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DarkQuord

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真実

操り人形劇

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家に帰った俺は、早速その住所を調べてみた。
愛莉を殺した主犯3人の内一人。

橘は累さんに殺された。
一人は捕まった。
この住所の家に居るのは、残る一人だ。

調べてみると、案外近くに住んでることが分かった。
経路も簡単な為、後は準備して実行するだけとなった。

俺はホームセンターへ行き、配達台車と台車用ボックスを購入した。
鬱病だった頃に配達業のバイトをしていたから、家に配達員の服と帽子あった。
その服を着て帽子を被り、車の荷台に買ったボックスと台車を入れ、ナビにその住所を入力した。
ナビの指示に従い、車を走らせる。
妙な緊張感が身体中を小走りしている。
アクセルを踏む足が震えている様な気がする。

やがてその住所の場所へ着いた。
ただの一軒家だ。
ここが累さんの言っていた奴の家か。
俺はその家のインターホンを押してみる。
相手側から応答が返ってきた。
俺は配達員のフリをして、奴に扉を開けさせる。
扉が開き、奴の姿が見えた瞬間。

俺は奴の顔面を思いっきりぶん殴った。
反動で後ずさる奴を尻目に、俺はボックスに入れておいた包丁を取り出した。

「な、何しやがる!?」

そう叫ぶ奴の顔を見た時、俺は既視感に気を奪われた。
そして、思わず声を漏らしてしまった。

陽太「綾人…?」

美優の夫が、何故この家に居る?
しかも一人だけで。

綾人「お、お前…陽太じゃねえか…」
綾人「おま…それなんで持ってやがる…」

どうやら俺が包丁を持っているのに気付いたらしい。
そんな事よりも、俺は訊かなければならない事が一気に増えた。

陽太「おい。なんでお前がここに居る?」
綾人「お前こそ、なんで此処を知っている!?」
陽太「お前…訊きたい事が山ほどあるから、答えろ。」

俺は綾人に質問を始める。

陽太「単刀直入に訊く。お前、誰か殺しただろ。」
綾人「…あぁ、やったよ。」
陽太「殺した奴の名前は“愛莉”か?」
綾人「…!?何故お前がそれを…」
陽太「全部聞いたんだよ。累さんから。」

面会時だけじゃない。
有名インフルエンサーもつれの猟奇殺人事件だ。
メディアは連日取り上げ、累さんの供述を報道していた。
俺はそこからあのグループの存在を知ったんだ。

あのクソグループの事を。

綾人「…はぁ、やっぱりあいつは裏切り者だったんだな。」
陽太「…やっぱり?どういう事だ。」

綾人「俺があのグループを抜けたくなった時、累に相談したんだよ。
そしたら累は俺に

「私もこのグループが嫌いだ、だから一緒に潰そう」

なんて言ってきたんだ
結局、累がTを殺して、グループの事を洗いざらい話したせいでグループは散り散り、逮捕者も出た。

Tに誘われて断れなかったとはいえ、俺は愛莉を殺した3人の内の一人だ。

一人は逮捕されるしTは殺されるしで、怖くなったんだ。

それに、俺には美優がいる。美優が巻き込まれる訳にはいかない。だからこの家に逃げてきたんだ。」

陽太「この家に来てからどれくらいだ?」

綾人「3週間くらいかな…多分だけど。美優は今頃何してるかな…」

陽太「どうやって美優に断って来たんだ。悲しんでるだろうよ。」

綾人「仕事の長期出張…そう言ってきた。離婚も、あのグループに入ってた事も、全部話す勇気なんて無かった。

グループで虐めてる人が静さんだなんて知らなかったんだ。

…俺はどうしたらいい?」

陽太「…綾人、結婚前の苗字は?」
綾人「“新城”だ。こんな事聞いて何になる?」
陽太「いや、何となくだ。」

少しの沈黙の後、綾人が話し始めた。

綾人「累は恐ろしいやつだ…」
綾人「君は恐らく、累に言われてここに来たんだろ…」

陽太「…そうだが、何だ?」

綾人「陽太さんはおかしいと思わなかったのか?

なんで自分が殺しに行かなきゃいけないのかって。

おかしいだろ、これはタブーだろうけど、私は静に手を出してないんだ、信じてくれ。」

陽太「…じゃあ何で愛莉を殺した?」

綾人「君も知ってると思うけど、あのグループはギャングみたいなものだ。

内部の情報漏洩は決して許されないし、裏切りも許されない。」

陽太「でも、綾人さんは裏切ったじゃないか。」

綾人「いや、私が抜けようとしてたのは累と君以外、誰も知らない。」

綾人「…それで、愛莉がグループから消えた時、Tが愛莉を消そうと、指示役に秘密で動いた。

俺ら3人で愛莉の家に言って、拉致って殺すのがTの計画だった…」



──────────



綾人「本当にやるんですか?」

T「当たり前だろ、ここで消さないと面倒だからな」

俺はTに連れられて、愛莉の家やってきた。
愛莉はなにも言わず急にグループを抜けた。
このグループは闇が深い。
知られてはならない事を警察に話されたら終わりだ。
だからTは愛莉を消す事にした。

