明るい浮気問題

ミュウちゃんの指摘

　妻が携帯を忘れて再び寿司屋に戻って来た。
　
　敷地内の駐車場に車を止めた後、妻は車内で待つ様に指示。
　何故か？
　また、追加の注文をしかねないと言う事。それだけならいいが、『サワガニ！』などと、無知恥を晒すあり得ない発言をしそうだからだ。

　「先程の鶴の間のお客様の携帯ですね？はい、預かり確認しております」

　「すみません。ありがとうございます」

　「念の為、御本人様確認をさせて頂きたいと思います」

　「…………わかりました。妻を呼んで来ます」

　そうだよな。
　完全予約制全室個室高級寿司店だもんな。細かい対応管理もしっかりしてるな。
　万が一別人に渡したら大変だ。

　改めて車に乗り込み、妻は安堵の表情で追加のズワイガニ、アジ、生タコが入ったお土産パックの袋の中を嬉しそうに覗いていた。
　　
　エンジンをかけた。
　
　色々あり過ぎた。

　もうこの寿司屋には二度と来ないだろう。

　「あれ？待って？ズワイガニ4貫頼んだのに2貫しか入ってないよ？言わなきゃ！」

　「なるほど。それは由々しき事態だな……」

　「私行ってくるから、大ちゃん待ってて」

　「ああ」

　俺達はこのまま、寿司屋と言う無限ループにハマり、帰れないのか？

　！？

　ちょっと待て？
　帰れない？

　妻は朝、知らない家にいたから帰って来たと言ってたな？て、事はウチから近いのか？
　交通機関を使用して帰って来たとは発言していなかったはず。だとしたら、どこから帰って来たか場所はわかるはずだ。
　なんてことだ……。

　俺の尋問は新米刑事の足元にも及ばなかったのだ。

　妻が慌てて戻って来た。
　車内で尋問の第二ラウンド開始だ。
　頼む。神よ。我、ベテラン刑事の化身となれ。

　「伝票見たら2貫しか頼んでなかった。1貫づつにしよっ！」

　「そうだな。それならば公平だ。男女は平等でなければならんからな。ところでミュウちゃん。お前が朝起きたら寝ていたと言う家はわかるか？近いのか？」

　「え？わかるよ？歩いて十分くらいの駅の反対側のマンション」

　やはりな。

　「よし。ちょっと確認しに行こう。それで今回の件は判明するぞ」

　「そっか！でも、お部屋はわからないよ？」

　盲点だった。
　と言うか、俺が馬鹿だった。
　状況的に、妻が慌ててマンションを出たとしたら、部屋の番号までは確認するはずないじゃないか。いや、慌てなかったとしても確認するはずはない。

　「とりあえず教えてくれ」

　ミュウちゃんは妻の名前、【みゆき】から付けた呼び名だ。幸せ一文字で【幸】だ。交際したての頃、俺がふざけて『みゆきだからミュウちゃん』と言ったのがきっかけ。

　どうでもいいな。
　過去の栄光にすがった、ノロケ話しだから。