妻と浮気と調査と葛藤

pusuga

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葛藤と言う名の脳内裁判

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 妻妊娠。

 コウノトリからの驚愕の贈り物に俺はまたもや葛藤していた。

「おめでとう!……本当に出来たんだな?!そうだ!お祝いだ。お祝い!ちょっと待ってろ、ケーキ買ってくる」

 そんなのはいいと言う妻の制止を振りきり、俺は駅前のケーキ屋に向かった。

(おめでとう!俺たちの子供が本当に出来たんだな!)

 【俺たちの子供】と言うセリフが出なかった。いや、出せなかったと言う方が正しい。

 確かに妻との最後の夜があったのは事実だ。だから俺の子供の可能性も高い。いや、妻は調査の結果シロだった。そんな可能性が高いなどと、この期に及んで思うとは人としてどうなんだ?

「そもそも妻は浮気なんてしてなかったんだ」
 思わずつぶやいてしまう。

 馬鹿な俺は葛藤の脳内法廷を緊急開催した。無論、テンプレートの妻の行動には敏腕弁護士を配置。

 ①携帯を肌見離さず持つ様になった

 別にこれは奥様に限らず普通の行動ではないでしょうか?例えば夫が妻の携帯を見ようとして、慌てて取っ組み合いの様な事実があるならともかく、携帯を側に置く。これは無意識の行動でもあり得る自然な行為です。過敏になっていませんでしたか?これは証拠能力は全くありません。

「取っ組み合いの事実はありません……」
 弁護士の言葉に俺は意気消沈した。

 ②自分の外見を気にする様になった

 結婚3年目。奥様も多少なりともオシャレと言う行為を置き去りがちになった自分を自覚したとしてもおかしくないはず。それをふとした事で思い出し、気にするのは女性にとって普通じゃないでしょうか?むしろ、夫にいつまでも女性として見てもらいたいと言う願望だと考えますが?アピールです。
 この様な事を証拠として提出して恥ずかしくないですか?

「………」
俺。絶句。

 ③急に友人と付き合いが多くなった

こちらに関しても結婚して3年間、奥様はずっと家庭を守って来た。そして子供にも恵まれなかった。積極的な不妊治療への働きかけも夫はなかった。それは、家計を支えて一生懸命働いている夫に迷惑をかけたくないと言う、奥様の優しさと考えた事はなかったのですか?

「いや、不妊治療に関しては妻も積極的では………」
 だからそれは優しさです。夫が無関心で奥様だけが不妊治療に関して、病院で相談したり、調べたりしていた可能性は考えなかったのですか?生理痛の為に通院していた事実はご存知だったはずでは?
「………」
 俺の訴えは不妊治療に論点をずらされ、しかもそれを「意義あり。弁護人の発言は本要項には全く関係ありません」と裁判長に意義申し立ても出来なかった。

 ④スキンシップを避ける様になった

 「一度拒否されました。それ以来私からは誘っていません。日常でも抱きしめたりしようとしましたがはぐらかされました」
 俺は本来の発言権利の順番を無視して訴えた。

 その期間はたった二ヶ月強ですよね?しかも女性はデリケートな生き物です。性に対する取り組みや価値観も違います。一回や二回の拒否イコール浮気をしていると考えるのは男性のエゴであり、あまりにナンセンスではないでしょうか?
 もっと言うなら、妊娠しているかもと奥様が感じた事は考えなかったでしょうか?日常のハグ等もお腹を守っていたとは考えられないでしょうか?

「………」
反対尋問が出来ない俺と俺の脆弱な弁護人。

 ⑤帰宅の時間を気にする様になった

 こちらも奥様自身が妊娠の可能性を感じたと仮定したのであれば、説明出来ます。
 妊娠初期は特にホルモンバランスが急激に見られます。躁鬱症状、すなわち情緒不安定。逆にお聞きしたいのですが、専業主婦である奥様がその様な状態の中、夫の帰宅時間を毎日聞くのはおかしな事でしょうか?マタニティブルーと言う言葉は知っていますよね?

「はい。仰る通りです………」
 あろうことか相手の弁護士の意見に同調する俺。

 そして閉廷する脳内裁判。

 俺は敗訴確定にも関わらず、晴れやかな笑顔で定員さんに愛想を振り撒き妻が好きなモンブランを購入した。
 更にどこでどう調べたのか記憶にないが、妊娠中の女性が酸っぱい物を好むと言う知識の元、レモン水を追加購入して帰宅へと足を運んだ。




 
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