いまここにいるのは、愛莉を消すためだ。

T「俺がインターホンを押すから、俺が合図するまで待ってろ」

綾人「はい…」

Tはそう言うとインターホンを押した。
しかし、扉の向こうからは微かに物音がしただけで、誰も出てこなかった。

T「すいませ~ん、居ますか?」

Tが扉の向こうにそう語りかけても、依然として応答は無い。
それに痺れを切らしたのか、Tは扉をを引いた。
すると、扉は開いたのだ。

鍵が掛かっていなかったらしい。

T「行くぞ」

綾人「はい」

合図に合わせて、俺ともう一人のメンバーは愛莉の部屋に突撃した。

愛莉「はぁっ!?なんで、どうして、鍵掛けてたのに!」

T「あれ寄越せ」

Tは渡されたロープで愛莉の両手両足を後ろで結ぶんでいく。
俺は外にバレないよう扉を閉めて、窓も閉めようとした。
しかし、窓にはびっしりと新聞紙が貼り付けられていて閉めるのは無理だった。

壁にはびっしりと何かしらの言葉が殴り書きされていて、爪痕、血痕も着いていた。

愛莉「んー!!!」

T「お前そっち持て!」
「は、はい!」
T「お前は早く扉開けろ!」
綾人「はい!」

愛莉「んーんー!!!」

俺は急いで扉を開けると、Tから渡された車のキーを使ってトランクを開く。

T「押し込め、足出てるぞ!」
T「早くしろ!」

何とか3人がかりで愛莉をトランクに押し込むと、Tはすぐ運転席に乗ってエンジンをかけた。
俺ら二人は遅れまいと急いで車に乗り込むとTは車を発進させた。

T「ここから山に入るから、着いたらとっとと降りて俺の言う通りに動け、分かったか?」

綾人「分かりました」

車は山に入っていき、道無き道をしばらく走っていると、うっすらと前の方に山小屋が見えてきた。
車はこの山小屋の近くに止められた。

T「こいつを小屋に運ぶぞ、トランク開けろ。

お前は小屋に人がいるか見てこい。」

綾人「はい」

俺は急いで車を降りると、ジメジメしてツタが絡まってる不気味な山小屋の中に足を踏み入れた。
苔が生えまくっていて、だいぶ傷んでいる木造の小屋だ。
歩くたびに床の軋む音が聞こえて不安だ。

一回り見てみたが、どうやら人は居ないようだ。
その事をTに伝えるために、足早に小屋を出た。

T「おい遅せーぞ。で、どうだ?」
綾人「誰も居ません」

T「そうか、よし、俺とお前で運ぶからお前は外で見回ってろ。運び終わったら呼びに行く。」

綾人「分かりました」

T達が山小屋の中に愛莉を運んでいく。
俺は小屋の外で待機だ。
待っている間、俺はひそかに考えていた。

果たしてこの行為は正しいのだろうか?
いいや、正しいの訳ない。
これはれっきとした殺人だろう。
こんなことしたくなかった。
俺はこんなグループ、とっとと抜けたいんだ。

外に一人でいる今なら…
でも、もし見つかったら…
愛莉みたいになるんだろうな…
でももうこれ以上、法外な事に加担はしたくない…!
限界だ…!

そもそも、最初はただの悪ふざけだと思っていたのに、こんな事まで平然とするなんて…
あり得ない…
しかし、逃げて警察に駆け込んだとこで、俺はもう色々な違法な事に関与しているから…
あぁっ、クソっ!

それならいっそのこと…
ここであいつら二人を…

T「おい、終わったからこい。何やってんだ?」
綾人「あぁ、はい、今行きます」

…ダメだ
累さんに相談しているとはいえ、やっぱり、大人しく従っていたほうが…

T「よし、もうロープは掛けたな。

今からこいつの目隠しと手足首のロープを外して、自殺に見せかける。

いいか?全員で持ち上げるからな」

綾人「はい…」

…どうにか、どうにかしてこの状況を逆転出来ないか?
何か、何かあれば…

プルルルル…

T「ん?なんだよこんな時に…」
T「電話だ、俺は外に出てるからお前ら二人で縄外しとけ」

そうだ、スマホだ!
スマホを上手く使えば…この状況を覆せるかも…

俺ともう一人はTに言われた通り、愛莉の縄を外していった。
その時、さりげなく服のポケットを探っていた。
ズボンの右ポケットを触ったとき、固い感触が指に伝わった。

あった、間違いない、これはスマホだ!

こいつにバレないようサッと携帯を取り出した俺は、こいつに「少し用を足してくる」と言って外に出た。

急いで連絡先をスクロールしていると、累さんの連絡先があった。
それに希望を見いだした俺は、累さんにすぐ電話をかけたが、電波が悪くて上手く繋がらなかった。

はぁ、やっぱりダメか…ん?
これは…位置情報共有アプリ?

