隘路

名前未確定

文字の大きさ
上 下
2 / 36
振り返る

昔の記憶

しおりを挟む
 この老体になってからは、バイクの運転免許があるのを活かして郵便配達業をしている。
 近所をバイクで回るだけだから、知り合いとも会うし、道も熟知しているから簡単だ。

 家を回っていたらさとちゃんの家に来た。表札の筆記体で書かれたSATOUは、あいつの息子がこの家を改築する時につけたものらしい。
 この事について、さとちゃんは思い出す度に「あいつがよ~」なんて言って愚痴ってるのを見る限り、気に入っていないようだ。

 郵便を配達する為にインターホンを押して、声をかける。すると中からさとちゃんが出てきた。

 佐藤「おう、幸次じゃねぇか、ちゃんとやってるか?」
 幸次「当たり前だろ、さとちゃん、あいつは?」
 佐藤「あいつはどっか出かけてったよ、それで…」

 俺達はここでの付き合いが随分と長い。年齢も近いし、気が合うんだ。
 だからすぐ仲良くなった。酒を飲んだり映画を観に行ったり…
 こうやって立ち話してると、お互いに老いたと思う。昔はすぐに動けたが、今じゃそうはいかない。こんなしわくちゃでヨボヨボじゃ、走るのは勿論、キツイ坂を登る時はゼェゼェ言ってる。
 おっと、こんな立ち話をしてる場合じゃないな。話のキリをつけるのも難しくなってな…

 幸次「まだ郵便が残ってんだ、それやっちまうよ」
 佐藤「おう、そうしろそうしろ、じゃあな、真面目にやれよ」
 幸次「当たり前だ」

 からかい気味にそう言ってくるが、それがまたさとちゃんのいいところだ。あの気さくさはちっちゃいのからしたら俺より話しかけやすくて遊びやすいだろう。

 さて、残ってる分を早く終わらせて帰るか…
 それで、しばらくバイクを走らせて各家を回っていった。周りの風景を見るたびに、その場所であった懐かしい記憶が浮かんでくる。

 あの床屋で初めて髪を切った時、切りすぎだって怒った事があったな。母親になだめられて泣きべそをかきながら帰ったのが懐かしい。

 あそこにあったはずの駄菓子屋は、コンビニになってしまった。いつも店頭に立ってたおばちゃんはオマケをくれたり、何かと優しかったな。

 そして、あまり通らない道に入った。
 ここ…そんな通らないのに、見るたびに強烈な何かを感じる…鮮明で、嫌な記憶な気がする…
 この不明瞭な感覚に不快感を感じた時、左側にある公園が目に入った。

 なんの変哲もない、ただの公園だが…
 俺はその公園にあるベンチを見て、今まで不明瞭だった記憶を思い出した。



 ───────



 学校から帰った後、友達を一人で待つ時はブランコで立ち漕ぎをするのが好きだった。でも他の人も並んでいて、そこでも待ってなきゃいけない。

 数分か、数十分か待った後、やっと俺の順番になった。すぐ遊びたかった俺は足早にブランコへ向かった。

「いぇーい俺の勝ちー!」
「うわっ!お前ズルいよ!」

 横から3人の男が走ってきたかと思ったら、俺が使おうとしていたブランコを取ってしまった。
 待ちに待った、俺の順番なのに…
 納得いかない、ズルすぎる!待ったのは俺なのに!

 幸次「おい!そのブランコは俺の順番だったぞ!」

「は?早いもん勝ちだし~w」
「会いてんのに早く乗らないほうが悪いだろ!」

 幸次「ズルい!そんなルール無しだ!無し!」

「ざんね~ん、俺はもうここから降りませ~んw」

 ムカつく!こいつら、横入りしてきたくせに!
 おかしいおかしい!絶対に俺の番だ!

 幸次「横入りしてきたズルやろう!バーカ!」

「バカって言ったやつがバカなんだよ、バカ!」

 佐藤「幸次!お前何やってんだ?」
 幸次「さとちゃん!こいつらが俺の番なのにブランコ取った!」
 佐藤「何やってんだよお前ら!幸次に乗せてやれよ!」

「早いもん勝ちで~す、残念でした~!」

 佐藤「うわっ、ズルいやつ。幸次、もうこんなやつほっといてあっちで先に二人で野球やろうぜ!」
 幸次「うぅ、そうだな、もうそうしよう!あっかんべーだ!」

 結局この日はあいつらのせいで、嫌な気持ちのまま野球をやった。後からたっちゃんとのりがきて、4人で野球をやったが、俺達が野球をやってる間、あいつらは俺の乗るはずだったブランコにずっと乗ってた。

 たまに横目で見たけど、いつみても乗ってたからムカついた。その日はいいプレイが出来なかった。

 次の日、登校中にさとちゃん、たっちゃん、のりでまた公園で野球をする約束をした。
けど学校に行ったら、全校集会があった。何があったのかは教えてくれなかったが悪いことが起きたらしく、集団下校となった。

 家に帰ってランドセルを玄関にほっぽり投げ、グローブを持ってあの公園に向かって走る。
 公園に着いた!と思ったら、黄色くて黒い文字が書いてあるテープの様なものが公園に張り巡らされていた。なぜ入れないのかは分からなかった。入り口でボーッと立っていたら横からさとちゃんが走ってきた。

 佐藤「おーい幸次!って、なんだこれ?」
 幸次「そうなんだよ、これのせいで野球が出来ない」
 佐藤「これ…"立ち入り禁止"だって、入れないじゃん!」
 幸次「えっ!?出来ないの?」
 佐藤「父ちゃんが言ってた、これがあるとこは事件が起きたとこだって」
 幸次「そっか…」

 その後にきたたっちゃんとのりにもその事を伝えた。二人とも俺と同じでがっかりしていた。
 結局、この日は野球ができず、近くの駄菓子屋によって駄菓子を買って帰った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

尖閣~防人の末裔たち

篠塚飛樹
ミステリー
 元大手新聞社の防衛担当記者だった古川は、ある団体から同行取材の依頼を受ける。行き先は尖閣諸島沖。。。  緊迫の海で彼は何を見るのか。。。 ※この作品は、フィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。 ※無断転載を禁じます。

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

昭和レトロな歴史&怪奇ミステリー 凶刀エピタム

かものすけ
ミステリー
 昭和四十年代を舞台に繰り広げられる歴史&怪奇物語。  高名なアイヌ言語学者の研究の後を継いだ若き研究者・佐藤礼三郎に次から次へ降りかかる事件と災難。  そしてある日持ち込まれた一通の手紙から、礼三郎はついに人生最大の危機に巻き込まれていくのだった。  謎のアイヌ美女、紐解かれる禁忌の物語伝承、恐るべき人喰い刀の正体とは?  果たして礼三郎は、全ての謎を解明し、生きて北の大地から生還できるのか。  北海道の寒村を舞台に繰り広げられる謎が謎呼ぶ幻想ミステリーをどうぞ。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...