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二章;OPENNESS
74話;光芒(1)
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「大丈夫だって、マリア」
にかりと笑うジルファリアがこちらへ手を差し出した。
アカデミーの鉄門前でマリスディアは立ちすくんでいた。
最近はずっと裏門から登校していたからか、正門からの登校は少し勇気が要った。
今日は飛行術の授業があるというのでマリスディアは意を決して出席するつもりだったのだが、支度をしている間にも気持ちが沈んでいった。
そんな彼女を慮っていたのか、朝、王城を出て橋を渡ったすぐのところにジルファリアが待ち構えており、一緒に行こうと言ってくれたのである。
おかげでこうして校門までは難なく歩けたのだが、どうしても門をくぐることに躊躇して一歩を踏み出せずにいる。
手を差し出したままのジルファリアとその後ろに見える学舎を交互に見比べた。
__徒花姫だ。
その時、そんな言葉が耳を掠めた。
声がしたほうを振り返ると、自分たちより少し年上らしき少女たちがこちらを見ながら門扉をくぐるところだった。
初めてそう呼ばれた時のことを思い出し、マリスディアの胸が波打ちだした。
あの時向けられた好奇に満ちた眼差しや嘲るような笑みが頭を過り、段々と呼吸が浅くなっていくのを感じる。
「おい」
だが、あの時と違ったのはすかさずジルファリアが少女たちに声をかけたことだった。
びくりと肩を跳ねた彼女らがお互い顔を見合わせて、その場に立ち止まるのを見計らい、ジルファリアが不機嫌そうに首を傾げた。
「その、あだばなってのは何だよ?」
マリスディアは胸がきゅっと縮まる思いだった。あまり触れてほしくない事だったからである。
しかしそんな問いかけにも彼女らは苦笑いしか見せなかった。
「何って聞かれても、ねぇ?」
などと曖昧に笑うのみだ。
ジルファリアとこちらをちらちらと見ながら歪んだ口元を隠そうともしない。
「みんなそう呼んでるし?」
ジルファリアは眉間の皺をいっそう深くするとため息を吐いた。
「お前らさ、人に説明もできねぇような名前をあだ名に使うなよ」
「なっ……!」
そんな正論を真っ向からぶつけられ、彼女たちは顔を真っ赤にジルファリアを睨みつけた。
「あなたにそんな事言われたくないわよっ、悪ガキクソガキジルファリア!」
そう言い返しながら、学舎の方へと走り去ってしまった。
「ははっ、悪ガキクソガキってのは当たってんな」
そんな背中を鼻で笑いながら見遣ると、ジルファリアはこちらへ顔を向ける。
マリスディアは急いでかぶりを振った。
「ジルはクソガキじゃないと思うわ!優しいもの」
「……悪ガキってのは否定しねぇのかよ」
「あっ、それは……」
途端にマリスディアは口ごもる。
にやりと意地悪な笑みを浮かべたジルファリアはまぁいいけど、と続け手をこちらに向けた。
「それよりもうすぐ予鈴が鳴っちまうぞ。マリア、行こう」
「あたし達も一緒に行くわ、マリア」
その時、溌剌とした声が突然後ろから聞こえ、マリスディアは振り返る。
「サリ、サツキ」
「おはよう!マリア」
にっこりと笑顔を浮かべるサリと、いつも通り気怠げだが優しく微笑んでいるサツキの姿があった。
「まさかジルファリアが抜け駆けしてマリアに会いに行っていたなんてね」
じろりとジルファリアを睨め付けると、サリがこちらに向き直る。
「マリアに会えてうれしいわ」
「サリ……」
彼女の優しい眼差しにマリスディアは胸の奥が温かくなった。
ありがとうと伝えると、サリがさっとこちらの腕を取る。
「さぁ、行きましょ」
そうしてぐいと引きながら学舎の方へと走り出した。
「えっ、ま、待って」
つんのめりながらマリスディアも走り出す。
「今日の一限目はヒオ先生の座学だよ。呪文についてもいろいろ教えてくださるって」
楽しみだねと肩越しにこちらを振り返るサリを見て、マリスディアは心がまた軽くなった。
そして気づけば校門をくぐり抜けていたのである。
「おい、サリ!マリアはオレと……」
後ろでは手を伸ばしたままのジルファリアが不満気に唇を尖らせていた。
それに向けてサリが勝ち誇ったように笑う。
「ふふん、早い者勝ちよっ」
サツキに肩を叩かれながら、ジルファリアは悔しげに舌打ちしていた。
マリスディアは進めている足取りがいつの間にか軽くなっていることに気がついた。
「みんな、ありがとう」
そして心からの感謝を告げたのである。
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