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DarkQuord

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真実

瓦解する策

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俺と綾人さんは、これからどうするのかを話し合った。

陽太「まあ、まずはあのグループと関わりを持っている綾人さんと累さんの情報が知りたいな」

綾人「さっきも言った通り、もうグループはめちゃくちゃな状態だ。もう何も出来ないだろうな。」

陽太「分かった、後は累さんだが…」

綾人「あれでは何も聞き出せないだろうな」

陽太「なら、家に行くか?」

綾人「いや、もう警察による取り調べが行われているだろうし、無断で立ち入る訳には行かないだろう。」

陽太「でも、もう累さんの家以外に、累さんに関わる情報がある可能性のある場所はないぞ。それに、町外れにある家だから少しくらい行ったって…」

綾人「町外れなら尚更おかしいだろ、目的があからさますぎる。仮に何かを見つけたとしても、俺達はあの事件に、少しとはいえ関わってしまっているから部外者として立ち回れない。」

陽太「…いや、それは俺だけの話だな。綾人さんは関わっていない。関わっていたのはグループ関連の事で、この事件には関わってない。」

綾人「いや、俺も関わっている。君は累さんに代役として誘われただろ、それの本人が俺なんだ。」

陽太「そうだったのか…でも、それなら累さんがその事を警察に話してないかもしれない」

綾人「それは賭けすぎないか?」

陽太「個人情報が知られていないならいいだろ?」

綾人「…」

結局、俺達は意を決して累さんの家に行く事となった。
住所は俺が知ってるし、あの時に行ったように、同じルートで向かった。

綾人「これか?」
陽太「そう。俺は裏口を見てくるから、綾人さんはここが開くか確認してくれ」

俺は、あの時、指示役にバレないよう秘密に出てきた裏口を探した。
結局、指示役は行方不明らしいが、あの時以来どこに消えてしまったんだろうか?
今、ここにいるのはそういった消化不良のものを取り除くためだ。

俺は裏口のドアノブに手を掛けて引いたが、やはり鍵がかかっていた。
向こうはどうだろうか、戻ろう。

綾人「こっちも鍵がかかっているぞ。やっぱり、既に警察が来たんじゃ…」

となると、入るにはドア以外となる。
俺は家の周りをぐるっとよく観察してみた。

陽太「おーい、ここの窓、開いてるぞ。」
綾人「はぁ?どれ…うわ、本当だ。」
陽太「でも何で開いてるんだ?…まあとにかく、正面玄関も裏口も閉まってるんじゃ、あそこしかないな。」

綾人「ううむ、気が引けるな」
陽太「まあ、しょうがないとしよう」

俺達は開いていた窓から中に入った。
中は普通の家だ。
ここは…どうやらあの時、3人で座っていた椅子とテーブルがあるとこらしい。

綾人「2階への階段があるぞ」

あの時の記憶では、一階には個人部屋のようなのは無かったはずだ。
なら、二階へ行こう。何かがあるかもしれない。

綾人「俺はここの部屋を見るよ」
陽太「じゃあ、俺は左の部屋を」

そう言って別行動で部屋を捜索した。
くまなく色々なとこを物色したが、この部屋には何も無かった。
もうこの部屋には探すとこが無いので、あちらの様子を見に行くことにした。

陽太「こっちは何も無かった、そっちは?」
綾人「こっちも特に、何も無かった。」
陽太「なら…あそこに行くか。」

通路の奥に佇む扉は不気味な雰囲気を漂わせている。

綾人「あれに入るのは勇気がいるな」
陽太「人の家勝手に入ってる時点でもうダメだ。行こう」

俺が前に出て、ドアノブを引く。
中を見渡す。どうやらここは書斎のようだ。

綾人「ここは何かありそうだな。」
陽太「俺は本棚を見る」
綾人「分かった。俺はデスク周りを。」

本棚に入ってる本は、どれも学術的で難しそうな本ばかりだ。
科学、物理学、論理学、心理学、医学…
歴史や地理のものまで、色んな分野のものが揃っている。

だが、いくら探しても娯楽小説とか、漫画とか、そういうものは無かったから、累さんはそういう趣味はなかったんだろう。

陽太「そっちは?」
綾人「今のところ何もない。まずいな、このままじゃただの不法侵入だ…ん?」
陽太「どうした?」
綾人「何だか、意味深な紙切れを見つけた。これは?」

見てみると、Dの右上にNだけ書かれた小さい紙切れだった。
暗号のように見える。何だろうか?

