宵闇の魔法使いと薄明の王女

ねこまりこ

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一章;NEW BEGINNINGS

33話;響き渡る少女のanthem(2)

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 「なぁサツキ、お前の行きたいところってどこなんだ?」
 店を出た途端、ジルファリアが口を開く。
「ええところや」
「……んん?」
 サツキのどこかうきうきとした表情に、怪訝な顔をする。
 彼に並ぶように足を進めると、照れたように笑った。
「前に言うたことあったやん、べっぴんさんに会ったて」
「そんなこと言ってたっけ?」
 ますます疑問が湧いてきたジルファリアは首を傾げた。
「お前はほんま、自分の興味ないことには無頓着やなー」
「そんなことないけど」

 「ともかく、今の早い時間帯やったらいい場所で聴けるかもしれん」

 「はぁ?……聴ける?」
 ジルファリアの問いには答えず、そそくさとサツキが歩く速度を速めた。
「あ、おいサツキ!」
 いつも冷静ぶっている彼がここまで浮き足立つとは一体何事なのだろうと、ジルファリアは俄然興味が湧いた。


 早朝の職人通りは店開きをしている店舗も少なく、いつもより人通りがない。
 そこかしこから、朝餉の準備の音やら騒がしい子ども達の声が聞こえてくる。

 ある家では、二階の窓から向かいの家の窓にかけて渡したロープに洗濯物を干し始めるおかみさんなんかも見えた。
 店先で開店準備をしている鍛冶屋のおやじや、散歩をしている顔馴染みの老夫婦がジルファリアとサツキに軽く手を振ったので、二人も「おはよう」と返した。


 朝日に照らされて白く光っている石畳の道を歩きながら、ジルファリアはここ数日不思議に思っていたことを口にした。
「そういえばさ、カラスのやつらはどうなったんだ?」
「カラス?……あぁ、カラス団のことか」
 こちらをちらりとも見ずに、前方を見つめたままサツキが相槌を打った。
「あれから、ダンたちの姿も見かけないからさ」

 いつもだと、二日に一回は石を投げてくるなり急に難癖をつけて殴りかかってきていたものだ。
 それが王女誘拐未遂の日からピタリと止み、それどころか彼らの姿を見ることがなくなっていた。

 「城に連れてかれた」
「……え?」
「って、おやじが言うとった」
 一瞬ぴたりと立ち止まり、サツキがこちらを見遣った。
 その言葉にジルファリアは面食らう。
「連れてかれたって、衛兵にか?」
「まぁそうなんちゃう?」
 再び足を進め歩き出す。
「王女の誘拐は重罪や。主犯やないとはいえ、参考人として聴取されてんのとちゃう?」
「ちょうしゅ……」
 また難しい言葉だぞと呟き、ジルファリアはげんなりとした。
「王女を攫った男たちも捕まったて聞いたけど、主犯の黒頭巾のこととか、王城のやつらは知りたいやろうしな」
「そっか、ダンたちは黒頭巾に会ってるんだよな」
「まぁ、大人たちは牢獄行きやろうけど、ダンたちはガキやからな、そのうち戻ってくるやろ」
「ふぅん」

 戻って来たら来たで面倒臭いなと思ったが、当分は平和な日が訪れるという事か。
 ジルファリアはうーんと伸びをすると、そのまま頭の後ろで手を組んだ。
 空を見上げると、今日も青空が広がっており良い天気のようだ。
 先程の洗濯物も風になびいてどことなく楽しそうに見える。

 「っくしゅ……!」
 そしてそんな風がいつもより冷たく、ジルファリアは先程のアドレと同じようにくしゃみをした。
 ぶるっと身体を震わせると、腕を掻き抱く。
「なぁ、何か寒くねぇ?」
「そういやそうやな。常春のセレインストラにしては珍しい」
 自分よりも薄い生地の衣服を着ているサツキが随分と平気そうな顔をしている事に、ジルファリアは首を傾げる。
「お前、寒くねぇのかよ」
「おれ、寒さには割と強いほうやねん。ええやろ」
 得意げに笑うサツキを見て、今日は変わって欲しいと思うくらい、ジルファリアは自分が意外と寒さに弱い事に気が付いた。

「ほんなら急ごか。建物の中に入ってまえば大丈夫やと思うで」
 そして彼は、あの場所ならと呟いた。
「……あの場所?」
「ま、えーからえーから」

 にんまりとした笑みに変わると、サツキは先導切って走り出した。


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