愛莉のスマホには位置情報共有アプリが入っていて、累さんと共有していた。
しかし、電波が悪いのでこれを累さんに送信する事は出来ない。

なら…こうだ!
俺は目の前を流れる川に思いっきり愛莉のスマホを投げた。
上手く川の流れに乗って、累さんに見つかるといいんだが…
そうだ、そろそろ戻らないと怪しまれる。

俺がさっきの場所に戻ってすぐ、Tも戻ってきた。
どうやら、スマホが川に着水した音は電話で聞こえていなかったようだ。

T「よし、ほどいたな、始めるぞ」
T「お前はそっち、お前はそこを持て」
綾人「はい」

後は時間を稼ぐだけだが…

T「よしっ、上げろ上げろ」

このペースだと累さんはここに間に合わない…
でも、どうやって時間を稼げば…

T「おい、何やってんだよ、ちゃんと持て」
綾人「はぁ…すみません、キツくって…」

T「おっと…お前何やってんだよ、落として傷が着いたらどうすんだよ!」

綾人「すみません…はぁ…」
T「もうお前はいい、一回下げるぞ、お前ら代われ」

ダメだ、これじゃ…これじゃ…!
でもこれ以上は…

愛莉「…?」
愛莉「…はっ、うわっ!?、ちょっと!」
T「やべえ起きやがった、おい!口塞げ!」
愛莉「離してよ!やめて!」
愛莉「いや!いやあああ!!」
T「黙れ!お前はここで死ぬんだよ」

クソ…すまない、すまない…
俺は愛莉の口をタオルで塞ぎ騒げないようにした。

愛莉「んー!!んー!!!!」
T「離すぞ離すぞ!!せーのっ!!!」

俺は口を塞いでいたタオルを離した。
そして、二人は愛莉を持っていた手を離した。

その瞬間、愛莉の首は縄にかかり、愛莉は両手で縄を掴み、両足をバタつかせ必死に抵抗している。

愛莉「かはっ…けほっ…くぅ…」
T「よし、車に戻るぞ。」
綾人「…はい」
愛莉「あっ…いかなっ…」

掠れた声、暴れる両腕両足が空を舞う音、縄が軋む音、それらを背中に受けながら俺達は車に戻った。

集合場所に着き、全員が解散した時にはもう夕方になっていた。

家に帰る途中、愛莉のあの姿が何度も脳裏によぎり、掠れた声の残響は今も耳の中にこびりついている。

ごめん…愛莉…助けられなくて…
俺が無力だから…
本当は助けられたのに…
俺は…俺は…



──────────



綾人「Tは地獄の様な奴だったよ。正直、テレビで殺されたのを知った時、少し嬉しさがあったさ。でも、次狙われるのは俺なんじゃないかって…」

陽太「何故?指示役も行方不明で、おまけにグループの存在が公にされた今、グループは統率がとれていない。」

綾人「そうだ、でも、奴等の執着ときたら…一体何が人をあんなにしてしまうんだ?

それに、俺が怯えてるのはあのグループだけじゃない、警察もだ。

美優はなにも知らない。なのに急に俺が捕まったら…」

陽太「…あの精神状態でそれは不味いだろうな」

綾人「そうだろ?だから、何とか隠さないと…」

陽太「いや、累さんは警察にあんたの事は話してないから捕まる心配は…」

綾人「そう思うだろ、でも俺の指紋とか体毛とかが見つかって特定されたらって思うと…」

陽太「…愛莉の時もあんたの情報はどこにも出回ってないから安心しろよ」

綾人「…あぁ、確かに、君の言う通りだな。変に怯えるのはやめるよ。」

陽太「もう一つ聞きたい事がある。あのグループに入ってたなら、なんで結婚式襲撃を止めなかった?」

綾人「…身元がバレるからだ。結婚式の襲撃なんてするべきじゃないのは常識だ。だけど、あのグループに倫理観を持ち合わせてる奴なんて居ないんだよ。

そんな中、一人だけ反対したらどう思われる?
勿論、「こいつはこの結婚式に関わってるんだな」って思われるに決まってる。」

陽太「それでも、一生に一度しかない大切な慶事だろ。」

綾人「そうだ、でも身元がバレたら美優にも危害が加えられるかもしれないだろ?

君も俺も、彼女を思う気持ちは同じはずだ。
だから止めれなかった。

この事があるまで、このグループのターゲットが静さんだとは知らなかったんだ。でも、あの罵詈雑言の内容を聞いて初めて分かったんだ。」

陽太「…」

綾人「はぁ…だから俺はあのクソグループが大嫌いだ。」

陽太「…そうだな。」

綾人「…そこで、一つ提案があるんだが、いいか?」

陽太「何だ?」

綾人「俺と一緒に、あのグループの残りを"掃除"しないか?

あーいや、人殺しは決してしない。
ただ、今回の騒動、俺はなんかモヤモヤして気が気でないんだ。だから一緒に全貌を探そしたいんだ。

立場違えど、お互いあのグループの被害者だ。」

確かに、綾人さんの言うことは正しい。
最初はこの家の住民を殺しに来たのだが、すっかりそんな気は失せてしまった。

ここは綾人さんの提案に乗ろう。
ちょうど俺も知りたくなったところだ。

陽太「いいね、乗ろう。」
綾人「そうか、じゃあ…早速、作戦会議といこうか」
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