綾人「…」

綾人さんはこれについて考え込んでいるようだ。
俺はその間、まだ見てないとこを見てみよう。

あの後、探し回ったが結局それらしいものは見つからなかった。
それで、あの紙切れは何だったのだろう?

陽太「綾人さん、何か分かったか?」

綾人「恐らく、何かをグリッド線に見立てて、何かの場所を指定しているんだと思う」

陽太「グリッド線?」

綾人「垂直線と水平線を等間隔で引いたマス目だと考えてもらっていい。と、なるとこのアルファベットはマス目を指定する番号の様なものだろう。」

陽太「等間隔に物が置いてあるとこ…もしかして」
綾人「勘が鋭いな。」

俺はさっき調べた本棚に近寄った。
しかし、番号だったら数字で表すはずだが…

DとN…指定する番号…等間隔のマス目…
ハッと思いついた場所の本を手に取ってみる。

上から4段目、左から14冊目の本だ。
手に取ってみても他の本と何ら変わりのないような…
俺はその本を開いてみた。
パラパラとめくっていると、終わる直前で急にページが開かなくなった。

陽太「この本、ここから先がめくれない」
綾人「貸してくれ」

綾人さんは、俺が手渡した本を見るなり、止まったページの表面を破り始めた。

陽太「うわっ、何やってるんですか?…ってこれは…」
綾人「これは…」

破れたページの隙間から見えるのは次のページではなく、本がくりぬかれたような空洞だった。
綾人さんは、そのページを完全に破ってみせると、空洞の中に入っていたメモ帳の様なものを取り出した。

綾人「明らかに、累さんにとって重要な物だろうな。」
陽太「…中を見てみようか」

俺達は本から出てきたメモ帳を見てみることにした。

すると、ボールペン、シャーペン、鉛筆、ネームペン、とにかく、色々な種類で書かれた意味不明なページが6ページ程続いた。

陽太「うわぁ…これはどういう事ですか?」
綾人「統合失調症患者の特徴によく似ている。」
綾人「後ろから開いてみよう」

──────────


1.人というのは、本当に愚かだ。
顔も見たことない相手を、簡単に信頼してしまうのだから。

SNSなんてもってのほかだ。顔どころか声すら聞けないかも知れないのに、何故、文だけで信頼しようと思えるのだろうか?

その文が書かれる時、書いている人間は何を思って、どういう意味を込めているのかすらも、結局は先入観をベースとした憶測から展開されるのだから誤謬が生じる。

でも、人間は生きる為だけに動く。それは生物全般に当てはまることだが、信頼のトリガーが些か軽すぎやしないだろうか。

この現代は、私にとって生き辛いものだと思っている。

だから私は、信用に価するか否かを確認する時は必ず一度は会うようにしている。

2.SNSにてシズという動画投稿者を見つけた。
ありふれた投稿者とは違い、彼女は独自のスタイルを築きあげて、着実にその人気を勝ち取っている。

しかし、正直この界隈に来ないでほしかった。
出る杭は打たれる、誰かが嫉妬したり、知らず知らずの内に怒りや恨みを買っていたり、濡れ衣を着せられたり、少しの粗も詮索される。

嫉妬、憤怒、欺瞞、嘲笑、人間の負の部分が露になるこのSNSというのは、純情で誠実てある程、序列が低くなる。

誰かが彼女を支える柱の役を努めなければ彼女はいずれ崩壊する。

3.愛莉を庇って、謎のグループに入ってしまった。
愛莉の話によると、このグループは、まさに私が最も嫌いな人間が沢山いるような集まり。

人に嫌がらせをするなんて事を、堂々と言って計画もしている。倫理観の欠片もないようだ。どうやってこのグループを解散させようか?

