妻と浮気と調査と葛藤

pusuga

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批判覚悟の決心

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(上手い事を言ったつもりか?)

 子供とかけて他人と解く。其の心は?
「産まれるのは疑念」
 この期に及んで、くだらない事を考えているのは、子供が自分の子じゃないかもと言う疑念を少しでも癒そうとしていたからだ。

 はっきりさせるにはDNA鑑定しかない。しかし、これはもう探偵の調査が及ぶ所ではない。
 
 いかん。
 もう、ここまで来たら妻に全て話をして確認するしかない。

 でもそれは駄目だ。出来ない。

 誰の子であろうが子供に罪はない。
 ましてや、そんな修羅場になる可能性のある話し合いを安定期に入る前の身重の妻にして、負担をかけさせたくない。復讐だのなんだの、のた打ち回ったが、妻を愛しているから。

「そうだよ。妻が好きなんだ」
 つぶやいた。

「え?」
 俺は頬を伝う涙を感じ驚いた。

 俺は泣いていた。

 気付いてしまった。

 少なくとも、疑惑が生まれる前は俺は満足だった。

 「おかえりなさい」を毎日聞くことが出来て、小さな幸せ噛み締めていたんだ。

 何もないと言う事は一番幸せなんだと言う、お決まりの話を実感していたんだ。

 妻と結婚した事を心から幸せに感じていたんだ。

 女々しい。
 俺は好きな女の心が離れたかもしれないくらいで、実物の涙を流す男だったのか?他人には絶対「浮気されたくらいで泣いてんじゃねーよ」と言ってるはず。
 情けない。
 悔しい。
 そして、妻が俺を必要としていないかも知れない事が悲しい。

 このままじゃおかしくなる。

 カッコつけてる自分に酔いしれている訳じゃないが、俺は大事な選択肢に直面した時は苦しいだろう方の道を選んできたつもりだ。

 よし!
 
 俺は俺なりの決心でケジメを付ける。
 俺の子だ。DNA鑑定も必要ない。
 信じ続ける事にする。例え出産後に俺の子供じゃないかも知れないと妻に告白され、離婚になっても子供は俺が引き取る。親権を争う?上等だ。

 おかしいと笑われるかも知れない。
 結局現実逃避かよと言われるかも知れない。

 だが今の時点では俺は妻を愛している。浮気は確定じゃない。だったらこれ以上は調べないで現状で納得させる事が一番の俺の希望だ。

 これでいい。
 もう二度と太宰探偵のアニメ声は聞かない。

 こんなところでウジウジ考えても仕方ない。

 帰ろう。
 妻が待っている。


 俺は……あれほどまでに執着していた【浮気か否かの真実】を谷底に放り捨て、何故か清々しい気分になり、マスクの下の顔がほころんでいるのを感じた。

 しかし三日後。
 束の間の現実逃避から呼び戻される太宰探偵からのメールが来る事を、この時の俺は知る由もなかった。
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