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一章;NEW BEGINNINGS
7話;動きはじめた日常(7)
しおりを挟む「……おやじ?」
先程まで酔いどれていたラバードが神妙な顔でこちらを見ていた。
ジルファリアは不服そうに顔を顰める。
「なんでだよ、おっちゃん」
「貴族街はあかん。俺らみたいな身なりのモンがうろついてみ?下手したら捕まるで」
「ま、そらそーやわな」
うんうんとサツキが頷くと、ジルファリアは一層不貞腐れたような顔で頬を膨らませた。
「んじゃあ、そこ以外で」
「王宮もあかん」
「えぇ?!」
ピシャリと飛んでくるラバードの言葉に、ジルファリアの短い眉が下がる。
「当たり前や。貴族街より王宮の方がもっと捕まるやろ」
「捕まんなかったらいいじゃん……。オレとサツキなら楽勝だぞ?」
膨れっ面のジルファリアの胸をラバードが指で突いた。
「ええか?あんまりパドとアドレに心配かけんな、ジル」
「……むー、分かったよ」
渋々といった表情で、ジルファリアは椅子から飛び降りた。
「おっちゃんの心配するようなことはしねぇから安心しろよ」
「お前のそれが一番信用出来へん」
ぷはっと吹き出したサツキがジルファリアを戸外へと押しやった。
「ほなおやじ。夜までには戻るわ」
「おう、行ってこい」
振り返るといつもの陽気な表情に戻り、大きな腕をぶんぶんと振るラバードの姿が映った。
「なぁサツキ、おっちゃんにああは言ったけどさ、ちょっと行ってみたくねぇか?貴族街」
職人通りに出るなり、ジルファリアがその猫のような瞳を悪戯っぽく光らせた。
誰かに聞かれやしないかとサツキは思わず周りを見回す。
先程までの喧騒は落ち着き、人通りはまばらになっている。
「おまえ……、ほんま懲りんなぁ」
「だってさ、確かにあんまり行ったことねぇもん。捕まるかもしれないなんて、逆にワクワクすんじゃん」
くるりと踵を返し、王都の中心地を通る大通りに向けてジルファリアは駆け出した。
「おい、ちょ、待て待て待て!」
跳ねていく外套のフードをサツキはむんずと掴む。
「おまえはほんまに短絡的というか、衝動で動くというか」
「は?タンラクテキ?……サツキはたまに難しい言葉を使うから、分かりにくいぞ」
ジルファリアが首を傾げて眉間に皺を寄せた。
「えーから、とりあえず今日のところはアカデミー見に行かへん?ほら、おまえ興味あるんやろ?」
「アカデミーかぁ、……いいな!よし、そうと決まったら早速行こう!」
言うが早いか、ジルファリアがまたしても駆け出そうとしたその時、
「……おっ?」
側の細い路地から彼目掛けて飛んできたそれを既のところで避けた。
近くの外壁でパチンと弾けたそれは小さな砂利だった。
「……あぶね。誰だ?」
先程までの陽気な表情から一転し、鋭い目つきで路地裏を睨み付ける。
その影から二人の少年がこちらへ姿を現した。
ジルファリア達よりも少し歳が上だろうか、大柄な少年と小柄な少年だった。
「カラスの野郎どもか」
「今日もいつもみてーに馬鹿ヅラだな、黒猫ジル」
背の高い方の少年がこちらを見下ろしながら笑った。
「変なあだ名つけんな。そういうおまえも鈍そうな身体してんな、ダン」
負けじとジルファリアが返す。
グッと悔しそうな表情を見せたダンに、さらに畳み掛けた。
「こないだオレらに負けたからって、仕返しに来たのかよ。大勢でかかってきたくせに、たった二人に負けてダサかったよな」
「何をぉ?!」
「おい、ジル。火に油注ぐような言い方はやめとき」
サツキは思わずジルファリアの肩を掴んだ。
「ハーン?洗濯屋はいつも冷静だな、嫌味なくらい」
「ひとつ聞きたいんやけど、おまえらは何でいつもおれらに構うん?別にこっちは何もしてへんで」
そんなサツキの問いかけに、今度はひょろりとした小柄な少年がこちらを指差し甲高い声を出した。
「お前達をカラス団に誘ってやったのに入らないのが悪いんだろ」
カラス団とは、この職人街を縄張りとしている子供達の集まりのことだ。
その中でも孤児が多く、日々街中のゴミ漁りを生業としており、職人街の中でも更に治安の不安定な裏路地通りに住んでいる子供が多かった。
それだけならまだ支障はなかったのだが、家計のために道端での靴磨きや煙突掃除など懸命に仕事をしているほかの少年達に対して、理不尽な喧嘩を吹っ掛ける迷惑な集団と化していたので、街中ではすこぶる評判が悪かった。
それに時折、職人街の商店から食料や物品がなくなったりすることが起こっていたのだが、専らカラス団の仕業ではないかと囁く者も少なくなかった。
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