陽太さんの話が本当だとすると、どうやらこのグループの標的は静さんの様だ。まさか、そんな身近な人が標的にされているとは。もっと早く気付けばよかった。

4.今日、一人を処理した。
愛莉には悪いけど、彼女を上手く利用してハニートラップを仕掛けた。

Gが下心を持ちながら、私が手配した愛莉の家に来た時に燃やした。

証拠となるようなものは全て可燃物のため、跡形もなく消えただろう。

5.グループの構造、リーダーの思考、Tの思考、Sの思考を参考に、このグループを解散させる方法を思いついたのでここに記す。

6.捕まった際、無罪判決、もしくは刑罰を軽減できる様な幾つかの物証、言証を残す。

家にあるペンで支離滅裂な文を壁に殴り書きする。
その後、上からそれが隠れるような何かしらを置いて隠す。
新聞紙とテープを使い窓を覆った後、1ヶ月程経過したら少し強引に剥がす。
家の内装を少々崩す。
幻覚、妄想が見えている様な言動を取る。
言動の統合喪失。
突然興奮したり大声を出す。

これらは統合失調症における陽性症状や急性期の言動。
警察によって行われるてあろう家宅捜査時に、これらが見つかれば、私は心神耗弱によって責任無能力状態とされ、重罰は避けられる。

7.私、くるみ、Sの3人で集まる時、Sには来ないよう言い、代わりに陽太さんを呼ぶ。

陽太さんが帰った後、くるみを殺して、首を切断してTと会う時に持っていく。
この時に着いた血痕は乱雑に処理する。

T宅にてT殺害後、その場で3つ程の刺し傷を作る。
警察が到着したら、被害者を演じる。

全ての工程は体毛、指紋等の個人を特定可能な証拠を残さないように。

3人で集まった時に逆上したTがくるみを殺害、私はTの家に隠れたが、Tに見つかり殺されそうになるが、防衛中にTが死亡。

事件の経過がこうまとまれば私の無罪が確定、医療観察法の手続きに移行、しばらく療養を受けて社会に戻れる。

8.最後に、この手帳は本に隠して処分させる。



──────────



綾人「…重要な証拠の様だ。」

累さん…
なんて事を…企てていたんだ。
人を2人殺して、それを濡れ衣として自分の殺した人に被せて自分はのうのうと生きようってか。

俺達はそんな危険人物を頼っていたのか…
失望した。
幻滅した。
誰かを失ったような喪失感だ。
事実、今この時に優しくて頼れる累さんは失った。
代わりに現れたのは冷酷非道で、殺人すら躊躇しない狂人だ。

綾人「悲しむ気持ちは分かる。しかし、これはとても価値のある証拠だ。」

陽太「…そうだな。」
綾人「とりあえず、警察に通報しよう。」

一階に戻ると、気になるものが見えた。
引き摺られたような血痕みたいな、手帳にも書いてあった事と重なって…
とにかく、不穏で不気味だ。
だけど、これは手帳のように重要な証拠な繋がっているかもしれない。

陽太「綾人さん、血痕が…」
綾人「はぁ、嫌だな、一応見に行くけどさ…」

二人で血痕を辿っていくと、どこかへ繋がるドアの下を潜っている。

綾人「開けるぞ…ふぅ…」

綾人さんが勢いよくドアを開けると、そこには何かが落ちていた。

綾人「今度はなん…うわっ!?」
陽太「何だ、何があった!?…うっ!?」

そこに落ちていたのは単なる物ではなく、

首から上が無い人間の死体だった。
虫がたかっていて、少し腐敗臭もする。
無駄に明りがあるせいで、首の切断面がハッキリ見えてしまった。
俺は耐えられず、その場で吐いてしまった。

綾人「俺は警察を呼ぶ。君は外で休んでてくれ。」
陽太「おぇ…」

何とか外に出て、座り込んで休んでいると遠くからサイレンが聞こえてきた。
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