってのにお前を責めて…」

さとちゃんは愚痴をこぼし続けた。
クラスのやつは最低だ、とか
幸次は悪くないのに、とか
それを聞いていると、また頭の中で朝の光景が思い浮かぶ。

俺が来た瞬間に、クラスのみんなは顔を曇らせて俺を責め始めた。
その中には、のりとたっちゃんもいた。
あの顔が忘れられない。

でも、さとちゃんはあの二人と違って俺の味方をしてくれた。
教室での流れに逆らって、嘘までついて、俺をこうやってあの教室から遠ざけてくれた。

幸次「なんでさとちゃんは、のり達みたいに俺を悪く言わなかったの?」

佐藤「そんなの、お前は悪くないからに決まってるだろ。」

幸次「でも…俺は悪いおっちゃんに嘘をつかれて着いていって、それでみんなに危ない目を…」

佐藤「それは俺達みたいな子どもを連れてくおっちゃんが悪いんだ。それに、そういう悪いおっちゃんは少ないから、そんな事考えられるかよ

俺だって着いていってただろうし、あいつらだってきっとそうだ。でも、あいつらはその時その場所に居なかったからな、終わった後にいくらでもああやって言えるんだ。

自分達だって着いていくくせに…」

幸次「…」

佐藤「とにかく、俺はお前の友達だからな。友達が困ってるのに助けないのは人としていけないだろ?」

さとちゃんはただ俺だけのためにここまでしてくれて…
もうこれ以上、さとちゃんに迷惑をかけるわけにはいかない…

佐藤「なんかあったら俺に言えよ、聞いてやるから」

幸次「でも、それだとさとちゃんに迷惑かけちゃうよ」

佐藤「おいおい、友達の悩みが迷惑なんて思うわけないだろ、遠慮しないで言えって。こうでも言わないと幸次は言わないだろ?」

俺の思ってることはさとちゃんに完全にバレてるって事か…
でも、なぜか悔しくない。
誰かに心を読まれてるっていうのに、どうして悔しくないんだろう?
いつもならちょっとムカつくのに、今に限っては悔しくなんて微塵もない。

なんでかは知らないけど、さとちゃんには迷惑をかけちゃったから、いつか絶対に恩返ししなきゃな…

佐藤「やべっ、もうそんな時間か、早く戻ろうぜ。戻りたくないけどな…」

さとちゃんはそう言いながら座っていたベッドから立ち上がり、チャイムが鳴り響く廊下を二人で走った。

二人で教室に戻ると、一人がこっちに近寄ってきた。
こいつ、朝に一番最初に俺を悪くいってきたやつだ、なんでこんなやつが近寄ってきたんだ?

「幸次、その…朝は悪かった…謝るよ…」

「よし、よく言えたな。じゃあこの件はこれでおしまい。もう悪口なんて言わないように。」

佐藤「先生?なんでこんな事に?」

「ん?あぁ、佐藤くん達が保健室に行った後に謝るように言ったんだ。どんな事があっても悪口はダメな事。それに、幸次くんだってこの事を長続きさせたくないでしょ?だから早く仲直りした方が、これからは楽しくなるよ。」

幸次「先生…ありがとうございます」

さとちゃんだけじゃなくて、先生にまで迷惑を…
俺の勝手な行動のせいでみんなに迷惑をかけてしまったことを、俺は凄く後悔した。

決めた。もうこれからは絶対に誰にも迷惑かけない。
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